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“ヒトラー役”俳優が語る「僕が70年前から戻ってきた理由」

ヒトラーが現代にタイムスリップし、モノマネ芸人として大ブレイク! しかし、彼は70年前と変わらない、ホンモノのヒトラー。現代のネット社会の中で、大衆は以前にも増してヒトラーに扇動されていく……。

そんな刺激的な設定、エンターテイメント性と風刺性の絶妙なバランスで、本国ドイツで大ヒットした映画『帰ってきたヒトラー』が日本公開される。

そして、かつての演説を研究しつくし、“ヒトラー役”にのぞんだのが、ドイツの実力派俳優、オリヴァー・マスッチ氏だ。

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マスッチ氏が来日のタイミングで、実は社会派媒体でもある自覚のある我々はインタビューに向かった。

①このような刺激的な作品がヒットした理由 や
②ヒトラーを研究し演じることでわかった大衆の扇動術、そして
③70年前の空気に近づいてきてしまっているとも言える、日本とドイツの右傾化する民衆たちについて

など、映画を起点に、話は必然的に現代社会が抱える危機についてまで広がった。

笑える映画がある瞬間から笑ってはいけない映画に

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――とても笑えましたが、笑っている自分に後ろめたさすら感じる、刺激的な映画でした。単なるコメディではないこの映画が、ドイツでヒットしたのはなぜだと思われますか?

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「確かに、ドイツでヒトラーものの映画というと、それだけで見たくないという人も多くいます。しかし、この映画は評判が広まって、そういう人たちまで見に来てくれたんですよね。
この映画の原作がベストセラーになっているということもあるでしょう。でも、それだけではありません。映画は小説よりも、さらに深掘りして、その先を狙っているんです。
 
映画も、小説と同じく、序盤は、現代に蘇ったヒトラーの目線で現代の状況が語られる、笑える作品になっています。しかし、あるシーンをきっかけに空気が変わるんですよね」

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――中盤の、バラエティ番組の構成作家たちが、人種差別ジョークを考えるところですか?

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「ええ、テレビ局の人間が構成作家たちに、なんでもいいから人種差別のジョークを考えてくれ、と指示を出すシーンがありますよね。あそこでは、ユダヤ人や強制収容所、すなわち犠牲になってしまった人たちをジョークのネタにしてしまっています。そこで、破ってはいけないタブーの一線を越えてしまうんですよね。あの瞬間、映画館で見ていた観客は静かになります。あそこから、喜劇映画だったものが、悲劇に変わるんです」

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――確かに、面白いんだけど笑えない雰囲気が漂い始めます。

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「ええ、序盤は笑えますが、あそこから、笑っていちゃいけないんじゃないか、という空気になりますよね。単なる笑いを期待してきた人が、それだけじゃないことに気づいて映画館を後にするような映画だったと思います。映画というのは、娯楽要素だけではダメで、メッセージもないといけないと思っているのですが、この映画はまさにそれに成功していると思っています」

ヒトラーが民衆の扇動に使った“否定術”

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――実際にヒトラーを演じてみて、なぜヒトラーはあんなにも大衆を扇動できたのだと感じましたか?

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「彼には『政治は演説だ』というような考えがあって、非常に演説のうまい人物でした。まず、『ドイツは世界一になることができる』というようなことを言って、国民の心を動かしたんです。そして、自分の考えに合わないものに関しては徹底的に否定するのも特徴ですね。
 
当時のワイマール共和国の議会の下院には、36の政党が人を送り込んでいたんですね。ヒトラーは演説の中で、自分の党以外の35の政党の名前を全部読み上げて『これらは全く役に立たない政党だ!』といったことを言うわけです」

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――敵対勢力を一切許容しない姿勢なんですね。

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「他者を許容しない姿勢を批判されると『そうだ、僕はなんでも許容できる人間ではない。だから意味のない政党は全部退陣してもらう』と返すわけです。
 
こうやって、彼は自分が考えてることを全て、包み隠さず言っているんです。しかし、それにも関わらず、当時の民衆は彼を選んでしまっているんですよね。当時、ドイツはとても厳しい時代でしたしね。今回、この映画を通して私が学んだのは、人間は不安を煽られると簡単に誘導されてしまう、ということですね」

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街なか撮影で気づいたドイツの右傾化

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――そして、70年前だけではなく、映画の中に蘇ったヒトラーに、現代の人々も誘導されていきます。

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「実は今回、映画を撮ってみてわかったことがあります。ドイツでは、もうファシズムのような政党になびく人はいないだろう、という感覚が共有されていました。しかし、映画を撮るときに、色々と実験してみたら、実際はそうではないことがわかったんです」

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――どういうことでしょうか?

