32歳“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”編集長の霜田明寛は絶望していた。
3年間つきあっていた彼女にフラれたのである。
【実際に彼女が去ってゆく当日の霜田。笑っているのはお腹のピョン吉だけである】
【何が起きたかはご想像におまかせします】
32歳ともなると、同級生5人で集まれば、3人は既婚、そのうち2人は子持ち、といった未婚の方が少数派になりつつある年齢。
ゼロからのスタートを前に、何をすべきかもわからない状態である。
「とりあえず、暗い映画を観よう」
そうして「もし自分の友人があの“少年A”だったら…」という物語『友罪』の試写会場へ。
そこで、久々に再会した映画宣伝マン・Y氏から話しかけられた。霜田の事情は知らずに明るいY氏。
Y「実は、もう1本霜田さんに観ていただ…」
霜田「観ます!」
Y氏は僕の同世代であり、初めて2人で飲みにいったときに「中学生のとき、元カノにヤリチンという噂を流されて病んだ。童貞だったのに」というエピソードを話してくれた御方である。そんな話をしてくれる人が悪い人のはずがないので、以後、Y氏の提案には全てのることにしている。
霜田「で、どんな作品なんですか?」
Y「鈴木おさむさんの初監督作品で『Love×Doc(ラブ×ドック)』という…」
……これは地雷なのでは??
一抹の不安がよぎる。
たった今“Y氏の提案には全てのる”と書いたが例外が生まれるかもしれない。
少なくとも32歳独身・彼女ナシ男性がひとりで観る映画ではない……!
こ、これならもう一度『友罪』を観せてくれ……!
Y「レビューやインタビューをしてくださいという話ではなくてですね。劇中で、広末涼子さんが女医の役を演じてるんですが、遺伝子による運命の相手探しを吉田羊さんに指南する話なんですよ」
既にこの時点で興味が半減している霜田。
霜田は、政府が遺伝子をもとに結婚相手を選別する『恋と嘘』という映画のインタビューのときも、他媒体がしがちな「もし遺伝子で運命の相手がわかったらどうしますか?」という安易な質問は絶対にしないというマイルールを課していた男である。
なぜなら「そんなものはロマンがない」と思っていたからである。
仮に本当に遺伝子で運命の相手がわかったとして、そこには何のロマンも生まれな…
Y「実は遺伝子で相性を判断できる機関が実在するんですよ」
霜田「え、マジっすか」
Y「霜田さんには、それを体験していただきたくて。誰か相性を確かめたい女性とかいませんか?」
「いませんね」
そこで、自分の身の上におきた出来事をY氏に話す霜田。
さすがオトナ童貞の痛みがわかるY氏。
Y氏は真剣に耳を傾けて聞いてくれ、そして大きく息を吸ってからこう言った。
Y「逆に、元カノさんに遺伝子検査をしてもらって、運命の相手であることを証明するのはどうですか?
まさかの感動巨編になる可能性
もありますよ」
「やりましょうかね」
確かに遺伝子診断でつきつけられる運命の相手にはロマンはないが、ここは逆手に取って、
遺伝子診断を使ってロマンを取り戻せばいいのではないか!ナイスY氏!
しかし、この企画、元カノが受けてくれないことには始まらない。
おそるおそる連絡し、提案をしてみる。
霜田「『ラブ×ドック』っていう映画があって、それにちなんだ遺伝子での相性しんだ……」
元カノ「いいよー!」
世の中は、“何を頼むか”ではなく“誰が頼むか”で、できている――。
こうして、Y氏→霜田→元カノという、
人への信頼だけで紡がれた遺伝子診断リレーの道は整った。
これは天国への道なのか、地獄への道なのか――。
と、ここまできて映画『ラブ×ドック』を鑑賞。
・映画『恋人たち』で繊細な男性を演じきった我らが
篠原篤さんが、ただのデブキャラとして扱われている
こと
・映画『悪人』における“岡田将生が満島ひかりを車から突き落とすソング”としてしか映画では使われないと思っていた加藤ミリヤの『Aitai』が若干安く使われていること
には憤慨したものの、ひとつ自分の身を鑑みるシーンが。
スイーツ店のオーナーである吉田鋼太郎が、そこで働くパティシエ・吉田羊との不倫関係を終わらせる瞬間、吉田羊がこうキレるのである。
「中途半端な気持ちで女の才能を褒めんなよ!」
悩む霜田。
下心ゼロで女性を褒めたことがあっただろうか??
吉田羊のこのセリフは
“男性が女性を褒めるときにはどこかに下心が入り混じっているはずなのに、女性は褒められることでその気になってしまう” という、男女の絶妙な真理を突くものである。
ということは。
霜田は「特技:ホメ」であり、息を吸うように女性を褒めている。
会社員生活でもインタビューでも褒めている。
ということは霜田は、息を吸うように下心をもっているということではないのか!?
