園子温や橋口亮輔といった監督を輩出したPFFスカラシップの最新作『サイモン&タダタカシ』が3月24(土)に公開される。
女子の少ない学校で必死に童貞脱出を試みるタダタカシ(演・須賀健太)を、そっと見守る親友のサイモン(阪本一樹)は、実はタダタカシに恋心を抱いている。童貞脱出の相手を見つける旅に出るタダに複雑な思いを抱えながら同行するサイモン……という2人を描いた青春ロードムービーだ。
ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト出身の阪本はこの作品で映画初出演かつ初主演。監督の小田学も、演劇の世界などで活躍してきたが、今回が長編初監督作品となる。
童貞映画でありながら、一風変わりつつも普遍的な青春映画であるこの作品を“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”が見逃さないワケがない、ということで主演の2人と監督にインタビューをおこなった。
ちなみに3人での鼎談の取材はこの日が初めて。ゆっくりと、しかし丁寧に言葉を絞り出してくださった阪本さん。そして後輩の阪本さん(2人は同じホリプロ所属の俳優で、先輩・後輩関係にあたる)を優しくサポートしながら、笑いで場を盛り上げてくださった須賀さん、そんな2人を見守りつつも、どこか少し離れて飄々としている小田監督。
作品の話はもちろん、“好きな人が自分を好きになってくれなかったときの心のありかた”2人がモテるのかといったところまで、話は広がった。
ということで、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”だけの3人のトークをお楽しみあれ!
須賀健太が嫌な人じゃなくてよかった
――まずは監督、お2人の印象を教えてください。
小田「2人とも、すごくいいヤツなんですよ。正直、ちょっと須賀くんには緊張してたんですよね。芸歴的には僕なんかより先輩だし、嫌な人に育ってたら怖いなあと思って(笑)。でも会ったら明るいし、最初から僕のほうが教わった感じです」
須賀「いやいや、やめてくださいよ!(笑)」
阪本「僕も最初は怖い方なんじゃないかと心配してました!でも、こんな新人と仲良くしてくれて、本当にいい人なんだな、って」
小田「逆に、阪本くんは、あまり喋らないタイプで。今振り返ると、内向的だから、自分の頭の中で色々考えてくれてたんだと思うんですけどね。涙のシーンも含めて、頭の中で色々と想像して、膨らませていってくれたんだな、と。もともと、フラットで居方がうまいというか、人間的にそこにいてくれると嬉しい人、という印象です」
――小田監督にとっての初の監督作品。そこに迎える主演の2人という超重要な人が阪本さんと須賀さんでよかった、と。
小田「そうですね、正直、脚本の文字上で想像していたのとは違う方向ではあったんですが、それはいい方向だったと思います。2人の相性がよかったのも、すごくプラスにはたらきましたね。サイモンとタダタカシがいい奴であるように阪本くんと須賀くんもいい奴で、サイモンとタダタカシが相性がいいように、阪本くんと須賀くんも相性がいい。作品にとってすごくありがたかったです」
同じホリプロ俳優だけど領域が別!?
――そして須賀さんは、『スイートプールサイド』に引き続き、素晴らしい童貞演技でしたね。
須賀「童貞感、意識してるわけではないんですけど、なんだか持っちゃってるんですよね。まっすぐな役が多いからなんですかね。童貞演技うまい、と言っていただけることは多いです」
――それは、言われるとどうお感じになるんですか?
