ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

柳楽優弥主演作で 若き俊英監督にデビューまでの6年を聞く

2009年、東京藝術大学大学院の卒業制作としてつくった映画『イエローキッド』が高く評価され、劇場公開。日本映画界の新鋭として期待されていた真利子哲也監督が、ついに『ディストラクション・ベイビーズ』で長編商業映画デビューを果たす。

しかも、キャストは柳楽優弥・菅田将暉・小松菜奈という、これまた今後の日本映画界を背負っていくだろう豪華な布陣。34歳の監督の商業映画デビュー作としては、恵まれた環境に見えるが……。とはいえ『イエローキッド』が注目されてから6年以上の月日が経っている。途中に、ももいろクローバーも出演した中編映画『NINIFUNI』を挟んではいるものの、なかなかの長い潜伏期間である。

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この6年間の間、監督は何を考え、それがどうこの『ディストラクション・ベイビーズ』に結びついていったのか。そして、柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈らと接して何を感じたのか……? “注目の映画監督には全員会って話を聞いていく”スタンスの文化系マガジン・チェリーでは、公開を控えた真利子哲也監督にインタビューをおこなった。

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震災直前に日本を覆っていた不穏感

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――まずは『イエローキッド』をつくられてから今までの6年間について教えてください。

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「ちょうど『イエローキッド』が劇場公開されていた2010年頃から、プロレスの映画を企画したんですよ。それが頓挫してしまって……。まあ、だいぶ勉強にもなりましたけどね。
今振り返ると、2010年から『ディストラクション・ベイビーズ』を撮った2015年までの5年間で、震災を境に色々と考え方が変わったな、と感じます」

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――2011年の夏には『NINIFUNI』という中編映画も公開されていますよね。

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「『NINIFUNI』は2011年の1月、震災が起きる直前に撮っていたんです。
これは結果論になってしまうんですが、あの震災が起きる前の頃は、何かが起きそうな不穏感があった気がするんですよね。なんだかわからないけれど不穏だという空気が、『NINIFUNI』という映画を撮った理由のひとつだと思うんです。
 
でも、震災後にその不穏の理由が明るみになった部分もあると思っていて。だから、震災が起きた後に、これを公開しても意味が無いんじゃないかというところまで、すごく考えさせられたんですよね」

東京出身だからこそ撮れる郊外

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――確かに、そのお話を伺って振り返ると、自殺を図ろうとする青年が主人公の『NINIFUNI』には、震災直前の日本の空気がつめ込まれている気がします。
それでは、今回の『ディストラクション・ベイビーズ』に、震災の影響はあるのでしょうか?

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「『ディストラクション・ベイビーズ』は、2012年頃から動き始めた企画です。だから、震災を特に色濃く撮っているわけではないんですけど、少なからず影響は受けていると思います。震災直後から、舞台となる愛媛県の松山で取材を始めたんですけど、四国ってあの震災の時は揺れてもいないんですよね。でも、震災が起きなかったが故に、四国の人たちが考えさせられていることもあって。僕自身も含め、当事者でないが故に思うところがあったと思います」

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――この映画を通して見る松山では、他の揺れた地域では蓋が外れて飛んでいった不穏感が、もしかしたら蓋が外れずに残っていたままなのではないか、と感じさせるものがありました。作品を拝見して、てっきり、松山のような地方都市出身の監督なのかと思ったのですが、東京都出身なんですね。

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「東京以外で行ったところに、すぐ惚れてしまうんですよね(笑)。今回も、あっちの人がびっくりするくらい、松山を楽しんでしまいました。
 
『NINIFUNI』も郊外を撮っていますが、東京出身の僕は、国道沿いの風景のようなものに触れ合う機会がなかったんです。でも良きも悪きも印象に残るものがあったんです。松山に抱いた感覚も少し似ているかもしれないんですが……。四国は日本の中の島国で、当然ながら松山には新幹線では行けないんですよ。東京にいるからこそ、その、ひとつ苦労して行かなければいけないところなんかに、色々ひっくるめて人間味を感じたんですよね」

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――それは、きっと、その地で育っていると抱けない感覚ですよね。

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「松山の人にも『外から来た人だからこそ見えるものがある』って言われたんです。“そこに住んでいる当事者たちでは言えないけれど、外から入って来た人の客観的な視点だからこそ見えるもの”を自分は探していたのかもしれないです。自分の中にあるものよりも、他の人や場所から得たものの方が興味があって、そういうものを大事にしながら映画を作りたい、というのはかなり前から思っていました」

興味があったのは“暴力という概念”

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――ということは、今回の劇中でかなり頻繁に登場する暴力に関しても、外から監督ご自身の中に取り入れたものなのでしょうか?

