最初に断っておくが、今回の記事は簡素なものである。
僕の役目はいわばナビゲーター。主役はみなさん自身。そう、皆さん一人一人に今年1年――2016年のテレビ界を振り返ってほしいというのが、今回の主題である。この記事は、いわば、そのための“呼び水”。決して時間がないから手抜きでやるわけじゃない。決して、ね。
そして前回同様、今回もぜひ、皆さんのご意見をお寄せいただけたらと思います。書き方は最後にお知らせしますので、何卒、お付き合いを――。
1月 すべてはSMAPから始まった
個人的には、2016年の流行語大賞は「文春砲」だと思うし、今年の漢字は「驚」だと思いますね。それくらい、この1年間、「えっ!」と耳を疑うようなニュースが頻発した。その最たるが、1月のSMAP解散報道だ(とはいえ、スクープ自体は文春砲ではなく週刊新潮。で、それを察した事務所側が新潮の発売前に自らスポーツ2紙に自分たちに有利な記事をリークしたと)。
まぁ、裏では色々ありつつも、とにかく、そんな国民的アイドルの「事件」はNHKのニュースにも取り上げられ、新聞各紙も社会面で報じた。そして国民は5人が唯一揃うレギュラー番組『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)を注視する。
1月18日夜、冒頭7分間にメンバー5人が生出演した回の視聴率は、驚異の31.2%――。
この数字、今年の視聴率ランキングで、ほぼNHK『紅白歌合戦』に次ぐことが確定しています。それくらい歴史的出来事であったと。
とはいえ、それは派手なセットもCGもない、往年のヒット曲が流れるでも、抱腹絶倒のトークが交わされるでもない、極めて地味な絵面。それに、国民の3割がクギヅケになったのだ。まさに、「今この瞬間、世間が一番見たいものを見せる」というテレビの特性と力が発揮された瞬間だった(謝罪ではなく、5人の生の声という意味でね)。
良くも悪くも、テレビはまだまだ捨てたもんじゃない。
2月 『ナオミとカナコ』の素人犯罪にハマった
さて、話変わって2月。今年は総じて連ドラにとって厳しい年になったが、その一方で、視聴率はさておき、SNSで盛り上がるドラマも少なくなかった。それは悪くない話。1月クールの連ドラ『ナオミとカナコ』もその1つだった。
同ドラマ、大学時代からの親友同士のナオミ(広末涼子)とカナコ(内田有紀)が共謀して、佐藤隆太演ずるDV夫を殺して埋めるが、被害者の姉(吉田羊)から執拗に追い詰められ、やがて2人の犯罪が暴かれていく――という話。
肝は「素人犯罪」だ。とにかく2人の行動が穴だらけなのだ。なので視聴者は、いつバレるかと、毎回ハラハラさせられた。
脇も魅力的で、特に高畑淳子サン演ずる華僑の李社長が最高だった。「殺すのコトネ!」と片言の日本語でまくしたてる姿に、毎回大いに笑わせてもらったもの。俗に、優れたドラマには「魅力的な脇役」が付きものというけど、主役を食うほどの脇の存在感って、要は物語に奥行きがある証しなんですね。
タイムシフト視聴率が導入された今なら、同ドラマはもっと評価されていたかもしれない。
3月 『あさが来た』の視聴率にびっくりぽん!
連ドラが苦戦を続ける一方、NHKの朝ドラ(連続テレビ小説)は逆に視聴率を伸ばしている。
同枠は、2010年の『ゲゲゲの女房』を起点にV字回復を遂げたけど、今年3月期まで放映された『あさが来た』の期間平均視聴率は、23.5%。この数字、2002年の『さくら』を上回って、なんと21世紀に放映された朝ドラのトップなんですね。びっくりぽんだ。
同ドラマの何が面白いって、やはり脚本。そう、ドラマの8割は脚本なのだ。朝ドラの基本フォーマット「女性の一代記」を踏襲し、朝ドラの大先輩『おはなはん』(1966年)へのオマージュシーンも入れつつ、一方で初の“江戸時代スタート”というチャレンジも。さすが、史上最年少で向田邦子賞を受賞した大森美香サンの面目躍如である。
加えて、主役の波留は天真爛漫で打算なく、夫役の玉木宏も『のだめカンタービレ』(フジ系/2006年)の千秋以来のハマり役。さらにディーン・フジオカなど、優れたドラマに付きものの名脇役も物語を盛り上げた。
4月 新装開店『報ステ』から見えるリア充感
この4月はNHKや民放各局でニュース系番組のキャスター交代が相次いだが、テレビ朝日の『報道ステーション』も、12年間続いた古舘伊知郎サンから、メインキャスターが同局の富川悠太アナウンサーに交代した。
リニューアル最初の印象は、とにかくスタジオの雰囲気が明るかった。富川アナは生粋の体育会系の好青年だし、小川彩佳アナは帰国子女で、青学初等部からエスカレーターのお嬢様。2人が並ぶと壮観だ。心なし、小川アナは古舘時代より伸び伸びやっているようにも見えた。
