ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

第5回「さらばNHK」

 

「だがな、一つだけ言っとくことがある。(カメラの方を指さす)「あんた!――テレビの仕事をしていたくせに本気でテレビを愛さなかったあんた!(別を指さす)あんた!―― テレビを金儲けとしか考えなかったあんた!(指さす)よくすることを考えもせず偉そうに批判ばかりしていたあんた!(指さす)あんた! それからあんた! あんた!!――あんたたちにこれだけは言っとくぞ!

何年たってもあんたたちはテレビを決してなつかしんではいけない。あの頃はよかった、今にして思えばあの頃テレビは面白かったなどと、後になってそういうことだけは言うな。お前らにそれを言う資格はない。なつかしむ資格のあるものは、あの頃懸命にあの状況の中で、テレビを愛し、闘ったことのある奴――」

倉本聰サンの叫び

 ――これは、今から41年前にフジテレビ系で放送されたドラマ『6羽のかもめ』の最終回「さらばテレビジョン」の1シーンである。山崎努演ずる酩酊状態の脚本家がカメラ目線で毒づく、今もって語り継がれる伝説のシーンだ。

 このドラマを書いたのは、あの倉本聰サン。
 この前年、倉本サンは脚本を担当していたNHKの大河ドラマ『勝海舟』を、同局の演出家陣と対立して前代未聞の途中降板。すっかり東京に嫌気がさして、北海道へ渡ってしまった。

 同ドラマは、そんな最中にフジテレビの中村敏夫サン(後に『北の国から』を手掛ける名プロデューサーですナ)に声を掛けられ、当時の思いの丈をぶち込んで書かれた作品だった。

 もう、お分かりだろう。冒頭の脚本家の台詞は、当時の倉本聰サンの心情を代弁したもの。そう、天下のNHKに対して――。

何かヘンだぞ?NHK

 さて、今回のテーマは「NHK」。言わずと知れた日本放送協会。なぜ、これをテーマに持ってきたかと言うと、最近、NHKが何かヘンだぞ?と思うことが多々あるからなんですね。

 最近で言えば、この4月から大改編した平日のプライムタイム。
 なんと、1993年以来23年間、19時半から放送されてきた『クローズアップ現代+』をリニューアルして22時台に移行。代わって20時台のバラエティ番組を軒並み前倒ししたのだ。

 その理由は前回の「ニュース戦線異常あり!?」でも述べた通り、NHK編成局の「50代以下の視聴者を増やしたい!」というただそれだけの理由なんですね。ジャーナリズム精神もへったくれもない。

 ちなみに、前倒しされたバラエティのラインナップは――『鶴瓶の家族に乾杯』、『うたコン』、『ガッテン!』、『ファミリーヒストリー』等々。
 いや、僕はこれらの番組の中身について、ここで論じるつもりはない。そうじゃなくて僕が気に入らないのは、「バラエティ番組でも持って来れば、若い人たちは見てくれるでしょ?」とでも言いたげなNHKの安易な発想のほう。

 冒頭、『6羽のかもめ』の台詞を紹介したのも、近ごろのNHKにテレビマンとしての気概を感じなくなったからである。なんというか、“闘う”志が伝わってこないのだ。
 あの頃、倉本サンが感じていたように――。

“若者のテレビ離れ”の本当の理由

 昨今、若者(29歳以下)の単身世帯のテレビの保有率は8割程度だと言われる。一方、一般世帯の保有率は97~8%なので、そこには大きな隔たりがある。
 そう、いわゆる“若者のテレビ離れ”だ。
 その理由は色々と言われるけど、ことテレビの保有率の低下には明確なストーリーがある。それは――2011年の地デジ化以降、それまで保有していたアナログテレビをデジタルテレビに買い替えなかったか、あるいは一人暮らしを始めて、そもそもテレビを買わなかったかのどちらかだ。

 えっ、テレビなしで彼らはどうやって情報や娯楽を得ているのかって?
 もちろん、ネットやスマホである。
 ニュース、ドラマ、バラエティ、天気予報、ドキュメンタリー――それらのテレビ番組は、今やネットやスマホでも楽しめる。

