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浅田真央、復帰戦の感動と変化を現場レポ 蝶々夫人と共通する「武士道精神」

佐藤由紀奈

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佐藤由紀奈

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浅田真央という妖精の前を前にすると、なぜだが誰もが保護者のような温かい目を向けてしまう。彼女には、そんな不思議な力があるのです。

10月3日(土)、1年間の休養を経て、ついに協議会に復帰を果たした浅田真央。その演技には、おそらく日本中がざわめいたことでしょう。
わたしは試合が行われた、さいたまスーパーアリーナでその様子を目撃したのですが……とにかく「素晴らしい」の一言につきる出来でした。いちフィギュアスケートファンとして、彼女のカムバックを本当に、本当に、嬉しく思います!
そこで、現地で見届けることができたからこそ感じとれた「感動」、そして「変化」を、わたしなりにお伝えしたいと思います。

ファン層の広さはフィギュア界NO.1 みんなが言いたかった「おかえり」

復帰戦となったジャパンオープン2015は、3地域対抗の団体戦。
試合開始前に、出場選手が1人ずつコールされるのですが、リンク脇に浅田選手の姿が見えるやいなや、観客たちは「まだかまだか」とソワソワした空気に。
そして、いよいよ「浅田真央選手」とコールされると……。その瞬間、会場は「ワッ」という歓声と拍手で包まれ、一気にボルテージが上がったのを感じました。

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「真央ちゃんー!」「おかえりー!」と言う声が四方から飛び、たくさんの人が応援タオルを掲げて彼女の復帰を迎える。
その光景には、思わずグッとこみ上げるものがありました。

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浅田選手の試合やショーはこれまで何度か観たことがありますが、毎回驚かされるのは、ファンの多さだけではなく、その層の広さ。
現役選手で言えば羽生結弦選手も大人気ですが、女性ファンの比率が圧倒的に高く、黄色い声援が飛ぶことも多々あります。
ところが浅田選手は、老若男女まんべんなくファンがいる印象。まさに「観客総保護者状態」で応援しているような雰囲気なのです。人気スケーターは数多くいれども、これほどの国民的人気というのは、やはり彼女にしかありません。

「蝶々さん」になりきる演技 衣装は歴代NO.1の呼び声も

今回浅田選手がフリープログラムで演じるのは、歌劇『蝶々夫人』。
明治時代を生きた日本人女性「蝶々さん」の悲恋と生き様を描いた、プッチーニ作の言わずと知れた名曲です。オペラのアリアの中でも一番人気とも言われる『ある晴れた日に』は、曲名を知らずとも耳にしたことのある人は多いはず。

彼女がこの曲で滑ると聞いた時、柔らかいスケートを得意とする彼女に似合うだろうなと直感していたのですが……実際に観てみて、想像と少し違ったことがありました。
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それは、かつてないほどに「物語のキャラクターになりきっていた」ということ。
もちろんこれまでも充分に表現力はありましたし、彼女にしか出せない世界観がありました。
でもそれは、どちらかというと「キャラクターになりきる」というよりも、「自分なりに曲の世界を解釈して表現している」という印象だったのです。
そもそも彼女の歴代使用曲はクラシックが多かったこともありますが、今回のように、しっかりと物語が設定されたキャラクターを滑るのは珍しいように思います。スタートポジションに付くと、曲がかかる前から「蝶々さん」にスッと入り込んだのが見てとれました。

ここで簡単に、「蝶々夫人」のストーリーを解説!

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齢15歳にして長崎で芸者として暮らしていた蝶々さんは、アメリカ海軍士官の現地妻となるも、本国に帰ってしまった夫を一途に待ち続けます。結局、彼は帰っては来ず、すでにアメリカに妻がいることを悟った蝶々さんは、自害してしまうという悲しい物語。

ですが、それは自らの誇りを守るためであり、日本人女性の真っすぐさがテーマとして描かれているのです。蝶々さんは元々は武家の娘だったので、武士道精神を描いているともいえます。
この切ないまでの真っすぐさ。ひたすらスケートへの愛を貫く浅田選手とも重なって、復帰戦にこの曲を選ぶなんて、なんだかもう……それだけで泣けちゃいます!

一番大きな変化はトリプルアクセルに固執しないスケート

そしてこの日一番驚いたのは、なんといっても彼女の代名詞・トリプルアクセル。何が驚きって、彼女からトリプルアクセルに対する「執着」が消えたように思えたことです。

ちょうど2年前、同じくさいたまスーパーアリーナで行われた、ソチオリンピックシーズンのジャパンオープンでも彼女の演技を観ました。
その時はもう、とにかくトリプルアクセルへのこだわりが強烈で、演技直前の6分間練習ではアクセルの入り方ばかりを練習していた記憶があります。

でも今年は違いました。多くの時間を、振付の確認に割いていたのです。そして練習時間も終わる頃、トリプルアクセルを“さらっと”飛んでいました。

「このあっさり感は何!?」と拍子抜けしてしまうほどでしたが、まるで憑き物が落ちたようというか。演技が始まってからも、ジャンプは演技の中の流れの1つでしかなく、物語を演じることに魂が向かっている感じでした。

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それは明らかにこれまでの彼女とは違う「変化」であり、そしてものすごい「進化」にも感じられます。
一度は引退を決意し、競技の中では最年長と呼ばれるような年齢になり……。ファンとしては復帰してくれるだけでも嬉しかったのに、さらに進化しているなんて!
いや、でも。彼女ならやってくれるのではと、心のどこかで期待していました。

この大会には世界のトップ6とも言えるような面々が出場しましたが、彼女ほど、フワフワと優しい空気を作り出せる選手は誰もいませんでした。
氷から数センチ浮いているような、重力を感じさせないスケート。「まるで雲の上の世界のようだな」なんて、観ているこちらもフワフワした気分にさせてしまうのです。

翌日行われた記者会見では、「今季のグランプリシリーズに対する思い」として「自分を極める!!」と掲げていましたが、きっとまだまだ進化しつづける姿をわたしたちに見せてくれることでしょう。

おかえり、真央ちゃん! そして、戻ってきてくれてありがとう!!

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(文:佐藤由紀奈)

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