ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

貫地谷しほり×大東駿介×菊地健雄 “30代なりのがむしゃらさ”

『ハローグッバイ』菊地監督の最新作は貫地谷しほり×大東駿介W主演

2017年7月に公開され、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”でも大プッシュした映画『ハローグッバイ』は、渋谷ユーロスペースのレイトショー動員記録を更新するなど、スマッシュヒットを記録、9月現在も全国で拡大公開中だ。
その『ハローグッバイ』の菊地健雄監督の第3作となるのが、湊かなえさんの小説が原作となる映画『望郷』。

貫地谷しほりさんと大東駿介さんのダブル主演で、木村多江さん、緒形直人さん、片岡礼子さんら重厚なキャストが脇を固め、原作者の港かなえさんの故郷・因島でロケがおこなわれた。
“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では映画『望郷』の公開を前に、貫地谷しほりさん、大東駿介さん、菊地健雄監督の鼎談をおこなった。
主演の2人は菊地監督に何を感じ、また菊地監督は2人に何を感じたのか? そして、現在31歳で同い年の貫地谷さんと大東さんが今感じる、20代の頃からの変化とは……?
ちなみにこの3人で同時にインタビューを受けるのは、この取材が初とのこと。チームワークの良さが伝わる貴重なクロストークとなった。

貫地谷「これまでの中で一番素敵な大東さんでした」

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――まずは主演のおふたりが、それぞれに抱いていた印象と、今回の映画『望郷』を経て、新たに見えた部分があれば教えてください。

貫地谷「大東さんとは、これまでもちょこちょこ共演させていただいてたんですよね」

菊地「2人で共演回数を数えてましたよね?」

大東「『3回目だね』って話したら『4回目じゃない?』『いや、5回目だ!』みたいな感じでね(笑)。今回は2人で主演というかたちでしたが、振り返ると、共演の回数を重ねるごとに、絡みが増えていったような感覚ですね」

貫地谷「大東さん、昔は真面目というか……もうちょっと固かったよね?」

大東「むっちゃ固かったね(笑)」

貫地谷「でも、どんどん大人の男性として素敵になっていく感じで……」

大東「色気が出てきたってことだよね?」

貫地谷「色気とは一言も言ってないけど(笑)。でも今回は今まで会った中で一番素敵な大東さんでしたよ」

大東「そんな風に言ってもらえると逆にどんな言葉を返していいかわからなくなるね(笑)」

貫地谷「すんごいの返してもらわないとね!(笑)」

大東「緩急つけられる貫地谷さんは本当にすごい」

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――では、若干ハードルが上がった中、大東さんから貫地谷さんの印象をお願いします!

大東「最初に会ったときから、今までずっと感じているのは、貫地谷さんは責任感のある人だなってことなんですよね。こういうインタビューのときにも、自分は作品に対してどうあるべきで、どうするべきかみたいなことを根底で常に考えている気がするんですよね。そういう貫地谷さんがいるから、僕は安心してふざけられるんです(笑)」

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――それは今このインタビューの場だけではなく、撮影現場でもそういう感じだったんですか?

大東「ええ、緩急つけられる人という印象でしたね。僕、緩急つけられる人って本当にすごいなと思っているんです。楽しくするのと、ダラダラするのとは別ですし、ただ怖いのと現場に緊張感を持たせるのは別じゃないですか。それを分けられる貫地谷さんはすごいなと思うんです」

貫地谷「え、私、怒ってた?(笑)」

大東「いやいや、怒ってはないんだけど、怒る人が出てくるってことは、現場が緩んでる証拠じゃないですか。そういう緩んだ空気にならないような、立ち振る舞いを貫地谷さんがされていて、現場がいい流れになっていたんだと思います」

貫地谷「ありがとう!それ以上言うと嘘っぽくなるから大丈夫だよ(笑)」

大東「嘘っぽくなく褒められる、ギリギリの線をついたコメントだったでしょ(笑)」

大東「言葉よりも、人に安心するようになる」

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――もうこのやり取りだけで、現場でもお2人が、空気を作る人と、それを踏まえてふざけられる人という構図の素晴らしいコンビであることが見えてきました。それでは、お2人が初めてご一緒した菊地健雄監督の印象をお聞かせください。

貫地谷「最初お会いしたときはピアスが印象的で、おしゃれな方という印象でした(笑)」

大東「意外やもんな」

貫地谷「衣装合わせでも、私の衣装の色味やラインまで見てくださって、やっぱりオシャレな方だと。で、現場でもウェス・アンダーソン監督の映画の話をしてて、映画のチョイスまでオシャレだな、と(笑)」

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――大東さんは監督にどんな印象を持たれましたか?

