『泣き虫しょったんの奇跡』が描く20代で一度負けた後の人生
豊田利晃監督10作目の記念碑的作品として9月7日(金)に公開される『泣き虫しょったんの奇跡』。
一度は諦めた夢に、再び立ち向かう棋士・瀬川晶司さんの自伝を原作にしている。新進棋士奨励会の26歳までにプロになれなかったら退会というルールの下、一度は会社員として暮らすも、再びプロになることを志す。主演の松田龍平さんをして「瀬川さんという魅力ある人がいることを知って欲しい」と言わしめる魅力を持った瀬川さん。
今回の映画に際しては、単なる原作者という立ち位置だけではなく、撮影現場でも将棋指導をするなど、全面的に協力。豊田監督もインタビューでその人柄を絶賛していた。
“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、“いきなり成功しない”その生き様が、まさに目指すべき姿であることを、映画を見て確信。瀬川さんにインタビューをおこなった。当日は、瀬川さんと、将棋会館やゆかりの地を一緒にまわってから、インタビューするという豪華な日に!
(東京のど真ん中・千駄ヶ谷とは思えない緑溢れた地域にある……)
(将棋会館にやってきました)
(瀬川さん行きつけのお店や)
(近所の神社などを案内していただき……)
(インタビュー開始!)
自ら「負けました」と言う将棋の世界、言っちゃいけない社会
――瀬川さんが、将棋会館に通う子どもたちを見ながら「小さい頃から『負けました』って自分で言わなきゃいけないんですよね」とおっしゃっていたのが印象的でした。
「将棋というのは審判がいないゲームなので、どちらかが『負けました』と言わないと勝負が終わらないんです。だから、小さい頃から将棋をやっていると、自分の失敗に自分で責任をもって、ケジメをつけるクセができるかもしれません」
――瀬川さんは、奨励会を経て、会社員の経験もされていますが、会社員の世界は逆に「負けました」って言っちゃいけない部分もありますよね?
「ええ、社会に出ると『負けました』って言っちゃいけないというか、むしろ言ったら負けという部分もありますよね。失敗しても、その失敗をなかったようにしなければいけない空気があるといいますか。逆に手柄は、自分だけの手柄ではなく、みんなの手柄にしなければなりませんしね」
――棋士の世界から会社員になって、そこに違和感を感じたりはされましたか?
「将棋の世界は、勝てば勝つほどお金が入るし、負けたら入らないという世界です。そこと比べると、何をやっても同じ給料なのはしっくりこなかったかもしれません。まあ、常に同じ給料がもらえる会社員の安心感にもいい部分はありますが、活躍によってクリアに扱いが変わってくるほうが自分には向いています。将棋をやっていたおかげで、全て自分で責任を持ちたいという性格になりましたね」
生活とは目標に対する姿勢
――瀬川さんは会社員時代はマジメな会社員だったんですか?
「そうですね、その前の奨励会時代のダメだった自分への償いというわけではありませんが、任されたことはきちんとやろうという想いは強かったです。もちろん、またプロに戻るぞという気持ちではなく、同じことは繰り返さないぞ、という気持ちですね」
――ではかつての26歳になる前の奨励会時代の自分に何か言ってあげられるとしたら、何をアドバイスしますか?
「うーん……1日のスケジュールを作ってあげて、生活にリズムをもってもらいたいですね。今の自分は、結構サイクルが決まっているんです。朝起きたら○時までは将棋の研究、昼は……といった感じで決まっているんですが、当時は勉強するリズムができていなかったんですよね。勉強するときは1日中するけど、そのあと3日何もしない日がある、とか」
――当時はなかなかリズムが作りづらかったんですね。確かに映画の中でも、部屋で朝まで友人たちと過ごしている様子も出てきましたね。
「朝4時に寝たり、そのせいで奨励会での記録係という大事な仕事に寝坊して遅刻してしまったり。今は、約束の時間には遅れないとか、そういうことを大事にするようにしています。そういう日々の生活って、意外に結果に影響してくると思うんですよね、生活というのは、自分の目標に対する姿勢ということだと思うので。自分が本当にストイックな生活をしていれば、友だちが来ても『今は勉強する時間だから』って説明して帰ってもらうこともできたはずなんです。目標に関してはストイックでないと、やはりプロの世界ではトップになれないので」
“自分の好きなことを仕事にできる幸せ”に離れて気づく
――今の瀬川さんと、過去の瀬川さんを比べるとだいぶ差がありますが、何か変化を決意したきっかけがあったのですか?
