夏休みから秋にかけて、様々な美術館で“子供も楽しめる”展示が行われる季節だが、現在、東京都現代美術館では『きかんしゃトーマスとなかまたち』展がおこなわれている。
今年、原作出版から70周年となる絵本『きかんしゃトーマス』の世界が、約200点に及ぶ原画や資料、実際に乗れるトーマスなど、様々な形で楽しめる。
その中で、異彩を放つ体験型展示の『シェアログ・トーマス』を発見。東京大学の廣瀬・谷川研究室と、東京都交通局のコラボレーションによるものだ。
自分の行動を楽しく可視化
こちら、読み取り端末に交通系ICカードをかざすと……
直近で、自分が電車に乗って動いた経路直近約20件分を、スクリーンの3D地図上で光が動いて見せてくれるというもの。そう、自分の行動を楽しく可視化してくれるのだ。もちろん、ICカード上のデータがもとになっている。
実際に、自分のカードをかざしてみると……
せ、狭い! 自分の行動範囲はこんなにも狭かったのか……。
そして、例えば清澄白河駅はトーマス、といったように、都営地下鉄の指定の駅とキャラクターたちがそれぞれ対応しており、各駅の通過履歴があると、キャラクターたちが登場する仕組みになっている。
他の人がやっているのを見てみると……
広い! 行動範囲が広いほうがたくさんのキャラクターが出てくるし、なんだか、広い人に負けた気分に。
“あなたにとって見える東京”が見える
少し落ち込んでいると、「いやいや、勝ち負けではないんですよ。男のコはそういう感覚に陥りがちですけどね(笑)」と教えてくれたのは、このシステムを開発した、東京大学教授の廣瀬通孝さん。
「これはね、“あなたにとって見える東京”が見えるんです。この3D地図は、行動範囲が狭いとクローズアップされるから街が細く見えるようになるんです。逆に、行動範囲が広いと俯瞰の視点になってしまって、細かく見えづらい。物事ってそういうものでしょう」
確かに、俯瞰の視点では見えなくなってしまうもの、見失ってしまうものがたくさんある。
行動範囲が広いほうが良いというわけではないのに、ついつい大きいものを勝ちと感じてしまうのは、もはや現代病かもしれない。
なんとも現代への警鐘を鳴らしてくれるようなインスタレーション作品だが、ここで使用されるのは、自分たちの行動の履歴の集積という、いわゆるビッグデータ。「プライバシー」なんて言われちゃったりもするのでは?
「そういうことを言うおじさん達も結構いたんですよ(笑)。でもね、こうやって楽しくデータを見せるでしょう。お互いのものを見あうと、『あ、そこ行ったの?』なんてコミュニケーションの起点になって、楽しみ始める。そうすると、だんだん言わなくなりますね」
情報の集積でもあり、良識ある活用が求められるビッグデータ。しかし、このように、ビッグデータを楽しく可視化させ、コミュニケーションの起点にすることもできる。地図上を無邪気に走り回るトーマスが、ビッグデータの新たな可能性を見せてくれた。
「あなたにとって見える東京が見えるんです」
自分の街の“見方”を見せてくれる、いわば新たな視点を提供してくれるインスタレーション。美術館を出た後の東京の街は、それまでとちょっと違って見えた。
(文:霜田明寛)
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東京都現代美術館『きかんしゃトーマスとなかまたち』