オトナ童貞のための!? 青春ムービー
――あの頃を忘れてしまった大人たちへ贈る、青春覚醒ロードムービー――
そんなコピーのついている映画『ポンチョに夜明けの風はらませて』が公開される。
「青春時代をどう忘れずに生きるか」をコンセプトにした我々“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”としては、もはや兄弟のような映画ではないか!!
映画『ポンチョに夜明けの風はらませて』は、高校卒業直前の“いつかこの時間に終りが来る”ことをなんとなく感じとっている男子3人が、車で旅をし、佐津川愛美演じるグラビアアイドルや阿部純子演じる風俗嬢というミューズたちと出会うことで話が展開していく。そう、この簡単な説明からだけでも漂ってくるかもしれないが、最高のオトナ童貞のための青春ムービーとなっているのだ。
そこでチェリーでは監督の廣原暁さんにインタビュー。ぴあフイルムフェスティバルでその才能を見出された、現在31歳の若き新鋭監督。まさにチェリーな世代でもある監督に、作品の話や、青春との距離感などを伺った。
「僕よりも大人」尊敬できる3人の俳優たち
――今回、太賀さん、中村蒼さん、矢本悠馬さんら20代半ばの俳優さんたちをメインに据えて、監督されました。
廣原「彼らは僕よりもベテランで、僕よりも大人でした(笑)。周りへの気遣いもすごいですし、トークイベントなどでご一緒しても、ちゃんと笑いを取りつつまとめの方向に持っていったりしますからね。尊敬できる人たちです」
――素晴らしい安定感ですね。
廣原「とはいえ、撮影していないときは、3人が仲がいいこともあって、裏でふざけあったりしていましたけどね。まあ、撮影中も、矢本くんが僕の指示とは関係なく悪ノリし始めたりもしてましたが……(笑)。でもそういう部分がうまく高校生っぽい雰囲気に繋がったんじゃないかと思います」
――そんな彼らに監督はどう対峙していったのでしょうか?
廣原「その3人のやりとりを、少し引いて見ていたような感じですね。カメラも、その距離感をとって、引いた位置に置くようにしました。バカバカしいことを近くで撮ると、よりバカバカしく見えてしまうので、冷静な部分も持って、少し距離感をもって彼らを見つめていくのが、この映画にとってはいいことなんじゃないかと思ったんです」
今でも高校時代の感覚を恥ずかしいものとは思わない
――その距離感が、この映画に、もう青春時代に戻れない切なさを醸し出していた一因になっているように思います。監督自身の、自分が若者だった時代との距離感はどのようなものなのでしょうか?
廣原「そもそも、若者と大人の境界線がわかってない、というのはあるんですが(笑)。高校時代の話は、脚本が書きやすかったり、思いを馳せやすかったりする、という部分はありますね。青春時代を引きずっていると明確に意識したことはないのですが、そういう意味では僕も引きずっているのかもしれません」
――なんとなくサイトにお気遣いいただきなから答えてくださりありがとうございます(笑)。2010年のぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞を受賞した監督の処女作『世界グッドモーニング!!』も高校生の話ですよね。
廣原「ええ、死んでしまったホームレスの正体を求めて、男子高校生が旅をする話なんですが、あの作品をつくるときは、高校時代とは何だったのか、すごく考えましたね。色々な立場や色々な考えの人がいるのに、一堂に会して教室という空間に一緒にいなければならないって、かなり特殊な状況じゃないですか。自殺する人もいる一方で、楽しんでる人もいる。それがいいんだろうか……みたいなことを考えましたね」
――たしかに長い人生の間でも、かなり特殊な状況ですね。今回の『ポンチョ~』も含めて、そうやって高校生の映画を作ってきて、高校生についてあらためて感じたことはありましたか?
