ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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『東京喰種』プロデューサー・永江智大が語る「僕が映画を作るワケ」

『東京喰種 トーキョーグール』プロデューサーは30歳の新人プロデューサー

7月29日(土)に世界公開される映画『東京喰種 トーキョーグール』。原作は、世界累計3000万冊の発行部数を誇る超人気コミックで、松竹も製作にあたり、過去最大の製作費を投入したという。しかし、プロデューサーは若干30歳で、今回が初のプロデュース作品になるという、永江智大さん。その若さで、なぜこのような大作を担当できることになったのか? そしてどのような意図で、人気原作を映画化していったのか? 青春時代うまくいってなかったからこそ、映画に逃げていた人たちに向けた“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”としては、永江さんのあまりのイケメンっぷりに「恵まれすぎてるんじゃ?」と、若干の疑念を抱きつつ、インタビューを開始した……!

漫画『東京喰種 トーキョーグール』の映画化が決まるまでの5年間

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――まずは映画『東京喰種』がどのように企画として成立したのかを教えてください。

「『東京喰種』は、集英社の週刊ヤングジャンプで2011年に連載が始まった作品なのですが、僕はその翌年、コミックス3巻が出た頃に、普通にいち読者として読んで、のめり込んでいったんですよね。いちファンとしてハマる一方で、制作現場から、映画を企画できる部署に異動した後だったので、何か映画として形にできないかと考え始めたんです。そこからまずは松竹社内で企画を提案し始めました」

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――それが2012年ですから、だいぶ前ですね。

「ええ、最初は全く通らなくて。1年くらい経って、ほとぼりが冷めたというか、みんなが忘れた頃にまた出す、ということを繰り返していました(笑)。会社的に『じゃあ、この企画で集英社に持ち込もう』となったのが2015年頃です。ただ、そのときには、もう超人気作品になっていたので、うちだけじゃなく、他の主要な映画会社からはだいたい、映画化のオファーが来ている、という状況で。コンペ形式で戦うことになりました」

百戦錬磨のプロデューサーたちに囲まれコンペに

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――結果、コンペで勝つわけですよね。どう戦ったんですか?

「他の映画会社の方々は、もう百戦錬磨のプロデューサーたちが『この漫画は実写すればヒットする』と見込んでやってきていたと思います。そんな中、僕は特にプレゼンに秀でた人間でもないので、熱意だけは示しました。勝手にパイロットムービーを作ったんです。そこまで求められてはいなかったんですけどね(笑)。編集はプロの方におまかせしましたが、自分で構成も考えて、自分が『東京喰種』を実写化したらこうなります、というのをわかる形にしました」

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――ちなみに、決定後、永江さんに託された決め手のようなものは言われましたか?

「それが、いまだに実感がわかずでして、熱意だけはすごかったんだ、と自分に言い聞かせています」

変えなかった企画の軸

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――さて、企画が通ってからはどんなことに気をつけて進めていったのでしょうか?

「原作の魅力は、普遍的なテーマが詰まっている人間ドラマであることと、石田スイ先生の描くイラストのビジュアル的な美しさだと思うんです。これを実写化しても、丁寧に、きちんと表現する、ということは心がけました。この2つは、何度も出していた企画書の中で、毎回変わらなかった部分でもあります」

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――そして、結果“松竹最大の製作費”とうたわれるほど、お金が投資された作品となりました。

「まあ、お金をかければかけるほど、黒字化できるラインは上がっていくので、ハードルは上がっていきますよね。『東京喰種』は、国内だけでなく海外人気も相当に高い作品なんです。全世界累計で3000万冊以上売れています。それで、松竹としても世界に向けて勝負をしようという流れになり、日本国内だけではなく、世界に向けて発信するプロジェクトとして企画が進んでいったんです。既に24カ国以上で公開が決まっています」

未経験だからこその強み

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――映画ができあがって感じた自分の強みはありますか?

