ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

「東京にいたらもたない」豊田利晃が小笠原諸島に移住してまで舞台を創ったワケ

映画監督・豊田利晃の手による伝説的公演『怪獣の教え』が1年ぶりに再演される。

『青い春』『ナイン・ソウルズ』『空中庭園』といった作品で高い評価を得てきた豊田監督。
だが、昨年の『怪獣の教え』は、単なる“映画監督の舞台進出作品”という枠では語ることのできない、豊田監督自身の手による映像や、自身も所属する音楽ユニットTWIN TAILの生演奏も融合した新たなものになっていた。
さらに、豊田監督からの現代日本社会に生きる人々への警告ともとれる、作品のメッセージ性の強さは、僕らの世界の見え方を変えるには充分なほど。

昨年の横浜公演を観客として見に行き、衝撃に震えた“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”の2人は、今回の再演を聞きつけ、豊田利晃監督にインタビューを依頼した。

インタビューでは、なんと、豊田監督が『怪獣の教え』の舞台でもある小笠原諸島に、移住していたことが発覚。前半では、移住の理由となった東京の空気の悪さや、この1年の日本社会の変化について聞いた。中盤では、豊田監督の創作の根底にあるものについて触れ、後半は、実際の『怪獣の教え』の脚本や過去の作品の台詞をもとに、豊田作品の言葉を解明することを試みた。

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『怪獣の教え』の方向に悪くなってきてしまっている日本

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――初演から1年が経ちます。この1年間で豊田さんが日本社会に感じた変化はありますか?

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「この作品は、小笠原から見えた、東京・都市やシステムを描いていますが、その見え方の根本は基本的には変わっていません。ただ、日本に関して言えば、『怪獣の教え』で言っていたような方向にどんどん悪くなっているなというのは感じます」

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――例えばどういうことでしょうか?

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「この1年で、天変地異が当たり前になってきていますよね。当たり前のように地震があって、洪水や竜巻で人が死ぬ。この前の台風だけで岩手で20人もの人が亡くなりました。福島の放射能もどんどん漏れだして、海流にのって、小笠原のほうまで届いている。そういう『文明が進化してきたことのツケがまわってきた』というところは、この作品のメッセージに合ってきていますよね。それで、再演にあたって、ひとつシークエンスを足しました。『人には船にのる理由がある』っていうシークエンスなんですけど、僕にとっては結構重要なシークエンスで、それを見てもらうと、前回見た方も感じ方が違うかな、と思います」

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小笠原諸島に移住!「東京じゃもたない」

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――豊田さんご自身に、この1年で変化はありましたか?

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「今年の5月に住民票をうつして、小笠原の住民になりました。島民です」

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――ええっ、それはまたなぜでしょうか?

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「東京にいると、なんだか調子が悪くなってくるんですよね。もちろん、こうやって仕事をしに東京には来ていますが、だいたい半分は小笠原にいます。隙をみては東京から離れないと、もたないんですよ……」

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――東京のどのあたりが豊田さんにダメージを与えているのでしょうか?

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「まあ、具体的に『コレです』といってもキリがないし、しょうがない話でもあるんですけどね。安倍マリオくんの言動に、色んな差別。ひとたび電車に乗れば、みんながスマホをしていて、気分が悪いじゃないですか。あんまり街にいると、バカが多くてイライラするんです。……と語ってしまいましたが、頭で考えてどう、という話ではなく、現実的に体の調子が悪くなるんですよね」

加速する東京離れ・地方移住の流れ

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――それで、病院に行かれたりするんですか?

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「行きますね。ただ、体をスキャンしてもらっても、どこも悪くないんです。精神安定剤を処方されます(笑)。すぐに名前を調べられて『あ、映画撮ってるんですねー。それはストレスがありますよねー』なんて言われるんですけどね……」

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――きっと、豊田さんが感じるほどではないと思うんですが、東京の空気の悪さみたいなものは、最近とても感じます。

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「実は、僕だけじゃなくて、とんがっている人たちが地方に行くっていう流れは、当然のことのようになってきているんですよね。沖縄は、震災後2万人増えたと聞いていますし、鹿児島にもヒッピーのコミューンのようなものができています。僕が移住した小笠原も、若者の人口が増えていて、平均年齢が30代なんですよ」

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「豊田は1年早かった」

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――この移住話を聞くと、冒頭の「『銭の巣』と呼ばれる都市で生まれ、不寛容の杭が打たれた地面で育ち」という台詞が、1年前より深く刺さってきます。豊田さんは『銭の巣』から移住したわけですし、不寛容という言葉も、1年前よりも、この日本を表す上でしっくりくる気がします。

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「1年前の横浜の公演のときに、上演中に突然、震えながら、客席で叫び声を上げて倒れた人がいたんですよ。そのとき、劇作家の飴屋法水さんが介抱してくれて、その方は救急車で運ばれたんですけど、飴屋法水さんにメッセージを残していたんです」

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――どんなメッセージだったんですか?

