塩田明彦監督の最新作はロマンポルノ!
『黄泉がえり』『どろろ』といったエンターテインメント作品から、宮崎あおい主演の『害虫』や、オウム真理教を思わせるカルト教団からの少年の脱走を描いた『カナリア』などの強いメッセージ性をもった作品まで、幅広く手がける塩田明彦監督。
そんな塩田監督が次なる土壌として選んだのは、ロマンポルノ。5人の映画監督が、日活ロマンポルノの生誕45周年を記念してオリジナル新作を撮る、ロマンポルノリブートプロジェクトに参加する。
その5作連続公開の第2弾として、塩田明彦監督作品『風に濡れた女』が、12月17日(土)より公開される。本作はロマンポルノ史上初めて海外映画祭のコンペティション部門へ正式招待され、第69回ロカルノ国際映画祭で『若手審査員賞』を受賞する快挙を成し遂げた。
主演に抜擢されたのは、間宮夕貴さん。モデル・タレントとして活躍するだけでなく、女優として『甘い鞭』『ちょっとかわいいアイアンメイデン』『GONINサーガ』『屋根裏の散歩者』といった日本映画に数多く出演している。
新・日活ロマンポルノ作品を追い続ける“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”。前回の『ジムノペディに乱れる』行定勲監督×芦那すみれさん対談に続き、監督×主演女優対談をお届けする。
「ロマンポルノと知らずにオーディションを受けた」
――まずは、おふたりに、ロマンポルノをやることになった感想から伺えればと思います。
間宮「私、実はロマンポルノであることを知らずにオーディションを受けていて、決まってからロマンポルノだったって知ったんですよ」
――ええっ、でも脱ぐシーンもありますし、出演には勇気が必要だったのでは?
間宮「たぶん他の皆さんは“脱ぐ勇気”が必要なんだと思うんですけど、私は過去に一度脱いでいるので……。ロマンポルノの歴史の中に入るには、初脱ぎのほうがいいと思うんですけど、(初脱ぎではないという意味で)バツイチの私が入ってしまって大丈夫なんだろうかという不安のほうが大きかったです。もちろん、やるならとことんやるぞ、という決意はありましたけどね」
「5人の中で最高の作品をつくる」
――塩田監督は、ロマンポルノを撮ることになっていかがでしたか?
塩田「まさか自分が撮る日がくるなんて、思ってもみなかったです。でも、学生時代に見ていて、単純にいち映画ファンとして日活ロマンポルノを好きだったんです。何人か好きな監督もいて、尊敬していたので、今回のお話はとても光栄でした。ただ、他に4人の監督もオリジナル企画で参加して競うというかたちですから、自分の作品を最高にするぞという野心で撮りましたね」
――そんな野心があったんですね!
塩田「もう本能の赴くままに脚本を書きました(笑)。それこそがプロジェクトに対する礼儀だと思いましたので」
――間宮さん演じる主人公の女性も、本能の赴くままの感じですよね(笑)。
間宮「脚本だけではなかなか想像がつかなくて。最初の場面から、自転車で海に突っ込んで、濡れた服を脱いで『泊まらせてよ』っていう女のコ、不思議すぎます!(笑)。他にも、例えば『棒を使って会話する』って書いてあって、想像つかないじゃないですか(笑)。それが、どう映像になるのかも含めて楽しみでしたし、実際にできあがった作品を見たときは『ああ、なるほど!』と納得しましたね」
今までと女優の選び方を変えた
――ただ、あの本能の赴くままの女性も、間宮さんの肉体が演じると、本当に生きている感じがしました。あの説得力を持たせられる女優さんを選ぶのはなかなか難しかったと思うのですが、塩田監督はどう間宮さんを選ばれたのですか?
塩田「実は、今回の作品は、今までと女優の選び方を変えてみたんです。今までは、芝居はさせずに、話だけをして、人柄だけ見るというやり方だったんです。でも今回は180度やり方を変えてみたんです」
――芝居を見ないというのは、今まで、宮崎あおいさん、蒼井優さん、谷村美月さんという演技派の女優さんを選ばれてきた塩田監督なので、驚きの方法でした。では今回は芝居だけをみた、ということですよね?