須賀「役者として大事な要素なんじゃないかと思って、嬉しくなりますよ!きっと、イケメンのかっこいい役者さんには持ってない要素だと思いますし、武器にしていきたいと思います」
――演技から漂う童貞的なピュア性と、御本人を目の前にして感じるオーラの差に驚いてます。では、きっとピュア性をもってらっしゃる阪本さんに、須賀さんからアドバイスをお願いします。
須賀「阪本くんにピュア性はないですよ!(笑)」
阪本「いやいや、ありますって!」
須賀「まあ、でも阪本くんは、僕とは違うタイプというか、こっちサイドにはこないと思うので(笑)、ホリプロイチオシの、売れ線俳優になってほしいです」
――違うタイプだからこそ、今回のように共演して、それぞれの味がうまく絡み合うってことですよね。
須賀「そうです、適材適所なんです!」
阪本「あの、須賀さん、僕にもピュアさはありますよ……」(ボソッと)
須賀「俺にだけ言うなよ!(笑) 書いてもらえるように大きな声で言って!ごめんね、語弊があったよね。ピュアさを大事にしていきたいの?」
阪本「はい、ピュアさは大事にしていきたいです」
須賀「それは役者として?」
阪本「はい、役者としてピュアさは大事にしていきたいです」
須賀「みたいなので、太字で書いてもらってもいいですか?(笑)」
気づかれなくても、好きなまま生きていければいい
――さて今回サイモンが言う「好きな人が自分のことを好きになってくれなかったらどうする?」というセリフが印象的で、全編を通じてその切なさが描かれている作品でもありました。ということで皆さんだったら、好きな人が自分のことを好きになってくれなかったらどうするのか、伺えればと思います。
小田「普通に、死んじゃいますかね(笑)。いや、マジメな話をすると、基本的に今回、主人公のサイモンには自分の感覚や経験を投影させながら描いていったので、僕と通じている部分は大きいんです。だから作品にも出ちゃってるかもしれませんが、僕はというと、恋が叶わなくてもいいと思っているんです。一生、その好きな気持ちを持って、生きていけばいい、と。表に出さずに、本人にも誰にも気づかれなくても、その相手のことを最優先に考えて生きていけばいいんじゃないか、と。基本的に僕は自己犠牲のタイプなのかもしれません」
――お二人はいかがですか?
須賀「『好きな人が絶対に自分を好きになってくれなかったら』だとしても……こっちが好きだったら……」
阪本「抑えられないですよね……」
小田「2人は表舞台に立つ人で、僕が裏方だからっていうのもあるかもしれないけど、僕は自分であることが気づかれなくても、誰かのために作品を作る、みたいなところがあるんですよね。その“気づかれなくても誰かのために”という思考が、作品でも自分の生活でも境界がなく染み込んじゃってるんですよね」
JUNONボーイでもモテない!?
――お二人は好かれることが多いと思うんですが……。
須賀「いえ、学生時代なんかは特にモテなくて。友だちとして仲良くなっちゃって、恋愛対象にならないんですよね」
――ちょっと、そのついつい友だちになっちゃうけど恋愛関係に発展できない男に向けたアドバイスをお願いできますでしょうか……。
須賀「それはもう、近づきまくるしかないんじゃないでしょうか。友だちっていうのをいいことに近づきまくればいいんですよ!そこからはギャップです。『友だちだと思ってたのに……』みたいな」
阪本「でも、そうなっちゃったら、友だちに戻れなくなってしまいますよね……。その怖さはあります」
須賀「たしかに、戻れなくなるね……。友だちのままのほうがよかったりすることも、ありますもんね。なんだか今日すごいアグレッシブな回答をしてますけど(笑)」
――サイモンもきっと同じように、タダタカシに好きな気持ちを伝えたら、友だちに戻れなくなるんじゃないか、という葛藤を抱えていたはずですもんね。
阪本「サイモンを演じて、好きな人との恋が叶わなくても、その人を応援し続けるってすごいことだな、と感じました」
――演じる前は、あまりそういう感覚は持ってなかったですか?
阪本「今までは、その恋が叶わないってわかったら、すぐ諦めて別の運命の人を探そうと……」
須賀「別の女にいく、っていうことか(笑)」
阪本「そ……その人とは縁がなかったということで」
須賀「いい言葉を使おうとするねえ(笑)」
――(笑)。ちなみに須賀さんは学生時代モテなかったということですが、阪本さんはどうだったんですか?
