ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

ロマンポルノは「原点回帰」ホラー映画の名匠・中田秀夫監督×飛鳥凛

『リング』シリーズをはじめ、『仄暗い水の底から』『クロユリ団地』など、ホラー映画のイメージが強い中田秀夫監督。しかし、そのルーツは日活ロマンポルノにあった……!

ロマンポルノ・リブート・プロジェクト、5人のラストを飾るのは……!

日活ロマンポルノの生誕45周年を記念して5人の監督がオリジナル新作を撮る、ロマンポルノ・リブート・プロジェクト。5作連続公開のラストを飾るのは中田秀夫監督の『ホワイトリリー』。

5人の監督の中で唯一、日活ロマンポルノでの助監督経験があり、かつてのロマンポルノの現場を体験している中田監督。ロマンポルノの巨匠・小沼勝監督に師事していた経験もあり、ロマンポルノへの愛は大きい。

これまで、『ジムノペディに乱れる』行定勲監督×芦那すみれさん対談『風に濡れた女』塩田明彦監督×間宮夕貴さん対談『アンチポルノ』園子温監督×冨手麻妙さん対談『牝猫たち』白石和彌監督井端珠里さんインタビューと、ロマンポルノ・リブート・プロジェクト5作品の全監督と主演女優にインタビューをしてきた、 “永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”。もちろん、今回も2人の対談を独占取材。

『ホワイトリリー』の主演女優は、桐山漣さん&菅田将暉さんのタッグで話題をよんだ2009年の「仮面ライダーW」の敵・ドーパントの園咲若菜役を務めた、飛鳥凛さんだ。

中田監督のロマンポルノへの愛を感じられる作品に、現代的な息吹をふきこみアップデートさせたともいえる飛鳥さん。2016年にロマンポルノを撮った意味を2人で存分に語り合ってもらった。

ロマンポルノが本当に撮りたかった

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――実は、中田監督は本当はロマンポルノが撮りたかった監督なんじゃないか、と思うくらい、ロマンポルノ愛の溢れた作品でした。

中田「ええ、もうその通りです(笑)。僕は学生時代に『これこそ、今の日本映画で見るべきものだ』と思いながらロマンポルノを見ていたんですよ」

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――ロマンポルノの何が、青年・中田秀夫をひきつけたのでしょうか?

中田「例えば、神代辰巳監督作品には、女性が髪を振り乱し太腿を晒しながらワァーっと男を追いかけて駆けていくような場面があり、女性のパッションや生き様を描いていることに憧れたんです。僕の大好きな溝口健二監督、増村保造監督の作品のような、女性の情念の激しさを描く映画の系譜にあるのが日活ロマンポルノだと思ったんですよね。それで、日活に入社して助監督として働き始めたんです。でも残念ながら3年ほど遅くて、監督として1本立ちするには、ちょっと間に合わなかったんです」

ロマンポルノは原点回帰

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――中田監督の入社からしばらくたった88年に、日活ロマンポルノは製作を中止してしまいますもんね。では、今回のロマンポルノの監督オファーは念願かなって、ということでしょうか?

中田「もう二つ返事で『是非!』とお返ししました。いわば、僕がロマンポルノを撮るということは原点回帰ですからね。かつて身を置きたいと思った場所が、一度なくなったけれど、復活して、そこに参加させてもらえる。もちろん『撮影期間1週間』といったタイトな制約があることは知った上でも、やりたいという思いは変わりませんでした」

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――そうして始まった、中田版ロマンポルノ。題材に女性同士の愛を選んだのはなぜなのでしょうか?

中田「日活ロマンポルノの中にもサブジャンルのようなものがあるのですが、そのなかでも直感的にレズビアンものだな、という感じがしたんですよね。やはり、女性のパッションを描くのが日活ロマンポルノだとすると、それが2人分、ダブルでやってくるわけじゃないですか。あとは、僕自身が、女性のキャラクターに思い入れを持ってしまう傾向があるというのも大きいと思います。ホラー映画をやっているときもそうなんですけど、「女形」というか、男女のツーショットだと、9割がた、女優さんを見ているタイプの監督なんです(笑)」

共感できる性別を超えた愛

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――飛鳥さんはああいった女性同士の愛って、共感できる部分はありましたか?

飛鳥「序盤にレズであることをからかわれるようなくだりで『先生だからです。女だからじゃなくて、先生だからです』と好きな理由を語るセリフがあるんですが、あのセリフがすごく心に刺さったんですよね。性別を超えて、人として好きだという感情はとても共感できます。あの直接的なセリフがあったからこそ、全編を通して、気持ちをつくれた気がします」

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――レズビアンの役も初めてなら、濡れ場も初めての、初めてづくしでしたね。

飛鳥「実はリハーサルのときに、うまくできなくて。どういうふうにしたら、もっと綺麗に、リアルに見えるんだろうと悩みながら現場に行きました。でも、監督が、指の使い方からワンカットごとの気持ちに至るまで、現場で説明をしてくださったので、自分の中での正解を持ってのぞむことができましたね」

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――気持ちまで説明してくださったんですね。

飛鳥「ええ、『ここでは、先生に対しての慈しみを持って……』といったような感じで。なので、濡れ場であることを過度に意識せずに、物語の中での先生との関係性をあらわすシーンとして、ナチュラルに演じることができました」

濡れ場はアクションシーン

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――監督が現場で演出を細かくされたのはなぜなのでしょう?

