ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

豊田利晃「群れることで弱くなる、孤独な奴は強くなる」

今年で映画監督デビュー20周年であり、監督作品10作目。来年には50歳の節目を迎える豊田利晃監督。
メモリアルな10作目の監督作となるのは、瀬川晶司さんの自伝を原作とした『泣き虫しょったんの奇跡』。自身も、瀬川さんと同じく、日本将棋連盟のプロ棋士養成機関・新進棋士奨励会に身を置いていた豊田監督。本作は『青い春』(2002)や『ナイン・ソウルズ』(2003)等でもタッグを組んだ松田龍平を主演に迎えた、集大成とも言える作品となっている。

豊田監督を人生の師と崇める“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、舞台『怪獣の教え』以来、2回目のインタビューを行った。
原作者・瀬川さんの26歳で一度諦めた夢に再び立ち向かう人生に沿って、豊田監督なりの人生の勝ち方を聞くも「俺はまだ一度も勝ってない」という答えが。その真意とは?

全ての悩めるチェリーたちに、豊田監督が真摯に語ってくれた……!

“普通の楽しみを味わってはいけない”感覚のあるプロの世界

thumb_cherry

――主人公のしょったんが、20代の前半で夢を叶えられず、それでも20代後半から30代を必死に生きる姿が、自分の年代的にもとても重なって、涙なしには見られませんでした。

20代、特に27、28くらいっていうのは男の迷いどきだからね。俺も20代・30代と周りの人を傷つけてばっかりだったから、人を傷つけることなく生きていきたいよね」

thumb_cherry

――周りの人を傷つけるといえば、主人公が将棋という夢を追うばかりに、恋が始まるかもしれなかった女性を瞬間的に突き飛ばしてしまう場面が印象的でした。ああいう瞬間ってありますよね。

「やっぱり、チェリー的にはそう感じた?(笑) どこかに、他の多くの人が享受する楽しみを味わっちゃいけないっていう強迫観念があるんだよね。それは、将棋界にある『将棋だけをやっている者が勝つんだ』という思い込みなのかもしれないけど。メンタルが作用する勝負の世界で生きている中で、ああいう感情になって、手が出てしまうのはすごくわかる」

社会的な幸せを得ると、不安になる

thumb_cherry

――豊田監督の中にもそういった、ある種の不幸の中に身を置かないと作品を作れない、みたいな感覚ってあるんですか?

「うーん、自分が社会的な幸せを得られるような状況になったときに、不安になって、全てを壊して逃げたくなっていく、という感覚はあるよね。ブルース・スプリングスティーンの伝記を読んだら、必ず崩壊させて逃げるっていう、似たような感覚が書いてあったよ(笑)。ショーン・ペンの『インディアン・ランナー』でもヴィゴ・モーテンセンが結婚して働いてうまくいっているのに大暴れして逃げちゃうっていうくだりがある。女性にはなかなか伝わりにくい感覚かもしれないけど、ああいう感覚はどこかにあるよね」

thumb_cherry

――それは豊田監督の中に昔から今に至るまであるものなのでしょうか?

「俺は10代からずっとそうで、今も『クローズEXPLODE』のギャラとかを、全部、次回の小笠原でのドキュメンタリー『プラネティスト』にぶっこんじゃったくらいだからねえ(笑)。でも49になって、昔に比べたら薄れてきているかもね。周りでは、原田芳雄さんや荒戸源次郎、維新派の座長の松本雄吉が亡くなって。さらに自分の母親が死んで、父親も死ぬと『次はお前の番だ』って言われているような感覚になるんだよね。そうやって色んな人が死んでいく中で、逃避している場合じゃないというか、生きているうちにやり残したことがまだまだある、っていう意識になっていく。だから強烈な逃避願望みたいなものは、少しずつ薄れつつあるのかもしれないよね」

