ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

“チンケで真面目な日本社会”で悪を撮る 白石和彌×小林勇貴 監督対談

6月25日(土)に白石和彌監督の新作『日本で一番悪い奴ら』が公開された。
この作品は、“日本警察史上最大の不祥事”といわれる稲葉事件の手記を原作にした映画だ。

本作の試写会場で「これは東映ヤクザ映画だ!」と涙していたという若き映画監督・小林勇貴。
彼はキャストを全員、ホンモノの不良で揃え、実際に富士宮で起きた事件を脚本にした映画『孤高の遠吠』で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016グランプリを獲得している。
『日本で一番悪い奴ら』を製作・配給している日活社内でも、次世代を担う若き才能として話題になっているという。

そんな古き良き野蛮な日本映画を愛する小林勇貴監督と、若松孝二監督の弟子として骨太な日本映画を作り続けている白石和彌監督の対談を企画!
白石和彌監督は商業映画、小林勇貴監督は自主映画において、実際に起きた犯罪に対し、丁寧に取材を行い、エンターテイメント映画に昇華させているという共通点がある。

まさに立場は違えど、実録犯罪映画に魅せられた監督同士の対談だ。
今回は“二人から見た現在の日本映画”、小林監督が語る『日本で一番悪い奴ら』の感想、白石監督から小林監督へ“商業デビューする際のアドバイス”まで本音トーク満載でお送りする。

警察官も不良も中身は変わらない

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白石監督「この作品のどこに惹かれたの?」

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小林監督「エンディングでも泣いたのですが、まず、オープニングのタイトル出たところから泣いてしまいました」

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白石監督「タイトル出たところから泣くのはおかしいよ(笑)」

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小林監督「おかしいですか(笑)」

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白石監督「でも、小林監督が仲のいい不良の人たちも純粋なんだろうな。だからこの映画に出てくる奴らの気持ちがわかるのかもしれない。警察官になった友達とかいないですか?」

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小林監督「いますね。消防士もいます」

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白石監督「警察官とか消防士になった奴も中身は不良とそんなに変わらないでしょ?」

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小林監督「変わんないですね(笑)」

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――小林監督から『日本で一番悪い奴ら』を観終わった後に「あれは東映ヤクザ映画だよ!『県警対組織暴力』(※)だよ!」と興奮したLINEが来ました(笑)。
この作品は70年代の東映ヤクザ映画のように、タブーをきちんと映して、事件をエンターテイメントに昇華させた作品ですよね。

※1975年公開の深作欣二監督作品。広島県警の悪徳刑事と地元ヤクザの癒着と友情を描いた。
脚本の笠原和夫は広島で取材を敢行し、脚本を執筆。公開当初、広島県警から抗議が寄せられた。

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小林監督「白石監督が前作『凶悪』のインタビューで、『昔は骨太な映画があったのに、今は少なくなった』と仰っていて、すごく共感しました。
自分も、深作欣二監督が活躍していた“日本映画が荒々しかった時代”を復活させたいと思いながら映画を撮っています。でも昔と同じように作っても面白くないので、やるなら今の世だからこそできる要素を反映させていきたいんですよね。
まさに『日本で一番悪い奴ら』は骨太な映画の歴史を更新したように思えました」

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白石監督「大絶賛、ありがとうございます!(笑) たしかに、男臭い映画は本当に少なくなりましたね。今回も、プロデューサーや会社に迷惑をかけつつも、映さなきゃダメなシーンはしっかり撮りました。この映画は覚せい剤を打つシーンがないと絶対に成立しないですし!
昔の映画には当たり前にあったけれど、今はみんな避けていくような表現をこれからも撮っていきたいです」

日本社会が“チンケな真面目”になっている

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小林監督「白石監督の『凶悪』は、原作本では警察をマイルドに描いていたのに、映画では悪者として描いてあったことに感激しました。『日本で一番悪い奴ら』は、さらに踏み込んで、警察が不祥事を起こす話で、うれしかったです(笑)」

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白石監督「毎月のように不祥事を起こしているし、警察ってろくなもんじゃないですよね。ちょっと調べてみると、一時停止を取り締まって、1点ずつ稼いでいるチンケな警官もいるし。もちろん中には、本当の意味で真面目にやっている方もいるんでしょうけど」

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小林監督「そうなんです! チンケに点数稼ぐことが、真面目に仕事することと同義になっている!」