ところが、同番組はリニューアルから4日目に、いきなり試練に見舞われる。熊本地震である。
4月14日21時26分、熊本県で震度7の揺れを観測。NHKの『ニュースウォッチ9』はそのまま番組を続行し、『報ステ』も急遽、震災特別編成で対応する。裏に競合するニュース番組がないのが報ステの強みなのに、強力なライバルの出現――しかも相手は「有事の際のNHK」だ。ここで大幅に視聴率を食われるようだと、報道番組としての看板に傷がつきかねない。
結果は――10時台のNHKが17.8%に対して、『報ステ』は13.7%。同時間帯の民放他局の震災報道特番は軒並み5~8%台だったので、民放ではダントツ1位。
新装開店の初週、いきなりの試練となったが、見事にそれを乗り越え、結果的に「局アナでも大丈夫」という評価を得たのである。
5月 『笑点』歌丸勇退、6代目司会は昇太へ
続いて5月は、『笑点』の月になった。笑点マンスリーだ。
まず5月15日の「50周年記念スペシャル」。番組最後に司会の桂歌丸師匠が勇退を発表して、この回は視聴率20.1%。
そして翌週22日は「歌丸ラスト大喜利スペシャル」と題して、番組最後に新司会者・春風亭昇太師匠を発表。なんと視聴率は驚異の27.1%。さらに翌週の29日放送では新メンバーに林家三平師匠、『24時間テレビ』のチャリティーマラソンランナーに林家たい平師匠を発表し、視聴率は同番組の今世紀最高28.1%を記録する――。
この間、芸能ニュースは毎週のように『笑点』の話題で持ち切りとなり、街の人々は大喜利の新司会者を予想し合った(本命は円楽師匠だった)が、結果は昇太師匠。
人気・実力では円楽師匠だが、番組的には彼をプレイヤーとして生かした方が面白いという日テレの意向だった。
6月 満足度ランキング1位だった『重版出来!』
4月クールの連ドラは、松本潤が主演したTBS日曜劇場『99.9-刑事専門弁護士-』が平均視聴率17.2%とトップ。次いで、大野智主演の日テレ水曜10時の『世界一難しい恋』が平均12.9%と、嵐がワンツーフィニッシュだった。
そんな中、視聴率こそ平均8.0%とイマイチだったものの、データニュース社が行う「満足度ランキング」で、4月クールの全作品・全話通じて最も高い満足度を得たのが、『重版出来!』の第9話だった。
その回は、『週刊バイブス』の人気作家、高畑一寸がライバル誌の『週刊エンペラー』から引き抜きを受ける話で、「作家が本当に描きたい作品とは何か?」の命題に迫った傑作回だった。
同ドラマの脚本は、『空飛ぶ広報室』や『掟上今日子の備忘録』、そして今や話題沸騰の『逃げるは恥だが役に立つ』でお馴染みの野木亜紀子サン。あらためて彼女の才能を認識した作品だった。
7月 大穴『HOPE~期待ゼロの新入社員~』の健闘
連ドラ7月クールは、前クールに続いて、日テレ水曜10時枠とTBS日曜劇場が平均2桁視聴率と健闘。前者が北川景子主演の『家売るオンナ』、後者が寺尾聰主演の『仰げば尊し』である。
そんな中、データニュース社が調査した「継続視聴率」によると、同クールの1位は、中島裕翔が主演したフジテレビの『HOPE~期待ゼロの新入社員~』だったとのこと。
これは驚き。同ドラマの視聴率は平均6.1%と、むしろ惨敗の部類だ。
でも、韓国ドラマをリメイクした脚本は王道で感情移入しやすく、河野圭太サンの演出も素晴らしかった(ちなみに、三谷幸喜サンが最も信頼を寄せる演出家ですね)。僕の見た限り、同クールの中でも出色の出来だったと思う。
キャスト陣も、主演の中島裕翔はジャニーズっぽさがなく、演技が自然。エンケン(遠藤憲一)も人間味のある上司を熱演した。何より山本美月のOL姿がハマっていた。これまで彼女が演じた役の最高傑作といっていいだろう。
8月 『マツコの知らない世界』が録画率でトップ
昨年から今年にかけて、TBSの復活が目立つが、バラエティではこの番組の存在感が大きい。『マツコの知らない世界』である。
後にブレイクするドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』も、実は前枠である同番組のアシストあってのもの。
『マツコの知らない世界』が画期的だったのは、深夜からゴールデンに上がる際に、30分番組から60分番組に変更された以外は、何一つ仕様を変えなかったこと。そのフォーマットは、MCのマツコが、ある分野に詳しい“スペシャリスト”のゲストからプレゼンを受けつつ、やりとりするだけ。21時台の番組で、ひたすら2ショット映像が続くのは異例である。
だが、これがよかった。シンプルな画は昨今のバラエティに食傷気味の視聴者を癒やし、深夜時代からのファンは変わらないフォーマットに安堵した。何より彼らの心を掴んだのは、マツコが“お茶の間側”の住人と思われたことである。