実人生のように“一瞬パッと思い出す”のが映画的

thumb_cherry

――今、豊田監督の人生に登場した数名の方の名前があがりましたが、今回の映画では、人生の重要な節目で、過去に主人公の人生で出会った人たちとの過去がフラッシュバックするのがよかったです。幼い頃から大人になるまで、時系列で話が進んでいくので、回想シーンとも違う、フラッシュバックでした。

時系列を戻してしまうと、そこで映画の運動が止まるような気がして、生理的にあんまり合わないんだよね。でもリアリズムを重視しすぎるのも違う。カメラを回し続けるのがリアリズムかというと、それも違うんだ。
実人生でも、一瞬パッと思い出す、過去がフラッシュバックする瞬間ってあるじゃない。そっちのほうが感情的にもリアルだし、実は映画的なんじゃないかと思って。ああいう形になったのは、自分の生理的なリアルを追求した結果です」

“沈んでいく夕日を追いかけている”感覚

thumb_cherry

――映画の中で「勝つことに慣れてないから」というセリフが刺さったんですが、豊田さんは約50年の人生の中で、どのタイミングで“勝つことに慣れた”感覚になったんでしょうか?

「俺もまだ勝つことに慣れていないどころか、1回勝ったという感覚すらないよ」

thumb_cherry

――ええっ、あんなに素晴らしい作品やヒット作も出しているのに……! では逆に豊田監督の中では、何ができたら勝ちなんですか?

「作品の完成度としての成功と、興行的な成功が両立したら勝ちだよね。組織的にものづくりをすればするほど難しさもあって、例えば『クローズ』はヒットしたけど、全てを俺がコントロールできたわけじゃないしね。作りたい映画を撮って、興行的にも成功するというのが夢。だからあのセリフは俺が俺自身に言っている部分もあるのかもしれない」

thumb_cherry

――そんな、まだ過程にいる感覚なんですね。

「うん、たぶん、それは永遠に終わらないというか、沈んでいく夕日を追いかけているのに近い感覚だよね。でも、そのモチベーションが強い奴がすごい作品を撮るし、撮らざるを得ないんだとも思う。もしかしたら、それはさっきの話でいうと、幸せを崩壊して逃避することに近いのかもしれないけど。だから、その道は勧めないよ。勧めないけど、責任を取るのも自分だから、その道を進みたい人は、進んでくれればいいと思う」

変化に必要な“正の方向の勘違い”

thumb_cherry

――主人公のしょったんこと瀬川さんは、その“勝ちに慣れていない”状況から、変化し、夢に近づいていきます。その変化のタイミングで必要なものって何だと思われますか?

「ひとつは『自分には何かパワーがあるんじゃないか』と思い込むことができるような、気づきの力は必要かなと思う。一昨日、比叡山に行っていたんだけど、大雨で、傘をさしていたら柄が折れたのよ。そのあと、蕎麦屋で、爪楊枝をとったら、それも折れたんだよね。そのとき、なんか俺、パワーあるんじゃないかと思って(笑)。そういう、自分にパワーが落ちてきているかもしれない、という気づき。それを縁起が悪いって感じる人もいると思うのね。でも、負の方向じゃなくて、正の方向に勘違いする。俺は思い込みが激しいタイプなんだけど、そういう実生活での気づきの力は大事なんじゃないかな」

群れることで弱くなる、孤独な奴は強くなる

thumb_cherry

――実際の瀬川さんにはどんな印象を持たれましたか?

「立派な人だよね。俺の人生で会ったいい人グランプリを作ったらトップに食い込んでくると思う(笑)」

thumb_cherry

――ただ『泣き虫しょったんの奇跡』を見た上で、うがった見方をすると、いい人であるからこそ、成功のタイミングが遠のいたのでは、という気もします。

「それはあると思う。いい人だからこそ、つきあいを断りきれなくて『麻雀やろうよ』っていう友達が家に集まってきてしまったりね。俺もそうだったけど、寂しいからこそ、そういう時間を持ってしまって、人といることでどんどんと弱くなっていってしまう。逆に『群れている奴らはクソだ!』みたいなことを言っている孤独な奴のほうが、強くなって勝っていったりするよね」

thumb_cherry

――10代や20代の前半など、人生の早いタイミングで勝っていくのはそういう人たちな気がします。では逆に、僕ら側と言ったら恐縮ですが、豊田監督タイプの優しい人達が、今後の人生で勝っていくためのアドバイスをいただけますでしょうか!