中田「濡れ場って、とても割り切った言い方をしてしまえば、アクションシーンに近いんですよ。だから、あまり台本に事細かに書かれていないんですよね。ですので、現場で演出した部分は大きかったと思います」

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――濡れ場が初めての飛鳥さんだからこその演出はありましたか?

中田「ラストの濡れ場は、セットではなく、実際の陶芸アトリエを借りておこなったんです。だから、女優さんたちが気を使わなくていいように、通りがかりの人たちに気づかれないようにしてね、といった指示をスタッフに出していたんです。ただ、テストが始まると、演技指導している僕が一番喘ぎ声を出していたらしく、それで人がアトリエの外にたくさん集まってきちゃったらしいんです(笑)」

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――らしいんです、ということは、記憶にないんでしょうか?

中田「ええ、そこまで大きな声を出していた記憶は…、でもあとから助監督に『監督の声が一番響いてました』と言われたんで、私が頑張っちゃったのは事実のようです。集中する、っていうのはそういうことなんですよ(笑)」

監督が喘ぎ声を出すのは伝統

飛鳥「監督をはじめ、みなさんが集中して、ひとつのものに向かってやっている現場でした。私はそこに必死にしがみついていった感じです」

中田「ちなみに、かつて、僕の師匠にあたる小沼勝監督が、そうやって喘ぎ声を出していたんですよ。今回の作品はアフレコではないんですが、かつてのロマンポルノってオールアフレコだったんですよね。そこで女優さんが『できません』みたいなことを言うと、小沼監督がそこで5分くらいの濡れ場の喘ぎ声を出すんです。それは『俺がやれるんだから君もやれるだろ』という意味なんですね。その監督の喘ぎ声がうまいかどうかという話ではないんですよね。だから、僕もうまいかどうかは置いておいて、やってみたかったんだと思います(笑)」

あえて撮った古典的な濡れ場

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――そうして作られていった濡れ場シーン。特に最初の、百合の中での2人の濡れ場は、とても美しかったです。

中田「あのシーンも、『小沼監督だったらどう撮るだろう?』と考えるところから始めました。あの時点では『ホワイトリリー』というタイトルは仮題だったんですが、このタイトルを意識したときに『白い百合の中での濡れ場』を思いついたのです」

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――そうなんですね、でも、はじまりは直感かもしれませんが、きちんと計算されて美しく撮られている印象を受けました。

中田「小沼監督はSMシーンであっても非常に美しく撮る監督なんです。耽美って美にふける、と書きますけれども、本作でも美にふけっている2人の濡れ場は、ちょっと抽象的な感じにしたかったんですよね。でも、決して、幻想でも妄想でもない。ちょっと力が入りすぎて、9分くらい撮っちゃったんですが。全体80分のうちの9分は長いので削りましたが、それでもあのシーンが、この作品の中で最初の見せ場ですし、最も長い濡れ場になっています。今回、少し古く響くかなというセリフは切っていったりしたんですが、このシーンに関しては、古典的な香りがするけれどもあえてやろうとした部分ですね」

問いかけた“現代のロマンポルノ”

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――そういった古典的な部分もありながら、今回、飛鳥凛さんという現代的な美女がはいったことで、現代の、撮影した2016年だからこそのロマンポルノになっていた気がします。

中田「それは嬉しいです。僕は、かつてのロマンポルノが好きで、古びない普遍的なものだと信じているがゆえに、『2016年版のロマンポルノってなんだろう?何をもって新しいと感じられるんだろう?』と常に問いかけていたんです。
 
一方で、20代の飛鳥凛さんはもちろん、カメラマンの近藤龍人くんが40歳くらいですから、リアルタイムでロマンポルノを見ていた世代ではない。今回の企画を開始した日活の女性プロデューサーも30代、40代です。リアルタイムでロマンポルノ知らない世代から新しい風が吹きこむことで、クラシックロマンポルノにはないものになっているんじゃないかなと思っています」

日活ロマンポルノが生んだ文化的な価値

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――はい、まさに今回のリブートプロジェクトを締めくくるにふさわしい、2016年に作った意味がとてもあるロマンポルノだった気がします。

中田「今回の新作と並行して、旧作の上映などをやっても、そこに若い女性のお客さんが結構来ているんですよね。ほぼ半世紀前の日活ロマンポルノを、今の若者たちが見に来ている。そこから感じたのは、日活ロマンポルノは、日活が生んだ、文化的にも映画史的にも価値あるものだということなんです。同時に、今、日本映画界ではオリジナルの企画が通りにくい、非常に難しい時期に入ってきています。それが、このロマンポルノという看板を背負えば逆に、オリジナルであることが条件になった。この新・ロマンポルノの5本が日本映画界へ一石を投じることになるという風には思っています。このプロジェクトが成功することによって、第二弾・第三弾と続いて、女性監督たちも含め、若い世代の監督たちにも繋がっていけばうれしいですよね。もちろん、僕も再登板する気は満々で、しっかり準備しておきます」

(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)

【関連情報】

ロマンポルノ・リブート・プロジェクト 公式サイト『ホワイトリリー』
2017年2月11日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督: 中田秀夫
出演: 飛鳥凛  山口香緖里 町井祥真 西川カナコ ほか
2月11日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©2016日活

飛鳥凛写真集「凛」発売

『ホワイトリリー』の公開を前に、飛鳥凛さん初の写真集 「凛」が発売!
映画『ホワイトリリー』の”アフター&サイドストーリー”をイメージして制作され、映画の余白を埋める作品となっています。
中田監督は「思わず嫉妬を覚えた。私の知らぬ、大人の飛鳥凛。」とコメントを寄せています

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