5回目となる、中国トレンドマーケター・こうみくさんによる好評連載『中国トレンド最前線!』。今回のテーマは「中国のスマホ決済事情」についてです。
LINE PayやPayPayなどが参入し、一気にプロモーションを展開したことで注目が集まっているスマホ決済。しかし7payの不正利用など、ネガティブなニュースもあったばかり。まだまだ世間の見方は“様子見”といった感がぬぐえません。
一方でお隣・中国はすでに“スマホ決済 超先進国”。どこの店でも当たり前のように使えるといいます。現地で暮らすこうみくさんに詳しく聞いてみました!
中国では老若男女で“当たり前”のスマホ決済
こうみくさん
中国のスマホ決済事情についてですが、まず私は、外に出るときに財布は一切持ち歩きません。
——一切ですか!? 困ることはないでのでしょうか。
こうみくさん
ないですね。家にも現金はほとんどないですし、スマホひとつでどこへでも出かけますよ。
都市部ではほぼ100%!?全国でも8割弱が利用
こうみくさん
中国人民銀行が出した統計では、2017年時点で成人の76.9%がスマホ決済を利用していることがわかっています。農村部に絞ると少し数字は下がるんですが、それでも利用率は6割くらい。田舎の小さな個人店でも利用していますね。
——こうみくさんの体感としても、そのくらいの普及でしょうか?
こうみくさん
はい。納得の数字ですね。むしろ都市部に限れば100%なんじゃないかという感覚。上海で生活していると、本当に現金を見かけないんですよ。
スマホ決済の普及で変わった、中国のおカネ事情
——スマホ決済が広まって、何か具体的に変わりましたか?
こうみくさん
アリババの創業者、ジャック・マーが講演などでよく話すんですが……。
広州の大きなスーパーで、ある時、泥棒が立て続けに3件入ったそうなんです。それなのに、現金3万円くらいしか盗まれなかったんだとか。
——もしかして、レジにお金がなかったからですか!?
こうみくさん
そうです。スマホ決済で世の中がどう変わったがわかりやすいエピソードですよね。
今や中国ではストリートミュージシャンや物乞いですら、QRコードで集金する時代です。老若男女関係なく、日常的に利用していますよ。
顔認証システムも進化 3年以内に主流に?
こうみくさん
ちなみに、中国のスマホ決済は「アリペイ(支付宝)」と「WeChat Pay」が2大サービスで、ほぼ市場シェアを占めています。
——その2つを持っていれば中国ではどこでもスマホ決済できる、ということですね。
こうみくさん
はい。今まではQRコード決済が主流だったのですが、最近は顔認証がどんどん進んでいます。特にその分野では、アリペイがリードしていますね。
——顔認証というと、レジ前に立つだけで決済が完了するということでしょうか?
こうみくさん
そうです。認証はあっという間ですよ! もはやスマホすらいらないので、革新的ですよね。
——どのくらいの普及率なのでしょうか。
こうみくさん
ここ最近、タブレットを取り付けるだけで店側が簡単に導入できるようになったので、様々な場所で広まってきました。上海に住んでいると、あちこちで見かけますよ。
私の予想としては、3年以内に顔認証がメインストリームになるでしょうね。すでに駅の改札も顔認証でテストが進んでいます。
——まさにIT先進国ですね……! 中国は、新しいものの広まり方がすさまじい気がします。
こうみくさん
そうですね。でも実は顔認証の普及にあたって、最初の頃は思わぬハードルがあったんですよ。それが、“写る顔が盛れてない”ということなんです。
——ど、どういうことでしょう……!?
こうみくさん
中国の女子は、超・自撮り大好き!な文化なんですね。中国で圧倒的なユーザー数を誇るTikTokも、“盛れた動画”になるのが人気の大きな要因です。
顔認証は当初、いわゆる証明写真のような写りだったのですが、それが店内の周りの人に見えてしまう。「こんな盛れてない顔を見られたくない!」という女子の心理から、利用が伸びなかったと言われています。
——まさかとも思えますが、中国の女子にとっては重要なポイントなんですね……!
