ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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「死ぬ想いをした人が見る青空が映っていた」橋口亮輔・川島小鳥対談【『恋人たち』公開記念】

1組の夫婦と揺れ動く日本の90年代の10年間をリンクさせて描いた名作『ぐるりのこと。』から7年。橋口亮輔監督の最新長編『恋人たち』が11月14日に公開される。

公開に先立ち、写真家の川島小鳥とのトークショーが原宿VACANTにて行われた。本記事では、その内容の一部をお届けする。

定型の自己紹介をしない人はお芝居も魅力的

最新作『恋人たち』でメインになるのは篠原篤、成嶋瞳子、池田良という3人の新人俳優だ。

『ぐるりのこと。』では、当時ほとんど演技経験のなかったリリー・フランキーを、『渚のシンドバッド』では、アイドル時代の浜崎あゆみを、それぞれ俳優としての才能を開花させた橋口監督。とはいえ、今回は、ほぼ演技初体験となる3人である上に、映画以外の目立った芸能活動があるワケでもない素人同然の3人である。そんな3人をどう選んだのだろうか。

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3人を選んだワークショップでは、まず参加者全員に自己紹介を課したのだという。ただ、その自己紹介は単なるプロフィール紹介ではなく、橋口監督から「“自己”を紹介してください。今これを伝えないと死んじゃう、というときに、伝えたいくらいのあなたを伝えてください」という注文をつけた、とのこと。

その理由について「自分の人生のどこのポイントをつまんで外にだすかっていうのはセンスなんですよね。自己紹介をやらせて上手い人はお芝居も魅力的なんです」と橋口監督は語る。

ワークショップのときに「派遣で働いてたときに、あたし全然仕事出来なくて。上司が出張行くのに、新幹線のチケットひとつ取ってあげられなくて……」と、自分の派遣社員としてのダメだったエピソードをとうとうと語り始めたのが、成嶋瞳子。実は、この自己紹介は、本編の重要なシーンでそのまま使われている。

やはり役と本人もかなりリンクしているようで「少なくとも女性誌に載っているような“内面から美しく”“前向きに努力すれば夢が叶う”みたいなタイプではないところは、役と本人に重なるところなんじゃないですかね」と監督は語る。

リリー・フランキー 唯一のアドリブは……

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

そのような演技を「そのままの姿」「自然体だ」「アドリブなんでしょ」と言って切り捨てる人もいるかもしれない。だが、映画という全ての段取りが決められた“作りごと”の空間の中で、“そのまま”でいることは難しい。特に「素人の味を活かしたドキュメンタリータッチの映画を撮るつもりはなかった」と言う橋口監督のもとでは尚更である。

前作『ぐるりのこと。』でも、基本的にアドリブを許さなかった橋口監督だが、ひとつだけ、主演のリリー・フランキーによるアドリブのシーンがあったという。それが、10分の長回しのシーン。木村多江演じる翔子が泣きながら心情を吐露するシーンだが、そこでリリー・フランキー演じるカナオが翔子の鼻水をなめるシーンがある。1回きりの本番だったが、その舐めるという行為だけが唯一アドリブだったのだという。

後から監督がリリー・フランキーに聞いたところ、「背中を触っていたら、泣いてる女の人の背中ってあついんだなあって思った」と語ったとのこと。

アドリブをやって目立ってやろうというアドリブではないんですよね。やってやろう、いいの決めてやろうと思って計算している俳優じゃないんですよ。長回しのシーンだったけど、そこからずれることなく、うまい感じにおさまった、二度と撮れないシーンになった」と橋口監督は振り返る。

想いが集まると、映画がひとりで歩き出す

そんな橋口監督の映画を川島小鳥は「純度が高い」と評する。
それに対して橋口監督はスタッフやキャストたちが持つエネルギーについて言及。

「別に僕は宗教や心霊を信じるタイプではありませんが、やっぱり、人が持っているエネルギーみたいなものはあって。色んな人がひとつのことを思ってると、そこに特別な磁場が生まれて、映画が生き物のようになって、ひとりで歩き出すんです。そうすると、思いもよらないことがおこったりして、映画にはじかれる人というのも出てくるんです」

リリー・フランキーと木村多江というキャスティングになる経緯も交えて話しながら「今はあの2人以外考えられない」と、純度の高い映画になるまでの経緯を振り返った。

川島小鳥も映画を撮れば……

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逆に、川島小鳥の作品を橋口監督は「崇高」と表現。

「『未来ちゃん』を見たときに、懐かしい感じがしたんです。昔見ていたNHKのディレクター・佐々木昭一郎さんの『四季・ユートピアノ』を思い出したんですよね。こういう日本人の顔って昔見ていたなあと思い出して。川島さんも映画をお撮りになればいいなあ」と最高の賛辞をおくった。

また、川島小鳥は橋口監督自身を「愛のかたまり」と表現。そして、最新作『恋人たち』に関しても、川島小鳥は「死ぬ想いをした人が見る青空が映っていた」と、推薦コメントとして自身が寄せた「きれいな青空」から、より一歩踏み込んだコメントで絶賛した。

映画『恋人たち』は11月14日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー。

(取材:小峰克彦・霜田明寛 文:霜田明寛)

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■関連リンク
映画『恋人たち』公式サイト
テアトル新宿ほか全国上映中

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

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