7月30日、俳優の黒田勇樹氏が、中野のイベントスペース・BAR ルナベースにて、映画『恐怖!セミ男』の上映会イベントを行った。
同映画は、“超B級ハイスピードアットホームホラーミュージカルアクションコメディ”と銘打たれ、黒田氏が監督・脚本・出演・編集の4役を担当。ある一般家庭に突然乱入してきたブリーフ姿のセミ男を巡る騒動を描き、2016年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭に正式出展されるなどして、大きな注目を集めた。
当日は満員の観客が埋め尽くすなか、以前からイベントや映画祭などで黒田氏と交流があるという、当サイト・永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリーの編集長・霜田明寛が、同映画のイベントに登壇。
5歳の時にNHK大河ドラマ『武田信玄』でデビュー後、野島伸司脚本による伝説のドラマ『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(TBS系)などでも鮮烈な印象を残し、現在は俳優としてだけでなく、多岐にわたって活躍する黒田氏と、彼を幼少期からお茶の間で見続けてきた編集長・霜田が、熱いトークを繰り広げた。
将来は映画監督になると決めていた!
霜田 僕は今、31歳なんですけど、小学生の時とかに『人間・失格~』とか、黒田さんが活躍されているのをお茶の間で見ていて、ものすごい繊細な美少年がいるなってところから、20年くらいたってお会いさせていただいてるって感じなんで、光栄極まりないんですけど。でも、会って気づいたんですよ。その美少年の繊細な面影を残しつつ、相当、トークがいかれてるっていうことに(笑)。
黒田 いかれてる? 霜田くん、つい最近、ブログではトークが上手って書いてくれてたじゃない!(笑)
霜田 文字でいかれてるって書くとニュアンスが伝わらないかなと思って(笑)。それにしても映画、すごくないですか? 僕の中の黒田さんって映画撮れなくていいんですよ! とりあえずかっこよくて面白い時点で、才能なくていいって前提できたんですけど。
黒田 (ニヤリとしながら)2本目、これ。
霜田 これすごいですよね。申し訳ないですけど、このビジュアルからすごくナメてたところがあって、こんなものが来るとは。
黒田 結局、酷いけどね!
霜田 いやいやいや(笑)。ホラーっぽいものなのかなと思って観にきたら、全くホラーではなく。
黒田 なんていうんだろうね。俺もこれどんな映画ですか? って言われたらなんて言っていいかわからなくて。なんか撮りたいように撮っていいって言われたんで、みたいな。
霜田 ちゃんと家族愛みたいなのも入ってますし、権力批判をチラつかせたり、めちゃめちゃ色んな要素が入ってますけど。
黒田 2014年くらいですかね。台本書いて撮影したの。演技のワークショップで講師をしてたのね。で、半年授業をしたらその生徒さんと1本短編映画撮るっていうのの2本目。1本目は『黒田勇樹殺人事件』ってのを撮ったんだけど。
霜田 出演者は全員ほぼ生徒さんですか?
黒田 半分くらいはね。それで1本目は、ワークショップで映画撮るって決まってたから、撮らないといけない。でも元々撮ってみたかったの、17の時から。17で初めて夕張行って。
霜田 出演者として。『学校Ⅲ』とかですか?
黒田 そうそう。山田洋次さんの『学校Ⅲ』で、ほぼ初めて映画の現場に入ったんだけど、すげぇおもしれえなって! 17ってさ、大体人生に悩む時じゃん。将来何するんですか? みたいな感じで。進路も学校で書かなきゃいけない。まあ、芸能界でやってくんだろうなと思ってたの、俳優・タレントみたいになるのかなって。その時に山田組に入って、映画すげぇって思って。俺、将来は映画監督だな! つって。
霜田 はいはい。
黒田 で、山田組がんばったから「今年は好きなことしていいよ」って言われて。じゃあ「17で映画がんばったご褒美に夕張連れてってください!」って言って。別に招待されたわけじゃなく遊びに行ったの、知ってる映画人もいっぱいいるから。そしたら「黒田くん! 黒田くん!」って呼ばれて、レセプションパーティーの壇上に立たせてもらえて。
霜田 へ~!
黒田 ひとこと言いなよって言われて。そこで「どうも黒田勇樹です! 僕、将来は映画監督を目指すことに決めたので、僕の監督作品を夕張に持ってきます!」って。それで17年後に持って行ったのがこれ!