 そして、ここが肝心だけど、彼らは自分の都合のいい時間にそれらを楽しんでいるのだ。
 そう、ここが大事なポイント。
 つまり、若者がテレビではなくネットやスマホを見る最大の理由は、24時間を自分の都合で“編成”できるから。好きな時にニュースを見て、SNSで評判を知ってからドラマを後追い視聴し、出かける前に天気予報を見る。スポーツは結果を知ってから名シーンをプレイバック――。

 それは、テレビ局がタイムテーブルを編成し、時間軸に沿って放送するのとは真逆の思想である。

 そう、若者のテレビ離れの最大の理由は、自分の時間をテレビ局の都合に合わせたくないからなんですね。

若者に見てもらうには?

 翻って、先に挙げたNHKの19時半からの新編成である。土台、それが若者を呼び込む方策にならないことはお分かりいただけたと思う。バラエティを前倒しすればとか、もはやそんな問題じゃないのだ。

 いや、そもそも、若者=バラエティ好きという発想自体がおかしい。これはNHKに限らず、民放も同じだけど、今や視聴率のとれる番組は、“ながら視聴”が習慣化している――テレビとの親和性の高い50代以上が好むものなんですね。大体、情報系バラエティやお散歩・旅番組の類い。

 現にNHKだって、視聴率が高いバラエティは、『鶴瓶の家族に乾杯』や『ブラタモリ』などのお散歩・旅番組の類いか、『ガッテン!』に代表される情報バラエティである。

 では――本当に若者にテレビを見てもらうにはどうしたらいいか?
 これはもう、テレビ局が若者たちの生活習慣に寄せるしかないんですね。
 昔はテレビが生活の中心にあったから、家に帰ったら、とりあえずテレビを点けたけど、今の若者たちは家に帰る前からスマホを見て、家に帰ったあともスマホを見る――そこにテレビが付け入る隙はない。ならば、その生活習慣に寄せるしかないってワケ。

 つまり――民放は既に始めているけど、“ネット無料配信”がそう。先にも述べたけど、今の若者たちは、SNSで評判を知ってから、ネットで後追い視聴するスタイル。これに賭けるしかない。

NHKの役割

 ちなみに、かの「放送法」にはNHKの役割をこう書いてある。
 「協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行う」と。

 そう、あまねく――これが大事。この文言、昔は山間部や離島に住む人たちのことを指していたんですね。日本国で暮らす以上、どこにいてもNHKを見られないといけない。それが国民の権利、と。そのためにNHKは莫大な費用を投じて、全国各地に中継アンテナを整備した。

 でも、今やそれらの整備はほぼ完了。一方で、最近はテレビを持たない若者たちが増えてきた。とはいえ、彼らはネットやスマホは多用する――となれば、ネットを通じて若者たちにNHKを見てもらうように努力をするのも、放送法の1つの解釈として成り立つんじゃないだろうか。

イギリスBBCの先進性

 ここで、同じく公共放送として運営されるイギリスの「BBC」の例を見てみよう。

 実はBBC、とっくにネット配信の無料化に踏み切っているんですね。「BBC iPlayer(アイプレイヤー)」なるオンデマンド・サービスがそう。これ、過去1ヶ月間に放送されたBBCの番組――ニュースをはじめ、ドラマ、コメディ、スポーツなどをボタン1つで楽しめるというもの。BBCが偉いのは、システムをすごくシンプルにして、おばあちゃんでも説明書なしに簡単に扱えるようにしたこと。それが公共放送としてのサービスと心得ているんですね。

 え? NHKにもオンデマンド・サービスがある?
 いや、あれは有料だし、そもそも手続きが面倒。公共放送とうたってる割には、ハードルが高いし、間口も狭い。

 それにしても――なぜBBCにネット無料配信ができて、NHKにはできないのか?
 1つは、BBCの“受信料”が、テレビを見るためのライセンス制になっていて、事実上の税方式であること。だから基本、獲りっぱぐれがない。資金的な余裕があるから、ネット配信を無料化できるってワケ。

 もちろん――そのためにはイギリス国民の放送行政への理解がマストだけど、要は、お金を払うだけのクオリティの高い番組を放映してくれるから、イギリス国民はBBCの事実上の税方式に文句を言わないんですね。

