ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

容姿の中傷は「気にしていい」山崎ナオコーラが語る“ブスの生き方”

「――ブスの敵は美人ではなく、ブスを蔑視する人だ――」
2004年『人のセックスを笑うな』でデビューし、今年で作家生活15周年。山崎ナオコーラさんの最新エッセイ『ブスの自信の持ち方』では、山崎さんがデビュー以来向き合い続けてきた、容姿とそれを取り巻く社会の空気への思考が綴られている。
「うまくいかない時代に心の網目が細かくなっていったからこそ、世界をひっくり返せると思う」がコンセプトの永遠のオトナ童貞のための文化系WEBマガジン・チェリーにとって、繊細な筆致ながらも強く社会を変えようと意志を持つ山崎さんは、話を聞いてみたかった先輩のひとり。“容姿でモテてきたわけではない人々”を想定読者とするチェリーとして、山崎さんに前後編に渡るインタビューをおこなった。前編となる今回は、容姿とモテの関係性や、容姿を中傷されたときの心の持ち方を中心に話を聞いた。

「私が変わるのではなく、社会が変わるべきだ」

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――タイトルはキャッチーですが、決して思いつきの企画ではなく、ブスについての思考を溜め続けたものを、このタイミングで放出されたような印象を受けました。

山崎「ブスについては作家デビューしてから考え始めたことなので、15年分のものが出たと思います。社会的には小さい話かもしれないけれど、私には大きな話で。でもずっと、私が変わるのではなく、社会が変わるべきだと思っていたんです」

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――自分の問題ではなく、社会の問題だ、と。

山崎「ええ、私が心の中でなんとかこねくりまわして消化すべきことではない気がして。私は容姿も性格も変えない。社会を変えるためにこの本を作るんだ、という思いがありました」

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――それほどの強い意志を持たれる出発点となった15年前、何があったかを伺ってもよろしいでしょうか。

山崎「デビュー当時は【山崎ナオコーラ】って検索すると、【ブス】っていう言葉はもちろん、多くの卑猥な言葉やバッシングがブワーっと並んでいるような状況だったんです」

容姿への中傷は「気にしていい」

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――過去の山崎さんのように、今もネットで容姿を中傷される方はいますが、その人達に声をかけてあげられるとしたら、何と言いますか?

山崎「『気にしていいよ』ですね」

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――『気にするな』ってアドバイスをする人は多いと思うのですが『気にしていいよ』なんですか?

山崎「私も当時『気にするな』とか『見なきゃいいよ』ってよく言われたけど、本当は『気にしていいよ』って言われたかったんです。『気にするな』っていう言葉は、気にしている側の気の持ちようが悪いような、『傷つくのが悪い』ってニュアンスに聞こえたんです。いじめにあったときに『いじめられてる側が変化すれば状況は変わるよ』って言われてるようなもんじゃないですか」

「ネットの書き込みだって社会活動だ」

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――たしかに、それは容姿への誹謗中傷に限らずそうですね。

山崎「作品へのネット上の評価も私は気にするんですが、それに関しても『ちゃんとした批評家のコメントと、ネットで書かれていることを同じに捉えちゃダメ』と言われます。でも、私は同じ重さで捉えているんです。それに同じ重さで捉えていいとも思っている。ちょっとしたネットの書き込みだって社会活動だと思うから。誰かが気軽に書き込んだ酷い言葉で傷ついて何が悪いんだ、って思うんです」

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――ネットの書き込みだって、社会活動だ、ってその通りですね……。

山崎「しかも、15年前~20年前と比べて、みんな現実とネットの世界がリンクしてるって思うようになってきたから、過ごしやすくなっているように感じていて。昔はネットの世界と現実の世界をみんなすごく分けていて。本名は絶対言わないし、現実と違う顔を持つような感覚だった気がするんです。ひどい言葉が個人の匿名ブログにたくさん書かれていたり。でも今はみんな現実の自分を背負ったまま、ネットの世界に参加してるから、嫌な思いをすることは減りました」

ブスが「モテたい」と思ったら

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――ちなみに僕たちは、童貞をひきずりながらもモテたいという気持ちを持った人たちのためのサイトなんですが……。

山崎「今の若い人は、『モテなくてもいい』という人が増えてるんだと思っていました。マンガもネット配信の映画も色々あって、エンタメが充実してるから、『モテなくても自分の生活が充実して、楽しいからいいや』っていう人は多いのかな、と。もちろん、モテたいと思う人を否定するわけではないです」

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――モテることを目標にした場合はやはり容姿の良し悪しは関係してきますかね?