9月 イモトのアイガー登頂成功
これまで、キリマンジャロやモンブラン、ヒマラヤ山脈のマナスルや北米のマッキンリーなど、“世界の屋根”に挑んできたイモト登山部が2016年に選んだのが――「死の崖」の異名を持つスイス・アルプスのアイガーだった。
今回は有名な“北壁”じゃないものの、難易度の高いルート。特に山頂目前、両サイドが絶壁でナイフのように狭い尾根「ナイフリッジ」を歩くシーンは鳥肌ものだった。
見事、登頂に成功した9月25日放送の『世界の果てまでイッテQ!登山部アイガー登頂プロジェクト2時間スペシャル』(日テレ系)の視聴率は、17.5%。ちなみに、同番組は年間視聴率でも、2016年の全バラエティ番組のトップである。
日テレの日曜日の牙城は当分揺るぎそうにない。
10月 勃発!日曜ゴールデン戦争
――と思った矢先、この10月から打倒日テレとばかりに、民放他局が日曜のゴールデン帯に戦いを挑んできた。テレ朝が『日曜もアメトーーク!』、TBSが『クイズ☆スター名鑑』、フジが『フルタチさん』だ。テレ東もこのタイミングで『モヤモヤさまぁ~ず2』に3代目アシスタント福田典子アナを迎えた。日曜ゴールデン戦争の勃発である。
開戦日は10月16日。その後の戦局は――なんと、迎え撃つ日テレの数字が上がっているのだ。『ザ!鉄腕!DASH!!』は19%台を連発、『世界の果てまでイッテQ!』に至っては4週連続20%超えと絶好調。
つまり――メディアやSNSがこの戦いを煽った結果、いわゆる普段テレビを見ない人たちを戦場に取り込んだまではよかったが、彼らが見たのは結局、王者日テレだったというオチ。
挑戦者サイドで辛うじて健闘しているのは『日曜もアメトーーク!』くらい。他は、鳴り物入りで始まったフジの『フルタチさん』は視聴率5~8%の間をウロウロ、TBSの『スター名鑑』に至っては、スタート以来ずっと低空飛行。12月4日の『M-1グランプリ』(テレ朝系)の裏では、遂に2.9%にまで落ち込んだ。
来年春の改編期を乗り切れるか心配である。
11月 『真田丸』築城! 異例のアバンタイトル
そんな民放の戦の裏で、もう一つの合戦が始まろうとしていた。NHK大河ドラマ『真田丸』――大坂の陣である。
11月6日、この日はオープニングなしで、いきなり本編から始まった。いよいよ豊臣と徳川の戦が迫る中、豊臣方は堺雅人演ずる真田幸村の策で出城を完成させる。ドラマの終盤、幸村の傍らにいた高梨内記が城の名前を尋ねる。答える幸村「決まっておるだろう。真田丸よ!」
その直後、浮かび上がるタイトル。そして異例のオープニングへ――
ここまで10カ月間、アバンなしのオープニングだったのは、この日のための伏線だった。つまり、10カ月とこの日の最後の幸村の台詞「真田丸よ!」までが、壮大なアバンだったのだ。
『真田丸』の期間平均視聴率は16.6%。ちなみに、過去5年間で最高である。
12月 『逃げ恥』ブーム極まる
そして、2016年のテレビ界のラストを飾るのは――これしかないでしょう。ガッキー(新垣結衣)と星野源の社会派ラブコメディー『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)だ。通称、逃げ恥。
今年の流行語大賞の言葉を借りれば、とにかく、その視聴率の推移が神ってる。初回の10.2%から最終回は20.8%と倍増。何より全11回、一度も前の回から数字を落とさなかったのは驚きだ。
これは、長い日本の連ドラ史の中でも、『男女7人秋物語』(TBS系/1987年)と『半沢直樹』(TBS系/2013年)しか例がない金字塔。近年、連ドラが不振といわれる中にあって、この大ヒットは異例である。
勝因は主役2人をはじめ、役者陣の魅力だとか、エンディングの「恋ダンス」の戦略勝ちとか、テーマの旬感とかいろいろ挙げられるが、やはり野木亜紀子サンの脚本のクオリティによるところが大きいだろう。今や連ドラ界で、『リーガル・ハイ』の脚本家・古沢良太サンと並ぶ至宝である。
――以上、ざっくりと主要トピックを挙げてみましたが、皆さんにとっての2016年の「テレビの記憶」はどうだったでしょうか。この年末年始の機会に、思いを巡らせてもらえれば幸いです。
「テレビはオワコンだ」などと言われる時代だからこそ、見えてくるものもあります。大事なのは、どんな番組にも「志」があると信じること。そしてテレビを諦めないこと――。
初めから面白い番組なんてありません。面白がる目線が、面白い番組を育てます。
2017年、僕らはどんな面白い番組に出会えるでしょうか。
(文:指南役 イラスト:高田真弓)
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