出会いと別れの春とはよく言われたもので、もはや使い古されたフレーズな気もしますが、そうは言っても別れが多い3月。忘れたくない“言葉”って、ありませんか?
わたしは印象に残った言葉を、手帳に書き留めておくのが好きです。ここ5年分の手帳には、恩師に言われた言葉や、電車で見かけた素敵なキャッチコピーなどが詰まっています。
そうした言葉を書き留めるために、マンスリーとウィークリーが一緒になった手帳を使っていましたが、ここ最近は分厚い手帳に嫌気が差し、昨年から思い切ってマンスリーのみにしてしまいました。
しかしそうしたら悲しいことに、わたしは大切な言葉を書き留める場所を失ってしまったのです。
そんなわたしに海外のガールズブームが救いの手を差し伸べてくれました。救世主の名前は“メモリージャー”。かわいくデコレーションしたジャーの写真がインターネット上にもたくさん上がっていますが、どんな風に使っているのか、その詳細までは検索しても出てきません。一体何を書いているのでしょうね? 今日は試しに、わたしと一緒にメモリージャーを作ってみませんか?
■中身は何でもいい?! メモリージャーの作り方は簡単すぎる
用意するものは空き瓶とメモ帳。わたしは100円ショップで瓶を購入して、机の奥から折り紙を出してきました。瓶はジャムやパスタソースの瓶を洗ったものでも全然問題ありません。
手順は実に簡単で、メモ帳などの紙きれに残したい言葉を書き、折ったり巻いたりして瓶の中に入れていくだけ。書く内容は何でもよいのでしょう、おそらく日記が発端なのでメモリージャーという名前がついたに違いありません。
わたしは小さい頃、大の折り紙好きだったので、ここは見栄を張ってバラの花を折りました。
とりあえず直近の刺さった言葉を書いて、入れてみたらこんな感じ。
このバラの中身、ひとつだけお見せしちゃいます。
大学で平田オリザさんの講義を取っていました。最後の授業で先生が発したこの言葉が印象に残っています。
多分数か月したら、わたしはこの言葉を忘れてしまうでしょう。そして青春という名の船に乗るわたしは、その荒波に揉まれ、癒しを必要とすることもあるでしょう。きっとそんな時にメモリージャーを開けるんですね。
■思い出をインテリアに
だったら自分が元気になる言葉を入れたい。そう思って昔の手帳をひっくり返してみました。
パラパラとページをめくり、メモリージャーに入れたい言葉を探します。
「大きなチャンスをつかみに行こう。」
なんでしょう、これ、自分で思いついたのかな……だとしたら今は随分野心を失ったものです。迷わず折り紙に書きます。
「月明かり どうしてそんなに 明るいの?」
やばい、自分なりの中二感が……わたしが詠んだ一句です……辛い、書きません。
「おまえの心にある傷を抱えて生きていけ。」
ふぉーっ、『ごくせん』のヤンクミの言葉です。たしか亀梨和也さん演じる小田切くんに言ったセリフのはず。書きます。
「庭でランチ。ホットドッグ。サラダ。オレンジジュース。」
ただの日記じゃないか……書きません。
「進路はその子の幸せでなくてはならない。」
昔の担任の言葉です。ああもうこれは殿堂入りだ……こんな名言忘れていたなんて……書きます。
気がつけば昔の手帳を見るだけで、こんなにグッときています。メモリージャーはわたしが書き溜めてきたこの言葉たちを、インテリアというオシャレに昇華させたものなのか……としみじみ。古い手帳をとっておくと風水的に良くないと聞きますが、メモリージャーなら問題ないかもしれません。いやわかりません。とりあえず今年の恵方に置いてみます。
■拝啓 未来の自分へ
熱しやすく冷めやすいわたしには、これを毎日続けるのは難しいと思います。でもその性格を逆手に取って、書ける時にいっぱい入れておくことで、メモを溜めたことすら忘れた頃に開けると楽しめそうです。
人間は忘れる生き物です。小学生の頃に見た空があんなに広かったのを覚えていますか。中学時代に「この友情は永遠だ」と思った時の気持ち、覚えていますか。きっとそういったことを忘れていくことも含めて、わたしたちは“大人になる”という言葉を使います。
でもわたしはいつも思い出すのです、幼い頃、子供の気持ちを忘れた大人にだけはなりたくない、と強く思っていたことを。そして今、あと10年経ったら大学時代のことをどれだけ覚えているんだろう、と考えます。わたしは、夢を夢で終わらせずに、叶えることができているのだろうかと。
忘れるという人間の機能が我々を救う事は大いにあります。日々の悲しいことや恥ずかしかったことをいちいち覚えていたらやっていられません。でも人は、その機能の副作用によって“老いていく”のもまた事実です。
わたしは今持っている夢や希望を忘れたくありません。平成不況の中に生まれ、高校受験の頃にはリーマンショック、そして景気が悪く世界情勢は不安定な世の中に放り出される通称“ゆとり世代”ですが、「夢は叶わない」なんて諦めている“さとり世代”にはなりたくないからです。
だから、せめてこの小さな瓶の中には、わたしの希望になる言葉を詰めておきたいと思うのです。
(文・原田真帆)