霜田 すげぇ!
黒田 言ったらやるあたりね! しかもそこに行くまでの間で映画を企画しようとしたら離婚で潰れてるから!
霜田 笑
ゆうばり映画祭の空気を変えた黒田勇樹
黒田 今日はなんで霜田くんを呼んだかっていうと、『セミ男』が夕張出品されますってなって、オープニングパーティー行ったら、いたの! 元々は『無職説明会』っていって、企業の説明会はいっぱいあるけど、無職の説明会はないじゃないですか? 若者たちに無職とはこういうものだ、と伝えるイベントで出会ったの。
霜田 そうですそうです。
黒田 その後、なんだっけ?
霜田 会社に講演に来てくれたんですよ、Twitterの使い方みたいな。僕がwebのPR会社に籍を置いているので、それにツイッターの使い方がうまいってことで講演をしに来てくれて。
黒田 そうだ。その時に、霜田君がジャニーズが好きっていう話で盛り上がって。
霜田 はいはい!
黒田 エンターテインメントに詳しいコだなあとは思ってたんだけど、そのあと夕張で、ばったり会って。「あれなにしてんの?」って聞いたら「今、映画関係の仕事をしてて取材に来てます」って言うから。夕張ってさ映画祭の時期は、町中が映画人だけになるからね。その時は「あれなにしてんの?」って「『恐怖!セミ男』で来ました!」って。
霜田 笑
黒田 そしたら「そっか。もう俺は不真面目なことできないからな。黒田君がいっぱいやってくれ!」って言われて「ありがとうございます!」みたいな(笑)。
霜田 不真面目を託されて(笑)。 そういえば夕張の時、黒田さんがすごかったのが、パーティーの空気を、もう一手にして持っていってて。
黒田 うそだー!?
霜田 その年は有名なところでいうと勝地涼さんとか武田梨奈さんとかがいて。パーティーには200人くらいいるから、いっても有名な人が若干空気を持っていってる感があるんですけど、そこに黒田さんがやってきて、勝地さんと喋るわ、武田さんとも喋るわみたいな感じで。
黒田 紗倉まなとも喋った!
霜田 そうそう(笑)。オールジャンルというか。普段は交わらないはずの人たちが黒田さんという媒介を通じて円になってる感じがして。
黒田 あと夕張の町内会長さんや市の偉い人とかも来るんだけど、そういう人たちも「17年ぶりだな~! よく帰ってきてくれて」とか言ってくれて、なんかもう“ここが俺のホームか!”みたいな感じになってきて。
一同 笑
霜田 あと僕はメディア側で行ったんで、夕張の村の人たちが「わー!」ってキャストの人たちを迎えて、その一番奥にマスコミがカメラ構える、みたいなとこにいたんですけど。
黒田 そうそう、キャストがバスで来て。降りると会見場みたいなところまで、地元の人たちがいる中を歩いてくの。
霜田 レッドカーペットじゃないですけど、そんな感じで。まあその中で、もちろん全員が地元の方達とたくさん喋ったりするわけではなく話しかけられたら答えたり、マスコミのカメラの前だけちょっと止まるみたいな人もいるんです。でも黒田さんは、もう地元のおばあさんに「俺、17年ぶりだから!!」みたいな感じでメチャメチャ喋りかけてて!
一同 笑
黒田 やっぱね、嬉しいもん! ちょっと変な話だけど、「生きていて色々ありますけど、夢は叶うぜ!」ってさ、言えるじゃん!
霜田 たしかに!
黒田 だってこんなことねえなと思って。だから夕張の帰りの空港で叫んだもんね、「第一部 完」って! 自分の人生はここで一旦、第一部完なんだってね。
一同 笑
霜田 ちなみに窪塚洋介さんがマンションから落ちるまでが第一章ってインタビューで言ってました。
黒田 言ってた? やっぱ同じような意識を共有してたか~(笑)。
『人間・失格』へのオマージュを込めた『セミ男』
霜田 監督として作品を作るときに、これまで出演してきた作品が影響したりすることはあるんですか? ちなみに僕は、人間にもモンスターにもなりきれないセミ男が、黒田さんが出演した『仮面ライダー剣』のモンスター・アンデッドに重なりました(笑)。
黒田 (笑) いっぱいある! 例えば、撮影だと山田洋次さんだね。やっぱあの人、様子がおかしくて(笑)。夕日に向かって「沈むな!」とか言うの。
霜田 (笑)。
黒田 新幹線に向かって「速い!」とかって言うわけ。もう正気じゃねぇなと思って(笑)。
霜田 はいはい(笑)。
黒田 でもそこをスタッフさんが「この日は夕日が撮れませんでした」ってことで日付をあらためたりとか。新幹線もね、「速い」ってのを聞いて、当時は“何を言ってるんだろう”と思ったんだけど、監督的にはセリフの後や、この間の後に、ガーーって撮ってほしいわけ。要はそのタイミングが違うと!
