新進気鋭の女優が明かす、作品への想いと高校生活
女優・杉咲花が『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』で、新しい波を起こしたとされる人に贈られるニューウェーブアワードを受賞した。他にも2015年に公開された映画『トイレのピエタ』での演技が高く評価され、TAMA映画賞・最優秀新進女優賞、ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞と受賞が続く。
また、ついに放送が開始された、NHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』でも、高畑充希演じる主人公の妹という重要な役どころだ。
ちょうど、この春に高校を卒業したばかりという節目の時期に、ゆうばりでインタビューをおこなった。転機となった作品『トイレのピエタ』についてや、高校生活が急に楽しくなったという心の切り替え方まで。18歳とは思えない芯の強さに、杉咲花の見え方が変わる取材時間となった。
作るなら絶対に良いものにしたい
――『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』ニューウェーブアワード、受賞おめでとうございます。まずは、映画祭ということで、最近見た映画や好きな監督を教えてください。
「最近はジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観ました。最高でした……。監督で言えば、呉美保監督や、河瀬直美監督、松居大悟さんや山下敦弘さんの映画も大好きです。岩井俊二監督の映画にも出たいですし……。好きな監督、たくさんいます(笑)」
――キャリアも長くなってきましたが、変わらない心構えのようなものはありますか?
「私は作ること自体が好きなんです。絵を描くことも好きなんですけど、ひとりでやる、誰かとやる、といったことに関わらず、いつも、作るなら絶対良いものにしたいっていう思いはありますね」
――それはもちろん映画の現場でも、ということですよね。
「やっぱり、演技をやりながら『これでいいんじゃないか?』って思っているものって、映像にうつると思うんです。それを見るお客さんは、たぶんどこか冷めてしまうと思うんです。きっと……ですけど。お客さんには、新しいものを常に目撃して欲しいですし、私も映画が好きな人間として、そういうものが見たい。だから、『これでいいんじゃないか?』にならないようにしています」
「こうやったらいい」が“技術”になってしまう
――きっとキャリアを積まれれば積まれるほど、慣れが出てきてしまって、そうならないようにするのは、難しい感じがします。
「色んな現場を経験していくと、『こうやったら上手くいくな』とか『こうやったら上手くいかないな』というのが、だんだんわかってくるんです。そして、それがたぶんいつか、“技術”になってしまうんだと思います。
でも、私はそういう、計算してやるようなことがすごく苦手なんです。それをやると、きっと、見ていて面白くないと思うので、そういうことはしたくないんです。
だから、そういう『こうやったらいいかな』はどうしても頭の中に浮かんできてしまいますが、できるだけ考えないようにしています。現場で本当に感じたことを、本当に受けて返すようにしています」
“大事に作る”現場が居心地がいい
――『イン・ザ・ヒーロー』や『繕い裁つ人』が公開された2014年後半から2015年にかけて、映画のお仕事も増えてきました。
「それまではドラマの仕事が多かったのですが、その年から映画の現場に関わらせていただくことが増えました。現場に参加して初めて、映画の撮り方を知って、良さを知って、好きになって。どうやったらいいものができるかを皆で考えて、そのためだったら時間はいくらでもかけて納得するまで撮ろうという、大事に作る環境が、私にはすごく居心地が良くて、素敵に感じて。これからもっと映画に関わりたいと思うようになりました」
野田洋次郎と高めあえた『トイレのピエタ』
――何か転機になったような作品はありましたか?
「多分『トイレのピエタ』に出てから私は変わったと思います」
――主演は人気バンドRADWIMPSの野田洋次郎さんでしたね。
「野田さんは、本当に役に入り込んでいました。私も、毎日一緒に過ごしていたら、もう、役でしかいられなくなってしまったんです。そうやって、お互い高め合っていけたのは非常に幸せでした」
――現場全体の雰囲気はいかがでしたか?
「例えば、すごく恵まれた現場もあるし、そうでない現場もあるんですよね。でも、その中でも、ピエタの現場は毎日『どんな無理をしてでも面白くさせようよ』っていう、気概のある現場でした。
監督もキャストの方も全体が『観てくださる方に感謝』って、心の底から思って作っている感じがして。それがすっごく、すっごく素敵で。作っている以上はそういう姿勢でありたいな、と気づけた現場でした。」
高校生活ラスト2週間でガラッと変わった
――ここまでお話を聞いてきて、つい2週間ほど前まで女子高生だったとは思えない、芯の強さを感じました。高校生活はどんな感じだったんですか?
「学校生活が、中学まではすごく楽しかったのですが、高校に入ってから急に友達の作り方がわからなくなってしまったんです」
――ええっ、意外です。それが、卒業まで続いたんですか?
「実は、卒業ギリギリ、最後の2週間がすごく楽しかったんです」
――え、何があったんですか?
「卒業ギリギリになって、『なんで私は学校を楽しんでいなかったんだろう』って思い始めたんです。私は、役に振り回されることが多くて、自分でいるときと役でいるときをうまく切り替えられなかったんですね。それで、友達と上手に関われなかったり、自分のことで精一杯になってしまったりして……。そうすると、他人のダメな部分ばかり見えてきたり、否定しがちになってしまっていたんです。
でも、そうやって自分が振り回されてしまうのは一番よくない気がしてきて。否定してきたけど、肯定できたらどうなるんだろう、と思って気持ちを切り替えてみたんです。そうしたら、最後の2週間はすごく楽しくなって。
誰かと急に仲良くなったとか、そういうことではないんですけど、他人を嫌だと思うのではなくて、受け入れたら自分もすごくラクになれたんです。だから、高校生活、もったいないことをしたな、って思いましたね(笑)」
(取材・文:霜田明寛)
【プロフィール】
杉咲花(すぎさき・はな)
2013年に、TBS系ドラマ『夜行観覧車』で注目を浴びる。ジブリ映画『思い出のマーニー』では声優も担当している。その他、ドラマやCMにも多数出演。最新出演作・NHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』では、高畑充希演じる主人公の妹・小橋美子を演じる。