「石田スイ先生と集英社さんからは『実写化をするからには、見たことないものを作って欲しい』というオーダーがあったんです。たぶん、僕がこの作品を任せていただいた理由というのは、経験値でもなければクリエイティブなセンスでもないと思うんです。未経験だからこそできる強みというものがあって。怖いもの知らずじゃないですけど、何でもやっていくというのが唯一出せた取り柄なんじゃないかと思っています」

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――永江さんももちろんですが、実は監督も長編としては第一作目ですし、若く新しい才能たちで結集して新しいものを作ろうという意気込みを感じました。

「萩原監督は、SF映画を何本も撮っているとか、CGに強いといった監督では決してありません。ですが、やはりCM1本見ても、その演出力に秀でたものがあって、可能性を感じたんです。もちろん、萩原監督だけでなく、スタッフも海外から連れてきた方もいますし、衣装やマスクをお願いしたのは、映画畑ではないけど、CHRISTIAN DADAのデザイナーの森川マサノリさんだったりと、僕が面白いと思う方に、どんどんと声をかけていきました。そういう人たちと作った時に、映画が可能性の集合体になって、爆発的なものが生まれるんじゃないか、という憶測はありました」

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――そうして出来上がった作品。考えていたのとは違う方向で作品が取り上げられてしまった部分もあると思います。

「僕は、世の中で色々言われることに対するアンサーというのは作品で返すしかないと思っているんです。僕がすることは、作品に自信を持って、それを世に出せるよう注力することだ、と信じてやってきました」

制作現場で学んだこと

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――ここからは永江さんが、『東京喰種』を作るまでの人生にも触れていければと思います。初めてのプロデュ―ス作品であるこの企画を出すまで、どれくらいの企画を出してきたんですか?

「正確な数はわかりませんが、100本は越えていると思います。でも、出してなんぼの部署なので、同じ部署の人間と比べると、少ない方だと思います。僕は、仕事に限らずなのですが、何か興味を持ったものに対して、深く掘り下げていこうとするタイプなんですよね。だから、企画ひとつにも時間がかかってしまって…」

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――現在いらっしゃる、映画の企画をする部署に異動になる前は、制作現場も経験されているんですよね。

「ええ、入社してから3年ほどは、制作部という部署で現場にいました。皆さんがイメージしやすいテレビ業界でいうとADさんに近いお仕事ですね。当時は肉体的な負担が大きく、今は精神的な負担が大きいというイメージでしょうか(笑)」

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――何かその時代に得たものや、今に活きているものはありますか?

「やはり松竹というのは伝統のある会社なんですよね。山田洋次監督をはじめ、数々の映画監督、スタッフを輩出していますし、昔は大船撮影所という撮影所もありました。今は撮影所システムの中で映画人が育っていくというシステムは崩壊していますけど、僕は、大船の撮影所で育った人たちに、教わってきたんです。撮影所経験自体はないものの、そこでモノを作るスピリットのようなものを教わった気がしています。もちろん、映画はたくさんの人に見てもらいたいですが、商売として儲かれば何でもいいのかというと、そうではありません。そのスピリットは根底にあって、今回も『映画って何だろう?』というところから考えて、丁寧に丁寧に作っていきました」

人生の一部になれることが嬉しい

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――今、ジャパンプレミアなどの試写を終えて、いよいよ公開目前というタイミングです。ここまでやってきて、何が一番嬉しいですか?

「もちろん、作る過程は本当に大変なのですが、何よりお客さんのリアクションが嬉しいです。辛口の評価でもいいんです。作品がその人の感情を揺り動かして、人生の一部になれることが本当に嬉しいです」

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――その思考は、今回生まれたものなんですか?

「実は僕、学生時代に、自分で監督をして自主映画を撮っていたんです。そのときから、自分が作ったものに対して、人が反応することが嬉しくてやっていたんですよね。当時は、多くても数十人くらいが見てくれる、というレベルだったのに、今回は……封切ってみないとわからないですが、何万人という人が見てくれるチャンスがある。本当にありがたいです。そして、欲張りかもしれませんが、その数は、今後のプロデューサー人生で、どんどん広げていきたいと思っています。『より多くの人に見てもらえる映画とはなんだろう?』ということを追求していきたいですね」

<プロフィール>
永江智大
1987年生まれ。佐賀県出身。松竹株式会社所属の映画プロデューサー。
『ジャッジ!』(14年/監督:永井聡)、『母と暮せば』(15年/監督:山田洋次)など多数の作品に製作として携わる。本作が初プロデュース作となる。

(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)


■公開情報
映画『東京喰種 トーキョーグール』
■原作:石田スイ 「東京喰種 トーキョーグール」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
■出演:窪田正孝
清水富美加 鈴木伸之 桜田ひより 蒼井優 大泉洋
村井國夫 / 小笠原 海 白石隼也 相田翔子 栁 俊太郎 坂東巳之助
佐々木 希 浜野謙太 古畑星夏 前野朋哉 ダンカン 岩松 了
■監督:萩原健太郎
■脚本:楠野一郎
■音楽:Don Davis
■主題歌:illion「BANKA」
■配給:松竹
■公式twitter:https://twitter.com/tkg_movie
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