ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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第32回 2017連ドラ総決算

 最初に断っておきますが、この記事で取り上げていないからといって、決してそのドラマが劣っているワケではありません。
 1年間に放映されるGP帯の民放の連ドラは約60本。それにNHKの連ドラも加えると――全てを扱うのはとても無理。そこで視聴率がよかったり、比較的話題になった作品をピックアップしつつ、2017年の連ドラを振り返りたいと思います、ハイ。

1月 木村拓哉vs.草彅剛で始まった2017連ドラ

 まず、2017年の連ドラ界で最初に話題になったのが、前年大晦日で解散したSMAPのメンバー2人、木村拓哉と草彅剛がいきなり同じ1月クールに登場したこと。前者が『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)、後者が『嘘の戦争』(フジテレビ系)である。

 『A LIFE』はキムタク演ずる天才外科医・沖田一光を中心とした医療ドラマの群像劇。天才外科医というと、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)をはじめ、医療ドラマの主人公の鉄板キャラだけど、同ドラマが珠玉だったのは、初回でいきなり沖田に失敗させたこと。これでスーパードクタードラマが人間ドラマになった。悩めるキムタクはちょっと絵になる。そして共演者で目立ったのが浅野忠信演じる副院長・壮大。彼の“怪演”は同ドラマのもう一つの見せ場で、彼の周りだけまるで昼ドラのような空気が流れていた。

 一方の『嘘の戦争』は、『銭の戦争』に続く復讐シリーズ第2弾。草彅剛演ずる一ノ瀬浩一は天才詐欺師。草彅クンお得意のヒールキャラで、毎度のことながら役に憑依する様が見事だった。笑ったのは、藤木直人演ずる二科隆が一之瀬の正体を探ろうと名刺にあるニューヨークのオフィスに電話したら、たった今、日本から到着したばかりの水原希子演ずる相棒のハルカが電話を取り、「ハロー」。そして一之瀬に「間に合った」とLINEすると、「よかった。すぐ帰国して」と。こういう遊びができるのも草彅ドラマの特徴である。

 マスコミは2人の同一クール対決をやたら煽ったが、僕に言わせれば、それぞれの特技を生かした盤石のドラマで、SMAPの2勝0敗という印象だった。

2月 登場・柴咲コウ。異例の子役4週だった『おんな城主 直虎』

 2月になると、NHK大河『おんな城主 直虎』にようやく主演の柴咲コウが登場する。そう、かのドラマは異例の“子役4週”で始まったのだ。演じたのはNHK朝ドラ『わろてんか』でもヒロインの幼少期を演じた新井美羽。その異例の措置は脚本を担当した森下佳子サンの作戦で、亀之丞と鶴丸(後の井伊直親と小野但馬守政次)との3人の関係性を描くには、幼少期の描写が肝になるからという。事実、2人が死ぬ12話と33話は物語のターニングポイントになった。特に高橋一生演ずる政次が処刑される33話『嫌われ政次の一生』は大河史上に残る名シーンに。

3月 『カルテット』最終回で吉岡里帆確変!

 視聴率は一桁続きだったものの、1月クールの連ドラでそのクオリティが高く評価されたのが、坂元裕二脚本の『カルテット』(TBS系)である。松たか子・満島ひかり・高橋一生・松田龍平演ずる4人のアマチュア演奏家がカルテットを組み、軽井沢の別荘で共同生活する話。4人の「唐揚げにレモンをかけるか?」論争や、中盤以降の松たか子演ずる巻真紀のダークサイドが話題になるも、最後に持っていったのは、元地下アイドルのアルバイト店員ながら、白人男性にエスコートされて登場し、指輪を見せつけ「人生チョロかった」と高笑いする吉岡里帆演ずる有朱(ありす)だった。

4月 渡瀬恒彦急死で警視庁捜査一課ドラマに脚光

 2017年3月14日、かねてから病気療養中の渡瀬恒彦サンがよもやの急死。4月クールで放送予定の渡瀬サン主演の『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)は代役を立てず、脚本を変えて放送することに。奇しくも同じクールには『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)、『小さな巨人』(TBS系)、『緊急取調室』(テレビ朝日系)と、「警視庁捜査一課」が舞台のドラマが4本並んだ。まるで渡瀬サンへの弔い合戦のようだった。