NHKがBBCになるために必要なこと

 ではNHKが、このBBC方式を採用したら、どうなるか?
 多分、反発が来ますね。恐ろしいくらいに。「だったらNHKなんていらない」って。
 つまり――それを覆すには、国民から「なるほど。こんな素晴らしい番組を放送してくれるなら、税方式でもいい」と思わせるだけのクオリティの高い番組を作らなきゃいけないんですね。

 ちょっと前置きが長くなったけど、若い人たちにNHKを見てもらうために一番大事なことは、“クオリティの高い番組作り”だと僕は思う。
 それが(事実上の税方式に移行するかは別として)受信料の取りっぱぐれを減らし、資金的な余裕を生み、将来的なネット無料配信を可能にして――回り回って、若者がNHKを見る好循環を生むってワケ。

 僕は、それを可能とするNHKの番組作りをこう呼んでいる――「NHKクオリティ」。では、現状、そんな番組はあるのだろうか。

 ある。

NHKクオリティその1『真田丸』

 例えば、大河ドラマの『真田丸』がそう。
 ご存知、脚本はコメディの天才・三谷幸喜サン。視聴率は初回19.9%で、19回を終えた時点で平均視聴率は17%台をキープ。この下落率の少なさは近年では異例だ。つまり、視聴者をガッチリ掴んで離さない。
 おまけに、本放送より先行して放送されるBSの視聴率は初回の3.3%から、ここ数回は5%台まで上昇。むしろ「より早く見たい」というファンを増やしている。

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 人気の秘密は、王道の大河ドラマだからだろう。真田信繁役の主演の堺雅人を筆頭に、草刈正雄、大泉洋、内野聖陽、黒木華、草笛光子、遠藤憲一、小日向文世――とそうそうたる役者陣。脚本も史実に沿って書かれており、奇をてらいすぎることなく、物語の“スジ”で面白がらせる王道の作りになっている。女性陣の言葉遣いや、時にコメディに振りすぎるなど気になる箇所もないことはないが――かなり面白い。

神脚本の秘密

 漏れ伝え聞くところによると、このごろ、三谷サンは仲のいいフジテレビの石原隆サンと頻繁に連絡を取り合っており、ドラマの感想を聞きだしているとのこと。石原隆サンと言えば、フジテレビの三谷作品『古畑任三郎』や『王様のレストラン』を企画した人で、脚本を読む力は業界随一。『真田丸』の面白さは、石原サンの感想も影響しているのかもしれない。

 あるいは――タイミングがよかったとも。あまり大きな声では言えないけど、昨年、三谷サンが脚本・監督した映画『ギャラクシー街道』は今ひとつの評判だった。その反省に立ち、『真田丸』では本来の三谷サンらしい“神脚本”が随所に見られる。例えば、こんな風に。

――上洛した家康。翌日、秀吉と公式の場で面会する前夜、密かに秀吉が信繁を伴い、家康のもとを訪ねてくる。驚く家康。

 家康「……一体、どういうことでございましょう?」
 秀吉「明日の会見で一芝居打ってほしい」
   事情が呑み込めず、戸惑う家康。
 家康「わ、わかりませぬ……」
 秀吉「わしが『関白・豊臣秀吉である』と言うから、おぬしは頭を下げたまま『はは~っ』と言う。わしがいろいろ偉そうな事を言うんで、おぬしは最後に『不肖の妹婿ながら徳川家康、全身全霊をもって殿下にお仕え致します』と大きな声で――ここが大事だぞ。その場にいる誰もがはっきりと聞き取れるような大きな声で、高らかに言上するんじゃ」
 家康「勘弁してくれ。わしは芝居は苦手じゃ。あがってしもうて。体ががっちがちになってしまうのだ」
 信繁「そういう時は、丹田(たんでん)です!」
   横から信繁が助け舟を出す。
 家康「丹田?」
 信繁「腹に息をためて、丹田から吐くつもりで、す~っと出す。すると、不思議と力が抜けていきます」
   丹田を試す家康。
 秀吉「それからおぬしはこう言う。『殿下がお召しの陣羽織、拙者にいただけませんか?』『何ゆえ、この陣羽織を?』『殿下にはこの陣羽織などもはや無用の品。今日より殿下に歯向かう者は、この徳川三河守が成敗致しまする』『よく申した!三河守!』……どうじゃ?」
 家康「殿下……芝居がどんどん難しくなっております」

