春の珍事では終わらない。就任4年目を迎えた中畑清監督率いる横浜DeNAベイスターズの勢いが止まらない。
打線は3番・梶谷隆幸が快足で相手を掻き乱し、4番・筒香嘉智は三冠王を狙えるほど爆発している。投手陣に目を移すと、甲子園優勝投手で、8年目を迎えた田中健二朗が頼れるセットアッパーに成長。抑えにはルーキーの山﨑康晃が定着し、新人の連続試合セーブ数の記録も樹立した。
9年連続Bクラスのチームが、交流戦を迎えても首位を走り続けている。
そんな背景もあり、シーズン中にもかかわらず、「中畑監督は名将かどうか」という議論まで噴出しているほどだ。
今のDeNAは、中畑監督なくして存在しない。これはハッキリ言えるだろう。
中畑監督の素晴らしさは、“有言実行”する点にある。
会社勤めのサラリーマンは、みずからの経験を顧みてほしい。上司が部下を平等に扱わないケースは、多々あっただろう。「ウチの上司はあの人には甘いんだよな」「なんでいつも俺ばかり泥をかぶるんだ」と不満に思い、酒席で愚痴ったこともあったはずだ。
これは、プロ野球の監督でも同じだ。
就任当初は「どの選手も横一線」と宣言しながら、結局実績重視で選手起用をしたり、ベテランに必要以上に遠慮してしまい、不公平が生じてしまったりする監督は珍しくない。
“有言不実行”が目立つのだ。すると、選手の心は離れ、チームは崩壊へ向かう。
近年、選手に辛辣に当たった監督は、落合博満現・中日ゼネラルマネージャーくらいだろう。落合GMは監督時代、「能書き垂れるなら、俺の数字抜いてみろ」と選手に言い放ち、とにかく練習をさせ、チームを常勝軍団に導いた。
就任1年目、落合監督は「どの選手も横一線」と言った。そして、「若手だから」「ベテランだから」「地元選手だから」というような理由ではなく、「どの選手を使えば勝てるか」だけにフォーカスし、いきなりリーグ優勝を果たした。
選手起用に関しては、どんな方法を取っても賛否が分かれる。だが、8年間で4度の優勝という結果がすべてを物語っている。
同じ昭和28年度生まれの落合監督と中畑監督は、好対照な性格に思える。だが、“選手起用に関する有言実行”という点に関しては、共通している。
中畑監督は就任1年目の最終戦後、当時絶対的な4番だったラミレスに対して「あの守備では来年は使えない」と伝え、翌年の開幕後に拙守を連発すると、本当にスタメンから外した。
また、「わがまま言っている人間に付き合っている暇はない。仲間同士のいざこざ、言い合い絶対許さんぞ」と宣言した通り、主砲の中村紀洋が内村賢介に「俺の打席のときに走るな」と説教すると、二軍に落とした。翌々年、中村は同じような理由で再び二軍行きを通告され、オフには解雇された。
2千本安打を打っている大打者2人に対して厳しい措置をすれば、選手たちは「この監督の言葉にはウソがない」と信頼する。
“誰も特別扱いをしない”という点に、中畑監督の有能さが現れているのだ。
また、中畑監督は就任以来、一貫して「あきらめない野球」を選手に口酸っぱく説いてきた。
「たとえ、10対0で負けていても、ゲームセットまであきらめるな」
この発言は、現在に至るまで全くブレていない。言霊は選手に乗り移り、5月2日の中日戦では、9回2死ランナーなしの状況から抑えの福谷から5連打で大逆転勝利をもぎ取った。
落合GMも、選手には同じことを繰り返し言っていた。「能書き垂れるなら、俺の数字抜いてみろ」「上手くなりたいなら練習しろ」。
これもあれもと言われても、選手には浸透しない。
理論派を気取る指導者と違い、中畑監督は就任当初から「誰にでもできること」を選手にシンプルに伝え続けてきたからこそ、DeNAの選手には「あきらめない野球」が言霊となっていった。
有能な指導者は、同じことを繰り返し伝えて、意識下に染み込ませる。
いつだって答えはシンプルなのだ。
(文:シエ藤)