ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

第49回 3回目の視聴率の正体

いきなりで申し訳ないが、まずは昨年――2018年の年間視聴率ベスト10(ビデオリサーチ・関東地区のデータを基に、事実上の同一番組を省くなど編集)を見てもらいたい。

1位 ロシアW杯 日本×コロンビア   NHK 48.7%
2位 ロシアW杯 日本×ポーランド   フジ  44.2%
3位 NHK紅白歌合戦(2部)      NHK 41.5%
4位 NHK紅白歌合戦(1部)      NHK 37.7%
5位 ロシアW杯 日本×ベルギー    NHK 36.4%
6位 平昌五輪 男子フィギュアフリー NHK 33.9%
7位 ロシアW杯 日本×セネガル    日テレ 30.9%
8位 平昌五輪 開会式        NHK 30.1%
9位 箱根駅伝 復路         日テレ 29.7%
10位 箱根駅伝 往路         日テレ 29.4%

――いかがだろう。ワールドカップに紅白にオリンピックに箱根駅伝……と、まぁ、言われてみればそうだろうな、という強力ラインナップである。

それにしても、世間で「テレビ離れ」が叫ばれる中、こうして年間視聴率の10傑を改めて眺めると、テレビはまだまだ捨てたもんじゃないと思ってしまう。何が驚きって、ここ10年ほど、テレビを取り巻く環境が激変しているのにも関わらず――これら10傑の視聴率はさほど変わってないこと。いや、むしろ紅白や箱根は近年、微増傾向にあるくらいである。

本当にテレビ離れは起きているのだろうか?

生放送・大型番組・SNS

もう、何度か当コラムでも触れてるけど、アメリカの国民的イベント『スーパーボウル』は2010年以降、それまでの40%台前半から、40%台後半に視聴率がハネ上がった。(もっとも、ここ2年はネット経由の視聴が増えたせいで、テレビの視聴率自体は下落傾向にあるが)
ハネ上がった要因として考えられるのは、SNSの爆発的普及である。SNSによって他人の視聴動向が可視化されるようになって、お茶の間が「今、この瞬間、みんなと同じ番組を見ている!」という新たな喜びに目覚めたから。そう、人は元来、他人と楽しみを共有したい生きもの――。

――とはいえ、全ての番組がSNSの恩恵に与かるワケではなく、番組のジャンルによって効果の大小はある。で、最もSNS効果のある番組が“生放送の大型番組”なのだ。要するに、メジャーなスポーツ大会の生中継や、生放送の音楽祭の類い。まず、それらは元より視聴者の母数が大きいので、皆で楽しみを共有しやすい。そして生放送なので、テレビの原点である「次に何が起きるか分からない楽しみ」も味わえる。結果――“祭り”が生まれる。

お祭り番組は昔から強い

そこで、改めて冒頭に示した年間視聴率10傑を眺めると――全てが生放送の大型番組であることに気が付く。そう、どれもSNSによって“祭り”化した番組なのだ。昨年の紅白が盛り上がったのは、オーラスでサザンが「勝手にシンドバッド」を歌っているところにユーミンが飛び入りして、“奇跡のセッション”に会場が祭り化したから。そう、これぞ生放送の醍醐味。

要するに――テレビ離れが叫ばれる中にあっても、その種のお祭り番組は、まだまだテレビに圧倒的なアドバンテージがあるということ。ネットもスマホもこの分野では敵わない。そもそもアクセスが集中したら、ダウンしちゃうしね。賭けてもいいけど――来年の「2020年東京オリンピック・パラリンピック」も大いに盛り上がる。今は「五輪なんていらない」と言う人も多いけど、大体、オリンピックなんていつも開幕直前まで盛り上がらないもの。祭りはリアルタイムでこそ力を発揮するのです。

思えば、テレビ黎明期――街頭テレビの力道山のプロレス中継に2万人もの観衆が押し寄せたそうだが、その頃からテレビの強みは何ら変わっていないのである。

3度目の視聴率の正体

――というワケで、今回のTVコンシェルジュは、テレビの視聴率を取り巻く最新事情に迫りたいと思います。
テレビ離れが叫ばれる中、現状、視聴率の取れる番組とはどういうものか。視聴率の最新事情はどうなっているのか。そして――視聴率によって番組作りはこの先、どう変化するのか?