阪本「僕は……モテなかったですね」
須賀「いやいや、JUNONボーイがモテないワケがない!」
阪本「それは、たしかにちょっと期待はしていたんですが……。選考に残ってるときの一時的な盛り上がりはありましたが、すぐに飽きられてしまいました」
――意外です。その寂しさを経ての今なんですね……。
阪本「はい、自分から積極的に話しかけにいくタイプじゃないというか、お喋りが下手だからでしょうか……」
須賀「まとめると、面白くなかったからモテなかったということでしょうか(笑)」
小田「いやいや、そんなことないよ!(笑) 阪本くんは面白い。須賀くんには須賀くんの面白さが、阪本くんには阪本くんの面白さがあるから!」
“美化された思い出を振り返る”視点で撮ったキスシーン
――3人の仲の良さが伝わってきて嬉しいです。仲の良さの賜物……かはわかりませんが、サイモンとタダタカシのキスシーンが、画としてはひきのショットで、そこから適度な距離感が感じられて素晴らしかったです。
小田「あんまり、なまなましい感じにはしたくなかったんですよね。高校生のサイモンとタダタカシの2人が、例えば36歳になっても関係が続いていて、振り返ったときに『こんなすごいことがあったよね』って話ながら、振り返る時の1枚の思い出にしたくて」
――監督的には振り返りの視点で撮られていたんですね。
小田「ええ、親友との思い出って美化されると思うんですよね。仮に、ちょっと助けてもらって、夏休みにお化けみたいなものを見て……くらいの話でも、時間の経過とともに、それぞれの中で盛られて美しい話になる。それが思い出だと思うので、そういう視点で撮っていきました」
――お二人は、監督より高校生に近いので。振り返りの視点というよりも現役の視点だったんですかね?
阪本「僕はちょうど、高校を卒業した直後の5、6月にこの作品を撮ったので、直近の高校生活での男友達との仲のいい雰囲気をイメージしながら撮影にのぞみました」
須賀「僕は少し離れたとはいっても、まだ23なので、高校生活の残り香は感じています。制服とか学校の感じには自然に溶けこめましたね」
人の魅力を見つけられる人が、愛される人になる
――そして、ラストシーンでの、サイモンからタダタカシへのセリフが素晴らしかったです。世間体とか周りがどう言っているとかには振り回されず、自分の感覚で、相手を絶対的に肯定する。
須賀「いやあ、最高ですよね。意外にサラっと言うんですけどね。ああいう言葉をサラッと言って相手を肯定できる人はかっこいいですよね」
小田「ちなみに僕は、絶対的な肯定という話でいうと、この映画にもブスの役で出てる女の子に肯定をし続けてきました。ずっと一緒に劇団をやっている仲間なんですけど」
――タダタカシが運命の人を探しにいくときに、一瞬出会ってしまう役の方ですね。
小田「ええ、彼女が自分がブスであることを認めようとしなくて(笑)。自分はブスじゃないと思ってるので、5年くらいかけて『君はブスなんだよ』って言い続けてきたんです」
――それは肯定じゃないですよ!(笑)
小田「いやいや『君はブスなんだ。ブスだけど、いい奴なんだよ』って肯定をしてきたんです。そうしたら、最初は僕が冗談を言っていると思っていた彼女も、だんだん自分がブスであるという認識をしてきたみたいで。だから『そう、君はブスだけど、超いいよ。でも、ブスではあるんだ』って今でも彼女を肯定しています」
――それは、本当に相手を見つめている感じがする、あたたかい肯定ですね!阪本さんはどんなことを考えましたか?
阪本「サイモンのあのセリフは、みんなが知らないタダタカシの魅力をサイモンだけは見つけている、ということじゃないですか。みんなが気づいていない人の魅力を、サイモンはみつけることができる。自分だから感じられるその人の魅力があるってすごいことですよね。そうやって、人の魅力を見つけることができる人が、愛される人になるんだなと思いました」
(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)
■公開情報
映画『サイモン&タダタカシ』2018年3月24日(土)シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー
「好きな人が絶対に自分を好きになってくれなかったらどうする?」
工業高校3年生。卒業後は大学に進学するサイモンと、実家の工場を継ぐ親友のタダタカシ。 男だらけの生活に焦ったタカシは、サイモンと共に“運命の女”を探すための旅に出る。 ギター片手に全力で突き進むタカシに対し、秘めた想いを伝えられないサイモン。 夜空に流れ星が降った夜、それぞれの想いを抱えた旅は、予測できない結末へと進みだす。
キャスト:阪本一樹 須賀健太
間宮夕貴 井之脇海 田中日奈子 山本圭祐 大島蓉子 菅原大吉
監督・脚本・編集 小田学
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