球界では「捕手の打撃は二の次」と言われる。捕手はバッティングよりも、リードや守備が重視される傾向にある。しかし、90年代に古田敦也(ヤクルト)が登場して以降、「打てる捕手」の存在がクローズアップされるようになってきた。
黄金期を築いた90年代のヤクルトには古田、00年代以降の巨人には阿部慎之助の打棒が大きく貢献していた。以下は、92年以降のセ・リーグ優勝チームにおけるレギュラー捕手のシーズン成績である(色囲みは打率.270以上、本塁打2ケタ以上、打点50以上)。
DH制のないセ・リーグの場合、パ・リーグ以上に捕手の打撃に関わる比重は大きい。捕手が打てなければ、投手と合わせて簡単に2アウトを計算されてしまうからだ。
92年以降の27年間で、優勝チームの捕手は96年の巨人を除いて、すべて100試合以上に出場している。2ケタ本塁打、50打点以上の人数は、27年間でともに20人ずつに上る。谷繁元信や村田真一のような「意外性の男」もいれば、古田や阿部、矢野輝弘のように確実に計算できる打者もいる。いずれにしても、優勝チームには相手投手からすれば、嫌な打者が存在する。
今年、セ・リーグに旋風を巻き起こしているDeNAは捕手3人を併用している。「優勝チームは捕手が固定されている」という定説を考えれば、意外な傾向だ。
実は、セ・リーグで規定打席に達している捕手は、ヤクルトの中村悠平だけ(記録は5月31日現在。以下同)。どのチームも捕手を固定できていない。逆に言えば、これが混戦につながっているのかもしれない。
プロ野球の歴史を振り返れば、捕手を併用しながら優勝したチームも当然ある。79、80年の近鉄は梨田昌孝、有田修三を、89年の巨人は中尾孝義、山倉和博、有田修三という捕手トロイカ体制を取っていた。
首位を走るDeNAは黒羽根利規、高城俊人、嶺井博希のうち、どの捕手を起用すれば効果的なのだろうか。まずは、以下の表をご覧いただきたい。
スタメン出場試合の勝敗を調べると、嶺井が最も高い勝率を誇っている。次に、スタメン試合の打率を見ていただきたい。
これまた嶺井がトップで、2割8分9厘。もちろん、試合数や打数が少ないため、有利になる点は考慮しなければならないが、今年のDeNAからも「捕手が打つと勝てる」という傾向が表れている。
さらに細かくデータを分析してみよう。スタメン時の勝ち試合と負け試合における各捕手の打率だ。
やはり、「捕手が打つと勝てる」と言えそうだ。逆に言えば、「打撃の調子の良い捕手を優先して使う」という選択肢が考えられそうだ。
たとえば、4月の7連敗中6試合にスタメン出場した黒羽根は、同期間中ノーヒット。
交流戦の2勝4敗を分析してみても、以下の数字が出る。
5月30日のロッテ戦では、「8番・捕手」の高城は4打席すべてを得点圏で迎えた。1打席目でレフト前タイムリー。それ以外の打席は凡退(3打席目はバント失敗)に終わったが、この先制打が大きく効き、5対1で大事な試合をモノにしている。
「8番・捕手」の打撃の重要性を思い知った試合と言えよう。
開幕から5月上旬まで高城は絶好調だった。嶺井も、スタメン試合では意外性を発揮していた。開幕からレギュラーを張っていた黒羽根は打撃不振だったが、5月22日の阪神戦では途中出場で2安打。5点差を逆転する口火を切っている。31日のロッテ戦でも、ライト線に二塁打を放ち、最近は復調しつつある。
3番から6番までの中軸打線が機能しているDeNAは、下位打線に頻繁にチャンスが回ってくる。だからこそ、「8番・捕手」の打撃は重要になってくる。
投手との相性やリード、守備は、言わずもがな最重視すべきだが、起用に迷った場合は打撃の調子を考慮してもよいかもしれない。
また、交流戦開始直前に嶺井が二軍落ちし、現在のDeNAは捕手2人体制に戻っている。だが、嶺井を呼び戻し、3人体制にしたほうが「代打」を出しやすくなり、積極的に試合を進められることも付け加えておきたい。
事実、捕手3人体制を取った4月24日から5月24日まで、DeNAは19勝7敗、勝率7割3分1厘を誇っていた。
(文:シエ藤)