実は、当TVコンシェルジュは過去に2度、「視聴率の正体」と題したコラムを書いています。今回が実に3度目である。
1度目は、フジテレビが台頭した1980年代以降のテレビ視聴率を担ってきた“テレビエイジ”と呼ばれる昭和30年代生まれの人たちに着目し、2度目はSNSと視聴率の相関関係に言及し、その影響力は視聴者全体のわずか5~10%に過ぎず、テレビの視聴率の9割は“リーチ”と呼ばれるテレビの引力の強さとハードルの低さが生み出している――と説いた。

で、3度目の今回は、改めて視聴率の現状を整理して、視聴率が誘うテレビの未来に思いを馳せようという次第――題して「3度目の視聴率の正体」である。

日テレを追い上げるテレ朝

さて、近年のテレビ視聴率を取り巻くトピックスとしては、ここまで説明したように、昨年の『紅白』や今年アタマの『箱根駅伝』に象徴されるように、「生放送の大型番組」の強さが改めてクローズアップされたのと――もうひとつ、テレビ朝日の堅調さが挙げられると思う。

そう、テレ朝だ。
ここ2年ほど、同局の視聴率は上向き傾向にあり、日テレを脅かしている。ちなみに、2018年の年間視聴率は、日テレが辛うじて5年連続年間三冠王を守ったものの、「全日」(6:00 – 24:00)・「ゴールデン」(19:00 – 22:00)・「プライム」(19:00 – 23:00)の全部門でテレ朝に追い上げられ、中でも「全日」では0.2ポイント差まで迫られた。

その原動力は、テレ朝の朝帯の2つの帯番組『グッド!モーニング』『羽鳥慎一モーニングショー』と、午後帯に3枠あるドラマの再放送である。いずれも視聴率で民放の同時間帯の上位を占めている。いくら夜のプライムタイムで日テレのバラエティが視聴率を稼いでも、全日に均したらテレ朝に肉薄されるのはそういうことである。

カギは東映制作刑事ドラマ

中でも注目は、午後帯に3枠もあるドラマの再放送枠だ。
ご存知、『相棒』を始め、『科捜研の女』などの東映制作の刑事ドラマが、のべつ幕なし放映されている、あの枠である。

驚くべきは、そのランナップの豊富さだ。
先の2つのドラマを始め、『警視庁・捜査一課長』、『特捜9』(『警視庁捜査一課9係』の後継番組)、『遺留捜査』、『刑事7人』、『刑事ゼロ』等々が並ぶ。いずれも複数シーズンを持つドラマなので、毎日再放送しても、弾が尽きることはない。

もちろん、それらのドラマは、本放送でもちゃんと数字を残している(だからシリーズが続いている)。ちなみに、直近シリーズの平均視聴率は――『相棒』が平均15.3%、『科捜研の女』が平均12.5%、『警視庁・捜査一課長』が平均12.8%、『特捜9』が平均14.0%、『遺留捜査』が平均11.8%、『刑事7人』が平均11.8%、『刑事ゼロ』が平均11.6%――と、見事にどれも二桁である。

昨今、二桁に乗せれば御の字と言われる連ドラの世界にあって、この安定感は特筆ものだ。
それにしても、これらのドラマがSNSでトレンド入りすることなどほとんどなく、比較的地味な存在なのに――なぜ、こんなに強いのか。

オーバー65の巨大マーケット

まぁ、これは各所で散々言われてることだけど――ずばり、それらのドラマを支えているのは高齢者なんですね。即ち、国連の世界保健機関(WHO)が定めるところの「オーバー65」の人たち。団塊の世代を核とする彼らの人口は多く、その視聴動向が視聴率に及ぼす影響は測り知れない。

例えば、『科捜研の女』が20年にも渡って人気を維持しているのは、65歳以上の彼らにしてみたら、主人公・榊マリコを演じる53歳の沢口靖子サンは、まだまだ“ムスメ”みたいなものだから。『水戸黄門』で「かげろうお銀」役の由美かおるサンが59歳まで入浴シーンを演じたのも同様である。

とはいえ、彼らオーバー65の視聴動向を探ろうにも、現状、年代別の視聴者を表すデータは、ビデオリサーチ社では、50歳以上は、M3(50歳以上男性)とF3(50歳以上女性)に一括りにされている。今や、日本の総人口で50歳以上の割合は半数近く。2023年には彼らが過半数を超えるとされる巨大マーケットなのに――オーバー50で一括りするのはどうかという声はある。

中高年と高齢者で異なる視聴習慣

そこで、最近注目されているデータが、関東2000世帯5000人超の視聴率を調べているスイッチ・メディア・ラボという会社が算出している指標である。そこでは50歳以上のうち、65歳未満(中高年)を「M3-」「F3-」と表記し、65歳以上(高齢者)を「M3+」「F3+」としている。

