こんにちは。「世の中の様々な事象を下半身に絡めて語る」がテーマのこのコラムも十七回目、正式に相談編になってから五回目となります。今回の相談者は、レゴで出来たマシュマロ似のJさん、女性です。新宿の某喫茶店(という時はいつも珈琲西武)にて、Jさんが大きな声で「したい、やりたい」を連呼するので、周りの目が気になりつつのお話でした。
健やかなビッチ
―いま、おいくつなんですか?
Jさん「もうすぐ28才になる、27才です」
―あー、前回も27才の若者の悩みを聞いたんですけど、ちょっとよくわからないんですよ、その世代の悩み。
Jさん「え、そう言われると言いづらいです。元々恥ずかしい悩みなんで」
―恥ずかしいんですか?
Jさん「めっちゃ恥ずかしいです」
―聞かせてください。
Jさん「えっと、私、恋愛対象になる人の範囲がすごい狭くて。好きになれる人が全然いないんです」
―へぇ。でもそれは別に恥ずかしい悩みではないですよね?
Jさん「あの、もう少しはっきり言うと、セックスしたいのに、したいと思う相手がいないってことなんで」
―えっと、はい。素敵な彼氏を見つけて、セックスをしたいということでいいいですか?
Jさん「違います。……私、健やかなビッチになりたいんです」
―……??
Jさん「なので、どうしたら、セックスの対象になる人のストライクゾーンを広げられますか?っていう悩みなんですが……」
―その前に、〝健やかなビッチ〟ってなんですか?普通のビッチと何が違うんですか?
Jさん「なんか、自尊心を満たすために沢山の人とセックスする人いるじゃないですか?あれはビッチです。で、セックスがしたいからするだけ、っていうのが健やかなビッチです」
―初めて知りました。
Jさん「とにかくいろんな人としたいんです」
―ま、その欲求は珍しいことじゃないとは思います。)
Jさん「福原さんは?いろんな人としたいですか?」
―私は娘が大きくなってきて、段々ここで正直なことを言う勇気がなくなってきました。
Jさん「したいんですね」
―……。
好みの範囲
―……その、範囲が狭いっていうのは、どれくらいの狭さなんですか?処女じゃないんですよね?
Jさん「うーん、何の妥協もしないでやれたのは、27年間で一人だけです」
―妥協自体はしたことあるわけですね。
Jさん「はい。前に、Tinderで相手の顔写真だけ見ながら、やれる・やれないの統計取ったんですけど、私がやれる顔と思ったのは千人に一人でした」
―Tinder……、マッチングアプリですね。その文化、おじさん知らないんだけど、若い人は当たり前なんだよね……?
Jさん「でも、周りでやってる人は半分くらいですよ」
―(巷では五割の若者が、マッチング!)……らしいですね。
Jさん「はい。そこに性格の好みも加わると、もう何万人に一人なのかなって……」
―顔の好みに関してだけ言うなら、顔みないでセックスすればいいんじゃないですか?電気消すとか。感じてるふりして、目をつむるとか。
Jさん「あー……、私、すごい近眼なんで、好みじゃない人とする時に、コンタクト外してやってみたことあるんですけど、キスとかでやっぱり近づいてくるじゃないですか?それでダメだぁーって思って。その後、終わるまで苦痛でした」
―……好みじゃない人とはどれくらいしたんですか?
Jさん「4、5人です」
―感想としては……?
Jさん「作業だなっていうか、これなら2時間スマホいじってた方がまだマシだったなって思いました」
―(〝ご休憩〟か……)……でも作業でも少しは気持ちいいでしょ?
Jさん「え?」
―男からすれば、どんな作業セックスでも、イク瞬間はそれなりに気持ちいいですけど。
Jさん「作業セックスでイケないですから」
―ごもっとも。
小三治級のセックス
―えっと、この悩みはどうしたら解決なんだっけ?
Jさん「いろんな人とセックスがしたいんです」
―そっかそっか、うーん、でも一人の愛する人と深いセックスをするんじゃダメなの?
