あなたは「人に絶対に知られたくない私の恋愛が出演してるじゃないか」と思うと思う。おれも思った。 二村ヒトシ(アダルトビデオ監督) 『サッドティー』公式サイトより
“格好悪くなることが大嫌い”な大人になってしまった私たちが、他人に最も見られたくないシチュエーション。それは恋愛に悩んだり、その相手と会っている時の自分ではないだろうか。
世間からはみ出さないように、普段は“常識的ないい人”を演じている分、恋愛においてのみ“非常識”な行動をとってしまう人も少なくないように思える。
しかしそれは当事者でなければ“社会人の仮面を脱いだ本当の性格”や“知られたくないコンプレックス”を覗くことができる興味深い瞬間でもある。
そんな“他人の恋愛を覗き見できる”映画が2014年話題になった『サッドティー』(今泉力哉監督)だ。その中から2つ、印象的な登場人物と、最後に新進気鋭な本作キャストを紹介したい。
作成者:spotted701
■二股しちゃうのは、断ったり別れたりすることで『逆に傷つけるから』!?
この作品の中心人物、映画監督の柏木(岡部成司)には彼女が二人いる。彼は全く悪びれる様子もなく、二人の女性の家に交互に帰る。相手の女性は二人とも、彼が二股をしていることを知っている。しかしそれをとがめようとはしない。
そんな柏木が友人に二股について、責め立てられる場面がある。「ちゃんとしろよ」と怒鳴られると、それに対して柏木はこう返す。
「お前はさ、一人の人と付き合うのが一番いいって考えてんのかもしんねえけどさ
それはその通りだと思うけどさ、別れるほうが傷つけるってこともあんだぜ」
自分がふってしまうことで、相手を傷つけることを恐れる男。モテる人はそんな風に本人の意思とは関係なく、加害者になってしまうことが多いのではないだろうか。
“モテてしまう”という口に出して共有しがたい悩みも、この作品をDVDや劇場で一緒に観たりするなど、作品を通せば、周囲にも理解してもらえるかもしれない。
■「片思い」こと「片方想いこみ」が一番幸せ!?
次に紹介したいのは柏木の友人の朝日(阿部隼也)だ。彼は1年に1度、好きだったアイドルに花をささげる行為を続けて10年になる。その片思いはもはや、とっくに好きではなく、自分“思い込み”に見え、とっくに好きではないのかも……とさえ思う。しかしそんな彼が一番幸せそうに描かれているのだ。
現実にもアイドルや二次元のキャラクターを含め “実在しない女性を好きになる人”や“片思いを一途に続けている自分が好きな人”は少なくない。
叶わぬ恋の真っ最中だったり、片思いを引きずっている人たち。ぜひ、そんな方々には物語が導いた朝日のラストのセリフに注目してほしい。観た人の不器用な恋愛のこれからに、選択肢と希望を与えてくれるに違いないからだ。
■ “他人のこじれた恋愛”を覗く楽しさとブレイク間近な本作キャスト
『サッドティー』の出演者は誰もが知っている役者ばかりではない。それゆえ、イメージが固定されていない演者たちの芝居が、“喫茶店で偶然隣合わせた人がしていた別れ話”のようで、ちょうどいい距離感を保ち、観客を引きこんでくれる。
会ったことのない人たちの、交わることもない人生だからこそ、そこで繰り広げられている事象をフラットに楽しむことができるのだ。
そんな本作のワークショップで選ばれたキャストたち。2013年の初上映の際は無名だった彼らも、2014年には特筆すべき飛躍ぶりだった。そんな主な役者の名前と昨年の出演作品を以下に記す。ぜひ彼女たちの他の出演作も観てみてほしい。
永井ちひろ (園子温監督 『TOKYOTRIBE』)
國武綾 (大根仁監督 『リバースエッジ大川端探偵社』)
阿部隼也 (山下敦弘監督 『超能力研究部の3人』)
etc.
“他人の恋愛覗き見ムービー”『サッドティー』には、これからの日本映画を担う俳優たちを、青田買いできる楽しみもありそうだ。
(文:小峰克彦)
監督・脚本・編集:今泉力哉
キャスト:岡部成司 青柳文子 阿部隼也 永井ちひろ 國武 綾 二ノ宮隆太郎
富士たくや 佐藤由美 武田知久 星野かよ 吉田光希 / 内田 慈
撮影監督:岩永洋│録音・整音:根本飛鳥|音楽:トリプルファイヤー|助監督:平波亘
ヘアメイク:寺沢ルミ|スチール:天津優貴制作:松尾圭太 後藤貴志
プロデューサー:市橋浩治 キャスティング協力:吉住モータース
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
製作:ENBUゼミナール|2013年|カラー|HD|120分
劇場:新宿K’s cinema
公開:2015年1月25日 20時45分~
DVD レンタル&発売中 公式サイト
©ENBUゼミナール