 ――面白い。

NHKクオリティその2『のど自慢』

 さて、次なるNHKクオリティは、『NHKのど自慢』である。
 ご存知、同局の最長寿番組。TV放送開始は1953年3月15日。NHKのテレビ開局が同年2月1日だから――わずか1ヶ月半後に産声を上げたことになる。

 司会は小田切千アナ。かつて『NHK歌謡コンサート』を担当した演芸畑のベテランアナで、僕がNHKで最も信頼を寄せるアナウンサーの一人である。素人相手に話を引き出し、客席の笑いを誘い、ゲストも立て、毎回それなりに面白く回し、時間内にキッチリ収める。不必要に自分をアピールしない。真のプロフェッショナルとは彼のような人物を指す。

 『のど自慢』と言えば、かつて景山民夫サンが著書『極楽TV』の中で、いわゆるパターン遊び(ex.「どーゆーわけか当日のゲストの持ち歌を歌う人が必ず出る」、「どーゆー訳かちょっと前に流行ったニューミュージックみたいなのを唄う女子高校生デュオがいる」等々)を披露したように、日本全国どこへ行っても、どんなに時代を経ても変わらない、偉大なるマンネリズムが売りである。

 よくネットの書き込みで、出場者たちが「〇〇枠」とネタにされことも多いけど、保母さん3人組がキャンディーズを歌ったり、やたら元気な消防団の青年がいたりと、繰り返されるデジャブ感が心地よい。もはや『笑点』の「大喜利コーナー」と同じく、日本の様式美の1つである。

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伝説のSMAPゲスト

 『のど自慢』の何が面白いって、時々、SMAPみたいな新しい風が入っても、びくともしない世界観だ。ちゃんと、その中で笑いが成立する。昨年12月に彼ら5人が特別ゲストで出演した時もそうだった。

 ――出場者の一組に、SMAPファンのご夫妻がいた。
 歌い終わった奥さん、草彅クンと抱き合って大感激。すると、隣ではなぜか旦那さんと抱擁する稲垣クンの姿が。
 抱擁後、微妙に距離の開いた夫妻にすかさず香取クンの声が飛ぶ。「離れないで!」見ると、2人のトレーナーの胸には、旦那さんは「SM」、奥さんは「AP」の文字。それを見たキムタク「旦那さんのトレーナーだけ見ると……」――場内は大爆笑。

 極めつけは、ゲストの歌のコーナー。SMAPが『がんばりましょう』を披露した後、なんと掟破りの“鐘1回”の洗礼。実は、こっそり背後に回った中居クンの仕業だった。これに小田切アナがすかさず「SMAPさん、がんばりましょう!」と激励。場内はその日一番の大爆笑――という次第。

佐藤雅彦サンの“みんな”理論

 誤解されがちだけど、王道大河の『真田丸』も、超・長寿番組の『のど自慢』も、決して視聴者は高齢者に偏ってない。むしろ、若者層にもよく見られている。若い女性もよく見ている。
 いや、こういう言い方が一番正しいかもしれない。それら2つの番組は――“みんな”に見られている。

 そう、みんな。
 これは、かつて佐藤雅彦サンがCMプランナー時代に提唱したクリエイティブ理論で、エンタメ界で仕事をする人にはぜひ聞いてもらいたいんだけど――まだ佐藤サンが広告会社にいた頃、よく会議でこんなやりとりがあったそう。

 営業「この商品のターゲット、誰にしましょうか」
 マーケ「20代前半の独身男性に絞りましょう」
 佐藤「ちょっと待ってください。もっと広い層ではいけないんですか」

 もっと広い層――これが佐藤サンの唱える“みんな”理論。曰く「人間は、ひとりひとり違うことは誰でも知っています。ある特定の人にうける音楽も、他の人にはうけないこともある。そんなことは当然です。でも、僕が興味を持っていることはそういうことではありません。年代や性別や職業の枠を超えて、みんなが喜ぶ商品や表現です」
 みんなが喜ぶ――。