こうみくさん
そこで、最近は顔認証システムにも美顔フィルターがついたんですよ(笑)。これで若い女子にも広まり、普及が加速したというわけです。このあたり、中国らしいエピソードだなと思います。
スマホ決済の普及に見る、日本と中国の違い
こうみくさん
ではなぜ、日本ではスマホ決済が中国ほど広まらないのか、私なりに考えてみました。理由は3つです。
“若者”の社会的影響度
こうみくさん
1つは産業構造の違いだと思います。
以前の記事でもお伝えしましたが、中国では“Young is King”。20~30代の人口ボリュームが最も多く、経済活動も活発です。あらゆる社会システムがこの層メインに変わっていくので、結果的に上の世代も、流れについていかざるを得ないのが実情といえます。
——とはいえ、上の世代にとっては、そんなにすぐに適応できるものでしょうか?
こうみくさん
新しい技術といっても、方法は非常に手軽ですし、スマホさえあれば誰でも使えますからね。最初の精神ハードルさえ超えてしまえば、シニア層だって簡単です。結果として、どの世代にも普及しました。
こうみくさん
一方で日本の場合は、人口ボリュームも、経済的にもシニアの方が強いですよね。スマホ決済のようなインフラ系のサービス設計をする際、どうしてもこの世代の反応は無視できないと思います。でもすべての国民を意識せざるをえないとなると、やはり進化スピードは鈍ってしまうのではないでしょうか。
世界でもトップクラスの“IT技術力”
こうみくさん
2つめは、単純に“技術力”の差かなと思います。
7payの件が記憶に新しいですが、会見を見るに、経営トップの方が技術を理解していないと感じました。セブン&アイ・ホールディングスは大きな会社ではありますが、リテールの会社であり、テクノロジーの会社ではありませんから。
——中国のスマホ決済をけん引するアリババ、テンセント(WeChatの運営会社)は、いまや世界を代表するIT会社ですもんね。
こうみくさん
もちろん金融というシビアな領域ですから、アリペイやWeChat Payも、トラブルがゼロだったわけではないんです。それでも高い技術力と資金力で、スピーディーに改善、交渉できる地盤があります。
比べてしまうと、やはり日本のスマホ決済は、まだ技術力で劣っていると感じますね。
新しいものや個人情報に対する“捉え方”
こうみくさん
最後に、普及度合いには国民性も影響していると思います。
PayPayは今年に入ってから日本で大々的な還元キャンペーンを打っていますが、あれだけ資金を使ってもまだまだ広まっていないのは、日本市場の難しさだと感じます。
——どういった部分が、難しいと感じますか?
こうみくさん
中国人の方が、“怪しくても、新しくて便利であれば使ってみよう”精神が強いんです。よくも悪くも、個人情報への関心が薄く、自分のデータがとられることに抵抗がありません。日本は個人情報の扱いは、非常にセンシティブですよね。新しいテクノロジーが広まりやすいかどうかは、こういった国民性の違いもあるのではないでしょうか。
——なるほど……。まとめると、産業構造の違い、技術力の違い、国民性の違い、3つの側面で日本にはハードルがある、ということですね。
こうみくさん
はい。こういった状況ですから、中国ほどスマホ決済が広まらないのかもしれないですね。
そこそこ便利な日本で、スマホ決済はどうなるか
こうみくさん
一方で日本はクレジットカードやSuicaが普及しています。その点ですでに便利なので、今から無理にQRコード決済が普及しなくてもあまり問題はないのかもしれない。
——中国ではクレジットカードよりも先にスマホ決済が浸透したということですか?
こうみくさん
中国は国策でデビットカードが推奨されていたので、クレジットカードはほとんど普及していなかったんです。導入するにも高価な機械を店側が用意しなければいけないですよね。
その点、QRコード決済は、紙を印刷すれば終わりです。決済にかかる手数料も、クレジットカードと比べたらとても低い。お店にとって導入コストも運用コストもかからないので、ここまで広まったんだと思います。個人間で送金もできて、本当に便利ですよ。
——たしかに、その点はクレジットカードにはないメリットですよね。旅行などで中国を訪問する際には、ぜひ使ってみたいと思います! ありがとうございました。
次回も、現地から中国の最新トレンド情報をお伝えいただきます。お楽しみに!
(文:ソーシャルトレンドニュース編集部)