ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

「何でもやりたい、じゃ勝てません」AKB・グラビア…女優・冨手麻妙が10周年を経て見えたもの

冨手麻妙に10年分の仕事観と恋愛観を聞いた

『アンチポルノ』『娼年』、Netflixで配信中の『全裸監督』など映画を中心に、ヌードも厭わぬ強い意志で活躍を続ける女優・冨手麻妙。
今年で芸能活動10周年を迎えるが、その道程はAKB48、グラビアアイドルを経るなど、決して順風満帆なものだとは言い難かった。
グラビアアイドル時代の違和感は、前編で語ってもらったが、彼女は一体AKB時代、そして、その後の本格的に女優を目指した瞬間に何を考え、ここまでたどり着くことができたのか……!?

“ファッションメンヘラ”だったという中学生時代から、AKB、グラビアアイドル時代、そして自らの女優としての立ち位置を築いた女優としての10年間を、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”3度目のインタビューでじっくりと聞いた。
そして気になる「自分より他の誰かを愛することにブレーキが働く」「相手を壊したくなる」という独特の恋愛観についても語ってもらった……!

最初の5年は“準備期間”

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――現在25歳。デビュー10周年を振り返って、いかがですか?

冨手「20歳を越えてから映画にも呼んでもらえるようになって、自分のやりたいことができるようになったという感覚です。10代のときは、稽古というか、自分のやりたいことを始めるための準備期間だったのかなと、今は思います」

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――10年前の冨手さんは、AKBメンバーとしては珍しく、進学校に通っていた高校生だったんですよね。どんなコだったんでしょうか?

冨手「もともとは、ちゃんと大学に行って、通訳になりたかったんです。AKBに入る前はちょっとイタい中学生というか、ファッションメンヘラでしたね」

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――ファッションメンヘラ?

冨手「常にゴスロリの服を着て、リストカットもしてないのに手首に包帯を巻いちゃうような(笑)。ヤンキーも多い川崎市に育ったんですが、キティちゃんのサンダルを履きながらも、ドンキホーテではなくヴィレッジヴァンガードに行くようなコでした」

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――そこはヴィレヴァンなんですね(笑)。中学生の頃から映画はお好きだったんですか?

冨手「はい、園子温監督の『自殺サークル』がすごく好きで。初めて見た園さんの作品もそれですね」

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――『自殺サークル』が好きなコがAKB48に加入するのはだいぶ乖離があるような(笑)

冨手「高校に入ってすぐにAKBのオーディションをたまたま見つけて、『やってみようかな』くらいのノリで受けたら受かってしまったという感じで……」

AKBで勝ち残る人にあったもの

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――AKB時代に学んだことってありますか?

冨手「サバイバル精神や戦い抜く力は異様に身につきましたね(笑)。AKBでは女の子だらけの場所でのサバイバルをしてきたので、その癖がついて10代の頃は、ドラマの現場とかに行っても、性格の悪い子だと思われてたかもしれません……」

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――冨手さんのAKB時代は半年間で終わりますが、その後グループに残って活躍をした方もいます。自分になくて、彼女たちにあったものってなんだと思いますか?

冨手「AKBへの愛情ですかね……。心の底からAKBでトップをはりたいっていう人じゃないと、やっぱり勝ち残れないというか。そこに命かけられるか、って話ですからね。勝ち残るには、相当な努力があった上で、AKBへの愛情がやっぱり必要だと思います。当時の私は、色々足りなかったかなぁ……」

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――AKBでの活動を終えてからはどんなことを考えていたのですか?

冨手「あれが私にとって人生で初めての挫折で。この悔しい思いをどうやったら、今後の人生に活かせるだろうって考えて、考えに考え抜いて、出た答えが役者だったんです。役者ならそういう悔しい思いも、それこそ失恋のような悲しさだって、演技という仕事に活かすことができる。だから、AKBがなかったら、私は今ここにいないし、絶対に役者をやっていないと思います」

「グラビアやめる」宣言ののち、園監督を出待ち

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――そしてその悔しさののち、園子温監督を出待ちして、直接自分を売り込むという行動に出られるんですよね。

