「会社勤めをしている人は自分の好きなことにかける時間がない」
私は社会人に対してそんなイメージをもっている。ゆえに大学4年という身分でありながら就職活動をしていない。
LINEスタンプ「エヅプトくん」を生み出して話題になったヨシナガさんこと、吉永龍樹さんが会社員だということを本書『言い訳ばかりの私を変えた夢みたいな夢の話』を読んで初めて知った。ヨシナガさんは「才能のない自分には独立するのは絶対に無理だ」と会社員をやりつつ、個人で活動もしている。
どうしてこんなにも自分の仕事以外のやりたいことを突き詰めることができるのだろうか。本書では、彼の仕事への向き合い方、そして彼なりの時間の使い方を、OLを主人公に置き換えた“フィクション”として描いている。
主人公のヤグチユミは会社が嫌いで、仕事もお給料のために苦痛な作業をしているだけだった。しかし、異動させられた部署には会社の中でも1番の変人で上司のヨシナガさんがいた。主人公は彼が毎日通っている定食屋で仕事への向き合い方を諭されることになる。
「そう簡単にはかなわない、荒唐無稽な夢を持っていれば、その人は人生でいろいろあっても、ぶれない生き方ができると思うんですよね」
「自分が今どんな仕事をするべきか。どんな企画を立てるべきか。どんな服を着るべきか。どんなものを食べるべきか。夢がきちんと設計してあれば、夢の実現に近いものを選べばいいだけなので、すぐに判断できるんです」
ヨシナガさんの言葉に促され「自分の本当に好きなこと」を仕事に変えていった主人公はだんだんと仕事に楽しさを見出していく。
ただの自己啓発本の一節だったら恐らくスルーしていたような言葉だが、物語の中でヨシナガさんの台詞になると、スーッと自然に染みてくる。本書を読み終わった時も、暑い日に冷たい麦茶を一気飲みしたようなスッキリとした気分になった。
上から押し付けるのではなく、そっと背中を押してくれる
そして、本書のもっとも素晴らしい点は、これらのヨシナガさんの考えを聞いた主人公が「出来る範囲で」実行しようとするところだ。ありがちなビジネス書、自己啓発本は「これを全部実行すれば夢が叶う!」、「このメソッドに習うべし」というようなスタンスで書かれていて、全く何も考えずに実行しがちだ。それでは結局何にも繋がらない。しかしヨシナガさんの時間節約方法を聞いた主人公が
「わたしも何かやってみます」
と言うことによって、物語に余白を残し、読者も「何か」自分が出来ることを前向きに考えるきっかけになる。
本書に書かれているヨシナガさんの時間の使い方はとてつもなくストイックだが、彼はそれを楽しんでいるようにも見える。私がここ1年くらいの間、頑なに持ってきた「就職しない」という意識を、たった1時間程で揺るがされた。こんなにも上手な時間の使い方ができるようになるのなら、就職するのも悪くないかもしれないと思った。
私の周りの大学4年生には、就職しても3年くらいで辞めて、海外に行ったり、もっと自分の本当にやりたいことに時間を注げるようにしたいという考え方をする人も少なくない。ということは、懸命に就活をして決まった仕事でも、単にお金を稼ぐための手段でしかないということだ。
20代の大事な3年間を単にお金を稼ぐために使うのは非常にもったいないことではないだろうか。そのような発想から単純に私は就職しないという手段を選んだのだが、皆が皆、そのような選択をすることはできないだろう。
そこで、自分の夢とは少し違うところに就職する予定だという人や、実際にそういう職場で働いている人、また、就活が上手く進まずに悩んでいる人に、この本を是非読んでほしい。ヨシナガさんの言葉を取り入れていくことで、将来に向けて気持ちが少しワクワクするはずだ。
(文:たなかもみこ)