みうらじゅんさん&いとうせいこうさん&スライド機のスライによるユニット『Rock’n Roll Sliders』による、トークイベント『ザ・スライドショー』。みうらさんが全国津々浦々で撮りためた写真に、いとうさんがツッコむという形式のトークショーは、日本武道館公演やハワイ公演を経て、2016年についに20周年を迎えた。そこで、20周年を記念してドキュメンタリー映画『ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密』が公開される。過去の貴重な映像や、舞台裏、それぞれが思いを語ったインタビュー映像などがふんだんに盛り込まれた作品となっている。
“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン”として、童貞時代を忘れられない男性のために、映画などの文化系情報をお届けしているチェリー。童貞の神様・みうらさん&80年代以降の文化を牽引してきたいとうさんの映画となれば気にならないワケがない!ということで、みうらさん&いとうさんに話を聞きに行くことに。オープンから1年、みうらさんには2回目のインタビューとなるチェリーだが、なんと、みうらさんは、チェリーのことを覚えてくれていた……!
嬉しい衝撃から、話はスライドショーの秘密や、お二人の考える、価値ある人生を楽しむための秘訣にまで広がった!
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ピカデリーが最近おかしい
みうら「どうも。前にも来てくれましたよね」
――ありがとうございます!みうらさんが原作を務められた映画『変態だ』に続いてのインタビューとなります。
いとう「映画づいてるねー」
みうら「なんか、おかしいんですよ。どっちもピカデリーで公開だから、ピカデリーに誰かひとり僕のことお好きな方がいるとしか思えないんですよ(笑)」
いとう「ピカデリーの中の誰かが、おかしくなったか(笑)」
みうら「もしくは、その方が、偉くなったとかね。僕がピカデリーによく行ってることがバレてる可能性もありますね。6回見てポイントためて、1回タダで見てますから」
――このお話の雰囲気から察するに、今回の映画は、決してお二人で提案して売り込んで始まったような企画ではないんですね(笑)。
みうら「そうそう、言っときますけど、企画はうちらじゃないですから」
いとう「はじめ、企画を聞いたときは、ふたりで『そんなんやって面白いのかね?』って言ってたんですよ。でも、やってくれるんなら、やってちょうだい、と(笑)」
秘密を明かされてしまった
――では、実際に完成された作品を見ていかがでしたか?
いとう「普通、人のことをドキュメンタリーで20年も追えないじゃないですか。特にみうらさんは、色々やっているから、みうらさんの単体の20年のドキュメンタリーって、実現したら絶対面白いけど、なかなか難しいと思っていたんですよ。でもこの作品を見て『このやり方があったか!』と思いましたね。インタビューはそれぞれ別に撮ったので、僕が知らない部分のみうらさんの考えも知ることができて面白かったですよ。しかも、みうらさんと僕の考えが『ボケとは?』『ツッコミとは?』というところに繋がっているから、何層にもわたる見方ができて、僕らじゃない人たちが見ても、きっと面白いんじゃないかと思います」
みうら「いとうさんもあの中で言ってましたけど、僕はもともとツッコミの人間だったんですよね。まあ、原稿を書くって、ツッコミ行為ですからね」
いとう「これってバカだよなー、って思っていることを原稿にしているわけですもんね」
みうら「そう、わかってないと書けませんから。ただ、僕はもともとはツッコミの人間なのに、スライドショーではボケになっているんですよ。その秘密を、今回のドキュメンタリーの中で明かされてしまっているから、今後どうしようかな、というのが率直な感想です(笑)」
「いいね!」を世界で一番早く押したのはいとうせいこう