冨手「はい、前回お話したように、AKBの後にやっていたグラビアのお仕事にずっと違和感を覚えていて、それで20歳になる前にマネージャーに『もうグラビアはやめます!』と宣言したんです。私の仕事人生で、初めて自分の意見を強く表明した瞬間かもしれません。それで女優をやるんだという思いを強くして、園さんのところに会いに行ったんです。オーディションなんて待ってられない、っていう思いで。自分から動かなければ何も始まりませんから」

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――園さんのことを好き、っていう女優さんはたくさんいると思うんですけど、それがちゃんと伝わってよかったですよね。

冨手「まあ、たぶんですけど、人間って自分を好きな人のことはそう嫌いにはならないじゃないですか。今振り返れば、たしかにオーディションに何千人と来ている中で言われる『好き』よりも、わざわざ個人的に会いに来て言われた『好き』のほうが重いですよね。やっぱり、好きって気持ちはちゃんと伝えなきゃですよね」

100年の視点で考える

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――その後、『新宿スワン』や『みんなエスパーだよ!』を経て『アンチポルノ』の主演に抜擢。園作品のミューズとなった冨手さんですが、園さんの印象的な言葉などはありますか?

冨手「『アンチポルノ』を撮ったときに園さんが『この映画は今ヒットしたり評価されなくてもいい。100年後とか、ものすごい先に誰かが見て、この時代の日本にこんなヤバい映画があったんだ!』って興奮してもらえればいい』っておっしゃってて」

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――目線が違う!

冨手「ええ、ちょっと宇宙的な視点といいますか。もちろん私も目標を立てて生きているし、近くの目標も大事なんですけど、やっぱり映画がヒットしないと苦しいじゃないですか。でも、園さんみたいに『これは100年後にヒットする映画なんだ』って思えたら人生が生きやすくなるな、って思えたんです」

「何でもやりたい」じゃ勝ち上がれない

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――冨手さんを初めてインタビューさせて頂いたのが『アンチポルノ』の3年前ですが、この3年間、冨手さんは安定して色々とお仕事をされているように見えます。

冨手「オファーが来る役に一定の傾向が見えるようになってきました。ちょっとビッチっぽいコ、ものすごく気が強い先輩、いじめっ子、頭がおかしい人、あとは人殺し……」

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――陰の要素がちらつきますね(笑)

冨手「クレイジーな役といいますか……なので、あえて最近は『NHKの朝ドラのヒロインが目標』と逆の方向を言うようにしています(笑)」

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――この10年間の成功の秘訣をあえて自分で言うとしたらどんなことになりますかね?

冨手「色々経由しながらも、芯を持つ、ことですかね」

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――どういうことでしょうか?

冨手「この10年間、歌って踊って、水着にもなって……といろいろやってきました。女優としても役はもちろん、映画、演劇に、配信ドラマまで、ジャンルとしても一通り通ってきました。ただ色々なことをやっている中でも『私は最終的には映画に出るんだ!』という目標はブラさずもってきたんです」

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――色々な場所で色々なことを吸収しつつもその芯はブレなかったんですね。

冨手「よく『何でもやりたい!』っていうコっているじゃないですか。タレントでもいい、モデルでもいい、みたいな。でも、私はそれじゃ絶対に勝ち上がれないと思っています。もちろん、“やってみる”ことは大事です。それで私も色んな道を経由してきたし、グラビアは失敗したという自覚も強くあります。でもその道中も、最終的な目的地をちゃんと見据えて、『私はこれなんだ!』っていう自分がやりたいことの芯を持っておかないと、どこに行けばいいかわからなくなってしまうと思うんです」

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――素晴らしいです。先ほど近くの目標とおっしゃっていましたが、それと今の最終的な目的地みたいなものを同時に持っていたということなんでしょうか?

冨手「やっぱり『映画に出る』だけだとちょっと大きすぎるじゃないですか。だから私は『園子温監督の映画に出る』とか、細かく目標を組みました。近くの目標って、階段みたいなものだから、やりたいことに紐付いていれば、きっと大きな夢という屋上につながっていると思うんです」

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――近くの目標は、簡単なものでもいいんですかね?

