門脇麦が幼少期と自身の転機を振り返る
寡黙な役柄から想像すると、本人の言葉の強さとのギャップにやられそうになってしまう。
2014年の映画『愛の渦』、2015年の連続テレビ小説『まれ』、2016年のNetflix版『火花』と主演かどうかを問わず、存在感を強く残す女優・門脇麦。
今年4本公開される出演映画のうちの1本であり主演作『世界は今日から君のもの』が7月15日(土)より公開される。『結婚できない男』『梅ちゃん先生』などで知られる脚本家・尾崎将也が、門脇を主演に迎え、自らメガホンもとったこの作品。ひきこもりの主人公・真実が、周囲の人々の出会いで才能を見出され、開花していく過程を、家族愛や友情・仕事観を絡めながら、美しく切り取っている。
“風変わり”と形容される主人公・真実だが門脇自身はどうなのか。幼少期から、女優の仕事を選んだきっかけ、そして女優になってからの苦しみと転機について聞いた。
変身ベルトを毎日つけていた幼少期
私は、自分をいたって普通でまっすぐな人間だと思っているんですけど、そう自分で思っている人が一番ヤバイですよね(笑)。なので、変わっていたと思う部分を話すと……ぬいぐるみとは喋れていましたね。あとは、戦隊ヒーローがすごく好きで、変身ベルトをいつも学校でもつけていて、側転の練習をしたりしていました。「何かきたら私が戦う!」という意思を持っていたんですよね。
他にも、ビー玉は常に持っていて、ビー玉をかざすと、その中に楽しい思い出が全てつめられると思っていました。だから例えば動物園に行って楽しいと、動物に対してビー玉をかざして、家に帰ってから握るんです。そうすると、その楽しい思い出が見えてくる……まあ、思い出してるだけなんですけどね(笑)。
脚本家・尾崎将也への“愛おしさ”
その想像力のたくましさは、今回門脇が演じた真実にも通じるものがある。脚本は、尾崎自身が、門脇が演じることを想定して書いたものだ。尾崎の門脇への思い入れからも、門脇の尾崎への信頼からも、“相思相愛”っぷりが伝わってくる。
真実は、実は尾崎さんが、尾崎さん自身にあて書きしたものなんじゃないかと思っているんですけどね。もう、尾崎さんを女のコにしたらああいう感じというか(笑)。以前、私が演じさせていただいた『ブラック・プレジデント』の役も『お迎えデス。』の役も、そして今回の真実も、尾崎さんの描く女のコはとにかくかわいいんですよ。私と正反対なせいか、愛おしくてしょうがなくて、守りたい感情が湧いてくるんです。
最初にそれを感じたのは3年前。ドラマ『ブラック・プレジデント』で脚本をいただいたときに「この脚本の女のコの魅力を1ミリも減らさずに昇華させなきゃ」という使命感に燃えるくらい、キャラクターが愛おしかったんですよ。でも、やっていくうちに「キャラクターへの愛おしさは、このキャラクターを作っている人に通じているのかもしれない」と思ったんです。そのドラマの打ち上げで尾崎さんに「今、映画を作ろうと思っているんだけど、一緒にできたらいいね」と言ってもらえて。
それで出来上がった今回の真実は、もう尾崎さん100%のキャラクターなので、真実への愛おしさは尾崎さんへの気持ちなのかもしれません。その境界線は、なかなかわからないですね。
正反対と言ってしまいましたが、強いて私と真実の共通点を挙げるなら、自分の世界が幸せであれば、出ていきたいという欲が特にないところでしょうか。あえて外に出ていかなくても彼女の世界は成立しているんですよね。外から見ると、それはひきこもりに見えてしまうのかもしれないけど、自分の好きなことと大事にしたいものがはっきりしているから、自分は幸せ、というところですかね。
人生は、流れ着くところに流れ着く
戦隊ヒーローとして「自分が戦おうと思っていた」話から伺える、門脇の幼少期からの無意識下の“選ばれし者”である自覚。そして自身で語る外界への欲望のなさ。その自覚は、今の“選ばれた”活躍に至るまで、どう昇華されていったのか。