「うーん……実はわかりやすく『変わらなきゃ!』とか何かをきっかけに決意したワケではないんです。でも、奨励会をやめてからは、さっきの約束の時間に遅れないとか、全てのことに誠実に取り組んでいました。そうやって過ごしているうちに『やっぱり将棋という自分の好きなことを仕事にできるのは幸せだよな』とか将棋から離れてみて気づいたことがあって。そういう日々の気持ちや行動のひとつひとつが繋がって、再挑戦へのひとつの要因になっていったのかなと思います」
豊田監督の将棋の駒を見て、安心できた
――今回の監督である豊田利晃さんも、かつて奨励会に身を置いていて、将棋から離れた人のうちのひとりです。接してみて何を感じられましたか?
「豊田さんは最初に僕に、『将棋を嫌いになって離れた』という話をしてくれたんです。ただ、撮影や、俳優さんが将棋の練習をするときに、豊田さんが自分の駒を持ってこられていたんですね。その駒がすごくよく手入れされていたんですよ」
――嫌いになったと言いながら、手入れをされ続けている豊田さんの駒……! 20年以上前に将棋の世界を離れられた豊田さんなのに……!
「ええ。それを見て、豊田さんは嫌いになったとは言いつつ、駒は大切に保管されて、手入れをし続けてきたんだな、と思って。将棋を嫌いになったとはいえ、心の中では忘れられないというのは、僕も奨励会をやめた直後の期間がそうでした。だから、その駒を見て、さらに安心できたというのはありますね。もちろん今回と同じ松田龍平さんとタッグを組んだ『青い春』がすごく面白かったので、豊田さんに撮っていただけるなら素晴らしいものになるはず、という確信は最初にあったんですけどね」
――実際できあがったものをご覧になっていかがでしたか?
「将棋に愛を持った監督が魂をこめて作りあげた映画になっていますよね。やはり僕らは将棋映画を見ると、その監督の将棋への愛がわかってしまうんです。もう将棋映画として歴史に残る……いや将棋というジャンルをのぞいても、歴史に残る素晴らしい作品だと、この身をもって、思っています」
(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)
『泣き虫しょったんの奇跡』9月7日(金)全国ロードショー
<ストーリー>
史上初! 奨励会退会からのプロ編入という偉業を成し遂げた男の感動の実話。
26歳。それはプロ棋士へのタイムリミット。小学生のころから将棋一筋で生きてきたしょったんこと瀬川晶司の夢は、年齢制限の壁にぶつかりあっけなく断たれた。将棋と縁を切りサラリーマンとして暮らしていたしょったんは、アマ名人になっていた親友の悠野ら周囲の人々に支えられ、将棋を再開することに。プロを目指すという重圧から解放され、その面白さ、楽しさを改めて痛感する。「やっぱり、プロになりたい―」。35歳、しょったんの人生を賭けた二度目の挑戦が始まる――。
監督・脚本:豊田利晃
原作:瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫刊)
音楽:照井利幸
出演:松田龍平、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介、新井浩文、早乙女太一、妻夫木聡、松たか子、美保純、イッセー尾形、小林薫、國村隼
製作:「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 制作プロダクション:ホリプロ/エフ・プロジェクト
特別協力:公益社団法人日本将棋連盟
配給・宣伝:東京テアトル
” MOVIE STILLS FROM TOSHIAKI TOYODA FILMS 1998 – 2018 “
【 東京 】
会期:2018/9/7(金) – 9/15 (土)
会場: KATA Gallery [ 東京・恵比寿 LIQUIDROOM 2F ]
住所 : 東京都渋谷区東3-16-6 LIQUIDROOM 2F
時間 : 12:00 – 20:00
*トークイベントの日は18:30閉館となります。
【 福岡 】
会期 : 2018/10月中旬
会場 : UNION SODA [ 福岡・天神 ]
住所 : 福岡市中央区大名 1-1-3-201
時間 : 12:00 – 19:00
詳細 : @unionsoda にて後日発表
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豊田映画を代表する豪華俳優陣のトークイベントが決定!!2018/9/8 (土)19時〜 :トーク(ゲスト:新井浩文×豊田利晃)
受付日時 2018/9/5(水) 12:08 〜 2018/9/7(金) 15:00
https://t.livepocket.jp/e/j33zc
2018/9/10(月)19時〜 :トーク(ゲスト:松田龍平×豊田利晃)
受付日時 2018/9/5(水) 12:00 〜 2018/9/7(金) 19:00
https://t.livepocket.jp/e/3in7m2018/9/12(水)19時〜 :トーク(ゲスト:渋川清彦×豊田利晃)
受付日時 2018/9/5(水) 12:12 〜 2018/9/9(日) 19:00
https://t.livepocket.jp/e/mc9kh
**トークイベントの日は18:30閉館となります