ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

「人は変われる」大野拓朗が振り返るデビューからの7年

映画初主演 猫忍・大野拓朗が語る自身の“変化”

朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』への出演や、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のロミオ役、そして水野敬也原作のテレビ東京系連続ドラマ『LOVE理論』での主演など、若手俳優の中でも近年、着実にその存在感・実力ともに増してきている俳優・大野拓朗。

今年1月クールに放送され人気をよんだドラマ『猫忍』の映画版(5月20日公開)で、ついに映画初主演を飾る。
猫に“変化(へんげ)”した父親と共に旅をするコメディタッチの時代劇でありながら、“人は変われる”というメッセージもこめられたこの作品。さて、果たして人は変われるのか?

ミスター立教コンテストをきっかけに芸能界入りしてから7年。主演の座に就くまでに自身も変わってきたであろう大野に、自身のこれまでの“変化”の経験について聞いた。ホリプロの50周年記念オーディションのグランプリという恵まれたスタートだったからこその葛藤や、デビュー前の家から出なかった時期のことなど赤裸々に語ってくれた。

デビュー直後に感じた実力のなさ

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――まずは、映画「猫忍」の主演のお話を聞いていかがでしたでしょうか?

「もう、めちゃくちゃ嬉しかったです! というのも僕は、もともと『猫侍』シリーズの大ファンで、大好きな作品が、今度は忍者になって帰ってくる。それも、まさか僕が主役で!? って、ものすごく嬉しくて光栄なことだと思いました」

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――大野さんにとっては初の映画主演でもありますよね。デビュー当時を振り返って思うことはありますか?

「デビューした当時、いきなりプロの中に飛び込んで、自分の実力のなさを感じて毎日悩んでいたんです。実力がないと、役者という仕事は一生やっていけないな、と感じて、徐々に徐々にステップアップしていこうと決めました。それで、修行しようと思って、舞台など色々なことに挑戦させてもらいました。もちろん、『いつかは絶対にトップを取る』という強い気持ちはありましたよ」

「トップを取りたい」気持ちを持って、日々を着実に

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――その「トップを取りたい」という気持ちはデビュー前からあったんでしょうか?

「いや、このデビューする前は、この世界には全く興味がなかったので(笑)。でも、デビューから1年以内の割と早い段階で思い始めましたね。そこからは『昨日の自分より、今日の自分が絶対にひとつでも成長しているように』と思いながら、ただただ必死に過ごしてきた、という感覚なんです」

感情は生まれても、それを伝える技術がなかった

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――デビュー直後の「実力が足りない」という危機感からの努力があって、今に至るんですね。その感覚を抱いていたのはいつ頃までなのでしょうか?

「デビューしてから、舞台を始めるまでずっとですね。期間にしたら3年間くらいです。例えば、すごく伝えたいことがあっても、文字や言葉を知らなかったら伝えられないじゃないですか。それと一緒で、自分の中に感情があっても、役者としての技術がないとそれを伝えられないというモヤモヤを感じていたんです。この1年くらいは、やっと、やりたかった悪役もいただけて、表現のできることの幅が広がってきたことを感じます。もちろん、今も満足はしていなくて、死ぬまで成長し続けたいと思っています

変わろうとするときは、本気でやらないと拒否反応が出る

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――まさに『猫忍』にこめられたメッセージでもある“人は変われる”ということを体現されてきた感じですね。

「ありがとうございます。『やっと……』っていう感じですけどね。最近になってやっと、変わってきたと思える感じです」

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――では大野さん自身も“人は変われる”と思いますか?

「ええ! でも、変わるのは大変です。本当にしんどいです。やっぱり、人はすごいどん底に落ちないと変われないと思うんですよね。それに、変わろうとするときは、本気でやらないと

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――何か実体験がおありのような……。

「僕、現役の大学受験のときに、全滅したんです。それで、自宅浪人を始めたんですよね。それで、全滅がわかってからの約2カ月間、ずっと家にこもっていたんですよ」

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――大野さんが、家にこもる……!

