先日、“十代男子の恋愛バイブル”こと一流ファッション誌Samurai ELOに掲載されたとある記事がSNS上で大きな反響を呼びました。
それは「気になる相手と“エアリプ”してると付き合えるらしい!?」というもの。
エアリプとはエアー(空中)リプライのこと。例えば
「バスケをする人って惚れちゃうなあ……」
などのように、@をつけずに特定の人に向けてリプライすることで、“もしや自分のこと!?”と相手をドキドキさせて、恋の始まりにする……みたいな感じらしいです。
簡単に言うと、特定の人への個人的な想いを独り言風につぶやく、ってことですね。
これに対してネット上では「私の知ってるTwitterじゃない」「ワロタ」「これは酷い」「こんなんで彼女出来たら誰も苦労しない」などの意見が相次いでいます。
しかし、実はこのような「特定の相手に向けたメッセージを、誰とは明言せずに独り言風につぶやく」というのはTwitterに始まったものではないんですよね。
むしろ、こういうことは昔からずっとあります。
例をあげるなら和歌。平安時代、人々は和歌で様々な想いを表現しましたが、その中でも大きな範囲を占めたのが恋心を題材にした歌でした。
このような恋の歌、手紙に添えるなどして本人のもとに届けられることも多かったのですが、中には“歌合わせ”と呼ばれる、歌人たちが集まって和歌を詠む会で詠まれることも多かったのです。
つまりこれ、公衆の面前で、誰とは明言せずに、その場にいない人(恋の相手)のことを詠むということになるんです。
これ、一種のエアリプじゃないですかあああああ!!!!!
(また恋の相手も歌人で、同じ歌合わせに出席していた、ということもまれに起こります。その場合はよりエアリプ感が増しますよね。現代で言うなら、好きな子がツイ廃で自分のツイートを全部見られている的な。わかんないけど)
というわけで、今回は百人一首から恥ずかしいエアリプ(っぽい和歌)を3つ紹介します!
(1)平兼盛くん(たいらのかねもりくん/生年不詳 – 正暦元年12月28日)
村上天皇の前で行われた歌合わせの時に「恋」というお題で、平兼盛が詠んだ歌。
現代語訳すると、『私の恋の気持ちを、誰にも知られないようにじっと包み隠してきましたが、とうとう顔色に出てしまったようです。恋に悩んでいるのですかと、人が尋ねるほどに』になります。
なんて恥ずかしい歌なんでしょうか。
だって恋してるのが顔に出てるんですよ!?ずっと鼻の下が伸びているんでしょうか。この和歌をみんなの前で詠んでいたんですから、平安人恐るべしです。(でも、まあいいんですよ。文化なんて冷静に見たら恥ずかしいものなんですから)
ちなみにこれをSamurai ELOの教えの通りに現代風にツイートすると
こうなりますね。ポイントは(^^)の部分。確信犯的要素あってのエアリプです。
(2)壬生忠見くん(みぶのただみくん/生没年不詳)
現代語訳すると『わたしが恋をしているという噂が、もう世間の人たちの間には広まってしまったようだ。人には知られないよう、密かに思いはじめたばかりなのに』になります。
言ってることは(1)の歌とほとんど変わらないようです。
ちなみにこの和歌、上記の平兼盛が(1)の歌を詠んだのと同じ歌合わせで詠まれたもの。
歌合わせへの招待状が届いた時、忠見は摂津国にいたのですが、この和歌は、その時に思いを寄せていた女性を思って詠んだ和歌だと伝えられています。
なお、この歌で壬生忠見は平兼盛の和歌に負け、悶々のうちに病気になって亡くなったと言われています。
さて、これもSamurai ELOの教えの通りにツイートしてやると
きっと、こうなります。
ゆーたくんの好きな子は、隣のクラスなようです。
(3)皇嘉門院別当ちゃん(こうかもんいんのべっとうちゃん/生没年不詳)
現代語訳は『難波の浅瀬に生える芦の「刈り根」ではないけれど、旅先の宿の「仮り寝」の夜に、ふと出会った行きずりの人と一夜の情事を持ったばかりに、水先案内の「澪標」ではないけれど、「身を尽くし」た命懸けの恋に、これからの一生を過ごさなければならない運命になるのでしょうか?』みたいな感じ。
いやいや、なんですかそのカミングアウトは。
しかも、そのエアリプ、絶対に届かないから。
歌合わせなんていう、周りに人がいっぱいいるところで言うことじゃないですよね。
平安時代というと、煌びやかで優雅なイメージがありますが、こんな風に“ワンナイトラブ”もあったんでしょうか。
なお、文法および修辞法は「掛詞+縁語+序詞+歌枕+係り結び」と五つも入っていて、皇嘉門院別当ちゃん、和歌的にはなかなかのテクニシャンなことが伺えます。
ちなみに、これもSamurai ELOの教えの通りにツイートすると
こんな感じになります。たぶん。(というかむしろ、これが本当の意味での現代語訳でしょ??)
いかがでしたか。
こんな風に、日本の恋愛事情において、エアリプなるものは千年以上も前から存在していたことが伝わったかと思います。
Samurai ELOの記事を読んで「んなわけあるか!」と一度は突っ込んだ中高生諸君も、平安時代の素晴らしき歌人を見習って、これからは積極的にエアリプってみましょうね!!!
(文:岡本拓)