ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

東京オリンピックを題材にした“優しい社会派” ゴジゲン『ポポリンピック』

劇作家・映画監督etc…と幅広く活躍する松居大悟さんの主宰する劇団ゴジゲンの新作『ポポリンピック』が4都市を巡りながら公演中。以下は、松居さんと同じ年の友人でもある、チェリー編集長・霜田明寛による観劇コラムです。

「社会問題について話そう」と言う人は、たいてい社会問題に疎い人である。

この言葉を、2019年に40回くらい、松居大悟にかけられた。
週1ペースで一緒に行く銭湯のサウナの休憩室で、彼はいつもテレビのチャンネルの「1」のボタンを押しながら、そう僕に促す。

常に社会のことで頭がいっぱいであれば、そんな前提はいらずに話が始まるはずだ。
基本的に自分のことで頭がいっぱいで生きてきた僕らは、35歳を目前にした今、そろそろ社会のことを考えないといけない、という意識が芽生えてきている。
だからこそ、わざわざ宣言してから、社会の話をする。ニュース番組を見ながらあれこれ言う。NHKがニュースの時間じゃないときは、直近で起きている社会問題について、大悟が僕に質問をぶつけてくる。

「関西電力は何をしたの?」
「桜を見る会はなんでこうなったの?」
「そもそもなんだけど、左と右って……」

正直、レベルが高いとは言い難い会話である。その会話はときに、周囲のサウナ客に嘲笑されることもある。僕は、持っている知識を総動員して、わかる部分まで喋る。

10月の銭湯で水風呂に浸かりながら、話は慰安婦問題を扱った映画『主戦場』の上映中止問題に及んだ。政治に表現が規制されようとする中で、次々と声を上げる映画監督や俳優たちを支持する意を僕が表明すると、大悟はしばらく黙って、こうつぶやいた。

「……外気浴にいこう」

権力に対抗する手段として、文化は存在しうるが、もちろん、全ての文化が、権力に対抗するために作られるわけではない。



そんな松居大悟が、2020年、自身の劇団での題材に選んだのは、東京オリンピックである。
表現者が、東京オリンピックを題材にするとなると、政治色の強いもの、“反オリンピック”を期待される。
だが、彼はその自分がおかれた状況をも劇中で笑いに昇華しながら、勝手に背負わされているであろう期待を丁寧に丁寧にかわしていく。

東京オリンピックはこの作品の題材ではあるが議題ではない。
それはまるで、僕らが、銭湯でニュースについて話す、くらいの軽やかさで、重くなりすぎずに語られる、紛れもない2020年の東京オリンピックの話。

決して“社会派”の舞台ではなく、“僕たちと関わる”社会の話。
いやむしろ、政治に提言をしていなくても、僕たちの生きる社会のことを真剣に考えて作られたこの作品は、立派な“社会派”だ。


そして『ポポリンピック』は、彼自身がことあるごとに描いてきた“選ばれなかった者たち”の話だった。

2015年、東京オリンピックの追加種目の最終8候補にまで残りながらも、選ばれることのなかったボウリング。どんな“金メダル候補”も、競技自体が公式種目に選出されなければ、活躍の仕様がない。ボウリングでのオリンピック出場を夢見ていた男たちは苦悩し、“選ばれなかった競技たちの祭典”ポポリンピックを開こうとする……という物語だ。

選ばれなかった側の苦悩、暴走、そして、ボルダリングという“選ばれた”側との関係性も描かれる。そこには人生に差がついてしまった男2人の友情が成立するのか、という怖くなる問いも見え隠れする。

大悟自身はきっと“選ばれなかった側”から抜け出るために、努力してきた人間のはずだ。


松居大悟は、12月に『ポポリンピック』の宣伝も兼ねてゲスト出演したTBSラジオ『ジェーン・スー 相談は踊る』で、旧知の仲であるジェーン・スーさんにこう言われていた。

「自意識は相変わらずそちら側(選ばれなかった側)なんですね」

そして、優しく付け加えられていた。
「もう充分、“選ばれた側”ですよ」

大学で演劇を始めた男が、15年の時を経て、この春には10本目の長編監督映画が公開され、J-WAVEで冠番組も持ち、メイン監督を務めたテレビドラマ『バイプレイヤーズ』は続編も作られた。
ただ、世間的には選ばれた側なのに、ずっと醸し出し続けられる“選ばれてない”感こそ、彼の才能なのではないだろうか。
その才能の根底には、“見ている世界の高さ”がきっとある。

2018年の11月、銭湯帰りに2人で飲んでいると、大悟がスマホを見ながらニュースを知らせてくれた。

「万博、大阪で決まったって!」

そしてこう加えた。

「東京オリンピックには間に合わなかったから、大阪万博には俺らでなんか関わろうな。2025年なら、ちょうど40でいい歳だろ」

彼の意識は、“東京オリンピックに選ばれなかった側”なのだ。
その意識は、“東京オリンピックの先”をしっかりと見据え続ける。
俺、じゃなく“俺ら”と言ってくれる優しさを携えて。

<公演情報>
ゴジゲン第16回公演 「ポポリンピック


作・演出:松居大悟
出演:目次立樹 奥村徹也 東迎昂史郎 松居大悟 本折最強さとし 善雄善雄 木村圭介(劇団献身)

福岡公演:2019年12月21日(土)~12月22日(日) イムズホール
東京公演:2020年1月3日(金)~1月21日(火)  こまばアゴラ劇場
札幌公演:2020年1月25日(土)~1月27日(月) 扇谷記念スタジオ シアターZOO
京都公演:2020年2月8日(土)~2月9日(日) THEATRE E9 KYOTO

チケット発売日:2019年11月9日(土)10時~
お問合せ:Tel.03-6453-2080(平日10~18時)
HP:http://www.5-jigen.com/
企画製作・主催:ゴジゲン

 

<アフターイベント情報>
東京公演
1月9日(木)19:30 ゴジラジ公開収録
1月12日(日)18:00 東迎の向かい風
1月19日(日)18:00 目次立樹を囲む会 
札幌公演
1月25日(土)18:00 納谷真大(ELEVEN NINES)
1月26日(日)13:00 ワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)※追加アフターイベント
1月26日(日)18:00 「ゲーム王は俺だ!~北の国だよ!全員集合~」

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