“未完成の大人たち”の事情
“男女7人が携帯電話を見せ合うゲームをする”という設定で、イタリアで大ヒットした映画『おとなの事情』が日本でも公開される。
“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン”を掲げる、チェリーとしては、“おとな”被りのこの映画。ケータイを通して明かされる、完成されていない大人たちの、のっぴきならない“おとなの事情”は、童貞を引きずりながらも生き抜く我々、チェリーにも迫りくるものが。
そこで、編集長・霜田がイベントで司会を担当したご縁もあり、チェリーでは『おとなの事情』を連続紹介。パオロ・ジェノヴェーゼ監督に単独インタビューをおこなった。
イタリア映画といえば、ロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビューティフル』や、『おとなの事情』にも出演しているマルコ・ジャリーニ出演の『神様の思し召し』など、社会的なメッセージも込められたコメディが多く作られている。そこで、今回、監督には、イタリアのコメディ映画全般の話から、この『おとなの事情』の発想のもとや、印象に残ったセリフについてなどの話を聞いた。
イタリアのコメディは社会を語る
――コメディでありながら、社会的な風刺も多分に取り込んだ、素晴らしい作品でした。
「イタリアではコメディっていうのは、社会的な現実を語ることで生まれてきたんです。むしろ、その社会的な側面はイタリアのコメディにはなくてはならない要素だ、と言っていいと思います。ロベルト・ベニーニにしても、アカデミー賞をもらっているようなコメディは社会の現実を語っているんです」
――確かに、ただ笑わせるだけのコメディではないですね。
「そう、だからこの作品もただギャグで笑わせているようなものではないんです。例えば二人の登場人物に携帯電話を交換させるという設定を課して、その逆説的なシチェーションで笑いをとっているんですよね」
ケータイひとつで、人がわかる
――今回、携帯電話が非常に重要な役割を担っています。そもそも、監督は携帯電話というものにどのような考え方をお持ちだったんですか?
「携帯電話をはじめとする機械は私たちの生活を大きく変えてきています。もちろん、必ずしも悪いことばかりではなくて、きちんと使えば、連絡もとれるし、情報も入ってくるし、便利なシロモノです。しかし、病的に、依存症のように使ってしまうと悪い影響を及ぼします。それに、ケータイひとつ見るだけで、その人の色々なことがわかるんですよね。それで今回はこのケータイというテーマを選びました」
――ケータイを見てわかる色々なこと、とは例えばどんなことでしょうか?
「もちろん、今回の作品で登場したような個人の秘密もそうですし、今回削ったところでいうと、健康状態と経済状況ですね。今は自分の病気などの健康状態の記録や、振込などの金融機関とのやり取りも携帯電話でできてしまいますよね。登場人物の人間的な面を語るためにその2つの要素は削ってしまいましたが、今や携帯電話を見てわかる個人の情報は多種多様で膨大です」
壊れやすい人間の方が美しい
――結果、7人の登場人物の人間性がとてもよく伝わってきました。あの7人はどうやって作り上げていったのでしょうか?
「普段から人間の観察はよくしていますが、もちろん観察だけではなくそこにイマジネーションも加えてキャラクターにしていきます。今回は7人がグループで仲が良い設定です。今のイタリアを象徴するような側面をそれぞれに託すわけで、もちろん7人の背負っているものはバラバラなのですが、あまりに違いすぎてもグループとして一緒にいないわけですから、その塩梅も難しかったです」
――「俺達は壊れやすい」という台詞もありましたが、7人とも繊細な人たちに感じました。
「ええ、僕は、壊れやすくない人は面白くない、と思っているんです。例えばガラスとプラスチックだったら、ガラスは壊れやすくてプラスチックは壊れにくい。でも、ガラスのほうがキレイじゃないですか。だから、壊れやすいことは悪いことじゃない。むしろ、壊れやすい人間の方が美しいと思っています」
――さて、ここからは印象的だったセリフを3つあげていきながら、監督にその意図を解説していってもらえればと思います。
「愛がないのに離れられない」
――全ての、情熱が冷めたカップルに突き刺さりそうなセリフです。
「夫婦やカップルで、愛がないのに一緒にいる人達が多いですよね。彼らの多くがどうやって一緒に居続けるかを考えてしまうんですが、そうじゃない。どうやったら別れられるか、に思考を変えて学ぶべきだなと思うんです」
「みんな聖人なわけ?」
――ゲームを始める前、「秘密がない」という発言に対し、「みんな聖人なわけ?」とキレる女性がいて、そこからゲームが開始されていきます。
「人にはパブリックな生活とプライベートな生活がある、と思っています。プライベートな生活には秘密がつきものです。もちろんその秘密に大小はあれど、秘密のない人はいないだろう、というこのセリフのような思いが、この映画の発想の起点にもなっています」
「日本人ばりに粘る」
――会話のやり取りの中でサラッと出てくるセリフですが、日本人的にはひっかかりました(笑)。
「これは、イタリアでの日本人に対するイメージです。粘りっこい、という意味ではなく、諦めない、に近いですかね」
――ちなみに、今回来日されて日本で過ごして、そのイメージに変化はありましたか?
「日本人は諦めない、という印象はより強まりましたね(笑)」
来日中の舞台挨拶でも直前まで、日本観光を楽しんでいた監督。劇中にも出てきた日本人への印象は、強まる形でアップデートされた様子。
映画「おとなの事情」は、3月18日(土)から東京・新宿シネマカリテ、名古屋・名演小劇場、4月8日(土)から大阪・シネリーブル梅田、神戸アートビレッジセンターなど全国順次公開される。
(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)
映画『おとなの事情』
【ストーリー】
「今では携帯はプライベートの詰まったブラックボックス。ゲームをしない?食事中、かかってきた電話、メッセージをみんなオープンにするのよ」。友人夫婦7人が集う夕食の場で、エヴァはいきなりそう提案した。新婚のコシモとビアンカ、反抗期の娘に悩むロッコとエヴァ、倦怠期を迎えたレレとカ―ロッタ、恋人に今日のディナーをキャンセルされたペペ。「何かやましいことがあるの?」と詰め寄る女性陣に、男性陣も渋々ポケットをあさり、テーブルには7台のスマートフォンが出揃った。メールが来たら全員の目の前で開くこと、かかってきた電話にはスピーカーに切り替えて話すことをルールに、究極の信頼度確認ゲームが始まる――!
◆監督:パオロ・ジェノベーゼ◆脚本:フィリッポ・ボローニャ、パオロ・コステラ、パオロ・ジェノベーゼ、パオラ・マミーニ、ロランド・ラヴェッロ
◆出演:ジュゼッペ・バッティストン、アルバ・ロルヴァケル、ヴァレリオ・マスタンドレア、カシア・スムトゥニアク 配給・宣伝:アンプラグド 2016年/イタリア/イタリア語/96分 原題:Perfetti Sconociut otonano-jijyou.com ©Medusa Film 2015