――確かに映画の中では、かなり詳しくそのあたりを明かされていましたもんね。見ていてボケとツッコミであるという2人の関係性の捉え方も新しかったですし、みうらさんに対して、褒めたりキツいツッコミをしたりする、いとうさんのさじ加減も職人芸の領域に感じました。
みうら「実はスライドショーは、相手の頭の中のツッコミとボケの熾烈な読み合いですからね」
いとう「瞬間将棋ですね」
みうら「ここに駒を置いたらどうくるか、という感じで3・4手先を読んでいきますから。まあ、いとうさんは常に頭を回転されていて、『いいね!』と『どうよ!』は誰よりも早いんですよ」
――『いいね!』ですか。
みうら「そう、SNSでみんなが『いいね!』しだす、何十年も前から『いいね!』出してましたよ」
いとう「いいものを見つけて褒めるのが好きなんだよね」
みうら「初期のスライドショーのときに『Rock’n Roll Slidersのテーマ』ってやつを歌ってるんですよ。あれ、僕が歌うときに、いとうさんが横で『ディ・ザイヤー!』とか適当に合いの手を入れているじゃないですか」
いとう「中学生並みの英語で、歌詞を英訳したりしてね(笑)」
みうら「その中でいとうさんがやっぱり『いいね!』って言ってるんですよ」
いとう「ええ、ホント!?」
みうら「そう、『いいね!』って入ってるんですよ。そんな昔から、いとうさんは『いいね!』してるんです。『いいね!』を世界で一番早く押した人はいとうさんですよ」
いとう「知らなかったなあ」
みうら「またね、いとうさんは、褒めるのがうまいんですよね。中学・高校と応援団の出身ですから、応援するのがうまいんです。応援プロです(笑)」
いとう「いいものを見つけると褒めたくなるんですよね。歌舞伎の掛け声と一緒で、タイミングよく言わないとかっこ悪いんですけどね」
――そうやって、褒めるって行為はとても大事ですよね。
みうら「いとうさんの周りの若いミュージシャンと話してると、みんな、いとうさんの『いいね!』が聞きたくてやってるって(笑)」
批判じゃなくて、必要なのは“がるプレイ”
いとう「逆にね、最近はSNSですぐ批判をする人が結構いるじゃないですか。『カスだ』とか『面白くねぇ』とか書いている人。あれ、たぶん、みんな中高生だと思うんですよね(笑)。でも大人になると、そんなこと言ってても、結局は『お前はどうなんだ!』っていうブーメランが自分に飛んでくるじゃないですか。批判をするんじゃなくて『そんな面白がり方があったんだ!』をあみ出すのが文化ですよね」
みうら「発明ですよね。面白がるという。頭脳戦艦ガルですね。そりゃあ、みんな、つまらないものを見たら、つまらないって思いますよ(笑)。でも、それを思わないふりをするプレイなんです」
いとう「“がるプレイ”ですね」
みうら「そう、 “がるプレイ”をしてるうちに、なんか面白いような気になってくるんですよ」
いとう「みうらさん、割とすぐになりますよね」
みうら「ええ、宗教勧誘にもすぐひっかかるタイプですからね(笑)」
途中から夢中になると裏返る
――それって、ふと冷静になっちゃうことはないんですか?
みうら「もう、自分で自分を洗脳してますからね。いや、もちろん、もともと、こんなものを集めてもロクなことがない、なんてことは知ってますよ(笑)。誰よりもサムいことが苦手でやってきてますから。もとはゆるキャラだって『サムいなー』って思って取り出してますから。それはわかってはいるんですけど、途中から夢中になって、裏返るんですよ」
いとう「よく裏返ってますよね(笑)。みうらさんは『これはイタいかも』というものを、追っかける習性がありますけど、いつの間にか好きになってる」
みうら「そうなんです。でも、おかしなモノや人を、そのまま撮って出したりはしないんですよ」
いとう「バカにしたり、失礼なことはしないよね」
みうら「おかしなモノや人を出すためには、自分がおかしい人になるしかないんですよ(笑)」
いとう「なるほど! クッションになる、と」
みうら「うちの事務所はタレントが僕ひとりだからね。僕がおかしくなるしかないんです(笑)」
――そのとき、どこかに『自分おかしいな』って思っている自分が存在するんですか?