 佐藤サンは続ける。
 「なぜ、あんなに多くの人が、ディズニーランドが好きなのでしょうか」

“みんな”に見られると、若い人もついてくる

 ――意味、わかります?
 僕はテレビ番組も同じだと思う。若い人に見てもらいたいなら、まず“みんな”に見てもらえる番組作りをしないといけない。

 現に、「幕末男子の育て方。」という少女漫画のようなキャッチコピーをつけられた昨年の大河ドラマ『花燃ゆ』は、肝心の若い女性視聴者にソッポを向かれ、視聴率も散々だった。一方、今年の王道大河の『真田丸』は若い女性も含め、幅広い世代に見られている。

 昨今の朝ドラの視聴率が高いのも、要は幅広い視聴者――みんなに見られているからなんですね。『あまちゃん』で視聴習慣が根付いた若い人たちをはじめ、古くからの朝ドラファンなど、みんなに見られてる。
 ちなみに、1つ前の朝ドラ『あさが来た』の通期の視聴率は23.5%。これは、朝ドラの今世紀最高視聴率だったんですね。まさに、びっくりぽん。

 そう、大事なのは“みんな”に見てもらうこと。そうすれば自然と――若い人たちもついてくる。

その反対――NHKバラエティ

 さて、このレポートも、ここから先はあまり長くない。
 僕は、ここまでNHKの理想の番組作りを「NHKクオリティ」と表現して称えてきたけど、残念ながら、多くのNHKの番組は未だその水準に達してない。
 言い方は悪いけど、その中でも、特に悪しき傾向(?)にある番組を僕は「NHKバラエティ」と呼んでいる。

 そう、NHKバラエティ。
 いや――誤解なきよう申し上げるが、それは決してNHKのバラエティ番組のことを指しているワケじゃない。現に、『鶴瓶の家族に乾杯』や『ブラタモリ』などのバラエティは、「NHKクオリティ」と称賛できるほどに素晴らしいものだ。

 そうじゃなくて、僕が指摘したい「NHKバラエティ」とは、“無駄なバラエティ的演出を施した番組”のこと。
 一例を挙げると、NHKの国際部が地上波で唯一手掛ける海外ニュース番組『これでわかった!世界のいま』がそう。

残念なリニューアル

 かつて、NHK総合の週末の夕方6時台は、長くNHK国際部が手掛ける『NHK海外ネットワーク』が放送されていた。
 それは、世界30都市に派遣されたNHKの海外総支局の特派員たちによる取材力の結集。毎週2本の特集が組まれ、今、世界で起きている最新ニュースを多角的且つ深く、分かりやすく掘り下げてくれた。

 しかるに今――その枠は、昨年4月から『これでわかった!世界のいま』にリニューアルされてしまった。一応、海外ニュース番組という触れ込みだが、スタジオは教室のセットへと様変わり。出演者も、それまでのキャスターと国際部記者に加え、お馬鹿タレントの坂下千里子サンと週替わりのゲストタレント、それにアニメのキャラクターも登場する。

 スタジオには手作り感をアピールした巨大模型が毎回作られ、坂下サンはテレビ出演に不慣れな国際部記者の小さなミスを指摘しては悦に入る。ヘタウマなアニメが国際情勢をギャグタッチで語り、番組最後にはゲストタレントの番宣まで入る――。
 最悪だ。

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地上波の役割とは?

 結局のところ、かの番組は余計なバラエティ的演出を施すことで、そこに番組のエネルギーが注がれ、本来伝えるべき海外ニュースがどんどん薄くなっているのだ。Eテレでやるならまだしも、仮にも多くの視聴者が見る週末の夕方の総合テレビである。

 何より、本当にそのバラエティ的演出が小中学生に届いているのか、甚だ疑問だ。大人以上に多感な彼らは、何よりも子ども扱いされることを嫌う。結局、狙った若者層にも届かず、誰も得しないという悲しき現状なのだ。