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白石監督「警察だけでなく、日本社会全体がチンケ(=真面目)になっているよね」

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――主人公の諸星はチンケに点数を稼ぐことはありませんでしたね。

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白石監督「本当の意味で優秀な刑事がいたのに、悪者にならざるを得ない状況に置かれて、どうかしているよね」

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小林監督「わかります! 稲葉さんも劇中の諸星もすごく優秀な人ですよね。
みんな『日本で一番悪い奴ら』を観に行くとき、綾野剛をはじめ、ポスターに並んでいる強面の奴らが一番悪いと思って観に行くじゃないですか。でも最後の最後に、本当に一番悪い奴が誰だかわかるんですよ。
 
スクリーンから『一番悪いのはこいつだー!』って大声が聞こえましたもん。そこで感動して泣きました。しかも、一番、仕事が出来る人間に借金までさせていますからね。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』みたいに、悪いことをして、楽しんでいるような場面があった直後に、諸星が消費者金融の機械を蹴っているという(笑)。
主人公が成り上がっている場面は、その栄光がいつか終わることが前提で始まっているので、大嫌いなんですよ」

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白石監督「先の展開が見えちゃうからね」

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小林監督「そうなんです! でも成功している最中に、借金をしているシーンが入ると、本当に成功者なのかわからなくなります。あいまいな状態で物語が進んでいくのがすごくかっこよくて、そんな映画観たことありませんでした。だからこそ、昔あった骨太な映画を更新した作品を観ていることを実感したんです」

局が絡まないから!? この時代にシートベルトをしない画を撮るということ

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小林監督「冒頭で、パトカーと逃走車のカーチェイスのシーンがありますよね。そこで青木崇高さん演じる先輩刑事が諸星に『シートベルトする刑事がどこにいるんだよ』と言うセリフに痺れました。あのシーンは、野蛮すぎてシートベルトが開発された時代に思えない……」

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白石監督「あの時代の警官って絶対シートベルトしてないからね(笑)。あのセリフは、映画の方向性を示す宣言なんですよ。
今は、視聴者から苦情が来るから、ドラマや映画の中で、銀行強盗も泥棒も警察もみんなシートベルトをしなきゃいけない。でもテレビのクリエイターもヘタレなわけではなくて、『シートベルトをするなんておかしい』と思いながら撮っているんです」

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――今回はテレビ局が絡んでない映画だから、このシーンが撮れたのでしょうか。

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白石監督「たしかに、テレビ局側のプロデューサーに『いやー、僕もシートベルトしない方がいいと思うんですけど、うちの会社がやっぱり無理なんですよ……』と言われたら撮れないですよね。
僕だってテレビの仕事で『今回だけは、シートベルトの着用お願いします』と言われたら、多分、シートベルトさせちゃうと思います。
だから、好きな映画を撮っている時ぐらいは、キチンとぶち壊したいんです」

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――テレビのクリエイターたちも、違和感を覚えつつコンプライアンスに従わなくてはいけないのは辛いですね。

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白石監督「映画作りに、関わっている人であればみんなわかっています。だから『今回はいけないモノをちゃんと撮るよ』と宣言してスタッフを巻き込みました。
不良もいちいちシートベルトする奴いないでしょ?」

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小林監督「いないですね(笑)」

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白石監督「ただ、日本の映画はプロデューサーシステムでも、監督システムでもなく、俳優システムだから、キャストが映画の方向性を承諾してくれるのかが一番重要だよね。
出演者から『いやーすいません、車のCMに出演するので、シートベルトしないとダメなんですよね』と言われたら、やめないといけない。
その時は、車で追っかけるシーンはやめて、細い路地で追っかけているシーンに差し変えると思います」

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――本作の方向性を伝えた時、綾野さんはどんな反応だったんですか?