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「『豊田はさすがだ。だが、1年早かった』って。飴屋さんを通して聞くと、より怖くて。今、この話を思い出して、1年が経ったなあと感じました(笑)」

“作品のための言葉”を出すのではなく、矛盾が言葉になっていく

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――今回の作品にも近いくだりがありますが、オカシイ仕組みを「オカシイ」というと、それを言ってる奴が「オカシイ」とされる傾向がこの国にはある気がします。豊田さんも、主演の窪塚洋介さんも、その風当たりを少なからず受けてしまっているのではないか、と感じるんです。

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「まあ、2人とも黒か白かって言われたら黒だよね(笑)。陰謀論とも交差しているし、難しいところですよね」

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――それをきちんと言い続ける強さが、『怪獣の教え』まで含めたこれまでの豊田作品にはありますよね。

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作品を作るためにそういう言葉を書いてるんじゃなくて、先にそういう気持ちがあるから、かもしれません。僕が、そういった社会の矛盾を現実的に味わってきたので、そこがモチベーションになって作品を作るというパターンが多いです。ただ一方で、今の自分は楽しくいなきゃいけない、とも思っています」

自分が楽しくないと人を楽しませることはできない

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――ちょっと意外な発言です。どういうことでしょうか?

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自分が楽しくないと、人を楽しませることはできない、と思っていて。だから小笠原に行ったんです。東京の狭い部屋で、コツコツ脚本を書いて怒っているのって、カッコ悪いと思い始めて(笑)。青い綺麗な海に囲まれた場所で生活して、海で泳いで、それで言えることを探すほうが、精神的にも健康だな、と思ったんですよね。だから、楽しく生きたほうがいいですよ」

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――ありがとうございます(笑)。豊田さんが楽しく生きているせいなのかはわかりませんが、過去の豊田作品に比べて、今回の『怪獣の教え』は、よりストレートに豊田さんのメッセージが伝わってくる気がしました。

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「それでも、難しいって言われますからね(笑)。今回は、自分では結構シンプルだと思っていたんですけどね。もちろん、物語を描いたり、モノを作るのが日常なんで、今回のようなスパイ兵器が出てくるような話でも、よりわかりやすい形でエンターテイメントに乗せて、見せようとはしているんですけどね。これでも、難しいって言われるのかー、と思いますよね……」

窪塚洋介が自分で入れた「◯◯を変える」

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――シンプルかどうかという話で言うと、例えば『怪獣の教え』の序盤にこんなやり取りがありました。

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大観(演・渋川清彦)「おまえ、何か変えられるとでも思ってんのかよ?」
天作(演・窪塚洋介)「ああ、変えてみせる」
大観「何を?」
天作「世界」

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このあたりはだいぶ直球ですよね。今、この日本で「世界変える」って言ってそのままハマるのは窪塚洋介さんだけですよ!(笑)

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「そこの最後の『世界』の部分はね、脚本段階では僕は空欄にしておいたんですよ。それで、窪塚に、好きな言葉を入れるように指示したら、窪塚が『世界』って言うから、OKを出しましたね」

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――世界という答えが窪塚さんから返ってきたとき、豊田さんはどう感じましたか?

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「君ならできる、って感じがしましたよね。その台詞をサラっといやらしくなく言えるのは、窪塚洋介の才能です。さすが、9階から落ちても生きている男(笑)。窪塚とはドコモのCMで一緒になって以来、20年くらいの仲ですが、今回の台詞を言えるのは窪塚しかいないな、と感じてオファーしました」

映画では言えないことも舞台なら言える

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――ちなみに豊田さんの映画『モンスターズクラブ』では窪塚洋介さん演じる男の台詞に「世界に自分を変えられないようにすればいいんだ」というものがあります。ひとひねりしてあるその台詞と比べるとだいぶ直球です。

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「やっぱり、映画だとちょっとダサくて言えないことも、舞台だと流れるんで言えるんです。舞台は生モノなので、台詞で語っていかないと成立しない、という側面もあります。今回は詩の朗読で始まって、詩の朗読で終わってますが、それも舞台ならではですよね」

カリスマはいらない

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――あの詩の窪塚さんの朗読でシビレて舞台が始まるんですよね。やはり、“世界に自分を変えられない”ようにするためには、例えば窪塚さんのような、一種のカリスマが必要なんでしょうか?