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「松山で出会った、ある喧嘩をしているという人の話がとても面白かったんです。なぜ自分はその話に興味を持ったんだろう、と考えた時に、暴力という概念だと気づいたんです」

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――暴力という概念、ですか?

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暴力というのは、時と場合によって、見え方や捉え方が変わるんです。いや、良くないものではあるんですが、世の中から暴力がなくなることはない。だからこそ真剣に向き合ってみたいと思ったんですよね。簡単に答えは出ないものなので、柳楽くんたちと共に、撮りながら考えていった感じです」

柳楽優弥の表情を見て「イケる」と確信した

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――柳楽さんのお話も出たところで、ここからはそれぞれの役者さんについて伺えればと思います。主役の泰良(タイラ)を演じた柳楽優弥さんの存在感は圧巻でした。

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「いつかわからなくなるくらい前から、出演して欲しい役者として、柳楽優弥の名前は挙げさせてもらっていました。役者としてのポテンシャルがすごいので、泰良という役が固まる前から、一緒にやりたいと思っていましたね」

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――結果、泰良という難しい役に、柳楽さんの演技が大きな説得力を持たせていました。

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泰良という役がうまくいかなかったら、この映画はダメになると思っていたので、柳楽くんには、そのことを伝えて煽っていました(笑)。でもそれって、具体的に言葉で言ってもどうしようもない部分もあるんですが、初めての喧嘩のシーンを撮った時に、お互い言葉ではなく納得しあえたんですよね」

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――最初に泰良がボコボコにされて立ち上がる瞬間も印象的でしたね。

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「あそこは、見たことのない立ち方をしてくれ、と頼みました。動物的な感じですよね。喧嘩以外のシーンでも、前半に長く歩いたあとに途中で振り返るシーンがあるんです。あの顔を見た時に、まだ喧嘩シーンを撮る前だったんですが『これはイケる』と確信しましたね」

これまでにない菅田将暉を見たかった

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――菅田将暉さんもまた、これまでの役とは違う表情を見せて、作品全体を引っ張っていました。

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「『そこのみにて光輝く』という映画の菅田くんを見て、一緒にやりたいと感じました。初対面だった衣装合わせの時に、あの映画の話をして、『色々な役をやってきたと思うけれど、これまでの引き出しにはなかったものを出して欲しい』ということを伝えて、柳楽くん同様、また煽ってしまいました(笑)」

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――序盤で、ゲームセンターに行く前に、トイレの鏡の前で洋服をいじるシーンがありましたよね。あそこで、菅田さんの演じる役の方向性というか、キャラが見えた気がしました。

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「あそこは、ちょっと小物感が出ていますよね(笑)。あれは松山の初日に、彼の初めの場面として撮ったシーンなんですが、実は脚本にはなかったんです。ギリギリまで菅田くんと話をして、何か必要だなと思って付け足したんです。本人も高校生の頃から、友人と比べたりしながら洋服を気にしていた、という話を聞いたので、彼の演じる裕也の足がかりになればと思ったんです」

『渇き。』予告編で小松菜奈と主役がかぶる

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――これまでにない、という点で言えば、小松菜奈さんも、これまでに見たこともないような小松菜奈さんでした。

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「小松さんは『渇き。』の予告編を見た時に興味を持ったんです。ちょうど、その頃、泰良という役を考えている状態で、予告編を見ながら『女版・泰良がいる……!』という気がしたんですよね。本編をみた後はその佇まいはかけがえのないものだと思って、お声がけしました」

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――『渇き。』以降の出演作ではしばらく見られなかった、小松菜奈さんの暗部が映し出されていた気がします。そして、細かくは言いづらいですが、小松さんの最後の登場シーンの目の動きが素晴らしかったです。

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「あそこは、撮る直前に、2人で話しながら大きくセリフを変えて。同じセリフでも、それをさらに意味あるものにしたかったんですよね。そこで、彼女のいちばんの魅力だと思った目の配り方を演出しました」

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――3人を振り返って、改めて感じましたが、やはり素晴らしい布陣ですね。

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「嘘でもなんでもなく、自分が希望する役者が集まってくれました。もちろん3人だけではありません。オトナでは失くしてしまった危うさのようなものを持っていた村上虹郎くんに、人間味が溢れてこそできる役をやってくださったでんでんさん……。
すぐに言葉にできないものをスタッフ・キャストと一緒になって向き合ったので、是非、スクリーンの前で色々なことを感じてもらえたら嬉しいです」

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(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)

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映画『ディストラクション・ベイビーズ』公式サイト
配給:東京テアトル
©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会 
5月21日(土)テアトル新宿ほか全国公開
監督・脚本:真利子哲也
キャスト:柳楽優弥 菅田将暉 小松菜奈 村上虹郎 池松壮亮 北村匠海 三浦誠己 でんでん

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