『世界は今日から君のもの』は、主人公の自分でも気づいていなかったかもしれない才能が、周囲によって見出され、開花し……といった話である。門脇自身にそういった経験はないのかを聞いた。
私は、そういったことの連続、という感覚ですね。人の人生って、もちろんある程度、それぞれの意思も関わってくるとは思うんですけど、基本的には決まっていると思うんですね。色々あるけれど、流れ着くところに流れ着くといいますか。
もちろん「こうなりたい」って自分の中で思うのは大事だと思うんです。でも、それを自分に求めてレベルを上げていくのはいいけれど、あまり外に求めすぎるのは違うといいますか。自分の最大限の力がその都度出せていれば、自ずと繋がっていくべきところは繋がっていくと思うんですよね。今回の映画も『ブラック・プレジデント』という作品があったからこそですし。
バレエの挫折と「何者かになりたい焦り」
そもそも私は、バレリーナになるのが夢だったんです。ただ、バレエをやめたときに、逃げた感覚といいますか、挫折感がどうしても拭えなくて、バレエの友だちとも恥ずかしくて会えないような時期がありました。そのときの「早く何者かになりたい」という焦りと、「映画が好き」という気持ちが重なって、この仕事を始めたんです。少し誤解を生む言い方かもしれませんが、勢いで、という部分もあったと思います。でも、その結果、今の事務所とも出会えて、こういう方向性で女優を続けることができています。
もちろん、つらい時期もありました。「私みたいに何もできない人を選んでもらったんだから、なんとかして頑張らなきゃ」みたいな強迫観念が強かったんです。それで苦しくなっていましたね。
監督は“共犯者”
ただ、最近では考え方も変わりました。私が皆さんに知ってもらえるきっかけになったのは2014年に公開された三浦大輔監督の『愛の渦』という作品だと思います。もちろん、外から見たら「三浦大輔が門脇麦を見出した」ってことになりますよね。ただ、あの作品が昇華されたことで、私だけではなく、三浦さんも監督としてのステージが上がっているわけですよね。もうその時点で戦友であり、共犯者なんですよね。選ばれた私ばかり、苦しくなっていたけど、選んだ方にも責任があるじゃないですか(笑)。見出してもらったことは事実ですし、三浦さんに恥じないようにという気持ちでどの作品もやっています。そして、あれから色んな作品を経験させてもらって“共犯者”の方が増えるたびに「恥じないように」と思える人の数も増えていくんです。
“能動的に苦しみにいく”ことで楽しさに変化する
考えが変わる転機になったのはこの『世界は今日から君のもの』の前に、病気をしたことですかね。入院して、手術もしたんですけど、そのときが結構大変で「人って簡単に死んでしまうんだな」と感じたんです。だったら、毎日楽しい方がいいですよね。「楽しむ」っていうことも自分の意思次第で選択できる気がしてきたんです。苦しいことも、“楽しんで苦しむ”といいますか。“あえて”苦しみにいく、能動的な感じですかね。その能動的なパワーさえあれば、意外と色んなことが楽しくなっていくし、よりパワーも出てくるんです。
だから、最近は、徐々に徐々に毎日が楽しくなっている感覚です。今も変わっている最中で、自分で見ていて面白いです(笑)。変わっていく私に、私も追いつかなきゃいけないし、先に行かなきゃいけないし、自分とかけっこをしている感じなんです。
日々、変わり続ける門脇の、3度目の尾崎との“共犯”。映画『世界は今日から君のもの』は、7月15日(土)より渋谷シネパレスほか全国順次公開。
(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)
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Ⓒクエールフィルム
配給:アークエンタテインメント
【出演】
門脇麦、三浦貴大、比留川游、マキタスポーツ、YOU 他
監督・脚本:尾崎将也
製作:クエールフィルム