女性に嫌われないビッチを演じる女優
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のちはる、『グミ・チョコレート・パイン』の美甘子と、童貞を翻弄するビッチの役を演じたら、今の邦画界に、この方の右に出るものはいない。
6歳から始めたキャリアは20年を越え、かつての盟友・ロボタックも「ビックリだワン!」な活躍を見せている女優・黒川芽以。あの頃からずっと、文化系男子の女神でい続けている。
しかし、黒川芽以の演じるビッチは、なぜだか女性に嫌われない。11月28日公開の最新作『愛を語れば変態ですか』でも、夫がいながらも複数の男性と関係を持つ人妻を好演。
なぜ黒川芽以の演じる役はビッチなのに女性に嫌われないのか? そして黒川芽以・本人はドッチなんだ? これらの疑問を探るため、本人に直撃インタビュー。話は過去の作品の解釈にまで及んだ。
刺激的なセリフにも抵抗がなくなった
――今回の『愛を語れば変態ですか』では、「上品なセックスをしました」みたいな、なかなか刺激的なセリフを言われています。
「あのセリフは言葉のチョイスが面白いですよね。ただ『セックスしました』だけだと下世話な感じだけど、「上品な」ってつくことによって面白くなっちゃう。でも、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』で、もっとすごいセリフ言ってるので、あんまり抵抗がないんですよね……今ここでは言いませんけど(笑)」
――きっと『ボーイズ・オン・ザラン』のラストシーンのことですよね。黒川さん演じるちはるが、銀杏BOYZの峯田和伸さん演じる田西に、駅のホームで言い放つ、刺激的な言葉たち……。
「そうですね、あのときは、最初に言葉づらを見たときは、ちょっと抵抗があったんです。でも、そこに込められた気持ちはもっと大きくて深いものなんだと気づいたときに、セリフ自体が刺激的であることは、意外に気にならなくなったんですよね。結果的に2人はすれ違ってしまって、どうしたらあの2人はうまくいったんだろうって考えると涙が出てきてしまいました」
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のちはるはビッチではない
――確かに、うまくいったかもしれない2人が、すれ違ってしまった結果のシーンですもんね。
「ちはるに関しては、私はビッチだとは思っていないんです。田西さんの裏切りがなければ、普通に2人はうまくいっていたかもしれないじゃないですか。だから、先に裏切ったのはあっちでしょ、そっちをみんな置いていってるよね、って思うんです(笑)。
ちはるは恋愛に慣れていないから傷ついたんだろうし、逆に慣れていないからこそ、松田龍平さんが演じていた青山みたいな男のところにいっちゃった、っていうだけなんじゃないかと思うんですよ。自分の女性の感覚を大事にして、そういう解釈で演じていましたね」
――おおお、確かにそうですね! ついつい、田西目線で見てしまい、簡単に『ビッチだ!』と断罪してしまっていました。童貞の悪い癖ですね。
実際の黒川芽以は……
――ただ、あまりにも、男をその気にさせる仕草や表情がうまいので、僕達童貞としては、黒川さんの素もそうなんじゃないかという疑念が湧いてきます。
「私は、ビールを飲んでる横で、膝に手をおいたりはしないですよ(笑)。ホントにそういう人って自覚がないと思うんですよね。それにああいう演技をしていて、逆に、これでほんとに男の人が落ちるのかなあって思います。自分がそういうふうに落としたことがないからですかね……」
――もしかしたら、普段は黒川さんがそういう女性ではないからこそ、不思議と女性が見ても嫌な感じがしないのかもしれませんよね。
「私自身が女を出す女が好きじゃないっていうのもあるのかもしれないですね。割と男っぽいんですよね。それに、私によく求められる色気ってわかりやすい色気じゃないですしね。
逆に『ガール』でやった役は、女を見せている女の役でした。あれは『自分がかわいいんです、見てください』っていうキャラクターだったので、ものすごく意識をして演技しました。だからあの役は、私が見てきたそういう女の子を演じていることになりますね」
――そうやって周りから吸収されるんですね。
「周りを見ちゃいますね。自分にないものはやっぱり人から盗まないと、どう頑張っても出てこないこともあると思うんですよね。だから、こういう職業の人はこんな行動をするんだ……みたいな感じで、普段から見てしまいますね」
――『愛を語れば変態ですか』のあさこは、ご自身と被る部分はありましたか?