「ええ、もう1回も日差しも浴びないで勉強していて、昼夜逆転もしていました。ただ、そもそも勉強が好きじゃなかったんですよね。だから、すごいストレスで『大学受験のためだけの勉強って将来に必要なのか?』というところから考え始めて。自分ってなんだろうというところまで悩んでしまったんです」

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――だいぶ、悩みが深化していってますね……。

「自分ってどんな性格で、みんなの中でどんな立ち位置で会話をしていて、どんな顔で笑っていて……全部忘れて、わかんなくなっちゃったんです。自分はなんのために生きてるのか、ずっと考えていましたね」

親友が付き添ってくれた“心のリハビリ”

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――そこから脱したタイミングはいつだったんですか?

「自宅にこもって2カ月ほど経った頃、中学の同窓会があったんです。気晴らしに行ってみたら、やっぱり楽しかったんですよね。そこから親友に心のリハビリのようなものにつきあってもらったんです。そういう生活をしていたら徐々に復活していきました」

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――考え方が変わってきたということでしょうか?

「それまでは割とネガティブなタイプだったんですけど、ポジティブになれましたね。友だちも家族も、浪人中に1回も『ちゃんと勉強してるの?』とか聞いてこなかったんですよ。キツかった最初の2カ月は、勉強せずに読書や考えごとをしている自分に罪悪感があったんです。ただ、復活し始めてからは、部屋から出て階段を降りれば、ご飯があって、あったかいお風呂があって……という実家の状況に『支えてもらっている』という実感が湧いてきたんです。悩んでいた、生きていく意味についても『支えてもらってたことの恩返しをするために、人は生きていくんだ』って思ったら、スッキリしたんです」

「努力していればなんとかなる」と思えるようになった

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――素晴らしい変化ですね。

「いい意味で楽観的になれました。性格が矯正された感じですね(笑)。もともと、『なんとかなるでしょ』ってタカをくくって努力しないようなタイプではなかったんですが、『努力してればなんとかなるでしょ』と思えるようになりましたね」

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――しかも、10代の割と早い段階でそう思えたんですね。

「あの頃はやっぱり、受験が全てで。本当につらかったから、『もうこの先、これ以上つらいことはないだろう』『これからは努力できるだろう、人生なんとかなるだろう』って思えたんですよね。もちろん、大人になってから、他にも大変なことはたくさんありましたけどね(笑)」

オトナにも子どもの頃のようなワクワクを

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――そこからは、そのとき感じた「恩返しのため」という気持ちが、俳優活動を続けられる理由になっているのでしょうか?

「あとは、日々の生活に潤いや感動を与えられる存在になりたいっていう気持ちもありますね。実は僕、もともとはプロスポーツ選手のメディカルトレーナーになろうと思っていたんですよ」

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――それは意外でした!

「まあ、もともとはプロスポーツ選手になりたかったんですけどね。それが無理なら、尊敬できるスポーツ選手たちを支える側になろうと思って」

 

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――スポーツという世界自体に強い憧れがあったんですね。

「スポーツって日常生活に潤いや感動を与えてくれるものじゃないですか。子どもだけじゃなくオトナたちも、ウォーって叫んだり、負けたときは大号泣したりする。年と共にそんな機会が減っていく中で、それを与えられるのは素敵だな、と」

芸能界の中でも泥臭く、深まって生きてゆきたい

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――スポーツトレーナーにこそならなかったものの、今の大野さんの仕事もそういう仕事ですよね?

「ええ、なので、この仕事を始めてすぐ、スポーツトレーナーへの未練はなくなりました。自分自身がその感動や潤いを与えられる立場になったので、願ったり叶ったりですね」

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――職種は違えど、やりたかったことは達成されている。素晴らしいです。ちなみに芸能界に飛び込んで7年以上を過ごしてみて、その世界の印象はどのようなものですか?

「うーん、華やかな部分も、もちろんあるとは思うんですけど、それは自分から華やかなものを求めに行かないと得られない部分なんですよね。僕は、この世界の中でも、泥臭く生きて、人として深まりたいという思いのほうが強いんです」

最近変わってきた部分

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――お話を伺っていると、近年の大野さんのご活躍は強い意志で深まってきた結果のような気がします。――では、大野さんが最近変わったなと思う部分はありますか?