――で、早速それが生かされた記事が先日、ヤフーニュースに上がっていた。
メディア・アナリストの鈴木祐司サンが書いた『相棒』と『3年A組―今から皆さんは、人質です―』の視聴者層を比較するコラムで、スイッチ・メディア・ラボのデータを引用したグラフが掲載されていた。
そこで興味深かったのは、『相棒』を見ているのは圧倒的に65歳以上のM3+とF3+層が多く、65歳未満のM3-やF3-層には、思ったほど見られていないこと。反対に、『3年A組』はM3-やF3-層に比較的多く見られる一方、M3+とF3+層にはまるで見られていなかったのである。

そう、ひと口にオーバー50と言っても、65歳を境にその視聴動向は大きく異なっていたのである。

昭和30年を起点とするテレビエイジ

65歳といえば、1954年(昭和29年)生まれである。その前後で、世代が大きく異なるということ。そこで思い出されるのが――以前、本連載で書いた「視聴率の正体、テレビエイジ」と題したコラムだ。

あの時は、「昭和30年生まれ」を起点にテレビエイジが誕生したという文脈だった。彼らは物心つく頃に家にテレビがやってきて、ひな鳥の刷り込みのごとく、テレビが娯楽のお手本となり、以後ずっとテレビと共に育った世代である。鉄腕アトムを始め、ウルトラマン、花の中三トリオ、新御三家、ジュリー、ショーケン等々が、彼らにとってのアイドルだった。

オーバー65は時代劇エイジ

それに対して、テレビエイジ以前――昭和30年より前に生まれた世代(65歳以上)は、最初に目にした娯楽が映画である。そう、当時は映画全盛期。定番はチャンバラ――時代劇で、スターとは時代劇スターを指し、月形龍之介を始め、阪東妻三郎、大河内伝次郎、片岡千恵蔵、長谷川一夫らが今で言うアイドルだった。

こちらも同様に、ひな鳥の刷り込みじゃないけど、彼らはその後のテレビ時代を迎えても、ひたすら時代劇を好んで見続けたのである。『水戸黄門』や『銭形平次』、『遠山の金さん』、『大江戸捜査網』――etc. 先のテレビエイジに対抗するなら、いわば彼らは「時代劇エイジ」である。

え? それなのに、今じゃ65歳以上の彼らは、刑事ドラマを見てるじゃないかって?
そこだ。そこに65歳以上の巨大マーケットを解くカギがある。

東映刑事ドラマはかつての東映時代劇

東映の刑事ドラマの特色は、一話完結の勧善懲悪スタイルである。
主人公や仲間たちが所属する部署はちょっとアウトローな立ち位置で、普段の彼らは、それほど仕事ができるようには見えない。だが、一度事件が起きると、市井の人々に紛れて情報収集し、襲い掛かるピンチを華麗なアクションで切り抜け、最後は見せ場となる主人公の名推理で犯人を逮捕――これ、実は時代劇の文法とほぼ同じなんですね。

そう、かつての時代劇が、今の刑事ドラマなのだ。
戦後の映画全盛期、東映の娯楽時代劇は大衆人気を博したが、そのフォーマットを受け継いだのが、今の東映制作の刑事ドラマというワケ。つまり、オーバー65の視聴者が東映刑事ドラマを好むのは、そこにかつての東映時代劇を重ねているからである。

昨今、時代劇が民放の地上波から姿を消したと言われるが、何のことはない。時代劇が、刑事ドラマに進化しただけの話である。かつての恐竜が鳥に進化して、今も大空を支配しているように――。

テレ朝に謎の暗雲

軽くまとめます。今の時代、視聴率を稼ぐには、団塊の世代を中心とするオーバー65(高齢者)の巨大マーケットを狙うのがいい。チャンバラ映画で育った「時代劇エイジ」の彼らは、同じ文法で作られた勧善懲悪の刑事ドラマが大好物。現状、それで成功しているのが、テレ朝である――。

だが、ここで思わぬ不測の事態が起きる。
先に行われた3月の年度末の定例記者会見で、同局の角南源五社長は厳しい表情でこう発言したのだ。
「営業的にはスポットが低調で厳しい1年でした。広告収入全体としては減収となりそうです」