廣原「高校時代の感覚って恥ずかしいものではない、ってことですかね。自分の高校時代に考えていたことを思い出してみても、幼稚だな、とか、頭悪いな、とか思わないんですよね。むしろ、そう感じ始めてしまったらオッサン化してしまってきている証拠なので注意しているくらいです(笑)。だから当時の感覚は、それはそれで大事にしたいなと思っています」
やってくれると思ってなかった阿部純子
――ちなみに『ポンチョ~』に登場する女子2人は高校生ではないですが、何か抱えて生きているのをスッと出すのがうまかったですよね。過去に何があったか、映画の中で詳細に描写されるわけではないですが、例えば、阿部純子さんがスマホを持ちながら見せる表情ひとつで背景がなんとなく浮かぶというか。
廣原「あそこは特に指示をしたわけではなかったんですが、阿部さんが笑わないあの表情をしてくれたんで、そのまま使わせてもらいました。あそこに限らず、チラッといい表情を入れてきてくれましたよ。そもそも阿部さんは、過去の作品を見てピュアな印象だったので、今回のマリアの役をやってくれることがまず驚きであり、嬉しかったですね(笑)」
本人と役が重なって見えた佐津川愛美
――確かに登場シーンから衝撃的でした(笑)。そして佐津川愛美さん演じる愛も、はっちゃけていましたね。
廣原「愛は、グラビアアイドルなんだけど本当はパンクロックをやりたいというコです。以前、佐津川さんが出演される映画のお手伝いをさせてもらったときから、一度ご一緒してみたいなと思っていたんですが、今回愛の二面性がなんとなく佐津川さんに重なって、お願いすることにしました」
――確かにご本人も、女優さんをやりながら監督も始めた方ですし、重なって見えますよね。いい意味で見ている側も佐津川さんに振り回してもらいました(笑)。
廣原「かわいくもいられるし、ある種暴力的にもなれる、素晴らしい女優さんですよね。海で酔っぱらっているシーンなんかは、自由に動いてくれて助かりました」
あえて過度な説明を避けたワケ
――旅する男子3人に女子2人、そして染谷将太さん演じる高校生とメインの登場人物が6人いるわけですが、原作小説と違って過去に彼らに何があったかはあまり語られないのに、なんとなく漂ってきますよね。
廣原「モノローグを使いながら説明することもできなくはなかったんですが……。そうすると小説と違って、押し付けがましくなってしまうんですよね。だから、『今はこういう状況です』という出来事の描写をひたすら続けていくことで、俳優さんにはそれぞれの立ち位置で、感情を動かしてもらって。お客さんには過去の背景まで想像してもらって。『それでも気になったら、原作を読んでみてください』という、ややいい加減なスタンスではあるんですが(笑)。そういう方が作る側も見る側も楽しめるかなと思ってそういうスタンスでやらせてもらいました」
ちょっとしたことで悩む人のことを若者と言うのなら
――そして……詳細の説明は避けますが、あの素晴らしいラストシーンにたどり着きます。
廣原「色々なパターンを考えたんですが、結果ああなりました。人生うまくいかない人のほうが気になる、という僕の個人的な趣向と、若者のイメージとして彼らにはああなっていて欲しい、という気持ちを込めて。先ほど、若者と大人の境界線がわからないと言ってしまいましたが、ちょっとしたことで悩んだり、考えたりしてしまう人たちのことを若者と言うのなら、僕はそういう人たちについての映画を撮り続けていくのだと思います」
(文:霜田明寛 写真:浅野まき)
【関連情報】
映画『ポンチョに夜明けの風はらませて』10月28日(土)、新宿武蔵野館他にてロードショー
配給:ショウゲート
© 2017「ポンチョに夜明けの風はらませて」製作委員会
【出演】太賀 中村蒼 矢本悠馬 染谷将太 佐津川愛美 阿部純子
【監督】廣原暁
【脚本】大浦光太 廣原暁
【原作】早見和真「ポンチョに夜明けの風はらませて」(祥伝社刊)
【製作】2017「ポンチョに夜明けの風はらませて」製作委員会
【企画・制作】RIKIプロジェクト
★新宿武蔵野館では『世界グッドモーニング!!』をはじめとした廣原監督の過去作品の特集上映が行われます。詳細はこちら!