5月 湊かなえチーム『リバース』健闘

 4月クールのTBS金ドラは、湊かなえ原作の『リバース』である。同じく湊原作の『夜行観覧車』と『Nのために』の制作チームが再結集した。TBSは『陸王』の福澤克雄チームや、『天皇の料理番』の石丸彰彦チームなど、脚本・演出を同じ座組で制作することが多い。結果的にそれが同局のクオリティの高いドラマを生む。
同ドラマも主演の藤原竜也を筆頭に、共演の戸田恵梨香、玉森裕太、小池徹平、三浦貴大、市原隼人らが珠玉の演技を見せて、スマッシュヒット。ラストを湊サン自らドラマオリジナル用に書き換えたことも話題になった。

6月 ビートルズ来日で『ひよっこ』20%台へ

 4月からスタートしたNHK朝ドラ『ひよっこ』。開始2カ月ほどは視聴率18~19%台と低迷したが(もっとも、その責任は前ドラマの『べっぴんさん』にある。ラスト4週で19%台へ落ち込み、その流れが『ひよっこ』に持ち越されたから)、6月最終週のビートルズ来日のエピソードを機に20%台に上昇。さらに、有村架純演ずるヒロインみね子と、竹内涼真演ずる島谷が急接近する展開で、視聴率は右肩上がりへ。最終的に期間平均20.4%と、前ドラマを上回った。

 近年の朝ドラといえば、脇役陣に光が当たる“脇ブレイク”が名物だが、同ドラマも先のエピソードで竹内涼真が一躍ブレイク。
 そんな『ひよっこ』人気を支えたのは、彼ら役者陣の好演もさることながら、岡田惠和サンのハートフルな神脚本だった。また、桑田佳祐サンが歌う主題歌『若い広場』にも脚光。オープニングで流れる昭和をイメージさせるミニチュア映像は、ミニチュア写真家の田中達也サンと映像監督の森江康太サンによるコラボ作品。そんなスタッフたちの“総合力”で見せたドラマだった。

7月 月9を救ったガッキー『コード・ブルー』

 6クール連続平均一桁視聴率と低迷していたフジ月9が、久しぶりに平均二桁の14.6%と復活したのが、3rdシーズン目の『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~』(フジテレビ系)だった。脚本がそれまでの林宏司サンから安達奈緒子サンに変更され、不安視する向きもあったが、少なくとも視聴率の上では見事に期待に応えた。
とはいえ、本当の勝因は恐らく昨年(2016年)の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)でガッキー(新垣結衣)人気がかつてないほど上昇し、お茶の間のガッキー・ロスがそのまま引っ張られ、半年後という絶妙のタイミングで同ドラマに着地したから。

 もちろん、ガッキー以外のメインの山下智久・戸田恵梨香・比嘉愛未・浅利陽介のメンバーも7年前の2ndシーズンからほとんど劣化しておらず、チーム力の勝利とも言える。教訓、月9が低迷するのは枠に原因があるのではなく、企画・役者・脚本次第で数字は取れる。

8月 『黒革の手帖』で武井咲株上昇

 原作の松本清張の没後25年となる今年、『黒革の手帖』がテレ朝で5度目のドラマ化。かつてアラサー女優が演じてきたヒロイン元子を歴代最年少の当時23歳の武井咲サンが演じるのは時期尚早との声もあったが、フタを開けたら、高身長・なで肩・細い首の3要素で着物姿が意外と様に。加えて、現代ものより、時代がかったドラマでキャラを立たせた方が彼女の演技が映えることも分かり、実年齢以上に銀座のママがハマり役に。視聴率も平均11.4%と健闘した。
これで武井サンには年上の役がハマると分かった以上、彼女は出産を経て、ある程度年齢を重ねても、女優復帰はラクかもしれない。出来れば、アラサー武井咲でもう一度『黒革の手帖』を見たい。

 そうそう、お約束だけど、同ドラマで高嶋政伸サン演じる橋田理事長の“怪演”っぷりも最高だった。もはや高嶋サンのシーンだけ空気感が違う。役者がハマリ役を得るとは、こういうこと。

9月 『過保護のカホコ』で竹内涼真人気爆発

 日テレの水10枠は“頑張る女性”の応援枠。7月クールの『過保護のカホコ』もそうで、箱入り娘が独り立ちするまでの物語だった。あの遊川和彦サンの脚本だが、元ネタは映画『ローマの休日』と言われており、箱入り娘がやんちゃな男の子と出会い、運命を切り開くフォーマットは王道中の王道。視聴率も最終回14.0%とスマッシュヒットした。
 勝因は高畑充希サンのコメディ演技がうまくハネたのと、朝ドラでブレイクした直後という竹内涼真サンの起用のタイミング。加えて、『ひよっこ』の優等生キャラとは真逆のキャラを引き出したことも、彼の魅力を広げるのに一役買った。