霜田 なるほど。
黒田 そしたらスタッフの人たちが「今のは急だったんで、この後、快速が来るのでもうちょっと入るスピードが遅いかもしれません」とか。カメラさんはカメラさんで「こっちの角度なら、電車が入る絵がこのタイミングになる」とかって話し合ってさ、段々理想に近づいていくわけ。
霜田 すごい。
黒田 1本目の『黒田勇樹殺人事件』を撮った時は、全然ワガママ言わなかったんだけど、ああいうことって言ってくの大事なんだなって。で、『セミ男』の一番最後の森のシーン。最初撮った時は、木が上の方に茂っててあまり空が映ってない感じだったの。俺も技術がないからさ、助監督のイシカワくんに「この木を1メートル切ってきてくれ!」「未来みたいな絵にしたいから切ってきてくれ!」って言って。
霜田(笑)
黒田 それで怒られるかなって思ってたら、スタッフの人が「じゃあセミ男の位置を少し高くして、カメラをこうすると、ちゃんと空と登場人物が映るから」って調整してくれて。
霜田 おー。
黒田 こういうことだなと思って。映画監督としての技術がちゃんとあれば「もうちょっとカメラ煽れないですか?」とか言えたとこが、わかんないから“わかんない”でやめないで、「切ってくれ!」って言えば、「夕日沈むな」とか「新幹線速い」と一緒で、どうにかなるんだと。あれはちょっと山田さんの真似をしたね。あと霜田くんって『人間・失格』好きでしょ?
霜田 大好きです!
黒田 『セミ男』はさ、お笑いライブのラストシーンで、観客に混じって死んだ3人が後ろから見てる引きの絵があるの。これ気づく人だけが、気づけばいいんだけど、あれはね『人間・失格』へのオマージュ。
霜田 え!!
黒田 この話初めてするわ(笑)。『人間・失格』って堂本剛くんがやった役が死んじゃって、最後に桜井幸子さんがね「この学園には色んなことがありましたけど、正しい未来を歩んでください。イジメは絶対にいけないことだと思います」って全校生徒たちに言ってるんだけど、これ聞いてる生徒役で剛くんの後ろ姿を映してるの。これは一部の人が気が付くぐらいなんだけど。
霜田 へぇーー!!
黒田 これをね、俺もやろう! って思って。
霜田 すごい。
黒田 まぁこっちの出演者は全裸だから気がつくけどね! あっちはみんな同じ制服だからさ!(笑)
霜田 堂本剛信者として、本当に嬉しい話が聞けました……ありがとうございます!!
黒田 やっぱり今までいっぱい良い現場にいさせてもらったから“これ良いな!”ってのが染み付いてるんだよね。そういうのが『セミ男』にはいっぱいある。
おまえら盛り上がりが足りねぇ!
霜田 そういえば、パーティーの壇上で、スピーチされてましたよね?
黒田 うん、なんか呼ばれたからね。「17年ぶりにこれて良かったです」みたいな話と、「ちょっとおまえら盛り上がり足りねぇんじゃねえか」みたいな話を。
霜田 そうだ! そうそう、なんか別に内輪の飲み会ならまだしも、200人規模のパーティーの空気を気遣って、ちゃんと盛り上げるってことをしてて、その時、本当にすごいなと思って。
黒田 「最高だぜ、ゆうばり!」みたいなね。俺が17で来た時、こんな感じじゃなかったから「もっとみんなでワーってやってこうよー!」って言った。
霜田 それで僕だったり勝地さんとかの知り合いのところばかりにいるでもなく、ちゃんと色んなところに回っていって、注入していくってのが凄いなって感じがしましたね。
黒田 ありがとう。武田梨奈ちゃんなんか「こないだ、短編映画見たよ!」とか、そんなんだもん。
霜田 へー。
黒田 「なんか、あれ出てたよね? 蹴りが綺麗だったね」みたいな。
霜田 あ、元々知り合いとかじゃなかったんですか?