 また、海外ニュースの解説なら、BSにも専門番組があるから、そちらを見ればいいという議論もある。でも、公共放送のNHKにとって、BSはあくまでオプションに過ぎない。やはり地上波で、国際部が手掛ける唯一の放送枠として、シンプルながら本格志向の海外ニュース番組はマストだと思う。
 前番組『海外ネットワーク』の復活を切に願う。

実は報道局が作っていない『ニュース7』

 最後に、「NHKバラエティ」の最たる例として、この番組を挙げたい。
 ――夜7時からの『NHKニュース7』である。

 今では珍しいストレートニュースとして、常時視聴率15%以上を稼ぐ同局の看板ニュース番組。でも――僕は手放しで同番組を推す気になれない。

 第一、『ニュース7』は報道の一丁目一番地である報道局が制作していると思われているけど、実状は「ニュース7部」なる専門チームが作っている。(報道局が作るニュースは「定時ニュース」と言って、正午や午後3時から流れるアレですね)

 その結果、『ニュース7』は報道局がその日に伝えるべきニュースを伝えるというよりは、『ニュース7』という番組をいかに魅せるかに注力された番組作りになっている。

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もはやガラパゴスな日本のニュース

 次に、現状の『ニュース7』のフォーマットを検証したい。
 かつては1人のアナウンサーがニュースを伝えるスタイルだったのが、昨年10月から男女のアナウンサーが並んで伝えるスタイルへ変貌している。まるで学級会の正副クラス委員を見ているようだ。そして――これは以前から行われてきたことだけど――大型のセットを使ったり、CGを多用したりして、アナウンサーがスタジオの中をコミカルに動き回る(これは『ニュースステーション』が始めたスタイルを真似たものですね)。そして極め付けは、気象担当に若い女性の気象予報士を起用し、カラーの指し棒を持たせるなどのアイドル的な見せ方――。
 あぁ、アタマがクラクラする。

 これらのフォーマットがどれほど情けないか、それは海外のニュース番組と比較するとよく分かる。
 例えば、アメリカの三大ネットワークの看板ニュースは、夕方6時半から30分枠で放送され、基本、1人のアンカーパーソンが番組を仕切る。椅子に座り、立ち上がって動いたりしない。その日、伝えるべきニュースをコンパクトに、そして専門家を交えて深く、分かりやすく伝える。スタジオのライティングは適度に抑えられ、視聴者にはニュースがストレートに伝わる視覚効果になっている。

 ほら、たまに日本のニュースを海外がどう報じたかと、各国のニュース番組が流れることがあるでしょ? どれも基本、シックなストレートニュースである。翻って、海外にこの『ニュース7』の映像が日本を代表するニュース番組として流れていると想像すると――かなり恥ずかしい。

 僕ら日本人は気がついていないけど――ことニュース番組に限っていえば、日本は世界でも特異な部類に属するガラパゴスなんですね。

2人のNHK

 では、最後にまとめを。
 僕は――NHKには2人のNHKがいると思っている。
 1人は、公共放送の使命として、より多くの視聴者に見てもらえるよう、プロフェッショナルな番組作りを行う「NHKクオリティ」。

 大河ドラマ『真田丸』をはじめ、朝ドラや『ブラタモリ』、『NHKのど自慢』や『鶴瓶の家族に乾杯』、他にも『プロフェッショナル 仕事の流儀』や『サラメシ』、『ピタゴラスイッチ』、『ドキュメント72時間』などジャンルは様々だが――要は“みんな”に向けて、志高く番組を作っているNHKである。

 そしてもう1人は――若者に見てもらおうと、余計なバラエティ的演出を施すも、本来のターゲットである若者たちからはソッポを向かれ、結果として誰も得しない、残念な「NHKバラエティ」。

 先の『ニュース7』や『これでわかった!世界のいま』をはじめ、若い女性キャスターやゲストタレントを前面に押し出すよう改悪された『クローズアップ現代+』や、民放紛いのタレントを使った低俗なバラエティ、ナビゲーターに役者を使って余計な演出が目立つドキュメンタリー等々――。

 誤解しないでほしい。僕は心の底からNHKが好きだ。だからこそ、声を大にして言いたい。
 さらば、NHKバラエティ。
 そして――

 来たれ、NHKクオリティ。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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