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白石監督「綾野君は『いやーいいっすねー! 無茶苦茶やりましょうよ!』って言ってくれました。そう言われたら『コイツのために命張ろう』と思って撮れますよね。
でも、映画は物語を気に入ってもらえるかが重要なので、綾野君が乗り気になってくれた背景としては、僕の力と言うより脚本の力も大きいとは思います」

小林流“不良の撮り方”

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小林監督「この間、新作『逆徒』の撮影で“モツ鍋を囲いながら人をブチ殺すシーン”を撮っていたんですけど、撮影現場での不良同士の盛り上がり方が『日本で一番悪い奴ら』でカニを食うシーンにそっくりだったんです! 超面白かったな……」

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白石監督「へー!」

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小林監督「不良を撮る時は、あの盛り上がりが一段落しないと撮影を始めちゃダメなんです。だんだんと飽きてきたら彼らも『あ、撮ります?』と言ってくれるので」

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白石監督「じゃあ、彼らが飽きるまで待っているの?」

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小林監督「無理に始めたらストレスになってしまうので、待っていますね。やっぱ彼らにとっても、映画は楽しいものにしたいじゃないですか」

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白石監督「あーなるほど! 現場に来なくなっちゃうもんね」

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――小林監督の作品には、“ガムテープにぐるぐる巻きにされて道端に捨てられる”という不良の方にとって情けなく見えるシーンもありました。キャストの方へは、どう説得しているのですか?

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小林監督「キャストには『かっこいいシーンばかりだと、“自分のかっこいいところばかり見せようとしてる奴”って画面に映るよ、それってダサくない?』と伝えます。
そう言うと『いいです! かっこ悪いシーンがあっても!』、『元々、俺はつえーんだから、弱いところをちょっと見せたくらいで!』といった感じで、意地で返して、演じてくれるんです」

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白石監督「めんどくせー!(笑)」

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小林監督「めんどくさいですよ!(爆笑)」

「イケメンだけで映画を撮るのは無理」

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小林監督「(『日本で一番悪い奴ら』のポスターを指差しながら)いやー、キャストのみなさんの顔が素晴らしいと思います。不良たちで撮っていても、演技力によって届く領域の感情までは描けないので、羨ましいです」

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白石監督「でも、不良の人も面構えがいいよね。今の日本の俳優って大人しい顔ばかりじゃないですか。イケメンだけで映画を撮るのは無理だしさ(笑)」

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小林監督「イケメンだけの映画を撮るのは、本当に無理ですよね。最近の俳優は顔見ただけじゃ性別がちょっとわかんないですもん」

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白石監督「やっぱり韓国映画や台湾映画はちゃんと狂っていて、例えば『モンガに散る』に出ている俳優は、イケメンなんだけどおかしな顔しているもんね」

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小林監督「おかしな顔していますよね!(笑)」

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白石監督「そういう“顔力”はなるべく集められるようにはしていますね」

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小林監督「そうですね。俺も自主界隈の顔の良い役者さん揃えても意味ないので、不良で撮っています」

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白石監督「顔以外にも、『孤高の遠吠』には紋が入っている人が出てくるのも最高だよね。一から入れたら何十万かかるんだろうって人も、最初から刺青入っているからタダだしな……。ぜひ芝居がうまくなってもらってもっと映画に出てほしいな……」

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――小林監督が好きな深作監督の映画も“顔力”がある方ばかりですね。

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白石監督「そういえば、深作欣二監督に『頭の中で一番最初に思い浮かべた映画が100だとしたら、実際完成した映画ってどのくらいなんですか?』と聞いたことがあるのですが、15だって言っていました(笑)」

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小林監督「うわあ……すごい」

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白石監督「どれだけ理想が高かったんだろうね(笑)。頭の中で大きくイメージしないと、エネルギーに包まれた映画って出来ないんだなーと思いましたね」

助監督出身VS 自主映画出身 それぞれの映画監督のなり方

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――白石監督は自主映画で撮っていくという選択肢は考えたことありますか?

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白石監督「若い頃の私は自主映画が撮れるような才能もないし、社交的でもないと思っていました。だから、そもそも自主映画を撮るという選択肢がありませんでした。ただ、映画は好きだったので、映画のスタッフになりたくて若松プロダクションに入って、助監督をずっとやっていましたね。
僕は助監督が長かった分、若松プロで一緒にやっていた先輩や現場のカメラマンなど、才能あるスタッフと知り合うことができたので、今となってはかけがえのない経験になっています」

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――若松プロの主宰で、師匠でもある若松考二監督とはどんな関係でしたか?

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白石監督「若松さんは自分の父親のような感じでした。怒られたりはしたけど、全く嫌ではなかったです。すごく面倒見がよかったし、一緒にいてすごく面白かったので」

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――白石監督が映画を監督として撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

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白石監督「10年も助監督やっていると、たまに『なんでこの人監督になれたんだろう』と思う頭の悪い奴がいるんですよ」

一同:(笑)

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白石監督「そういう方々を見ていたら、俺が撮ったほう方が面白いなと、28~30歳で思い始めて、監督としての準備を始めたんです」

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――小林監督は、誰かに弟子入りするという選択肢はありましたか?