――え? 視聴率が好調で、日テレとの差を詰めた2018年のテレ朝が、肝心の広告収入は前年比減収だって?
これは一体、どういうことか。

世帯視聴率の終わりの始まり

話は1年ばかりさかのぼる。
――2018年4月、ビデオリサーチが関東地区の視聴率の測定方法を従来の「世帯視聴率」から、「P+C7」に変更した。Pとは「番組」、Cは「CM」、7は「7日間以内の視聴」のこと。これにより、テレビ局の側も広告主との間で、その新しい視聴率の取引指標を用いることになった。

大きく変わった点は、次の2点である。
① 世帯視聴率から個人視聴率へ移行する
② タイムシフト視聴率をスポットCMのセールスに反映させる

個人視聴率とは、従来の世帯視聴率が家族全員を一括りにカウント(その世帯が番組を見ていたか?)するのと違い、家族の中で誰が見ていたかを表す数値。そのデータは性別や年齢別で区分けされる。

一応、従来の世帯視聴率も引き続き扱うので、表向きは、僕ら視聴者には何も変わってないように見えた(ネットニュースなどで扱われる数字は世帯視聴率のまま)。要は、テレビ局が広告主との間で扱う指標が変わっただけである。

だが、これが2018年のテレビ界に大きな変化をもたらすことになる。
カギは“個人視聴率”である。

10代に届いた『今日から俺は!!』

2018年、日テレの連ドラは、どれも平均視聴率が一桁に終わった。
こう書くと、ヒットドラマがまるでなかったように思われるが、そうではない。例えば、10月クールに放映された日曜ドラマ『今日から俺は!!』は、終盤にかけて盛り上がり、最終回は12.6%と自己最高を更新。平均視聴率も9.9%と二桁まであと一歩のところまで迫ったのである。

同ドラマ、何より収穫だったのは、学園ドラマらしく、10代の若者たちに比較的よく見てもらえたこと。さすがにメインの視聴者は、原作(88年~97年)をリアルタイムで知るF2層(35~49歳女性)とM2層(35~49歳男性)だったが、女子高生たちが「TikTok」で同ドラマの主題歌「男の勲章」の振付を踊るなど、10代の若者たちにもちゃんと届いたのである。

若者向けドラマをもたらした個人視聴率

実際、同ドラマは平均視聴率こそ、あと一歩で二桁に届かなかったものの、それは若者の人口がそもそも少ないため。一方、個人視聴率で見ると、10代の支持がはっきり見えたのである。

その結果、2018年の日テレは、全体では前年より視聴率を落としたのにも関わらず、広告収入は前年比横ばいと安泰だった。それをもたらしたのは、『今日から俺は!!』に代表される、若者をターゲットにした番組に広告主が好感を示したからである。
つまり――2018年4月から、広告主と個人視聴率で取引されるようになったので、日テレは彼らの求める若者向けの番組を果敢に作った。そして、狙い通りに若者に届いたことが個人視聴率で可視化されたので、そこに広告が集まったのである。

そう、近年の若者のテレビ離れは、裏を返せば、「テレビの若者離れ」でもあった。それが、個人視聴率の導入で、テレビ局は再び若者向けの番組を作れるようになったのだ。このパラダイムシフトは大きい。

若者向けに、メジャー感のある番組を仕掛ける

もちろん、ただ若者向けに番組を作ればいいという単純な話ではない。『今日から俺は!!』がウケたのは、単に学園ドラマを福田雄一テイストで包んだだけではなく、プロデューサーのハンドリングで、普段の福田作品ほどサブカルに走らず、比較的原作に忠実に脚色するなどメジャー感のあるエンタメ作品に仕上げたから。だから10代にもちゃんと届いたのだ。

これが、以前までの日曜ドラマのテイストなら、もっとエッジを立たせて、キャストももう少し冒険していただろう。

同じ日曜ドラマの、1月クールの『3年A組―今から皆さんは、人質です―』もそうだ。ストーリー自体は冒険的だったが、メイン2人は菅田将暉と永野芽郁というメジャーなキャスティング。エッジを立たせつつも、同時にドラマとしての安心感もあった。

そう、カギはメジャー感の創出にある。若者を狙いつつも、ちゃんとヒットさせる定石を踏む。それを至らしめるのは、個人視聴率が導入された今、番組が面白ければ、正当に評価され、ちゃんとお金が付いてくるからである。

視聴深度が評価され始めた

もうひとつ――2018年4月のテレビ局と広告主の視聴率の取引指標の改定で、番組作りに影響を及ぼした事実がある。
それは、先に記した「タイムシフト視聴率をスポットCMのセールスに反映させる」から生じた――“視聴深度”の深い番組への正当な評価である。