10月 テレ朝昼ドラ第2弾は鉄板の『トットちゃん!』

 テレ朝が倉本聰脚本の『やすらぎの郷』を引っ提げ、開拓した昼ドラ枠。その第2弾が黒柳徹子原作の『トットちゃん!』だった。『徹子の部屋』のテレ朝だけに、他局ではできない鉄板ドラマ。視聴率は前作に引き続き好調で、期間平均6.0%は、なんと前作を上回った。
 驚くのはそのクオリティだ。まるでNHKの朝ドラを思わせた。実際、脚本は『ふたりっ子』(NHK)の大石静サンだし、徹子の母・黒柳朝役に『ゲゲゲの女房』(NHK)の松下奈緒、その夫の黒柳守綱役に山本耕史と、盤石のキャスティング。徹子役にフレッシュな清野菜名サンを当てたのも、新人の登竜門の顔を持つ朝ドラを彷彿とさせた。感心したのは、徹子の祖母の門山三好役に、往年の朝ドラ『チョッちゃん』でヒロインを演じた古村比呂サンを起用したこと。これぞリスペクトの心得である。

 同ドラマは原作が黒柳徹子サンご本人なので、主要な登場人物がほとんど実名で登場するのも心強かった。森繁久彌、渥美清、野際陽子、坂本九、沢村貞子等々、全て実名である。高視聴率の背景には、フィクションに逃げない、そんな作り手の志がお茶の間に届いたからかもしれない。

11月 『ドクターX』シーズン5は横綱相撲

 『ドクターX』シーズン5の平均視聴率は20.9%、最高視聴率は25.3%。これは、同ドラマの過去のシーズンと比べても見劣りしない数字である。いや、昨今の連ドラの苦戦する視聴率事情を鑑みれば、むしろ伸びているようにも見える。主演の米倉涼子サンは今回のためにストイックに減量したというし(最終回で大門未知子がステージⅢの「後腹膜肉腫」を患っていることが判明)、期待されて、期待通りの結果を残すのは、やはり横綱相撲である。

同ドラマ、“現代の水戸黄門”とも言われ、偉大なるマンネリが指摘されるが、その一方で、例えば第1話で大地真央サンがゲスト・スターとして病院長役で登場した際、「患者ファースト」や「不倫で失脚」等々、時事ネタも積極的に投入した。守りを固める一方で、攻める姿勢も忘れない。強い理由である。

12月 『陸王』有終の美で20.5%

 そして、2017年の連ドラの有終の美を飾ったのが、クリスマス・イブに最終回が放映され、20.5%を叩き出した『陸王』(TBS系)である。シリーズものではない連ドラで20%を超えたのは、昨年10月クールの『逃げ恥』以来だ。

 とにかく、同ドラマは、演出チーフの福澤克雄サン率いるチームの企画・制作能力が半端ない。例えば、選手役の竹内涼真サンは、クランクインの3カ月前から本格的な走りの練習を始めたというし、劇中の大会シーンに数千人規模のエキストラを集めたりと、リアリティの追求が半端ない。こはぜ屋の古いミシン1つとっても、本物にこだわる姿勢に妥協がない。
 キャスティングも、今や映画にしか出ないイメージの役所広司サンを15年ぶりに連ドラに担ぎ出したり、いぶし銀の寺尾聡サンにクセのある役をやらせたり、竹内涼真と山﨑賢人という若手スターを贅沢にも脇で使ったりと、攻めの姿勢――。

本連載「TVコンシェルジュ」的には、2017年の連ドラでMVPを選ぶとしたら、やはり、この『陸王』を置いてほかにない。正直、福澤克雄チームの作品としては、あの『半沢直樹』や『下町ロケット』を超えるクオリティだと思う。

――とはいえ、ドラマの楽しみ方は人それぞれ。今回、ここに挙がらなかったドラマの中にも、傑作はまだまだあります。例えば、視聴率は低かったけど、7月クールの『僕たちがやりました』(フジテレビ系)なんて、攻めて攻めて、個人的には超・面白かったし。
 2017年――あなたの心に残る傑作ドラマは何ですか?

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

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