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小林監督「僕は最初に誰かの元で映画をやるという発想は浮かばなかったです。普段デザイン事務所で働いていて、ずっと上司に映画の感想を話していたら『お前そんなに偉そうに言うんだったら自分で撮ってみろ』と言われたのをきっかけに、その翌週には自分で撮り出しました」

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白石監督「ちなみに『孤高の遠吠』は何作目なの?」

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小林監督「『孤高の遠吠』は6作目です」

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白石監督「すごいスパンで撮っているね」

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小林監督「楽しくて仕方なくて……(笑)」

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白石監督「映画撮影は楽しいから、やり始めると止まらないよね」

才能を認めてくれる人に出会うのは彼女を作るより難しい

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――自主映画で評価を得た小林監督ですが、いずれ商業映画を撮ることになると思います。そのことに対して不安はありますか?

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小林監督「不安は全くないですね。映画好きの人たちと映画を撮れるなんて、楽しさしかないです。僕は元々、富士宮という閉塞感のある場所で育ったのですが、『デザイナーになりたい』と周りの大人に言うと『え、横文字の仕事って胡散臭いけど大丈夫? ほんとに存在するの?』と返してくるような土地だったんです。
『デザイナーが存在するから、ポスターがあるんだよ』と言っても、通じない。
 
そんなことを言われても、やっぱり専門学校には行きたくて。そのために上京しました。実際にデザインの専門学校に入学したら、デザインしかやりたくない奴らがいっぱいいて、すごく感動したのを覚えています。それと同じで映画作りは、感動はあっても、不安はなかったですね」

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――さらなる未知の感動が待っているわけですね。

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小林監督「そうです! 映画をひたすら作りたい人たちと会えるので」

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白石監督「でも、めんどくさいのが、プロの映画監督になると、『何者なんだ?』って現場で意地悪に見てくる人もいるんだよね。
 
だから、小林監督の才能を認めていて『めちゃくちゃだけど、俺がなんとかしてやる』という人に出会えるといいよね。そんな人に会うのは、彼女作るより確率低いけど(笑)。
でもとりあえず、日活に千葉善紀という小林ファンのプロデューサーがいますから、安心していいと思う」

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――千葉プロデューサーが『孤高の遠吠』を日活の社内試写室で上映したと伺いました。

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小林監督「西村喜廣監督と僕がゆうばり国際映画祭で出会ったのですが、その流れで西村監督から千葉プロデューサーへDVDを渡してくれたみたいです」

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――小林監督が『SUSHI TYPHOON(スシ タイフーン)』のお二人に気に入られるというのは妙に納得できますね。

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白石監督「小林監督からは、不良社会の魅力を知った上で『こいつらをなんとか映画にしたい』という気持ちがすごく伝わってくるんですよ。『日本で一番悪い奴ら』の諸星と一緒です。そのエネルギーに、西村監督や千葉プロデューサーが惚れたんだと思います」

丸くなる必要はないけど、商売の嗅覚を

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――白石監督の作品は作家性と商業性のバランスを上手く取られている感じがします。
先輩監督として小林監督にメッセージはありますか?

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白石監督「バランスをとろうと思った瞬間に作家性って失われていくと思うので、商業性とのバランスは別に突き詰めなくていいんじゃないかな。
 
今後、商業で撮っていくにあたって『監督、気持ちはわかるんですけど、綾野剛にノーヘルでバイクの後ろに立たせて、バット振らせるのは無理ですよ』みたいなことを言われると思います。そのときに腐らないで違うことを考えられることが大切かな。
まあ、そこで別のアイデアを出してくれるのが仲間なんですけどね。
 
小林監督は変に、丸くなる必要はないです。ただ、なにが商売になるのかという嗅覚は常に持っておいた方がいいと思います。もう不良の世界に詳しいという立派な武器を持っているので、それをどう活かすかも考えてみるといいのではないでしょうか」

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――不良の世界から、暴力以外の要素を持ってくる……ということでしょうか?