「仲間を見つけることだね。しょったんもそうだったけど、やっぱり周りの力、仲間と一緒に乗り越えようとすることで生まれるパワーは大きいよね。俺も常に、キャストやスタッフ、プロデューサーみたいな上の立場の人の力も借りながら、進めていっているから。人生のある局面で、そういう人たちを得るというのが、大事なんじゃないかな。そんな局面を仲間たちと乗り越えていく過程が、この映画でも描かれている、と!」

thumb_cherry

――まさに『泣き虫しょったんの奇跡』で描かれていたことでしたね……! うまく締めていただき、ありがとうございます!

(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)


『泣き虫しょったんの奇跡』9月7日(金)全国ロードショー<ストーリー>
史上初! 奨励会退会からのプロ編入という偉業を成し遂げた男の感動の実話。
26歳。それはプロ棋士へのタイムリミット。小学生のころから将棋一筋で生きてきたしょったんこと瀬川晶司の夢は、年齢制限の壁にぶつかりあっけなく断たれた。将棋と縁を切りサラリーマンとして暮らしていたしょったんは、アマ名人になっていた親友の悠野ら周囲の人々に支えられ、将棋を再開することに。プロを目指すという重圧から解放され、その面白さ、楽しさを改めて痛感する。「やっぱり、プロになりたい―」。35歳、しょったんの人生を賭けた二度目の挑戦が始まる――。監督・脚本:豊田利晃
原作:瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫刊)
音楽:照井利幸
出演:松田龍平、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介、新井浩文、早乙女太一、妻夫木聡、松たか子、美保純、イッセー尾形、小林薫、國村隼
製作:「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 制作プロダクション:ホリプロ/エフ・プロジェクト
特別協力:公益社団法人日本将棋連盟
配給・宣伝:東京テアトル

EXHIBITION / TOSHIAKI TOYODA

” MOVIE STILLS FROM TOSHIAKI TOYODA FILMS 1998 – 2018 “

【 東京 】

会期:2018/9/7(金) – 9/15 (土)

会場: KATA Gallery [ 東京・恵比寿 LIQUIDROOM 2F ]

住所 : 東京都渋谷区東3-16-6 LIQUIDROOM 2F

時間 : 12:00 – 20:00

*トークイベントの日は18:30閉館となります。

【 福岡 】

会期 : 2018/10月中旬

会場 : UNION SODA [ 福岡・天神 ]

住所 : 福岡市中央区大名 1-1-3-201

時間 : 12:00 – 19:00

詳細 : @unionsoda にて後日発表

___________________________

豊田映画を代表する豪華俳優陣のトークイベントが決定!!

2018/9/8 (土)19時〜 :トーク(ゲスト:新井浩文×豊田利晃)

受付日時 2018/9/5(水) 12:08 〜 2018/9/7(金) 15:00

https://t.livepocket.jp/e/j33zc

2018/9/10(月)19時〜 :トーク(ゲスト:松田龍平×豊田利晃)

受付日時 2018/9/5(水) 12:00 〜 2018/9/7(金) 19:00
https://t.livepocket.jp/e/3in7m

2018/9/12(水)19時〜 :トーク(ゲスト:渋川清彦×豊田利晃)

受付日時 2018/9/5(水) 12:12 〜 2018/9/9(日) 19:00

https://t.livepocket.jp/e/mc9kh

**トークイベントの日は18:30閉館となります

今、あなたにオススメ
ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
PAGE TOP