みうら「おかしいなって思ってる段階ではまだ無理なんですよ。それじゃあ『どうかしてる』の一言をいとうさんに言ってもらえない」
いとう「みうらさんがおかしいと思ってる段階では『もとはおかしいと思ってたでしょ?』って正せないですからね。みうらさんは、途中から、本気で夢中になって、すっかり当初の目的を忘れて、いいものだと思って集めちゃってる」
みうら「そこまできたら、こっちも、ツッコミもサクセスなんですよね」
「いいね!」で持ち上げ、ツッコミでがっかりさせる
いとう「みうらさんは、あたかも昨日見つけてきたみたいなテンションで喋っているけど、写真の日付を見ると15年前、なんてこともありますからね。わざわざ出してきたことのおかしさを、まず辱めるツッコミをしますよね」
みうら「まあ、尋問ですよね(笑)」
いとう「だから『いいね!』で持ち上げて、最終的に尋問というか、ちょっとキツいツッコミをしたときの、みうらさんのガッカリ顔が面白いんですよ」
みうら「ガッカリ屋さんです(笑)。スライドショーの現場は、思っているようなオチにいかないんですよ。こっちは、自分で現場を見て、撮って、順番まで考えて、頭の中で整理して『いとうさんは、こう言うだろう』っていう予測のもとに臨んでるんですけど。いきなり日付のこととかを言われてしまう(笑)」
いとう「最後の一手が違うでしょう」
みうら「そこからね、あたふたが出るんだよね」
いとう「そこが、また面白いんです」
みうら「まあ、お笑いの世界広しといえど『集めんなよ』ってツッコミは聞いたことないですけどね(笑)」
スライドショーは、いとうせいこうを通してみうらじゅんを理解するショー
――スライドショーがみうらさんのボケと、いとうさんの綿密な計算や褒めと崩しによって成り立っていることがわかってきました。ちなみに、過去にいとうさんがボケの立場にまわろうとしたことはなかったんですか?
みうら「一回、僕がツッコむようなネタを仕込んだことがあったけど……」
いとう「中学の時に通信空手をやるために撮った、僕のいがぐり坊主の頃の写真を入手されてね」
みうら「でも、よくよく考えたら僕も通信空手やってたんですよ(笑)。ツッコめる立場じゃなかった」
いとう「まあ、あとお客さんもよくわからなくなっちゃうみたいだね。遠近法というか、このショーは、お客さんが僕の理性を通して、みうらさんを理解しようとするショーなんです。でも、僕がおかしくなっちゃうと、遠近法が狂って、見方がわかんなくなっちゃうみたいです」
みうら「いとうさんを通して見るショーだからね」
みうらじゅんは正論を言わない
いとう「ただ、みうらさんの面白いのは正論を言わないところなんですよ。例えば、みうらさんが道路の写真を出してくると、僕が『道路が随分汚い』なんてことをツッコんでいく。そうすると、みうらさんはオロオロし始めるんだけど、絶対に『だって俺の道路じゃないもん』という正論は言わない。道路側の気持ちになって話していくんですよ。そこに面白いボケが生まれる。笑いのわかっている人のやり方なんですよね。打ち合わせをしてるわけじゃないのに、そういうボケが出てくるってことに、やっぱり、みうらさんの笑いのセンスを感じますよね」
みうら「まあ、探り探りですけど、そんな過程がこの『レジェンド仲良しの秘密』なんじゃないですかね」
どのくらい面白がったかで人の価値は決まる
――やはり、映画を見ても、こうやってお話を聞いていてもお2人の関係がうらやましく思えてきます。
みうら「まあ、僕が、“がるプレイ”をしていること、わざと好きだって言ってることをわかって、ツッコんでくる“レジェンド仲良し”を見つけたってことは大きいですよね。そんな友だちを見つけたらね、最高に余生は楽しいと思うんですよ」
いとう「まだ、これ読んでる人に余生は早いでしょ」
みうら「まあ、もう生まれたときから余生のカウントダウンは始まってますからね」
いとう「そうだね、Born To Dieだからね。人の悪口を言う人生で終わるのは嫌だよね。どのくらい面白がったかで、その人の価値が決まると思いますね」
みうら「『そこまで面白がってるのか!』って笑われてる人のほうが、人生損してるようで、実は楽しいなと思いますよね」
(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)
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映画『ザ・スライドショーがやって来る! 「レジェンド仲良し」の秘密』
2017年2月18日(土)より公開中
監修:みうらじゅん/いとうせいこう 構成:おぐらりゅうじ 監督:伏原正康
製作:WOWOW 制作プロダクション:アウン・プエンテ 制作協力:アーク 配給:日活/WOWOW 宣伝協力:MUSA ©2017WOWOW INC.