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白石監督「不良の中には、我々が想像できないような、ぶっ飛んだ恋愛をしている奴がいそうじゃないですか。そんな度肝を抜かれる恋愛話を全体の3分の1に入れた、不良映画の脚本を書いてみたら、一気に見る人が増える気がする……これは勘だよ(笑)」

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小林監督「度肝を抜かれるような、不良の恋愛……面白そうですね」

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白石監督「『孤高の遠吠』に出てきたスクーターハンターの話みたいに、作家が思いつかない出来事が現実には起こっているはずなんです。今までとは違った観点を見つけられると一気にブレイクする気がします。
結局、映画は人間のおかしさ、不思議なとこ、面白さを描いているんですよね。
 
それは小林監督の『孤高の遠吠』を観ても、不良の生態の中にいろんな感情があるわけじゃないですか。その感情は、ヤクザだろうがサラリーマンだろうが関係なく共感できるものなので、面白ければ、マニアだけにとどまらず、きちんと伝わりますよ」

映画監督になりたければ、自分の中の衝動と向き合え

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――小林監督のみならず、多くの映画の世界を目指す若者に参考になるようなアドバイスありがとうございます。ぜひ、そんな映画監督を志している若者に向けてもメッセージをお願いします。

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白石監督「自分には何が撮りたいのかを見極めて、衝動に正直に動いてみるのはどうでしょうか。僕にその衝動があれば、もう少し早く監督になれていたかもしれません。またそれはそれで別の人生なのでしょうけど……。
 
というのも、『孤高の遠吠』を拝見して初期衝動が半端ないと思ったんです。
やっぱ映画を撮るのって1人で撮るにしても腰を上げるのって大変じゃないですか。
撮り始めるだけでも大変なのに、不良をホイホイ集めてきて、『この台詞言ってください』、『明日何時にここに来てください』って指示するわけでしょ。
俺、実はすごく真面目だったから、若い時は、あんな不良の人たちの目も見れなかったし、話も出来なかったよ(笑)」

一同:(爆笑)

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白石監督「ただ大人になっていけばいくほど、いろんな問題が出てくるから、衝動だけで映画は撮れないんです。いろんな交通整理が必要になってきます。
僕は逆にその部分が長けちゃっていて、『孤高の遠吠』のように衝動の塊のような映画を観ると、自分の衝動の無さに愕然としますけどね」

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――衝動がないというのが意外です。

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白石監督「まあ、衝動はもちろんあるんですけど……正確に言えば、今、その衝動にとりかかっている時間がないんです。
前作の『凶悪』の時は、進めている企画が1つしかなかったので、700日くらい『凶悪』のことだけ考えていました。
『日本で一番悪い奴ら』も『凶悪』という孝行息子のおかげで早めに動けて、時間を多く取れました。
それが今、少しずついろいろなお話もいただき、パワーバランスがちょっとおかしくなっていて……仕事の打ち込み方を考えなきゃいけない時期に来ていますね」

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――小林監督は、一回り下の中学生や高校生くらいの子たちに「映画撮りたいんですよね」と相談されたら何て返しますか?

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小林監督「質問の答えにはなっていないと思うのですが、最近、年下の子たちの行動に感動したことがありました。
『孤高の遠吠』を観てくれた富士宮のぼんくら中学生が、「俺は『孤高の遠吠』を越すんだ!」と宣言して、ローラーの付いている滑り台を自転車で下って、落っこちて、腕の骨を折ったみたいなんです。その一部始終を携帯で友達に撮ってもらって、動画サイトに上げたみたいなんですけど(笑)」

一同:(爆笑)

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白石監督「あったま悪いなー! 最高の中坊だね(笑)」

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小林監督「頭悪いですよね(笑)。『孤高の遠吠』を越すんだー! ドン! 骨折れたあああ!痛え! みたいな(笑)」

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白石監督「そいつ、小林監督の弟子にしなさいよ!(笑)」

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小林監督「それいいですね!(笑)」

タブーをエンターテイメントとして映す映画の時代を受け継ぎ、更新し続ける両監督。
この2人が、映画にしかできない表現を死守し、世界における日本映画の地位を奪還してしまうかのような熱気が感じられた。
小林勇貴監督曰く“荒々しい日本映画が更新された映画”『日本で一番悪い奴ら』は絶賛公開中!

(文:小峰克彦)

『日本で一番悪い奴ら』
公式HP: nichiwaru.com
2016年6月25日[土]全国ロードショーキャスト:綾野剛、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧 他
©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
配給: 日活
白石和彌監督Twitter:@shiraishikazuya

小林勇貴脚本作品『神宿スワン』:公式ページ 
小林勇貴監督Twitter:@supertandem

ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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