黒田 全然!
一同 笑
霜田 元々知り合いレベルの仲の良さでしたけど(笑)。
黒田 もうそこにいる人たちは、本当はみんなそうするべき! やっぱ俺がそうされたからなんじゃない?
霜田 あー。
黒田 17で夕張に行った時に、みんなが「黒田勇樹くんだー!」って。あと全然知らない人とかも「俺、東京で映画撮ってるからさ、よかったら遊びにきてよ」って。そういう人がいっぱいいたからさ、その感じをやりたかったの。
霜田 はいはい。
黒田 映画人たちも、なんか有名な人たちと仲良くなれればとか、何かチャンスがあればとかの企みが透けて見えるというか。なんでレセプション参加してるんだろうみたいなね、そういう人たちがちょっと増えてたから。
霜田 はい。
黒田 そういう人たちが、あの俺が来た時みたいな感じになったらいいなって思いが凄いあったんだよね。あと俺、(おもちゃの)ツノついてたしね(笑)。
霜田 わりとずっとつけてましたよね? レセプションの時間だけじゃなく、宿泊施設とかにいる時でも普通につけてる(笑)。
黒田 他の映画監督さんとしゃべりながらも、ついてるからね。なんかスーツ着てもしっくりこねぇなって思って。でもツノつけたらしっくりきた(笑)。
壮大にふざけるために、ちゃんとする
霜田 普通、年齢と共に人っておとなしくなっていくじゃないですか? でも黒田さんはどんどんパワーアップしてる感が、ここ数年、僕と出会ってからでも感じるんですけど。
黒田 うち、母方のおじいちゃんが、ふざけてて、父親はすげぇテンション高いの。俺、おじいちゃんのふざけてる具合には敵わないし、親父のテンションの高さには敵わないの。この人よりふざけてて、この人よりテンション高い人って世の中に実在するのかってぐらい(笑)。そのせいなんじゃないかな?
霜田 こう育ってきたのは!
黒田 あ、俺さ、一番ふざけてた話思い出したわ。
霜田 なんですか?
黒田 離婚した時にマスコミとかに叩かれてさ、ツイッターとかでも何にも言えないから、どうしようかなと思った時に「僕はついていけるだろうか 君のいない世界のスピードに」って、ただつぶやいたの。で、翌日さ「黒田が当時の心境をこうつぶやいている」ってネットニュースになったんだけど、これ『BLEACH』って漫画のセリフだから!
一同 笑
黒田 あの最中もふざけてたの。
霜田 みんなまさかふざけてるとは思わず(笑)。
黒田 ニュースになっちゃって。「これ『BLEACH』じゃね!?」ってわかる人だけ言ってた(笑)。
霜田 『BLEACH』だって気付いてもどうしていいかわかんない(笑)。
黒田 でもね、大人になったからじゃないけど。35を過ぎて、もっと壮大にふざけたいなと。
霜田 はいはい。
黒田 だからもっと、ちゃんとしようと。
霜田 いやいやいや(笑)。別にそんなに求めてないんじゃないですか? 黒田さんがちゃんとされること。
黒田 いや、やっぱね、ちゃんとしてないとね、そんなにふざけさしてもらえないよ。
霜田 あ~!
黒田 ここぞという、ふざけ度。やっぱ山本太郎くんもさ、天皇陛下に手紙を渡したの、ふざけてんじゃん?
霜田 まーまー、言い方はあれですけども……(笑)。
黒田 あれはでもさ、ずっと海パンでメロリンQをしてた人が、そのままそこには行けないわけじゃん?
霜田 たしかに。
黒田 1度スーツ着たから、あそこまで行けたんだよね。
霜田 1度、議員になってからですからね。
黒田 俺にもそういう時期が必要なんじゃないか?(笑)
一同 笑
黒田 いっぱいここまで短期的にできる悪ふざけはやり切って「第一部 完」したしさ。こっからは世界を巻き込むような、ふざけ方をするために、資料だけ見る人が「ちょっとあの人ふざけてます」って思わないような、ちゃんとしてる風なことをこれからしていかなきゃいけないなと、最近ちょっと思ってる。
霜田 ベースがあるから、ふざけが許されるみたいな。じゃあ今後は……。
黒田 今後は、ちゃんとしていきます! 乞うご期待!(笑)
(取材・文 柴田ボイ)