奇跡の実話を映画化
アカデミー賞女優ヘレン・ミレン主演最新作、クリムトの名画をめぐる感動の実話を描いた映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』が11月27日(金)より公開される。
ナチスに奪われた、自分の叔母の肖像画を取り戻そうと82歳で立ち上がった実在の女性、マリア・アルトマン。そして、マリアと一緒に裁判を起こす、若手弁護士ランドル・シェーンベルク。この実話を映画化したサイモン・カーティス監督にインタビュー。実際の話を映画化する難しさや、本作が匂わせる、過去と現在の関係性などについて、話を聞いた。
真実とエンターテイメントのバランス
――監督はBBCのドキュメンタリーでマリア・アルトマンのことを知り、映画化を自らご提案されたと伺いました。
「ドキュメンタリーを見て、映画になる話だな、と感じたんです。というのも、私はドキュメンタリーでは開けられない、人の心のドアの向こう側に、フィクションなら連れていけると考えているんです」
――事実でありながら、エンターテイメントにもしなければいけないというのは映画の難しいところでもあると思います。
「そうですね、真実を伝える部分と、エンターテイメントの部分のバランスをとるということはこういう映画に必要なことだと思います。
最近成功している映画には『イミテーション・ゲーム』にしても『英国王のスピーチ』『ソーシャル・ネットワーク』と、実際の話をもとにしたものが多いですよね。私は実在の人のリサーチをするのが大好きなんです。
そして、このタイプの映画の難しいところは、勝手に話を作り上げられないところですよね。見た人は、実際の話ではなく、映画として見たものを本当の話として受け取りますからね」
©THE WEINSTEIN COMPANY
――作る側も、実際全てを見てきたワケではないですから、埋めなければいけない部分も出てきますよね。
「もちろん、細かいことまで全部正しいかどうかはわかりませんよね。例えば、主人公のマリアと弁護士のランディがホテルで話した会話がどうだったのか、なんてことは実際はわからない。でも、ワシントンDCでプレミア上映をしたときに、弁護士のランディ・シェーンベルクさんご本人が来て「本質的に正しい」と言ってくれたんです。そのことは、とても誇りに思っています」
“訪れたい過去”と“もう見たくない過去”
――アメリカとウィーンという場所を越え、そして時代も超えるのがこの映画の特徴です。
「ある撮影日に、マリアとランディによる現代のロサンゼルスでの街中のシーンを撮ったあとに、クリムトが絵を描くシーンを撮ったんです。同じ日に、現代のロサンゼルスから100年前のウィーンにタイムスリップする。しかも、言語も英語からドイツ語に変わりますから、とても刺激的でした」
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――色々な場所と時代を演出する上で気遣った点などはありますか?
「この作品では、現代のマリアと、過去のマリアとが出てきますよね。ただ、過去のマリアといっても、彼女にとって“訪れたい過去”と“もう見たくない過去”があるわけです。平和に暮らしていた家族を、戦争で失っているわけですからね。脚本にもそれはいきていて、過去の悪を正そうと思っている部分と、もうこれ以上自分の痛みに向きあうのはやめようとする部分があります。演出ではそれをより出していくようにしました」
――マリアとランディの出会いのシーンでは、マリアはランディに「私は過去の記憶を死なせたくないの。人々はすぐ忘れる。特に若い人は」と言い放ちます。
「若い人は歴史を知らないですよね。そういったところへの懸念も出したかったんです。また、この話自体の歴史の中での文脈も意識しました。このクリムトのアデーレの肖像画は有名で、裁判も話題になった。でも、有名ではなくても他に同じようなケースがたくさんあるんだ、ということも明確にしたかったんです。ラストシーンはそういう意図も入れました」
監督は実はヘレンの元・お茶出し係……!
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――最後に、マリアを演じた女優、ヘレン・ミレンについて教えて下さい。
「彼女は、私がこの映画にかけるのと同じ量の熱意をこの映画にかけてくれて、とても感謝しています。脚本ができたときに彼女と2人で一緒に読んだんです。彼女は、このマリアというキャラクターをユーモラスでありながら、大きく怒っているキャラクターだと捉えていました。そこは演出にも取り入れましたね」
――一緒に読むとは、監督との距離も近いんですね。
「実は私が10代の頃、彼女のお茶出し係として働いたことがあって、長年の知り合いなんです。ですから、こういう形で一緒に仕事をすることが出来て、とても嬉しかったです」
(取材:小峰克彦・霜田明寛 文:霜田明寛 写真:浅野まき)
■関連リンク
・映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』公式サイトhttp://golden.gaga.ne.jp/11月27日より全国ロードショー
◆監督:サイモン・カーティス 『マリリン 7日間の恋』
◆脚本:アレクシ・ケイ・キャンベル
◆出演:ヘレン・ミレン『クィーン』(アカデミー賞主演女優賞受賞)、ライアン・レイノルズ『あなたは私の婿になる』
ダニエル・ブリュール『ラッシュ/プライドと友情』、ケイティ・ホームズ『バッドマン ビギンズ』 ほか
配給:ギャガ 提供:ギャガ、カルチュア・パブリッシャーズ
©THE WEINSTEIN COMPANY / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ORIGIN PICTURES (WOMAN IN GOLD) LIMITED 2015
【STORY】
20世紀が終わる頃、ある裁判のニュースが世界を仰天させた。アメリカに暮らす82歳のマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)が、オーストリア政府を訴えたのだ。“オーストリアのモナリザ”と称えられ、国の美術館に飾られてきたクリムトの名画<黄金のアデーレ>を、「私に返してください」という驚きの要求だった。伯母であるアデーレの肖像画は、第二次世界大戦中、ナチスに略奪されたもので、正当な持ち主である自分のもとに返して欲しいというのが、彼女の主張だった。弁護をするのは、駆け出し弁護士のランディ(ライアン・レイノルズ)。対するオーストリア政府は、真っ向から反論。大切なものすべてを奪われ、祖国を捨てたマリアが、クリムトの名画よりも本当に取り戻したかったものとは──?