「今回は終盤に、愛で世界を変える、みたいな大きいことを言っていますよね。言っていることは大きいけど、少なからずそういう部分はあるだろうな、と私は思っています。ああいったセリフに共感できたので、あの役にも現実味を持って、抵抗なく演じられたんだと思います」
自分でも、毎回顔が違って見える
――こうやって振り返ってみると、色々な役をやられていますよね。しかも、見せる表情が各作品によって大きく異なります。
「自分でも、作品によって顔が違うなあと思うことはありますね(笑)。たいして時間がたっていなくても違うんです。でも、ギリギリのラインの役が多いというか、一歩間違えばホントに嫌な女だなって思われてしまう役が多いですよね。
もちろん、嫌われて正解の役もあるとは思うんですけど、嫌われたら失敗の役もありますよね。今回のあさこも、嫌われたら面白くなくなってしまうと思うんですよね。結構な自信で、自分のことを『そこそこ美人』って言ってますしね(笑)。監督とも『嫌味っぽくないですかね……』と相談したんですけど、振り切ったほうが、うなずいてもらえるかなと思ってやりました」
――男性にとっては嫌味どころか、深く納得しました。そうだよな、そこそこ美人があんなことしてくれたら、世界は幸せになるよな……と。女優さんという仕事自体も、美人な方が世界に愛を振りまいてくれる仕事ではありますよね。
「私自身は、周りの人のことを幸せにできたら、自分も幸せになれるタイプなんですよね。人のために何かをするのが好きで、サービス精神旺盛といいますか。そういう部分も、あさこと似ていると思います。自分の力で、少しでも幸せになってもらえるんだったら、いいなあと思います」
――そんな仕事も、もう20年以上のキャリアです。
「6歳からなので、人生の半分以上やっていますしね。自分の一部になっているといいますか……。この仕事を自分から取ったら何も残らないだろうなと思うぐらいなんですよ。だから大切で、やめられないんですかね」
なかなかないタイプの笑える日本映画
――そんなご自身の出演作品のなかでも『愛を語れば変態ですか』はどんな作品なんでしょうか。
「『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や『グミ・チョコレート・パイン』が好きな人は、すごく面白いと感じてくれる作品だと思うんですよね。
私は映画を見ると、楽しくなったりつらくなったり、影響をドンと受けちゃうんです。ときどき、洋画のラブコメやアクションをラフにみたいなあ、と思うときもあるじゃないですか。そういった感じのときにまさに、いい意味で気楽に、疲れているときにも見られる映画だなと思います。でも、最後にすごいインパクトを残してくる、みたいな(笑)。
『なんなんだ、ふざけてんのか?』って思うかもしれないですけど、ふざけてるんです(笑)。でも、ほんとに面白いんです。私はすごく笑って、すごくスカッとしました。笑うことって大事なのに、なかなかくすくすと笑える日本映画もないですからね」
最後にもう一度「黒川さん自身も好きなタイプの映画なんですね」と聞くと「だいっっ好きですね。面白い!」と、より感情をこめた声で言ってくれた。
僕たちが大好きな黒川芽以が大好きな映画『愛を語れば変態ですか』は、過去に1度でも黒川芽以に翻弄された男子はもちろん、そうではない人たちも翻弄させてくれるに違いない。11月28日(土)全国ロードショー。
■関連リンク
・ソーシャルトレンドニュース特設ページ 11月 愛を感じる2作品『恋人たち』✕『愛を語れば変態ですか』
・映画『愛を語れば変態ですか』公式サイト http://aikata.jp/2015年11月28日(土)よりロードショー
【キャスト】黒川芽以、野間口 徹、今野浩喜(キングオブコメディ)、栩原楽人、川合正悟(Wエンジン チャンカワイ)/永島敏行
【監督・脚本】福原充則
(c)2015 松竹
(c)2015 松竹
【黒川芽以:過去作品解説】
『テツワン探偵ロボタック』
1998年から1999年にかけてテレビ朝日系列にて放送された特撮ドラマ。東映メタルヒーローシリーズのラストを飾った作品であり、当時11歳の黒川芽以のドラマ初レギュラー出演作でもある。
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
花沢健吾による人気マンガを、劇団・ポツドール主宰の三浦大輔監督で2010年に映画化。
黒川芽以はヒロイン・ちはるを演じ、松田龍平演じる青山と、銀杏BOYZ・峯田和伸演じる田西の間で揺れ動く感情を繊細に表現した。
『ガール』
奥田英朗原作の小説を、深川栄洋監督が2012年に香里奈主演で映画化。劇中でのからみはないが、本作には『愛を語れば変態ですか』の野間口徹も出演している。
『グミ・チョコレート・パイン』
サブカル男子に絶大な人気を誇る大槻ケンヂの半自伝的小説を、2007年にケラリーノ・サンドロヴィッチ監督・脚本で映画化。黒川芽以はヒロイン・山口美甘子を演じた。
(取材:小峰克彦・霜田明寛 文:霜田明寛 写真:浅野まき)