ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

佐藤二朗に聞く“ほどよい個性の出し方”

『勇者ヨシヒコ』シリーズや『銀魂』『天魔さんがゆく』『スーパーサラリーマン左江内氏』『女子ーズ』などの福田雄一作品をはじめ、『マメシバ』シリーズや『神の舌を持つ男』など、多くの作品で俳優として活躍する佐藤二朗さん。

48歳のいまや、盤石な活躍を見せる佐藤さんだが、実は、信州大学を卒業後、入社した広告代理店を入社初日に退社。その後、演技の道に進むも、もう一度就職。さらにはその会社もやめ、劇団員に……と、俳優として売れるまで20代は紆余曲折を経た苦労人だ。

そこで、人生すんなりいかない人たちの側に身をおく“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、佐藤二朗さんにインタビュー。最新出演作テレビドラマ『やれたかも委員会』という、“うまくいかなかった夜”に焦点を当てた作品にちなんで、佐藤さんのうまくいかなかった時代、そしてその打開に至るまでを聞いた。

失敗があることで、人生は豊かになる

佐藤「童貞のためのサイトですか、面白いですねえ。このサイトをやっている人はみんな童貞なの?」

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――ざ、残念ながら…申し訳ありません。一応、童貞だけではなく、童貞をひきずった人のためのサイトなので、お許しください。

佐藤「そうなんですね。このあいだ山田孝之と一緒に、29歳の童貞のインタビュアーの人に取材を受けまして。それを聞いた瞬間、2人で急に前のめりになりました。童貞にはそういうパワーがあると思います。まあ、孝之は『あまりに童貞の期間が長くなりすぎるのもどうかと思う』とは言ってましたけど(笑)」

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――たしかに、そうですね(笑)。僕らは童貞に限らず、“若い時代にすんなり人生がうまくいかなかった人”のためのサイトなので、今日は20代で苦労された佐藤さんにアドバイスをいただければと思って参りました。

佐藤「僕はいまだに、バイトせずに役者一本で食えるようになった瞬間のことを覚えているんです。すごく嬉しくてね。特に僕みたいな、小劇場出身の役者にとって、バイトせずに食えるようになるって、本当に大変なことなんです」

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――その瞬間の嬉しさが、ご活躍されている今も残っていらっしゃるんですね。

佐藤「ええ、別にバイトの下積みの経験なんかなくてもいいんだけど、それがあったことで、僕は“バイトせずに食える喜び”を感じることができたわけじゃないですか。そういう意味では、失敗があることで、人生はちょっと豊かになる気はしますよね」

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――瞬時にコンセプトを汲み取っていただきありがとうございます!

佐藤「でも、僕の言う豊かさはエジソンの言うような『失敗は成功の母である』みたいな意味ではないんです。その失敗が、永遠に成功につながらなかったとしても、その後悔や悔しさがあることで、人生に奥行きができる気がするんですよね。なんでなんでしょうね?自分が、うまくいかなかったことが多い側だから、そう考えちゃうのかもしれないですけど、なんとなく、そんな感じがしますよね」

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――そんな感じ、めっちゃします!

佐藤「あ、ただ気をつけなきゃいけないのは、もちろん失敗は大事なんだけど、それはあくまで“本気で成功しようと思っている”という前提があった上での話です。『失敗があった方が人生は豊か、って佐藤二朗が言ってたから、失敗してもいいやー』ってなっちゃったらダメですよ(笑)。必死に成功しようとした上での失敗じゃないと、悔しさが生まれませんから」

“積み上げない”ことに意識的になる

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――それでは、ちょっと時間軸をそらしまして、役者一本で食べれるようになって、傍からは安定的な活動をされているように見える今、気をつけていることを教えてください。

佐藤「いつまでも精神年齢を低くしていたい、というのは意識しています。現場でも『二朗さん何やってんすかー!』みたいなノリで若い人につっこまれるくらいの存在でいたいですね。こないだ孝之とも話していたんですが、男の役者って、もともと精神年齢が低いんですよね。アイドルは別で、しっかりしてる方も多いですし、女優さんもまた別かもしれませんが、男の役者はみんな、いい意味でこどもなんです。長く役者をやってらっしゃる方もそうです。皆さん、自分の経験に固執せずに、その場の空気に、楽しんで順応できる方たちなんです。僕もそうで『自分の経験ではこんなことしたことないぞ!』という考え方はしないんです。自分の経験に合わせて周りを動かすのではなく、周りで起きていることに自分をあわせていくほうが、楽しいんですよね。毎回ゼロの気持ちにリセットする感じですね」

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――そうなると、あまり経験値という感覚はないものなのでしょうか?

佐藤「正直、経験値は自分が無意識でいても積み上がっていくものなんですよね。だから自分の経験を“積み上げない”ことにだけ意識的でいるようにしてます。積み上げないことが仕事になっていくなんて、逆説的ですけどね。それはもしかしたら、役者で食えるようになった瞬間を思い出したり、童貞時代のことを抱えて生きることにも通じる、“意識的にピュア性を保つこと”なのかもしれません」

周りに順応する”だけ”なら売れなかった

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――少しまた時間軸を戻させていただいて……。今は“個性派俳優”と括られることも多いと思うのですが、その個性は広く認知される前、売れる前から出して受け入れられていたものなのでしょうか?

