ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

山崎ナオコーラが危惧する「“自信のなさ”を押しつけあう社会」

ブスでも男友達はできるんです。『社会に優しくしてもらう』もできる。モテは難しい人たちでも『たくさんの人とつながる』はできます

デビュー時に、ネットなどで「ブス」と叩かれたことが、容姿と社会について考えるきっかけとなったという作家の山崎ナオコーラさん。『ブスの自信の持ち方』発売にあわせて、永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリーがインタビュー。容姿とモテの関係性や、「ブス」と言われた時の心の持ち方などを聞いた前編に続き、後編は15年前の作家デビュー時を振り返るところから。山崎さんが危惧する「“自信のなさ”の押しつけあいのドッジボール」とは?

自信のない人は自信がありそうな人を叩く

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――今、15年前の「ブス」と叩かれていた時期を振り返って考えることはありますか?

山崎「今となると、デビューの頃は、自信満々に振る舞っていたから、余計に嫌われたんだろうなと思います」

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――最近では叩かれないように“自信がないフリ”をする人もいると思いますが、当時の山崎さんが自信をちゃんと前面に出したのはなぜですか?

山崎「堂々としないと本が売れないと思ったんです。それに本を届けるには、出版社や書店の人に協力してもらわなければいけないから、『自信がないけど本売ってください』は失礼だし、うまくいかないと思ったんです。だから虚勢でも『すごい自信があります。これからいい作家になります』って言ったほうがいいという思い込みがあったんです」

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――そうしたらバッシングが来てしまった、と。なぜなんでしょうか?

山崎「自信がない人は、ブスが自信を持っているのが、嫌なんだと思います」

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――叩いていたのは、自分に自信がない人たち、ということですか?

山崎「ええ、自分に自信のない人は、“自分より容姿が劣っているのに、堂々と真ん中に立ってるような人”を見ると、違和感を感じると思うんです。『自分はこんなに苦労してて、自信を持ちたくても持てないのに、なんであの人は簡単に自信満々に真ん中に来れるんだろう』って」

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――人が自信持ってると嫌なんですね……。

山崎「『自信を持ったほうがいい』って言うけど、それは多くの場合自分に言ってますよね。自分自身が、自信があったほうが生きやすいから持ちたいのであって。自分は持ってないけど、それを持ってる他人を称賛できる人ってなかなかいないんです。自信を持っている人が叩かれるのは、お金持ちが叩かれるのと似ていると思います」

“自信持ち”と“お金持ち”は似ている

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――“自信持ち”と“お金持ち”が叩かれる構造が似ているというのはどういうことでしょうか?

山崎「自分にお金がなくて苦労している人って、お金持ちに対して、まるで自分のお金が奪われたかのようにバッシングしてしまいますよね。でも、その対象がお金を持っているから、自分にお金がないわけではないですよね。むしろそのお金持ちが頑張ってくれたほうが、お金の流通はよくなったり、バッシングせずに仲良くなったほうが、自分のところにもお金がやってくるかもしれない」

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――たしかにそうですね……。

山崎「それと同じで、男の人は自信がある女性とつきあったほうが自分も自信が持てるようになると思うんですけどね……」

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――やっぱり、“自信持ち”をバッシングする傾向は男性の方が強いんですかね?

山崎「『自信を持て!』って言われる率が男の人のほうが高いんじゃないかと思うんです。男の人のほうが『自信を持ってるほうがモテる』って思われがちじゃないですか。だから『自分に自信がない』と自覚することが多くてすごくストレスなんじゃないかと」

“自信のなさ”の押し付けあいのドッジボール

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――自分の自信のなさを自覚して、自信がある人を叩いてしまう。

山崎「本当に自信を持っている人なんて、少数ですからね……。どうしても、ドッジボールみたいに、“自信のなさの押し付けあい”になっちゃうんです。『自分は自信がないから、この人に自信をなくしてほしい、あの人も自信なくしてほしい』みたいなことをやっている状況が結構起きていて。だから、そのボールを受け止めなきゃいけない女の人もいて」

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――“自信のなさを押し付けられている”のかもしれませんが、取材させていただくアイドルやミスキャンパスといった女性にも「自信がなくて……」という方はいらっしゃいます。