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「あの映画では、実際のドイツの街の中に、私がヒトラーとして繰り出していき、一般の方々とやりとりをする場面があります。あれは完全なアドリブです」

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――そんな撮り方をされていたんですね。一般の市民の方から、かなり刺激的な発言が出ていたので、てっきり、民衆に紛れた役者さんのセリフだと思っていました。

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「外国人を敵視するような発言が、一般の方々から多く出てきたのがショックでした。もちろん、私がヒトラーとして煽った部分もありますが、それに誘導されたとしても、ああいった発言が出てくるというのは驚きました。
 
いちばんショックだったのは、失業者が多いという話をしているときに『僕が1933年に作ったような強制収容所っていうのを作ったほうがいいかな』と言ったら、『そうだね』と返してきた男性がいたことです。さらに『手伝ってくれる?』と言ったら、『手伝うよ』と返されました。映画で採用したのはここまで。あの後、彼はさらに畳み掛けるように『やっぱり、強制収容所がいるよね』と言っているんです。あまりにも怖い発言だったので映画では採用しませんでしたが、それがショックでしたね」

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――しかも、その方はカメラに映っている自覚がある上で発言されているんですよね?

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「ええ、カメラが2台ちゃんとまわっています。発言が映画になって、公になるということに対して、承諾のサインをもらってもいます。そういう状況にも関わらず、そんな発言をする人がいるってことなんです。最近のドイツは右傾化が進んでいて、10年前のドイツだったら考えられなかったようなことが、今起きてしまっているんです」

民主主義という貴重な価値を守るために

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――実は、日本の状況も似てきています。それこそヒトラーのちょび髭をつけて、日本の首相を批判するともとれるパフォーマンスをした歌手が問題にされたこともありました。

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「ドイツでも似たような事件が最近ありました。ヤン・ベーマーマンというタレントがトルコの大統領を茶化した曲を作り、今も裁判が行われているんです。でも、日本でもドイツでも、そういった皮肉ができるというのは、実は民主主義があるからなんですよね。もちろん、私たちがこういった映画を撮れるのも、民主主義があって、言論の自由があるからです」

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――確かに、民主主義を手に入れたからこそ、今はこのようなエンターテイメントによる政治批判が可能な時代であるともいえます。

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「民主主義は、第二次世界大戦中、6000万人という人々の犠牲の上に私達が手に入れた非常に貴重な価値です。でも、それが今、揺らいでいる。右寄りの政治家が出てくることによって、民衆が洗脳されていって、非常に危険な状態です。
やっぱり私たちは民主主義を守るために行動を起こさなくちゃいけないし、政治を司る人もしっかりと見定めて選ばなければいけない。ヒトラーのような人が選ばれないようにするためにね」

70年前に戻らないようにするために

同じく、第二次世界大戦で敗れ、民主主義を手に入れたドイツと日本。70年の時が経ったにも関わらず、ともに70年前に遡っていくかのような右傾化が進んでいる。だが、そんな中、本国ドイツでこのような映画が作られ、ヒットしたというのは希望的な話である。日本で、同じような映画を撮ることが許されるか……? と考えると、多くの組織が自粛してしまうような気がしてならない。

しかし、日本でも映画公開前にも関わらず『帰ってきたヒトラー』の原作本がベストセラーになっている、というのは嬉しい話。文庫化から1ヶ月で累計発行部数17万部超えという外国文学としては異例のベストセラーである。

映画の公開は6月17日(金)。日本でも、現代に蘇ったヒトラーに笑い、そして、笑えなくなる人々が続出することを願ってやまない。
ヒトラーが現代に舞い戻ったというこの設定は、我々が70年前に戻らないようにするためのひとつの警告だ。この作品は、我々が70年前に戻らないようにするための、ひとつのストッパーになってくれるはずだ。

(取材・文:霜田明寛)

関連情報
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映画『帰ってきたヒトラー』 6/17(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー
キャスト:オリヴァー・マスッチ、ファビアン・ブッシュ、クリストフ・マリア・ヘルプスト、カッチャ・リーマン
監督・脚本:デヴィッド・ヴェント
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原作:『帰ってきたヒトラー』 ティムール・ヴェルメシュ

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