佐藤「20代の頃はよく怒られていましたね。今や日本を代表する舞台演出家である鈴木裕美さんの主宰する「自転車キンクリート」という劇団にいたんですが、鈴木さんには、しょっちゅう注意されました。もちろん『お前の芝居がすごいのはわかった』と評価してくれた上ではあるんですが『でも、その芝居だけじゃダメになるよ』と。きっと『受けの芝居ができるようになれ』という意味だったと思うんです。僕も、もちろん言葉の上では、それは理解できるし『はい!』と言ってました。でも、どこかで、自分の芝居を世の中に提示しなければいけない、と頑なになっていたんです」

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――ではすぐにそのアドバイスは、受け入れることができなかった、と。

佐藤「ええ、どの世界でもそうだと思うんですが、上司や先輩のアドバイスって、そのアドバイスの価値自体とは別に、自分が腑に落ちないと身にならないじゃないですか。だから、結局僕がそのアドバイスを受け入れられるようになったのは、芝居で食えるようになった後。30代後半から40代くらいになってやっと、相手役の呼吸やトーン、その場で起きる出来事に、自分の芝居を適応させていくことの面白さを感じることができるようになりました。そのときに『裕美さんの言ってたのはこれだったのか!』って感謝がわきましたね」

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――個性を貫くことと、周りに順応すること。きっと芝居に限らずバランスが難しそうですね。

佐藤「ええ、やっぱり両方なきゃだめですよね。僕が鈴木裕美さんの言ってることを曲解して、周りに順応することが“全て”だと思ったら、こうやって世の中に出ることはなかったかもしれません。今でも、自分の腕力でガッといってバーンと見せる芝居をするのか、周りに順応する芝居をするのかはケースバイケースで判断してのぞんでいますしね」

『ヨシヒコ』仏の芝居は封印

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――ちなみに盟友・福田雄一さんは佐藤さんにどちらの芝居を求めてくるのでしょうか?

佐藤「福田は、”二朗さんの腕力見せろ、全て見せてみろ”という感じだと思います。もちろん、それもケースバイケースで、6月に公開される映画『50回目のファーストキス』なんかは、福田の中でもまたテイストの異なった作品なので、演出も違ってきますけどね。『勇者ヨシヒコ』の仏のときなんかはね、あれだけバーっと喋りますし、自分の腕力を出さないといけないですよね」

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――では、今回の『やれたかも委員会』はどっちでいくことにしたんでしょうか?

佐藤「山口雅俊監督とも相談して、仏のようなタイプの芝居は封印して、受けの芝居でいくことにしました。能島譲はそもそもが相談を受ける役割ですし、『やれたかも委員会』の3人の中でもたぶん、これまでの自身の恋愛が1番うまくいってないタイプだと思うんです。もちろん3人とも真剣に相談は聞いているけれども、自分がうまくいってない能島は、中でも特に相談者に寄り添う立ち位置になれる。そこを誠実にやっていきました」

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――『やれたかも委員会』の3人の中には、山田孝之さんもいらっしゃいます。福田組じゃないところで一緒になる山田さんはまた違いましたか?

佐藤「孝之とは、例えば『勇者ヨシヒコ』のときは、向かい合ってずっと目が合ってるじゃないですか。まあ僕は雲の上なんで、少し上からの目線にはなりますが。でも今回は、僕と孝之が横並びになっているんで、目が合わないんですよね。だから孝之の声のトーンを耳で感じながら、セッションしていく感じになりました。よい意味で皆さんの期待を裏切る、面白い芝居になっていると思います」

(取材・文:霜田明寛 写真:浅野まき)

★佐藤二朗さんから“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”読者に動画で限定メッセージ!

次回は佐藤さんに『やれたかも委員会』の見どころや、売れない時代から支えてくれた奥さんの話、そして、そんな素晴らしい伴侶の選び方などをうかがいます!


▼作品情報
MBS・TBSドラマイズム
ドラマ「やれたかも委員会」
出演:佐藤二朗 白石麻衣(乃木坂46) 山田孝之
間宮祥太朗 勧修寺保都 小倉優香 / 浜野謙太 倉持由香 / 森永悠希 武田玲奈 / 永野宗典 江夏詩織 手塚とおる /
杉野遥亮 山本舞香 / 中尾明慶 森川葵 / 矢野聖人 山地まり / MEGUMI 福田麻由子 小関裕太 (エピソード順)
原作:吉田貴司「やれたかも委員会」(cakes・双葉社)
脚本:山崎淳也 橋口俊貴 山口雅俊
演出:山口雅俊
製作:ドラマ「やれたかも委員会」製作委員会・MBS
©2018吉田貴司/ドラマ「やれたかも委員会」製作委員会・MBS公式Twitter:@yaretakamo_tv
公式Instagram:@yaretakamo_tv
公式LINE:@yaretakamo_tv▼放送情報
MBS 4/22(日)スタート 毎週日曜深夜0:50~
TBS 4/24(火)スタート 毎週火曜深夜1:28~

▼配信情報
dTV /Netflix 毎週水曜深夜0:00~

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