Jさん「沢山の人としたいんです」
―それはなぜ?
Jさん「周りですごいいっぱいしてる人達みると、楽しそうなので」
―あー……。
Jさん「私の知らないすごいセックスが世の中にはあるのかなって」
―それを好きな人と追求するんじゃダメなの?
Jさん「だから好きになれる人がいないんです」
―そこに戻ってくるのか……。
Jさん「(ため息)」
―(あぁ!こいつじゃ解決できないって思われてる!)えっと、人として好きじゃなくても、セックスの上手い人はいるわけで、そういう人とするのは?
Jさん「うーん……」
―いや、好みじゃない人とのセックスは作業って言ってたけど、好みとかを超越してくる技術の持ち主っているよ?
Jさん「今までいましたか?」
―いた。なんか感動するくらい上手い人。
Jさん「感動?」
―匠の技を間近で見る感動?間近じゃないか、実際に体験するわけだから。一対一で小三治の落語聞くみたいな体験。
Jさん「その例え、わかりません」
―なにか宗教的とかいうか、別世界へのイニシエーションみたいなセックスしてくる人がいて、別に好きじゃなかったけど。終わった後に、怪我が治ったみたいな気持ちになるの。
Jさん「じゃあ、そういう人に出会えるまで、Tinderで出会い続けます。好みじゃないのは苦痛だけど。ありがとうございました」
―(話を終わらせようとしてる??)そんな結論でいいの?
Jさん「え?」
―いや、それはちょっとおすすめできないし、効率悪くない?
Jさん「でも、他に方法ないですよね?」
―すごいセックスの技術をもった人がいるって話をしただけで、それをアプリで探せとは言ってないよ?
Jさん「そっか」
―ちょっと気になるんですけど、セックスの時、相手にちゃんと頑張らせてる?
Jさん「頑張らせるとは?」
―なんだって一生懸命やればそれなりの達成感というか、心が通うポイントが生まれると思うんだよね。少なくとも「スマホいじってた方がマシ」みたいな時間にならないと思うんだけど。……相手にさ、一生懸命頑張らせた?
Jさん「……私が頑張らせるってどういうことですか?」
―タバコ吸って、テレビみながら、相手に舐めさせたりしてない?
Jさん「いや、ちゃんと舐めさせてますよ!」
―いや、セックスは共同作業だから、Jさんにもなにか原因があるのかなって……。
Jさん「……まぁ好みじゃないなぁって思っていたのは、態度に出てたかもしれませんが」
―結局、好みの狭さね……。うーん。
キンタマの裏を愛す
Jさん「……催眠術に頼ったこともあるんです」
―どういうこと?
Jさん「誰でも好みの男に見える催眠をかけてもらえば、周りにいる男の人の全員がセックスの対象になるじゃないですか」
―うん。そうだけど、それはもう男からしたらただのビッチだよ。
Jさん「まぁ催眠かかりませんでしたけど」
―催眠術にまで手をだす熱意があるならさ、それをもう少し相手に向けることは出来ないのかな?
Jさん「つまり?」
―好みじゃないって言うけど、相手のいいところを見つけるのはJさん次第ってところもあるから。
Jさん「……うーん」
―例えば、俺、映画とか芝居みても「つまらない」って感想、もちたくないのね。つまらなければつまらないほど、そんな作品に俺の貴重な人生の時間を奪われるのが癪だから、意地でも楽しんでやろうと思ってて。……その作品の〝つまらなさ〟に、俺の〝面白がり力〟が負けたくないっていうかさ。
Jさん「……それを男の人にあてはめると?」
―だから、どんな男でもさ、好みの範囲外とか言わないで、意地でも好きになってやろうっていうか。ま、普通ならそんなことする必要ないんだけど。でも、そんなに沢山の人とセックスしたいなら、そのしたい欲求?〝ビッチ欲〟みたいのが、好みの問題なんかに負けていいのっていう?だから、好みの問題でやれないなら、そもそもその程度の〝ビッチ欲〟だったんだよ。
Jさん「……理屈としてはわかりますが、どうやったら、なんでも楽しめますか?」
―知識、教養じゃない?