塩田「ええ、プロフィールなどの事前情報も全くいれずに、芝居だけを見ました。特に今回は、全編アクションといってもいいほど動くので、その人の実際の立ち振舞いを見ないと判断できないな、と思ったんです。ただ、最終的に直感で選ぶところは、これまでと変わってないんですけどね(笑)。間宮さんは、その場にいる人を惹きつける感じもあったし、怒る演技をしていても色っぽさもあるという絶妙なバランスが、この汐里という役にピッタリだったんです」
間宮夕貴、ロカルノ国際映画祭でハリウッド女優並みの扱い
――ちなみに、おふたりはこの作品でロカルノ国際映画祭にもいかれたんですよね。
塩田「選んだ僕がいうと自慢っぽくなってしまうんですが、フォトコールでの間宮さん人気がすごくて。ホントに『ハリウッド女優さんがいらした!』っていう扱いを受けてたんですよ」
間宮「いやいや、監督もチヤホヤされてたじゃないですか(笑)」
塩田「いやいや、シャッターを切られる回数の差でわかりますよ(笑)」
間宮「ああ、そこは……監督を待たせている自覚はあって、申し訳なかったです」
塩田「でもホントにね、街中の人気者という勢いで。間宮さんが他の映画のゲストより明らかに持ち上げられているのを見るのは、監督の僕としても気持ちがいいんです」
「自分ではわからなくても、かっこいいものはかっこいい」
――それは嬉しい現象ですね。現地では作品自体も人気だったと伺いました。特に、ロマンポルノなので男性ウケだけかと思いきや、女性の評判が良かったとか。
間宮「女性が、主人公の汐里を憧れの存在として捉えてくれたみたいです。色々な大人の社会に挟まれていると、なかなか難しいとは思うんですけど、女性にはどこかで開放的になりたいという欲望があるんだと思うんです。それを代弁できたなら嬉しいです。日本でも『かっこいい女性でした!』って言われるのはありがたいですね」
――間宮さんの中に、かっこいい女性を演じた、という自覚は感想を言われるまでなかったのでしょうか?
間宮「今までこういう役をやったことがなかったので、演じているときは自覚がなかったんです。『この女性はみんなにどんなふうに見られるんだろう』っていう不安のほうが大きくて。かっこいい役をやっている女優さんって、自分の中でも、かっこいいと感じながら演じているものだと思っていたんです。でも、今回、違うんだな、と気づけました。自分ではわからなくても、人が見てかっこいいと思うものは、かっこいいんだよな、って」
ナンバーワンの作品という意識を持つことが大事
――かっこよかったです!あんなにアクロバティックなセックス、初めて見ました。
塩田「『こんな濡れ場見たことない!』っていう、ありきたりじゃないものを撮りたかったんですよ。生命力が溢れるエネルギーの塊が、そこで轟いている感じにする、というかね。間宮さんからも動きの提案があって、取り入れてみたりもしました」
間宮「監督が『この作品はみんなで意見を出し合ってやろう』って言ってくださったので、提案しやすかったです。他にも撮影中、勇気づける言葉を言ってくださって助かりました」
――どんな言葉をかけられたんでしょう?
間宮「『君が世界で一番偉い』『この作品が、絶対に一番面白くなるから』みたいな感じですね」
――監督にそれを言われたら、とても心強いですね。
塩田「自分の映画に出演する人たちには、ナンバーワンの作品に出てるんだって意識を持って欲しかったんですよね。もちろん、作品なので評価は人によって違うでしょうが、少なくとも自分の中ではそう思っていることが大事なんです。汐里という極端なキャラクターを演じるうえで、そういう心構えが役に立つと思ったんですね。なんの鎧もなしで世界と向き合うためにもね」
小さい話を描きながら、大きい世界に触れた感触
――もちろん、これまでの塩田さんの作品にも『月光の囁き』のようなエロスを感じさせる作品はありましたが、今回のロマンポルノは、また違ったエロスですよね。
塩田「今回の作品は、もうアクションですからね(笑)。フェティッシュなチラリズムの世界ではなく、全身と全身でスカッとぶつかり合う感じです。主人公の男女2人の、文字通りの戦いを見ていると、何か崇高な一瞬がある。わかりやすい意味でのエロは目指してなくて、もっともっと大きなエロを目指しているんです」
――ただのふたりのセックスの話ではなく、もっと大きな話だ、ということですよね。
塩田「今回、ものすごく小さい予算で、ものすごく小さな世界の話を描いたのに、何か、ものすごく大きなものに触れている感じもあって。正直、自分はロマンポルノに向いているかもしれないな、と(笑)」
――おおお!もう少し、向いている理由を教えてください。
塩田「もともと、男と女の話を描くのが向いているんですよ。実は、2人の関係性をつきつめていくのが好きなんです。そういう小さな話を描いているのに、大きな話に触れている。とはいえ、現代社会に触れている、というわけでもない。特に今回は、もっと大きな言い方をすると、自然を描いているのかもしれません。別の言葉でいうと、神話なんですかね」
映画の冒頭、間宮さんがTシャツを脱いだ瞬間から滲み出る性の香り。その性が、主人公2人の対峙により、どんどんとヒートアップしていく物語を見ていると、いつのまにか、りっしんべんが取れていて、この作品が『性』の話ではなく『生』の話に感じられている瞬間があった。
それは、塩田監督の描こうとしているものが、小さな男女の話から始まる、大きな神話だからなのかもしれない。
(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)