視聴深度とは、視聴率では計れない、視聴者の番組への思い入れを指す。要は、たまたまヒマだったからオンエアを見た視聴者も含まれるリアルタイム視聴と異なり、タイムシフト視聴だと、わざわざ録画したり、ネットで後追いするなど能動的な視聴者の割合が多くなる。つまり、タイムシフト視聴率の割合の高い番組は、視聴深度が深い番組ということになる。

2018年、それが最も可視化された番組が、あのドラマだった。

タイムシフトとSNSで可視化された『おっさんずラブ』人気

それは、テレ朝の『おっさんずラブ』である。
例えば、同ドラマの第5話はリアルタイム視聴率が3.9%である一方、タイムシフト視聴率は4.0%もあった。つまり、タイムシフトがリアルタイムを上回ったのだ。それほど、同ドラマには能動的な視聴者が多く、視聴深度が深かったのである。

加えて、同ドラマはSNSもバズった。なんと、ラスト2回はツイッターで世界トレンド1位に。視聴率こそ平均4.0%と、深夜ドラマの範疇を超えなかったものの、SNSではプライムタイムのドラマを軽く凌駕したのである。

そして、同ドラマが真に凄かったのは、放送終了後。DVD&Blu-rayを始め、オフィシャルブックやLINEスタンプなど番組公式グッズがバカ売れ。主演を務めた田中圭サンの写真集は重版され、今夏の映画化も決定した。極め付けは、「コンフィデンスアワード・ドラマ賞 年間大賞2018」において、最も優れたドラマに贈られる作品賞に輝いたのである。

王道の恋愛ドラマで“メジャー感”を創出

『おっさんずラブ』を生んだのは、先の広告主の視聴率の取引指標の改定で、タイムシフト視聴率もスポットCMのセールスに反映されるようになった要因が大きい。
つまり――例え、深夜ドラマでリアルタイム視聴率は低くても、タイムシフト視聴率の割合が高ければ、視聴深度の深いドラマとして、正当に評価される時代になった。要は、お金が付いて回るようになったのだ。

そうなると、作り手の側も「深夜ドラマだから」と、単なる奇策で話題性を煽るのではなく、ちゃんと視聴者のハートを掴んでお金を稼ごうと、前向きな思いになる。同ドラマのプロデューサーの貴島彩理サンは、作品作りへの思いをこう語る。
「現代の男女の恋愛観を切り取ろうとした企画が、たまたまおっさん同士の純愛ドラマになっただけ。“王道の恋愛ドラマ”として、老若男女だれもが経験したことがある“恋する気持ち”をまっすぐ描くということを掲げて作ってきました」(出典:第12回「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」作品賞受賞コメント)

――これだ。ここでも見えてくるのは“メジャー感”の創出である。事実、同ドラマはいわゆる「BLドラマ」といったクローズドなマーケットではなく、ごく普通のOLたちが夢中になった。正攻法で勝負して、ちゃんと評価されたのである。

2019年の視聴率の正体のまとめ

――以上、現段階における最新の視聴率の正体に迫りました。
まとめると――

① 「生放送の大型番組」はSNS効果もあって、“祭り”化しやすく、ネット時代の今もテレビに圧倒的なアドバンテージがある。その傾向はますます強まっている。来年の「2020東京オリ・パラ」も開幕直前までは静かだろうが、始まればライブ=祭り効果で間違いなく盛り上がる。

②単純に世帯視聴率を稼ぎたいなら、オーバー65の巨大マーケットを狙うのがいい。チャンバラ映画で育った「時代劇エイジ」の彼らは、同じ文法で作られた勧善懲悪の刑事ドラマが大好物。それで結果を出しているのがテレ朝。

③ 但し、2018年4月からテレビ局と広告主の視聴率の取引指標が改定され、「個人視聴率」と「タイムシフト視聴率」が新たな基準になった。それにより、「若者向けの番組」や「深夜番組でも視聴深度の深い番組」が世帯視聴率に関わらず、正当に評価(=予算が投下)されるようになった。

④ それゆえ、従来なら視聴率が取れないことを理由に「エッジの立った」番組作りに向かっていた、それらの作り手たちが、正当に評価されるならとメジャー志向に転じ、普通の人たちにウケる番組作りを始めた。

――と、そんなところである。どうだろう。悪くない傾向じゃないだろうか。
この先、テレビの若者離れが解消され、深夜番組にも十分な予算が当てられ、ますますテレビ界は面白くなりそうである。

そう、テレビの未来はきっと明るい。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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