大東「出会った瞬間から、『この人は信頼できるな』と感じました。綺麗事も言わないし、上っ面な会話も一切しない。でも、映画『望郷』がどういう作品であるべきかをめちゃめちゃ考えているのが伝わってくる。30年も生きていると、安心する言葉を言われるよりも、その人自身がどんな人かということに安心できるようになってきました

貫地谷「たしかに、それはそうだね」

大東「すごく覚えてるのが、撮影初日に貫地谷さんが俺に『監督、すごく芝居を見てくれてるね』って言ったことなんですよ」

貫地谷「うん、言ったね。嬉しかったんだよね。菊地監督は息遣いまで見てくれている感じがして」

大東「そういう報告ってなかなかしないですよね。だから、初日の時点で貫地谷さんは監督にめちゃめちゃ安心して、信頼感を持ったんだと思うんです。それがその後に、きっとうまく働いたんじゃないかと思います。信頼感があるかないかでは、監督に何かを言われたときに、それに反応できるかも変わってくると思うんですよね」

菊地「なんだか、にやける以外のリアクションができなくて困ります(笑)」

菊地監督「貫地谷さんと大東さんのイメージが逆でした」

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――それでは菊地監督から、貫地谷さん、大東さんに抱いていた印象と、今回の映画『望郷』を経て変わった部分があれば教えてください。

菊地「実は、お2人に抱いていたイメージと実際が、逆だったことに現場を経て気づきました。わかりやすいように少し大雑把な言い方をすると、お2人のこれまでの作品を拝見しているイメージでは、貫地谷さんが感覚の人で、大東さんが論理的に組み立てていく人という印象だったんですが、実際は逆だったんです」

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――気なります……!では、まず貫地谷さんのお話からお願いします。

菊地「貫地谷さんのことは、理屈ではなく感覚で役になりきれる方なのかなと思っていたんです。でも実際には今回の現場で、 いちばん僕と話し合ったのが貫地谷さんなんです。僕もあけすけに思ってることを言えたし、貫地谷さんも何かあればすぐ来てくれた。そうやってコミュニケーションを取りながら、論理的に役を組み立てていく方なんだというのが、今回の現場を経て印象が変わった部分ですね」

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――大東さんに関してはどう変わったんでしょうか?

菊地「大東さんは、頭の中で論理的に組み立てたものを出していく方、というイメージだったんです。もちろん、実際は考えてないということではなく、思っていたよりも、僕の言ったことに、感覚的に合わせてくれるのがうまい方で。実際に、ロケ現場の島で吸収した感覚を、芝居にも出している感じがしたんです」

大東駿介、島民と仲良くなる

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――島での吸収というと、実際に島で寝泊まりしたり、島の人と接したりした感覚ということでしょうか?

菊地「現場に入ってまず驚いたのが、大東さんが誰よりも率先して島に入っていって、島の人とコミュニケーションをとっていたところなんです。ロケ場所の交渉をしなければいけないスタッフに負けないくらいの勢いで……」

貫地谷「島の人、どれくらい友だちになったの?」

大東「めっちゃ多いですね。5世帯くらいは家族ぐるみの仲です(笑)。そもそも僕はこの映画『望郷』を、原作者の湊かなえさんの故郷であり、作品のモチーフともなっている因島で撮ることに意味があると思っていて。それを言いだした菊地監督は信頼できる、と会う前から感じていたくらいなんです。僕が演じた航は、子供の頃を因島で過ごしてから島を離れ、そしてまた大人になって戻ってくるという役です。航にとって、島に住んでいる同世代の人と接したりして、島に流れてきた時間を感じることは大事かなと思いまして」

貫地谷「マジメ!(笑)」

大東「まっ、地元の人たちと飲みたかっただけっすよ!(笑) でも芝居とは切り離しても、島にとって農業がどんなものかとか、家業を継ぐ感覚とか、話したからこそ知れることがたくさんあって、それは単純に楽しかったですよ」

貫地谷「街を活性化するアドバイザーができそうなくらい、詳しくなってたよね」

貫地谷「実は不安だった」

菊地「でもそれは本当にありがたくて。この映画は、2人の存在が島から浮いてしまったら成立しないんですよね。2人ともアプローチは違うけど、撮影初日から、スッと自然に島の人として立てていたんです」

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――ここまでお話を聞いていると、3人がそれぞれを信頼して現場が進んでいったのが伝わってきます。

菊地「2人が僕に委ねてくれた部分もあったし、どっしりと構えてくれているからこそ、僕が2人を信頼して委ねられる部分もあったという感じですね」

貫地谷「監督はどっしりとおっしゃってくださいましたが、実は私、今回は不安で不安でしょうがなかったんです

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――ええっ、どういった部分に不安を感じていらっしゃったんでしょうか?

