「ミスキャンで優勝したけど、自分に自信が持てなくて、面接でうまく話せない。でも女子アナになりたい」
そんな女子大生が出てくる本を読んで、憤慨した。
「美女である」という称号を手にしておいてそんなことを言われたら、美女じゃないわたしたちが、どうして自信を持てるというのか……。
会話コミュニケーションにもSとMがある
しかしその「自信のない美女」の話を読んで、気づいたことがある。世の中には「自分の話をするのが好きな人」と「人の話を聞くのが好きな人」がいるということだ。
どちらも好きという人もいるだろうが、要はどちらの方が、より得意かという話。例えるなら、どちらかと言えば、SかMか……みたいな話かもしれない。
なぜそんな話を持ち出したかって、それによって、学ぶべきコミュニケーションテクニックも変わってくるはずだからだ。
今回は、「自分の話をするのが好き」で「人の話を聞くのが苦手な人」におすすめの“参考書”を紹介したい。
「一生に一度の“思いの伝え方”」の本から学べるもの
『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』という本。著者はソーシャルトレンドニュースの編集長を務めながら、就活アドバイザーとしても活動する霜田明寛さん。
この本、タイトルから少し想像できると思うが、「面接で自分の魅力をきちんと伝えるための指南書」なのだ。帯には「一生に一度の“思いの伝え方”」と書かれている。
本の主軸となるのは、面接で上手く自己アピールできずにいた、とある女子大生の就活波乱万丈。彼女が霜田さんの指導を受けながら、自分のコンプレックスを魅力へと変え、そして内定を勝ち取るまでに身に付けたテクニックが紹介されている。
「伝えたがり」のわたしには共感できなかった
実を言うと、この本を読み始めた当初、わたしは全く共感できなかった。
誤解しないでいただきたいのだが、本に書かれているテクニックは納得できるものばかりだ。でもなぜこんなにも共感できないのか……。それはおそらくわたし自身が「自分の話をするのが好きな人間」だからなのだ。
上手い・下手はさて置き、それを苦手と思ったことはないし、どちらかというと、コンプレックスを人に話すのも好きな方かもしれない。だから正直、この本に出てくる「ミスキャンにまで出ておいて自分に自信が持てない。それを人に話すのが怖い」という主人公に自分を重ねることは全くできなかった(むしろ美人のくせに何を言うかと、少し腹が立ったくらいだ)。
「人の話を上手く聞きだせない」わたしには響いた
でも、この本の登場人物で1人だけ共感できる人物がいた。それが、著者である霜田さんだ。
この本は霜田さんが、自信を持てない学生と出会い、話をする中で、彼らが自分自身を最大限魅力的に伝えるための要素を“聞きだした”本でもある。
そのことに気づいた時、わたしの中で、この本の重要度がグンと増した。
自分を省みれば、圧倒的に「人の話を上手く聞きだす」能力が低いからだ。インタビュー能力が低いとも言えるかもしれない(ライターのくせに笑えないが)。
「部下や後輩を持つ“大人たち”」にも読んでほしい指南書
そんな前提のもと、ぜひこの本を読んでほしいと思うのは、就活生だけではない。「企業で部下や後輩を持つ立場の大人たち」だ。
この本を読むまでのわたし自身がそうだったのだが、この本に登場する「上手く伝えられない若者」たちに対し、どこか冷たい目で見てしまっていた。というか、「自分のことなのに、伝えられない? そんなわけないじゃん、甘えるなよ」と、無意識のうちに理解することを放棄した……というのが近いかもしれない。
でもこの本を読んでいると、その姿勢こそが、人の話を聞きだそうとしていない“甘え”だということに気づく。そしてそんな人間が上司や先輩にいたら……若い子たちはつらいだろうな、とも反省した。
「伝えられない子」たちに対し、どう接し、どう聞きだせばいいのか? この本に出てくる霜田さんの立場に自分を重ねて読み進めると、明日からの職場を「みんなが伝えやすい場」に変えるヒントが掴めるはずだ。
「伝える人」「伝えさせてくれる人」がいる世界は優しい
「人に思いを伝える能力」は重要だが、同様に、「人の思いを聞きだす能力」も重要だ。
その点、霜田さんは人の心の中を無理なく聞きだす天才なのだと思う。
思えばわたしの中途採用試験(現職場)の面接官は、何を隠そう、この霜田さんだった。実は面接に行く前、さほど入社したいと思わずに受けてしまったのだが、帰り道には「絶対入社して、あの人と働きたい!」と思うまで変化していた。霜田さんがわたしの話を上手く聞きだし、わたしの思う通りに“伝えさせてくれた”から。そういう人の前では、自然と「もっと話を聞いてほしい!」と思ってしまう。これはものすごい能力だと思う。そんな人の下で働ける部下は、幸せだ。
世の大人たちにはこの本を読んで、今の若者のリアルな悩みと向き合い、そして彼らが自身から伝えることができるような“空気づくり”を身につけてほしい。そんな大人が増えれば、世の中はとっても優しくなる気がするのだ。
(文:佐藤由紀奈)