「日頃の感謝を伝えるために、ちょっとしたお土産やプレゼントを買っていけるようになりましたね。『明日あの人に会うから、これを買っていこう』なんて思えるようになったんです(笑)。そういうことをやっているとなぜか自信がつくようになってくるんですよ。あげた方も、もらった方も心が豊かになっていくといいますか。」

異例のスケジュールの中、空気を読んで差し入れ

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――さすが主演俳優です!じゃあ、今回の『猫忍』の現場でも何か持って行ったりされたんですか?

「そうですね。『みんな疲れてきているかもしれないから、甘いもの入れようかな』みたいな(笑)」

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――日々ちゃんと現場を見ていらしたんですね。さらに人だけではなく、現場に猫の金時がいるというのも大変な状況だと思うのですが……。

「それが、金時は、台本を読み込んでるんじゃないかっていうくらい、良い芝居をしてくれるんですよ。鳴くタイミングも表情も台本通りで(笑)。もう、金時のお陰で成り立った現場と言ってもいいくらいです。金時はとても素敵でした」

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――大野さんの共演者を立てる姿勢も素敵です。ちなみに、もともと動物はお好きだったんですか?

「実家に犬が二匹いて、それこそ自宅浪人中に、犬にも救われたんです。高校時代までの、部活をやっていて家にあまりいなかったときよりも、一緒に過ごす時間が長くなるじゃないですか。そうすると、心の距離が縮まった気がして、だんだん犬心もわかるようになってきたんですよ(笑)」

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――犬と猫との差はあれど、今回の主人公・陽炎太にも近い感覚じゃないですか!

「たしかに、浪人中のあの頃も、今ここに繋がっているのかもしれないです。動物に癒やされて動物が大好きになったんです。それも自分を変えてくれて、今こういったお仕事ができているのかもしれません」

 

猫を飼うとしたらつける名前は……

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――今回お話を伺えた、デビュー前の苦労してきた時代から、全てがつながっているんですね。最後に、『猫忍』には動物にまつわる名言も出てきましたが、何か印象に残っているセリフはありますか?

「『人は猫の名前に願いを込める』というセリフですね。僕自身、今、猫を飼おうかなと悩んでいることもあって、印象に残りました」

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――ちなみに今の大野さん自身の願いはなんですか?

「より魅力的な人間になりたいということですね。話を聞いていて面白い人間”にはなれないかもしれないけど、 “見ていて面白い人間”にはなりたいです」

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――ではズバリ、大野さんが今、猫を飼うとして名前をつけるとしたら?

「…『白玉(シラタマ)』ですかね(笑)。金時みたいな和風な名前がかわいいなと思って。宇治金時にもシラタマは入ってるし……」

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――素敵な名前ですけど願いがこめられてないじゃないですか!(笑)

「『食べたい』っていう願いってことで……それは欲求か(笑)」

(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)

プロフィール
大野拓朗:1988年生まれ。ホリプロ創業50周年記念事業『キャンパスター☆H50』でグランプリを受賞し、同年、映画『インシテミル~7日間のデス・ゲーム~』で俳優デビュー近年は『三匹のおっさん』シリーズ(14年、15年、17年)、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(16年)、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』(15年)等話題作に出演し注目を集める。映画出演作は、『サバイバルファミリー』(17年)、『高台家の人々』『セーラー服と機関銃』(16年)等。舞台でも活躍し、人気ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(17年)のロミオ役で好評を得た。


【関連情報】
映画『猫忍』5月20日(土)より角川シネマ新宿ほか全国公開
大野拓朗
佐藤江梨子 藤本泉 渋川清彦 鈴木福 ふせえり 永澤俊矢 / 柄本明
麿赤兒 / 船越英一郎
語り:森本レオ 監督:渡辺武 脚本:永森裕二/黒木久勝/池谷雅夫
配給:AMGエンタテインメント
(C)2017「猫忍」製作委員会

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