ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

“女子の居場所潰し”に自覚的に 松居監督「アズミ・ハルコ」を語る

TIFF・矢田部氏が松居監督を熱烈歓迎

東京国際映画祭(TIFF)『Japan Now』部門のトークセッションと過去のインタビュー記事から、2016年の邦画を総決算してきた“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”。
レポートのトリを飾るのは、『Japan Now』部門ではなく、『コンペティション』部門に出品された『アズミ・ハルコは行方不明』。東京国際映画祭での上映は、12月3日に公開されるこの作品のワールドプレミアともなった。

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東京国際映画祭のプログラミング・ディレクター・矢田部吉彦氏に「本当にコンペティションにお迎えしたかった」と大きな熱意を注がれていたのは、その日、30歳最後の日となった松居大悟監督。同い年のプロデューサー・枝見洋子氏とともに登壇した。
企画開始当初、原作の主人公・安曇春子と同じ28歳だったという2人。上映直後の熱気冷めやらぬ観客のQ&Aに答えるかたちで、作品について語った。

枝見P「松居大悟は女性もリアルに描けるはず」

『アフロ田中』で映画監督としてデビューし、キャリアの初期は童貞男子が共感できるような作品の多かった松居監督。
そんな松居に、女性たちを中心とした群像劇であるこの作品の映画化をオファーした理由を枝見Pは「3年前に『自分の事ばかりで情けなくなるよ』を見たときに、松居監督なら女性を主人公にした物語を、あたたかく、リアルに描けるはずと感じた」と語る。

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また、松居監督は「自分にとって女子高生は一番遠い生き物でもあり、最強の生き物。主人公も嫉妬するような力強い存在にしました。僕は主人公の安曇春子と同い年の男ですが、20歳の愛菜にも、37歳の吉澤さんにも、女子高生にも…全女性に同化しようと思って作りました」と本作へのアプローチを明かした。

松居「“行方不明”のニュアンスが変わった」

ちなみに、松居監督は『アフロ田中』をはじめ『スイートプールサイド』など原作があるものの映画化も多い監督でもある。

松居は「原作ものをコスプレ映画にしてしまうのは、原作にも映画にも失礼」とした上で、原作小説『アズミ・ハルコは行方不明』に関して「読んだ後に、“行方不明”のニュアンスが変わった。ニュースで聞くと、ただ行方不明になったという始まりのネガティブな情報しか流れないじゃないですか。行方不明の向こう側を描ける気がした」と語った。

枝見Pも「今はSNSで自分の記録が残る時代だけど、いる場所が窮屈だったらどこにでも行けるんだよ、と伝えたかった」と、本作の企画意図を重ねる。

いかに男が女性の居場所を潰してきたか

と、女子高生に、28歳の主人公をはじめ、様々な年代の女性が登場し、女子に対するメッセージ性も強い作品だが、松居監督はどう対峙したのだろうか。
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「この映画を作ることを通して、女子高生の時代から20年くらいの間に、男がいかに女性の居場所を無神経に潰してきたのか、ということに僕は衝撃を受けたんです。そこに対して誠実に描かなければと思いました。人それぞれの思いが、見えない人にも影響しあっている、っていう人間讃歌にしたかったんです」

と、熱い想いを吐露。舞台挨拶中「無視されたくない」という言葉を重ねていたのも印象的だった。演劇・映画・ドラマ・ミュージックビデオと活動する範囲が多岐にわたるだけに、実力の割に、どの業界でもアウェイな扱いを受けてきた感もある松居大悟。今度の『アズミ・ハルコは行方不明』は、さすがに映画界も“無視できない”作品になっているはずだ。

(取材・文:霜田明寛)

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映画『アズミ・ハルコは行方不明』公式サイト
12月3日より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会キャスト:蒼井 優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい 加瀬 亮 菊池亜希子 山田真歩 落合モトキ 芹那

監督:松居大悟

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