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「うーん……カリスマなんて、本当は必要ないんじゃないでしょうか。もともと体制があって、そこに反体制として世に出てくる奴は、反体制のリーダーになりますよね。でも、そういう奴って、だいたい権力に溺れていってしまうんですよ。それが罠だと思うんですよね。
 
ファンク・ミュージックの創始者ともいえる、ジョージ・クリントンは自伝で、自分はそうはならない、といったようなことを書いてましたが、さすがですよね。本当に世界を変えようと思ったら、そういう考えのほうが新しいし、クレバーですよ。だから、そういうリーダーみたいな奴って本当は必要ないんだと思います」

変わるもの・それでも変わらないもの

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――最後の質問になります。『怪獣の教え』ではこんな台詞のやりとりがあります。

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クッキー(演・太田莉菜)「夢の中にいると、そこが夢だって気づかないもんね」
大観(演・渋川清彦)「夢ばっか見てらんねーよ」
クッキー「夢を見ることに、飽きることなんてないわ」
大観「……ふーん」
クッキー「それが天国でも地獄でも」
(中略)
クッキー「きっとあなたは他人の夢の中で生きている、ただのんきに日々を繰り返している、愚かな人間のひとりよ」

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夢という言葉がいい意味でも悪い意味でも出てきます。きっと、クッキーの言う“他人の夢の中で生きている”人というのが、『ナイン・ソウルズ』の松田龍平さん演じる主人公の台詞で言えば“人に流されて生きる奴”であり、『モンスターズクラブ』の台詞を借りれば“世界に自分を変えられてしまう奴”である気がします。そんな人たちにならないようにするためには、僕たちはどうすればいいのでしょうか?

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「俺、言ってること変わらないなあ(笑)。そういえば、こないだ、初期の3本(『ポルノスター』『アンチェイン』『ナイン・ソウルズ』)がイギリスでブルーレイで発売するので、そのために作ってもらった予告編を見たんだけど、俺、何も変わってないな、って思いました。

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ただ、やってることや本質が変わらない一方で、自分が変わるのは好きなんです。最近、胸板が厚くなったり、日に焼けたりしてきて。『豊田が小笠原でサーフィンしてる!』って驚かれると、シメシメと思います。そもそも、人間は細胞的にも日々入れ替わっていくって言いますしね」

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――住む場所や、見た目だったり、表面的なことは変わっていくと。

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「ええ、でも、そんな中でも変わらない、芯の部分があるんです。そこが、自分が何者か、という部分だと思うんです。自分を変えると、自分の変わらない部分に気づく。自分が何をしたいのか、何をするために生きているのか、を考える。現実の金の問題とかに、紛らわされたりせずにね。だから、質問に答えるとすると、自分が何者かを知る、ということじゃないですかね」

取材後、脚本を見返すと、詩の部分にこう書いてあった。

「自分が何者か気がついた者だけが、それができる」

(取材:小峰克彦・霜田明寛 文:霜田明寛 写真:浅野まき)

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■関連情報
『怪獣の教え』公式サイト

◯公演日程
2016年9月21日 (水) ~2016年9月25日 (日)
◯会場
Zeppブルーシアター六本木
◯演出・脚本・映像
豊田利晃
◯出演
窪塚洋介 渋川清彦 太田莉菜
◯音楽
TWIN TAIL
中村達也(Dr) ヤマジカズヒデ(Gt) 青木ケイタ(Sax&Fl) / GOMA(Didgeridoo)

満員御礼の伝説的舞台、あの怪獣が東京に上陸!

初演(2015年11月・横浜)で大絶賛された豊田利晃監督オリジナル脚本、窪塚洋介主演『怪獣の教え』
演劇と映画と音楽が融合した新しいエンタテインメント・ライブシネマ、待望の東京公演決定!

<あらすじ>
「世界をきれいにするために、怪獣を呼び起こすんだ」
小笠原諸島の青い海。海の上を漂う一隻の船。船の上には二人の男。
国家の秘密を暴露して、政府から追われる天作(窪塚洋介)。パラダイスで生きることの葛藤を胸に抱く、島育ちのサーファーの大観(渋川清彦)。東京で事件を起こし、島へ逃げて来た天作は従兄弟の大観に船を出してくれるように頼む。無人島にでも隠れるのだろう、と大観は思っていた。しかし、天作の目的は、祖父から教えられた、『怪獣』を蘇らせることだった。一隻の船に乗り込むと二人は海へ出る。昨夜、二人は世界の島を転々としながら暮らす、アイランドホッパーのクッキー(太田莉菜)と出会った。 クッキーは怪獣の教えの秘密を知っていた……。

●チケットリンク
チケットぴあ
http://ticket-search.pia.jp/pia/search_all.do?kw=%E6%80%AA%E7%8D%A3%E3%81%AE%E6%95%99%E3%81%88

ローソンチケット
http://l-tike.com/play/mevent/?mid=212081
イープラス
http://eplus.jp/sys/main.jsp?prm=U=14:P1=0402:P2=192455:P5=0001:P6=001
楽天チケット
http://ticket.rakuten.co.jp/

Zeppブルーシアターチケット
http://www.blue-theater.jp/

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