山崎「モテを頑張りたい人にとっては、やっぱり容姿はすごい武器になると思います。モテるためには自分と遠い関係の人から好かれないといけないですよね。例えば、話したことない人に興味を持ってもらう必要がある。アイドル的なモテを目指す場合は、会ったことのない人からも恋愛対象に見られなければいけない。そのためには容姿がすごくモノをいうと思います」

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――容姿端麗ではない人がモテたいという願望をもってしまった場合、どうすればいいでしょうか?

山崎「ブスがモテようと思ったら、それはなかなか難しいんだけれども……ひとつの方法は、自分の時代が来るのを待つことです(笑)」

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――自分の時代、ですか?

山崎「たとえば『平安時代みたいな価値観の時代がまたやってくるから、顔が丸くて目の細い自分もモテる時代が来る』って信じる。あとは、外国に移住をする(笑)。場所や時代が違うと、ブスの基準も変わってくるので。そうじゃないと100人規模でのモテは難しいと思います」

モテなくても「小さな好意」は得られる

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――モテじゃなくて『ひとりの人と恋におちる』だったら、移住やタイムスリップをしなくても叶いますかね?

山崎「ええ、希望が『モテたい』ではなく『1人か2人の恋愛対象の人と親密な関係になる』だたったら、その場合は容姿は関係ないと思います」

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――ちょっと安心しました。ちなみに2009年の山崎さんの著作『この世は二人組ではできあがらない』では「ひとりの愛より、みんなの小さな好意をかき集めて生きていきたい」という主人公の科白があります。この場合の『小さな好意をかき集める』ことと『モテる』ことは違うのでしょうか?

山崎「『小さな好意』は意外とブスでも得られますよ。優しくされるのは、しょっちゅう起こりうるじゃないですか。重い荷物を持ってもらえたり、私で言えば、ベビーカーを押していると、周りが優しく電車に乗せてくれようとしたり。意外と社会は優しいぞ、って私は思っていて。小さな好意は網目状に社会に広がっていて、いっぱいあるものだと思っているんです」

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――社会に広がっている小さな好意と、モテるときに得られる好意は別だと。

山崎「モテは異性関係としての好意ですからね。あとは意外と、ブスでも男友達はできるんです。『社会に優しくしてもらう』もできる。モテは難しい人たちでも『たくさんの人とつながる』はできます

ブスであることを蔑まれたら抵抗していい

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――『社会は意外と優しい』けれど、最初の話に戻ると、山崎さんは『ブス問題は、社会側の問題だ』と捉えられてもいますよね。

山崎「私はブスだけど、自分が人間として最下位にいるとかは思っていないんです。もちろん生きていていいし、絶対に死にたくないし。他の人より低く扱われるのは絶対に嫌なんです。だから、ブスであることで蔑まれたら、抵抗はするべきなんです。私も、小さい抵抗かもしれないけれど、ネット上に書かれたことに、ひとつひとつ『消してください』って送ったりしていました」

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――ちゃんと抵抗されていたんですね。

山崎「顔が序列の中で下だと言われるのは全く構わない。でも『人間的に下だぞ』って言われたら抵抗します。人間、みんな多面的ですから、ひとつの部分がすごく下だからっていって人間的価値まで下に扱うというのは絶対にやっちゃいけないことなんです。『英語ができない』みたいに一個の能力値が低いことを指摘されてもいいですが、それは決して『人間的価値が低い』こととイコールではないですよね。そもそも、仮に全ての能力値が最下位の人がいたって、その人を蔑んでいい理由にはなりえません。だから私は『ブスなんだから仕事するな』みたいなことを言われると『嫌!絶対仕事頑張る!』って思うんです」

インタビュー中、「性格も顔も悪いし」とサラッと、しかも数度に渡って挟み込んでいた山崎ナオコーラさんだが、この言葉たちを読んでもらえればわかるように、それは自信がないこととイコールではない。そこで、後半では「自信と社会」について語ってもらうことに――。


後編はこちら!
(取材・文:霜田明寛 写真:中場敏博)

■書籍情報
ブスの自信の持ち方
https://www.amazon.co.jp/dp/4416519567

「ブス本人は変わらなくていい! 社会が変わる! 容姿差別は、気にする方が「気にしないように」と考えや容姿を変えるのではなく、加害者の方が変わる方がいいんじゃないかな。
被差別者が変わるんじゃなく、社会が変わった方がいいんじゃないかな、と書きました。
(山崎ナオコーラ)」

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