視聴率31.2%(関東地区)――。これ、何の番組だか分かります?
普段、あまりテレビを見ない方でも、さすがにこれはピンとくるでしょう。そう、先の1月18日夜、フジテレビ系の「SMAP×SMAP」にSMAPのメンバー5人が冒頭7分間に生出演して謝罪した、あの歴史的な回の平均視聴率。
ちなみにこの数字、どのくらい凄いかと言うと、昨年――2015年の年間視聴率ランキングと比較すると、1位の「NHK紅白歌合戦・2部」の39.2%、2位の同番組・1部の34.8%(いずれも関東地区)に次ぐ数字。つまり3位だ。テレビ番組というのは、関東地区の地上波に限定すると、ざっと年間で10万番組あまり放送されており(凄いでしょ?)――その中の3位である。
地味な絵面に国民の3割がクギヅケ
えっ? そんな御託はいいから、何が言いたいのかって?
ハイ。この話のポイントは、正味7分間の謝罪放送が国民の3割をテレビの前にクギヅケにしたという衝撃の事実。派手なスタジオセットもCGもなく、往年のヒット曲が流れるでも、抱腹絶倒のトークが交わされるでもない、至って地味な絵面(何せ黒カーテンの前にブラックスーツの5人が立っているだけだ)に、国民の3割がクギヅケになったのである。
今この瞬間、世間が一番見たいもの
そう、これがテレビなんです。
テレビとは、要は「今この瞬間、世間が一番見たいものを見せる」――これに尽きます。派手な演出とか、豪華な出演者とかは二の次。分かりやすいのはスポーツ中継でしょう。サッカーW杯やオリンピックの日本絡みのゲームが高視聴率をとるのは、要は今この瞬間、世間が一番見たいものを見せてくれるから(現に録画でサッカーの試合を見ると死ぬほどつまらないでしょ?)。ドラマ『半沢直樹』が驚異の高視聴率だったのも、単純に続きが気になる世間の人たちが大勢いて、彼らは録画じゃなくて真っ先にオンエアを見たかったからである。
若い人たちの間で「テレビはオワコンだ~」なんて言われるようになって久しいけど、いえいえ、テレビもやり方によっちゃ、まだまだイケるんです。国民の3割が同じ放送を見ても、画面が乱れたり、回線がパンクしないのはテレビの強み。
でも――テレビならではの楽しみ方って、実はもう一つあるんですね。
スーパーボウルの視聴率は右肩上がり
アメリカンフットボールの天王山であるスーパーボウル。その中継は毎年、全米で最も高視聴率になることで知られ、ハーフタイムショーには過去にマイケル・ジャクソンやポール・マッカートニーなど当代の一流スターが出演し、CM枠も高値で取引される。流れるCMもクオリティが高い。有名なのは、1984年のスーパーボウルで流された、アップルがマッキントッシュの発売を告知するCM「1984」だろう。
さて、そんなスーパーボウルの視聴率で興味深いのは、近年、さらに数字が上向き傾向なところ。転機となったのは2010年で、それまで40%台前半だった数字が突然46%台に跳ね上がり、以降も右肩上がりで、ここ2年は遂に49%台。あと一歩で過半数だ。
SNSの登場でテレビの“快感”を再認識
一体、2010年に何があった?――SNSである。FacebookやTwitterが市民権を得て、一気に拡散したのが2010年。要は、スーパーボウルを見ながらSNSにアクセスすると、皆が自分と同じ思いでいることが確認できた。その“同時体験”の快感に目覚めたのだ。
そう――これがテレビのもう一つの楽しみ方。「皆と思いを共有できる」。要はSNSの登場で、テレビならではの強みがあらためて再認識できたんですね。
ほら、例えばスマホに入れて、普段飽きるほど聴いている曲でも、テレビやラジオから流れてくると、思わず聴き入ってしまうことってありません? あれは「今この瞬間、自分は皆と同じ曲を聴いている!」という快感に浸れるから。
あの日、若者たちもテレビを点けた
さて、そこで冒頭に戻ってSMAPの謝罪放送。あれが稀に見る地味な絵面ながら高視聴率をとれたのは、「今この瞬間、世間が一番見たいもの」(謝罪ではなく、5人の生の言葉という意味でネ。誤解なきよう)を放送したのと、それを「皆と同時に見て、思いを共有したい」視聴者がたくさんいたからである。
「テレビはオワコンだ」って言われるけど、使い方によっては、まだまだ僕らの生活をエキサイティングにしてくれる、面白いヤツなんです。現に普段はテレビをほとんど見ないあなたも、あの日ばかりは友人宅に皆で集まり、生放送が始まるのをドキドキしながら待ちわびたでしょ?
若い人へ、テレビの楽しみ方を指南します
――そんな感じで前置きが長くなりましたが、本連載「指南役のTVコンシェルジュ」は、普段、テレビとあまりなじみの薄い生活を送る若い人たちへ向けて、「気持ちは分かるけど、テレビって付き合い方次第で、まだまだこんなに面白くなるんですよ?」と、恐れながら指南させていただくというもの。ドラマ、バラエティ、ニュース、ドキュメンタリー、情報番組、深夜番組――次回からは、いよいよ具体論に移ります。
あっ、そうそう、今度フジテレビの深夜に面白い特番があるんですが、これがトンデモナイ企画で――おっと、行数オーバーですか。
この話の続きはまた。
(文:指南役 イラスト:高田真弓)