作家の柳美里氏が月刊誌「創」の原稿料未払い問題を、自身のブログで告発しました。
9月、柳氏はきちんと支払いがあるまで連載をストップすると篠田氏に伝えます。しかし、篠田氏は入金することもなく、10月発売の「創」で柳氏の連載未掲載について触れることもありませんでした。
そこで、10月15日に柳氏がブログで「長期間にわたる原稿料未払い」という衝撃の事実を明らかにしたのです。昨年はゼロで、今年は4万円しか払われていないというのです。
以来、柳氏は篠田氏とのメールのやり取りの一部を公表しています(以下、<>内、柳氏のブログより引用)。
<篠田メール→「柳さん、当時『原稿用紙3枚で5万円』という条件が提示されたとのことですが、私がそう言うことはありえないと思いますが、何かその根拠となる文書か何かあるのであればご提示いただけますか」>
<篠田メール→「柳さん、全てのケースにおいて400字詰め何枚という言い方をするということは常識ではないと思います。特に今は文芸誌以外では原稿用紙に原稿を書く人はほぼ皆無で、400字云々という言い方自体、あまりしなくなっています。ですから『3枚5万円』とは言っていないと思いますが、私がどういう状況でどんなふうに言ったということなのでしょうか」「『創』だけが出版界の常識からずれているということはないと思います」>
2007年、柳美里氏は「創」での連載開始時に、篠田氏から『原稿用紙3枚で5万円』と条件提示されたと書いています。
それに対し、篠田氏は「400字詰めでは原稿料を換算しない」という主張をしています。
いったい、どちらが正しいのでしょうか。
実は以前、私は「創」に記事を書いたとき、
掲載から半年ほど経っても、原稿料が振り込まれなかったので、篠田氏に催促したことがありました。
いくつかのやり取りをした後、このようなメールが届きました。
「本日振込手続きを行ないました。 よく数えたら1枚4,000円で計35,000円でした。 税引きの額を振り込んであります」
これは、2008年2月の出来事です。
篠田氏は、明らかに「原稿用紙1枚いくら」という計算をしています。
よって、2007年の時点で、篠田氏は柳美里氏に『原稿用紙3枚で5万円』を提示したと考えられます。
テレビ界や出版界では、事前にギャラを提示しないという慣例があります。
これは良く解釈すれば、番組の視聴率が上がったり、雑誌の売上が良かったりしたら、予定以上にギャラを上げるという側面もあるように思います。
実際、「今回頑張ってくれたから」と予想以上のギャラをつけてくれる編集者もいます。
一方で、慣例を利用し、「予算がなくなったから」などと自分の管理能力を棚に上げ、ギャラを少額にするプロデューサーや編集者も存在します。
昨今は、事前にギャラを提示することも珍しくなくなりました。
しかし、仕事開始後や支払い時になって、事前の提示額を平気で下げてくるプロデューサーや編集者がいることも事実です。
このような嫌な経験をした人間は、数え切れないほどいるはずです。
それでも、今回の柳美里氏のような告発をする人は、ほぼ皆無です。
なぜでしょうか?
金の話をすると、仕事が来なくなるんじゃないか…。
という不安に駆られるからです。
「下請けに仕事を与えてやっている」と思い込んでいる、
悪いプロデューサーや編集者は、フリーランスの不安な気持ちに付け込むのです。
柳美里氏は、こう書いています。
<篠田さん、あなたは出版業界の、契約書を交わさない、請求書を送らない、という慣例を逆手に取って、言った言わないの水掛け論に持ち込もうとしているのですね>
物書きは基本的に「無料でもいいから書きたい」という純粋な心があると思います。 悪いプロデューサーや編集者は、その心をも利用します。
創出版・篠田氏による柳美里氏への原稿料未払い事件は、あくまで氷山の一角です。