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イタリアのコメディ映画『神様の思し召し』“障害者のフリ”シーンに見る日本の萎縮性

宗教観、職業差別意識などもからんだコメディ

第28回東京国際映画祭コンペティション部門に出品中の『神様の思し召し』。
主人公は自分が医師であることに、過剰とも言える自信を持っている。ある日、医大に通う自分の息子が「神父になりたい」と言い出して……というコメディだ。

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エドアルド・ファルコーネ監督は「バチカン市国がお金を出してるんじゃないかと言われたりもしたよ」と笑うが、コメディとはいえ宗教観、職業差別意識なども絡んだ、なかなか扱うのが難しいテーマの作品だ。

障害者のフリをするシーン

(c) 2015 WILDSIDE

(c) 2015 WILDSIDE

なかでも賛否が分かれそうなのが、主人公と主人公の娘の夫が、擬似家族を演じるシーン。そこで、娘の夫が、精神障害者のフリをするのである。彼の卓越した演技で、いったんはピンチを乗り越えるという、基本的には笑いのシーンだ。

また、物語の構造的にも重要なシーンでもある。主人公は、職業で差別する価値観を持った医師。娘の夫のことも職業で差別していたが、徐々に認めていくようになる。そのキッカケともなるのが、この義理の息子の演技シーンである。

職業差別が解消されていくキッカケが、このような差別ともとられかねないシーンというのも構造上、興味深い。つまり、ある種の差別意識を過剰に演じることによって、別の差別意識が消えていくのである。

日本では違和感を持つ人も……

だが、日本のテレビドラマだったら、おそらく自主規制をしてこのようなシーンは作らないはずだ。インターナショナル・プレミアとなった、本映画祭の初回の上映後のQ&Aでも、日本人の観客から「不快な思いをする人がいることも考えましたか?」と厳しめの質問が飛び、そのシーンの意図が聞かれていた。
だが、一方で、少なくともその上映の際には、場内で多くの笑い声が響いていたのも事実だ。

日本人のほうがイタリア人よりもセンシティブ

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個人的にも、全く不快感はなく、面白いシーンに感じられたので、記者会見で監督に、イタリアでの反応も含めて聞いた。

「侮辱的なものにしないために、脚本ではもちろん、大げさな演技をしてもらうことにした。そうすれば、侮辱的だとはとられないんじゃないかと思ったんだ。イタリアでは全面的にコメディであると打ち出したことで、大丈夫だった。日本人だと気を悪くする人がいるかもしれない。イタリア人よりも日本人のほうがセンシティブかもしれないね(笑)」との答え。

確かに、日本人は萎縮しすぎているのかもしれない。“精神障害者のフリをする”と文字にしてしまうと刺激的にも見えるが、実際の映画のシーンを見れば、決して悪い意味で刺激するようなタイプのものではないことがわかるはずだ。

むしろ、その文字面以上のパワーを持てるのが、感情や細かいニュアンスの補足ができる映画であるはずなのだが、どうも最近の日本ではネットメディアなどが、文字面だけで刺激的に煽るので(自戒の念もこめて、この記事がそうされないことを祈りながら)そのような表現がしづらくなっているのではないだろうか。

作品として秀逸なだけに、日本の表現のあり方を考えさせられる一本だった。

(文:霜田明寛)

【関連リンク】
チェリーボーイズが行く東京国際映画祭

『神様の思し召し』東京国際映画祭作品ページ

<作品情報>

(c) 2015 WILDSIDE

(c) 2015 WILDSIDE


神様の思し召し
God Willing [ Se Dio Vuole ]

監督/脚本 : エドアルド・ファルコーネ
キャスト:マルコ・ジャッリーニ、アレッサンドロ・ガスマン、ラウラ・モランテ、イラリア・スパーダ、エドアルド・ペーシェ、エンリコ・オティケル

© 2015 WILDSIDE
87分 イタリア語 カラー | 2015年 イタリア | 

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