貫地谷「まず、役としてどう息をすればいいか、といったところからわからなくて。それで、演じてみて自分で『違うな』と感じると、監督は絶対にNGを出してくれるんです。それが信頼に繋がっていって、もう監督は一筋の希望の糸のような感じでした。逆に私が『こんな感じでいけたかな?』って思うと、さらに上の要求を出してくれたり。監督には、信頼しながら、すがる思いで接していました

菊地「そうだったんですね……。実は、僕は、その貫地谷さんの不安を現場では全く感じてなかったんですよ。その不安を出さないところが、貫地谷さんのすごいところですよね。貫地谷さんの不安を感じていたら、僕もちょっと不安になってしまって、その接し方はできなかったかもしれない」

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――本当にいいチームの3人だったんですね。

大東「もちろん、僕ら3人だけではなく、監督のチーム全体が優秀でした。スタッフの方々の動きも、気を使う監督もいい関係なのがすけて見えて。映画を観ている人からすれば、映像を作る人が監督というイメージかもしれませんが、現場にいると、あらためて、その場の空気を作るのも監督の仕事なんだな、と思いました。出来上がった画だけからは、なかなか見えないかもしれませんが、あらためて監督ってすごいなあと感じました」

貫地谷「また入りたいチームですね」

菊地「本当に嬉しいです。ぜひお願いします!」

31歳・“経て”からの、再びのがむしゃら期

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――映画『望郷』は、幼少期から17年が経った大人の2人が、過去を振り返っていくという視点で物語が進みます。「必死過ぎて足下しか見えていなかったあの頃とは、少し違った景色を今は眺めることができる」というモノローグもあり、30歳を超えた今のお2人だからこそ実感も持って演じられる役のように思いました。貫地谷さんと大東さんは20代前半のがむしゃらだった頃を越えたようにも見えるのですが、当時を振り返って感じることはありますか?

貫地谷「なんだか、昔より貪欲というか、がむしゃらになっている気がしますね」

大東「僕もそうですね。20代前半のがむしゃらだった時期があって、『がむしゃらはダサい』みたいなちょっと落ち着く時期があって、それを経て、今はマジで狙いにいく感じの静かながむしゃらさです」

貫地谷「そう、途中にちょっと自暴自棄になったり、もういいかなって思っちゃうような時期を経ての『いや、私は頑張りたい!』って思える時期が今ですね」

大東「昔は血反吐はいて、肩外してもバットを振りにいくみたいな感覚だったのが、今は的確にホームランを狙いにいこうっていう感覚ですね」

貫地谷「職人だね。偶然を狙いにいくのではなくて。若い頃は偶然でも瞬発力が出せればいいと思っていたけど、昔よりも丁寧にやっていきたいという気持ちが増えました」

大東「熱量をちゃんと使えるようになった感覚はありますよね」

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――常にその時代、時代で悩んでこられたんですね。

大東「悩んできました。今も悩んでますよ」

貫地谷「期待を上回らないと次がないっていう感覚は年々増えてきています。『これくらやってくれるだろう』って思われた期待の量と同じくらいを返すのでは、いずれ終わりがきてしまうんじゃないか、とシビアな感覚を持つようになりましたね」
大東「僕は、若い頃は何に向けてのがむしゃらさなのか、よくわからなかった部分がありましたけど、今はそのがむしゃらさのたどり着く目的地や、誰を喜ばせたいかということが明確になってきた感じはありますね。今回ご一緒して、貫地谷さんも自分の中にそれが明確にある人なんだなというふうに思いました」

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――このお2人のお話を聞いて、最後に監督いかがでしょうか?

菊地「こうやって色々なものを経たお2人と、このタイミングでご一緒できて作られた関係性が、作品にとてもいい形で落とし込まれたんじゃないかと思っています。僕もまだ監督としては3作目ですが、お2人に新しい力をもらった感覚です。……いいこと言えたかな?大丈夫?」

大東「いいラストでした!」

(取材・文:霜田明寛)
(photo:yoichi onoda)


【関連情報】
映画『望郷』
2017年9月30日(土)よりテアトル梅田ほか 全国拡大上映中

出演:貫地谷しほり 大東駿介 ・ 木村多江 緒形直人 他
原作:湊かなえ 「夢の国 」「光の航路 」(「望郷 」文春庫 所収 )
監督:菊地健雄 脚本:杉原憲明
©2017 avex digital Inc.
主題歌:moumoon「光の影」(avex trax)
制作 ・配給:エイベックス・デジタル

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