冨手「ええ、明確でさえあれば。『俳優をやりたい』なら、どんな俳優なのか、演劇なのか、映画なのか、から自問自答していって、チケットをお客さんに○枚売りたい、くらいまで具体的にイメージできるといいと思います」

私自身が誰よりも、冨手麻妙を愛さなきゃいけない

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――お話を聞いていて仕事への充実感と熱量は伝わってきたのですが、逆に女性的な面が見えないというか、恋とかできてるんだろうか、という勝手な心配が湧いてきてしまって(笑)。最後にそちら方面のお話を伺えますでしょうか。

冨手「私、結婚するときは、女優をやめるときだと思っているんです。それくらい二者択一というか……私、恋愛に向いてないんですよね」

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――“恋愛に向いてない”ですか?

冨手「今までしてきた恋愛も、振り返ってみると“私は私のことが一番好き”だったんです。相手よりも、自分のことが好き。相手を好きになる基準でさえ、“どれだけ自分を愛してくれてるか”で決めてるんです。結局、全部自分(笑)」

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――すごい! でも気づいたら誰かを愛しちゃってることはないんですか。

冨手「人前に出る人間として、自分以上に他の誰かを愛しちゃっていいのかな、ってブレーキが働くんですよね。別にたっぷりの愛情を男の人に注ぎたいと思わないというか、だったら注いでくれよ、って(笑)」

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――じゃあ結婚のイメージもわかないですよね。

冨手「まあ、そんなに心から愛さなくてもいいなら結婚しますけど(笑)。だって、結婚して家族になるって、『自分の人生を相手に捧げるから、相手も私に捧げてね』って状況ですよね?それ、恐ろしくないですか!?」

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――(笑)。たしかに自分だけに捧げていた自分のパワーを他の誰かに注ぐってことかもしれません。

冨手「やっぱりこういうインタビューでも、普段から常に自分のことを考えているから言葉が出てくるわけで。自分が好きじゃないと、自分のことは語れない。でも、自分以上に好きな人ができちゃうわけですよね。私が冨手麻妙のことを世界で一番愛でているからこの仕事が続けられるんです。私は、他の誰かのことを冨手麻妙より好きになっちゃいけないんです」

相手を壊したくなる“普通コンプレックス”

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――一応お伺いしますが、おつきあいされたことはあるんですよね?

冨手「はい、でも、その人の人生が壊れていけばいいのにって思っちゃうんです」

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――は、破壊願望ですか……!?

冨手「“自分がいた意味”が欲しくなっちゃうんですよね。常に相手に影響していたい。お別れしたあとに『ああ、いい思い出だったね』なんて思われちゃうのは、つまんないじゃないですか(笑)。『本当にあいつのせいで俺の人生ぶち壊れた!』みたいなインパクトを与えたいんです」

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――まあ、その女性が魅力的すぎて夢中になればなるほど、去られたあとの男性は再起不能になりますよね。

冨手「相手を破壊できた、ってことは、それくらい相手を自分に夢中にさせられたってことですからね」

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――女優って怖い生き物なんですね……。

冨手「結局、平坦な道をいきたくないから、この仕事を選んでるわけですからね。私、“普通コンプレックス”なんです。『普通だね』って言われることが一番嫌で。もちろん誰かを好きになることもありますけど、ハッと冷静になると『こんな誰かを片思いしてるなんて普通じゃん!』って(笑)。それこそ、100年後に残るような、クレイジーでカオスなことをしていきたい。こういう想いが、漏れ伝わってクレイジーな役が多く来るんですかね……。あ、朝ドラのヒロイン、やりたいですよ!(笑)」

(取材・文:霜田明寛 写真:中場敏博)

別冊月刊 冨手麻妙 写真 野村恵子

撮影:野村恵子
価格:2500円+税
発売元:小学館刊
発売日:2019年8月30日 96ページ A4判

「冨手麻妙の表情や身体には、物語がある。
それはかつて、自分の傍らにいたような、
そしてもはや、逢うこともできないような。
妄想を紡ぐ、儚い物語がある。」
(リリー・フランキー)

 

野村恵子「月刊 冨手麻妙 ~Ami Tomite~」刊行記念写真展
9月27日(金)~10月6日(日) 開廊時間:13時~19時 会期中無休
☆神保町画廊にて 野村恵子「月刊 冨手麻妙 ~Ami Tomite~」刊行記念写真展 も開催
9月27日(金)~10月6日(日) 開廊時間:13時~19時 会期中無休

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