しかし、この映画で描ききれていなかった真実がある。
いや、吉田鋼太郎のような色気をもっていない僕たちオトナ童貞は肝に銘じなければいけないことがある。
褒めすぎる男は“褒めてくれる居心地のいい人”にはなっても、長く続く恋愛対象にはなりにくい
のである……。
女は褒められることで成長し、そして新たな世界を見るようになる。
すなわち、気づいたら男を踏み台にし、新たな男を見られるようになれるのだ。
ドッグイヤーという言葉がある。
1年で人の約7年分の成長をする犬になぞらえ、技術の進歩の速さを評した言葉だが…
霜田にとってはドッグイヤーとは技術ではなく女子のことである。
20代の女子はドッグイヤー
なのだ。
【霜田による“女子の成長と視点の関係”の図】
そんな痛みを抱えながら、元カノとの再会を果たす。
お久しぶりです、元カノさん。
挨拶もそうそうに被験開始。
そう、今回の実験は、会話してテンションが合うかとかそういうことではなく、生まれもった遺伝子が合うかどうかの判断なのだ。旧交を温めてもしょうがない。
今日はおのれの遺伝子をもらいにきたのじゃ!!!
試してもらうのはこちら。
DNAソリューションバンク株式会社から送られてきた遺伝子検査キット。こちらの機関が『ラブ×ドック』でいう広末涼子のいる病院にあたる。
人がそれぞれ持つ遺伝子。その遺伝子のタイプが違うほど、相手の相性は高いという。
それを検査するために、それぞれが遺伝子を採取し、この機関に送るのである。
ということで、遺伝子採取開始。
唾液に含まれるものらしい(そうなのか!?)ので、それを採取。
【写真だけ見ていると、ほぼ歯磨きの図である】
【遺伝子の採取完了!】
これを2人が郵送して1週間。結果が返ってきた。
まさかこの会社も別れたカップルが2人で遺伝子を採取して送ってきているとは思っていないだろう。
つきあっているカップル前提での返答になっている。
結果は…
微妙!!!!!
平均値を少し上回る程度の相性に、
定番の『世界がもし100人の村だったら』のたとえも、36という数字においては逆にわかりにくい!!
おいY氏!
てか山田!
何が「感動巨編になるかもしれません」や!!!
さらに
明寛が、霜田の下の名前である。
元カノにとっては38番目の男であり、元カノは僕にとって12番目の女である、という結果。
恋愛は勝負ではない。
それはわかっている。
だけど
なんか負けた気分
である。
そして今度は元カノとの相性ではなく、霜田個人の遺伝子から判断する、DNA的に相性の合う女性。
「大阪 ぽっちゃり B型」て!!
それ、
ただの大阪の面白いおばちゃん
やん!!!
【イメージ画像です。提供:PIXTA】
そして、さらに気になる文言が。
えっ???
「明寛さんは相性が合う方が少ない」だと???
サラッと絶望的なこと言ってませんか??
再びこの実験に勧誘してきた男の顔が浮かぶ。
おい山田!
なんて悲しい現実をつきつけてくれたんだ!!
いや、山田さんは悪くない。
誰も悪くないし責められないのがこの遺伝子検査だ。
まさに運命とはそういうものである。
誰が悪いわけでもなく、そう決まって生まれてきたもの。
しかし……
人生とはその“決まったもの”に対する抵抗(レジスタンス)なのである。
不利な状況に生まれてきたからこそ、その抗い(あらがい)の記録は波乱に満ちた面白いものになるはずである。
とかなんとか、かっこいいこと言っとかないと、霜田はこの錯乱を抑えられない&記事がしまらないのである。
ということで、チェリーのコンセプトのようなところに結論が戻ってきた。
ちなみにこの記事の公開をもって診断結果は元カノの知るところになる。
こ……今後も霜田及びチェリーという抗いの記録をよろしくおねがいします!
(文:霜田明寛)
(photo :Akihiro Orimo)
協力
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恋愛遺伝子を利用した未来型結婚相談所 株式会社マーベラス
恋愛遺伝子マッチングサイト DNAソリューションバンク株式会社
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Photo credit: umseas on Visual Hunt / CC BY
関連情報
・映画『Love×Doc(ラブ×ドック)』キャスト:吉田羊 野村周平 大久保佳代子 篠原篤 唐田えりか 川畑要(CHEMISTRY) 山田純大 音尾琢真 大鶴義丹 成田凌/広末涼子 吉田鋼太郎(特別出演)/玉木宏監督・脚本:鈴木おさむ©2018『ラブ×ドック』製作委員会