山崎「そういう方々は疑似恋愛的なものを頑張らなきゃいけない場所にいるわけですよね。そこだと、自分に自信を持っている状態だとなかなか関係性を築きづらいから、“自信がない”方向に進むのが加速していくのかなと思います」

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――お金持ちが、お金がないように振る舞うのに近いんですかね(笑)。

山崎「あっ、そういうことかもって思いました。でも、自信がないように振る舞い続けたり、色んな人と自信がないことを起点にして関係性を作っていくと、そのうち本当に自信がなくなっていってしまうと思います」

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――役割によって内面も変わっていってしまうんですね。

山崎「私、男も女も、生物学的にではなく社会的に男や女になっていくと思ってるんです。生物学的にはあまり性の差はないけど、社会から役割を押し付けられて、心の動きが起きていく」

“自信のグラデーション”を受け止めよ

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――こういう自信のなさの押し付け合いがドッジボールのようにおこなわれている状況は、変えていったほうがいいですよね。

山崎「ええ、自信がある人も、バッシングされるから自信をなくそうとするという流れは可能なら断ち切りたいです。誰かしらが思い切って堂々としちゃうほうが、流れが変わるような気がするんです」

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――そういう空気を作るためにはどんなことを心がければいいですかね。

山崎「自信って、波があるから、20%くらいの時期もあれば、80%くらいの時期もあると思うんです。だから、他の人の自信があるシーンも自信がないシーンも受け止めるっていうことを、みんなでやっていけばいいのかなと」

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――自信にもグラデーションがあるんですね。もちろんその上でなんですが、自信を持つためにするといいよっていうアドバイスってありますかね?

山崎「自信がないときって、自分のいいところを探しがちなんですけど、いいところはゼロでも大丈夫だと思うんです。私は顔も性格も全部悪いですけど、一応毎日コツコツやっていると、生きていけるって気持ちが湧いてきます。毎日何かしらを続けていれば自信は湧いてくる。例えば朝、自分の決めた時間に起きるとか、自分なりに決めたことを毎日、続けていくことが自信には効くと思います」

言葉は遠くの人と手をつなげる

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――ちなみに山崎さんの自信の根拠に、例えば旦那さんの肯定があったりはしますか?

山崎「ないですね」

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――えっ、ないんですか!(笑)

山崎「ないです。夫に褒められようと思って仕事をしてないですし。そもそも、私がなんで仕事をしているかというと、遠くの人とつながるためなんです。『家族以上に私の言葉を求めていたり、理解してくれる人が遠くにいる』と思うから文章を書いているんです」

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――近い家族ではなく、遠くの誰かを向いているんですね。

山崎「そもそも言葉っていうものが、遠くの人に届けるものなんだっていう思いがあって。たぶんお金と一緒で」

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――どういうことでしょうか?

山崎「お金って、遠くの人とコミュニケーションをとるためにあると思うんです。会ったこともない遠くの人が作ったお米やら梅干しやらが、色んな人のお金のやりとりが挟まって、近くのコンビニでおにぎりという形で流れてくる。言葉も一緒で、遠くの人と手をつなげるところがすごく面白くて。言葉ってそもそもそういう性質があるから、言葉を生業にするからには、遠くの人とつながることを目指さなければいけないって思ってるんです」

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――その「遠く」は距離的なものだけではなく、時間的な「遠く」もですか?

山崎「正直、ちょっと思っています。50年後の人にも読まれるような本になったらいいな、って。『源氏物語』を大学で勉強していたので、そういう憧れはすごくあります」

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――素敵です。じゃあ、余計に、賞とかネットの書き込みとか、現代の人の評価は気にしなくていいんじゃないですか?(笑)

山崎「あっ、そうかもしれませんね。その時代では評価されなくて、皆に悪口言われて死んで、死後評価されたような人もいますもんね。そう考えると、私がいちいち色々言ってるのは、まだ人間ができていないのかもしれません(笑)」

(取材・文:霜田明寛 写真:中場敏博)

■書籍情報
ブスの自信の持ち方
https://www.amazon.co.jp/dp/4416519567

「ブス本人は変わらなくていい! 社会が変わる! 容姿差別は、気にする方が「気にしないように」と考えや容姿を変えるのではなく、加害者の方が変わる方がいいんじゃないかな。
被差別者が変わるんじゃなく、社会が変わった方がいいんじゃないかな、と書きました。
(山崎ナオコーラ)」

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