ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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橋口亮輔監督最新作『恋人たち』主演に大抜擢 俳優・篠原篤独占インタビュー【家族編】

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「昔、友だちだったこの人たちは、今も友達なんでしょうか!」
橋口亮輔監督の映画『恋人たち』で、主人公のアツシが携帯電話のアドレス帳を見ながらこう叫ぶシーンがある。

仮に同じ大学を出た友達だったとして、30歳も過ぎれば、徐々に価値観はズレていく。例えば、それが、30歳を過ぎ東京で暮らす俳優と、地元に残って会社員をしている人たちといった環境の差があれば、尚更だ。

『恋人たち』で、橋口亮輔監督によってアテ書きされた主人公・アツシを演じるのは篠原篤。32歳の、事務所にも所属していない俳優だ。『恋人たち』が俳優人生での初めての主演、大きな仕事となる。(主演に選ばれるまで、撮影時のエピソードなどを聞いた前編【撮影編】はこちら

24歳のときに九州から上京して8年。橋口亮輔監督の最高傑作との呼び声も高い、紛れも無い傑作映画に主演した篠原に、過去の仲間や、家族たちはどう反応したのだろうか。

取材の前日、篠原は、九州キャンペーンとして、監督と2人で、先行上映された九州の映画館を周った。地元・九州での初めての上映。連絡をした友人たちも、また、連絡しきれなかった友人たちまで、話を聞きつけて多く応援に来て、終演後まで待ってくれていたのだという。

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「九州にいる仲間は、映画業界には関係のない人たちで、忙しくて映画なんてなかなか見る機会はない、なんていう人も多かったんです。カミさんを連れて来て『結婚したんだ』って報告してくれたり、『いい映画を見せてくれてありがとう』って言ってくれたり……。でも、彼らはみんな『俺の知ってる篤だった』って言ってくれました。
『リアリティありすぎて、次の仕事大丈夫か』っておっしゃる方もいましたね(笑)。

でも、よく考えれば、僕が彼らに、劇中のような、例えば泣きじゃくったりするような姿を見せたことはないわけですよ。だから、映画ってすごいなって思ったんですよね。橋口さんも『ドキュメンタリーではなく、フィクションとしてちゃんと作品にしたい』とおっしゃっていましたが、20代の僕を知っている方たちがフィクションの作品を見て、『まるでお前でしかない』と感じてくれるわけですからね」

さらに「僕とは違ってクールな男」だという弟も、上映後涙を流しており、その日の夜中に興奮して電話をしてきてくれたのだという。

「帰って来い」ではなく「しんどいか?」

そして、佐賀では70歳を越えた父親も来てくれたという。

「照れくさそうにしてましたね。親父、こんな顔するんだなあ……って僕でも思うような表情をしていました。本当にクールな父親だったんです。でも、噂によると、今回、親父は色んなところにチラシを置いてくれって言ったり、宣伝したり、取材してくれって勝手に言いに行ったりしてくれてるみたいで……。絶対そういうことする人じゃなかったんですけどね」

父親に、役者の道を止められたり、帰って来いと言われることはなかったのだろうか。

「『帰って来い』と言われたことは一度もなかったです。『しんどいか?』って言われたことだけはあります。そのときは『まだやりたい』って言ったら、『安心した』って言ってました。
たぶん、情熱がなくなったら人間しんどいってことが、わかってたんだと思うんですよね。情熱があるふりして、苦労しているっていうのはしんどいじゃないですか。

例えば、情熱はなくなっているのに、故郷に啖呵切って出て行ったから戻れないみたいな状況だったら、キツいし、気持ちは荒んでいきますよね。それを、大人だから、きっと知ってたんじゃないですかね。
もうきっと、売れるとは思ってないと思うんです。テレビに出ているような人たちと僕を比べながら『お前みたいなずんぐりむっくりが才能があるとも思えないしな』って言ってましたしね(笑)。でも、自分が誇りを持っていれば、生きていけるってことを知っていたんじゃないかなとは思います」

篠原自身は、テレビに出ているような人と比べたり、情熱が消えそうになるようなことはなかったのだろうか。

「もう、九州から出てきた年齢の時点で、“20歳くらいでイケメンでデビュー”っていうパターンの人間じゃなかったので……。どっか大きな事務所にいるわけでもないし、誰か僕のマネジメントをしたいって人がいるわけでもないし、演出家が君は才能があるよって言ったわけでもない」

やめる才能もなかった

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そして篠原は、まさに劇中のアツシの独白のように、これまでの葛藤と、それでもやめなかった理由を語ってくれた。

「東京に来たあとも、時間だけ経って、自分の中で少しずつわかってきますよね。『もしかしたらダメかもしんない。もしかしたらダメかもしんない』って。でも『まだやれることがあるかもしんない』って思うんですよね。不思議なもので。だから……やめる才能もなかったんだと思うんですよね」

やめる才能がない人間というのは、どんな考えをもってどういきる人間のことなのだろうか。

「キレイごと言うわけでもないですけど、この歳になると、やっぱり生まれてきたからには何かの役に立ちたいと思うじゃないですか。
でも、俺本当にまだ役に立ってねーよ、って焦っていましたね。五体満足で生まれてきて、家族に仲間に恵まれた。それだけですさまじい感謝ですけど、みんなは世の中の役に立つわけじゃないですか。そうやって周りを見ると『俺ってまだ何の役にも立ってねーよな』って思っていましたね。『役者という仕事がしたい』『映画が好き』という思いが、最後、自分を支えていましたね

そして珠玉の作品が生まれ、今“役に立つ”ということをどう考えているのだろうか。

「世の中の誰かひとりでも、僕がやった演技で、僕が俳優になったことで助かったっていう人がいたらいいなと思います。もちろん、大ヒットしてもらいたいですよ。たくさんの人に褒められたいです、人間ですから。でも、誰かひとりに届けば僕が生まれた意味がある、と思っています」

苦しかったという現場が終わり、公開を直前に控えた今、作品に対してはどのような思いなのだろうか。

「現場が終わっても苦しさは変わりませんでした。撮影が終わったあとは、すぐ何が変わるでもないですし、12月にクランクアップして、1月2月は部屋の中でずっと布団にくるまっていましたね。
6月の初号を見たときに、作品に対して号泣はしました。でも、そのとき“もしかしたらこれでよかったのかもしれない”と思いました。アツシの“よし”じゃないですけどね(笑)」

劇中、アツシの唯一といってもいいあたたかな希望が見えるセリフを引用し、篠原は笑ってくれた。

(取材:小峰克彦・霜田明寛 文:霜田明寛 写真:浅野まき)

■関連リンク
映画『恋人たち』公式サイト
テアトル新宿ほか全国にて公開中

・ソーシャルトレンドニュース特設ページ 11月 愛を感じる2作品『恋人たち』✕『愛を語れば変態ですか』

・「死ぬ想いをした人が見る青空が映っていた」橋口亮輔✕川島小鳥対談【『恋人たち』公開記念】

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

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