Jさん「……??」
―例えば、タランティーノの映画はそのままでも充分楽しいけど、過去の映画のサンプリングだったりハイブリッドだったりするから、映画の知識があったらより楽しめるわけ。だから、人間に対する知識があれば、人間をより楽しめるし、好きになれるし、やれるし、やって気持ちいいし……、ってならないかな?
Jさん「……なるほど」
―あとさ、俺、活字中毒だから、飯食うときにもいつも本を読んでいたいのね。で、外で飯くってて鞄に本が入ってない時とか、テーブルの上の醤油瓶の成分表を読むっていう。これは活字中毒者ならみんな言う〝あるある〟なんだけど。……本当にセックスしたいなら、成分表程度の男でも、楽しまなきゃ。
Jさん「……」
―顔も性格も好みじゃないけど、キンタマの裏が好みとかなるかもよ。
Jさん「人間への知識が増えると、キンタマの裏だけ好みの人っていうのが現れるんですか?」
―……まぁ例えば、だけど。
Jさん「……私のビッチ欲が甘かった気がしてきました」
―(納得すんの??)甘いとは思わないけど、セックスへの好奇心があるのに、好奇心をもてる人がいないってことでしょ?矛盾してるから。どっちかが嘘なんじゃない?って思っちゃう。本当は大してビッチになんかなりたくないとか。
Jさん「……なりたいんですけどねぇ」
―ちょっと違う角度から話すとさ、さっきスマホいじってる方がマシって言ってたじゃない?
Jさん「はい」
―それ、相手も、Jさんとセックスしてるよりスマホの方が面白いって思ってるかもって想像したことはない?
Jさん「あー、ないです。そう思われてたらショックですね」
―いや、そこ、気にしないっていうのは、相手への想像力が足りないよ。想像には知識が必要だし、知識を求める原動力は好奇心だから。結局、セックスへの好奇心が足りないと思う、Jさんは。
Jさん「……」
―話がとっちらかっちゃったけど、
Jさん「いえ、大丈夫です。解決の糸口はみつけました」
―え、本当?
Jさん「アプリで見つける相手を、顔と性格だけでなくテクニックのありそうな人も範囲にいれて探します」
―うーん……、で?
Jさん「会うことになった相手を、もっと好奇心の目で観察して、キンタマの裏まで楽しもうという意識を持ちます」
―キンタマは例えね?
Jさん「はい。で、いざするとなったらもっと一生懸命セックスします、今までの5倍、声だします。それで相手からも一生懸命さと、あと技術を引き出します」
―うん。今までの残念な相手の中にもテクニシャンがいたかもよ。Jさんが萎えさせちゃっただけで。
Jさん「はい。そうすることで、愛着も沸く気がします。結果的に、好みの範囲が広がっていったらいいなっていう」
―うーん、その一連の行動は健やかなビッチってことになってる?
Jさん「……あれ、違いますか?」
―わからないけど、……まぁ、Jさんはそれなりにかわいいし、男はやれて喜ぶだろうから、その一点だけでも健やかな気はするよ。他人を喜ばせるって素晴らしいことだから。
Jさん「私とするだけで喜ぶんですか?そこは想像してませんでした」
―え、やっぱり想像力だよ。相手が喜んでるってことに気付いてないと、もう何人としてもJさんも喜べないでしょう。他人を喜ばせていることに喜びを感じることで、健やかさが増すと思う。
Jさん「……私とやれて、みんな喜ぶ。……はい。新発見でした」
―……。
相談の様子を文字に起こすのはここまでにします。ちゃんと解決してない気がするんですけど、「いろんな人としたい」というJさんの〝いろんな人〟の中に、俺は全然入ってないんだなということを、話しているうちに察してしまい、なんだか寂しい気持ちになったので、あとはうやむやな雑談しかしてないからです。とはいえ、Jさんは覚醒したら生き神様みたいな存在になると思いますが、どうなることでしょう。私は神に見放された存在です。
(文:福原充則)
(イラスト:ゆきち先生)
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