蜷川幸雄氏、宮本亜門氏など名だたる演出家の舞台で評価をされてきたV6の森田剛さん。
そんな彼が満を辞して映画初主演を務めるというニュースが発表された。
作品は古谷実氏(『ヒミズ』、『行け!稲中卓球部』)の原作を元に吉田恵輔監督が実写化する『ヒメアノ~ル』。
今回の役柄は欲望のままに相手を殺害していく狂気の連続殺人鬼だという。
現在公開中の映画『味園ユニバース』でも、主演である渋谷すばるさん(関ジャニ∞)が暴力的な前科者を演じている。本作は公開5週で2億円を突破する大ヒット中だ。
バラエティ番組のキャラでは想像もできないような芝居をするジャニーズ俳優は多い。
そこでこの勢いに乗っかって、元映画制作スタッフ(とてつもなく下っ端)のライタ―小峰が独断と偏見で、名作ジャニーズ映画を3作品選んでみた。
生田斗真/『人間失格』
本作監督で日本映画界の重鎮、荒戸源次郎氏に「ジャニーズへの評価が変わった」という主旨の言葉をいわしめた、生田斗真さん。
2010年公開の『人間失格』で彼が演じたのは芸術に傾倒し、酒と女に溺れるイケメン画家。
平成に生きる若者とは思えないほどに昭和薫り立つ劇中で存在感を示した。
実生活ではミクスチャーロックバンド『マキシマムザホルモン』の大ファンだという生田さん。
フェスでも観客席で楽しみまくるという“いまどきの若者”らしい一面がよく聞かれる彼だけにそのギャップも魅力的だ。
この作品で生田さんはキネマ旬報新人賞をジャニーズ事務所ではじめて受賞する快挙を成し遂げる。大衆エンターテイメント以外でも、映画俳優として認められたのだ。
また原作でも物議をかもした“処女のお嫁さん”を石原さとみさんが演じていることにも注目して欲しい。
亀梨和也/『俺俺』
『シティボーイズ』の脚本や『トリビアの泉』の放送作家として脚光を浴び、近年はドラマ(『時効警察』)、映画(『亀は意外と速く泳ぐ』)でも活躍している三木聡監督。
小ネタや摩訶不思議なギャグを得意とするコメディ監督とKAT-TUNの人気メンバー亀梨和也さん。一見、この二人の世界観は相いれないように見える。
しかし芝居になると途端に“普通っぽさ”に溢れる彼は、三木ワールドで多用される、とぼけた顔にも嫌味がない。
ストーリーはある日突然、自分と同じ顔をした“俺”が増殖していくというもの。
序盤では趣味嗜好が合う“俺”同士が意気投合するなど、ゆるくギャグっぽいテイスト。ほんわかと見ていられる。
しかし後半になると国民的アイドルと同じ顔を持つ33人が“オリジナル”のポジションをめぐって殺し合いをはじめる。その様は形容しがたいほど不気味である。
安心して見ていたものに裏切られる、新感覚の恐怖。この作品に入りこめた方は、本作をきっかけに自身の“面白いの幅”が広がりそうだ。
岡田准一/『おと・な・り』
『図書館戦争』や大河ドラマ『軍師官兵衛』での熱演が記憶に新しいV6の岡田准一さん。
すっかり“闘う美男子”というイメージがついた彼。
そんな岡田さんが “文科系のいい男”を演じるのが、2009年公開の熊澤尚人監督の『おと・な・り』。
ストーリーはアパートで隣同士なのになかなか会わない男女のささやかな恋の物語だ。
お互いの基調音(そこで鳴っているのが当たり前、でも鳴っていないと寂しい。そんな日常の音)からお互いを意識しはじめるという都会に住む男女関係が丁寧に描かれる。
この作品は「どうせジャニーズが主演の映画だろ」と思っている頭の固い映画オタクにこそ薦めたい。機敏な心の揺れを演出する光の量や、ひかえめな空気感は贅沢な余韻を観る人に与えてくれるはずだ。
また特筆すべきは、この作品が撮影されたロケ地がデートスポットとして魅力的な点。実は二人が住むアパートは芥川龍之介ゆかりの鎌倉にあるホテルだということ。
噂によると、とても安く泊まれるのだとか。ロケ地はほかにも所沢市の狭山湖など、ひらけていて散歩するのにぴったりだ。本作が気に入ったら、大切な異性と聖地巡礼してみるのもいいかもしれない。
バラエティやCM、音楽番組、ドラマ、街の広告……今日本でジャニーズ事務所所属のタレントを見ない日は少ない。
しかしこれらと違って彼らが作った物語に2時間邪魔が入らずに浸れるというのは映画の魅力的なところだ。
今後も“日本映画の重鎮監督×ジャニーズ俳優”がタッグを組む作品が増えることは間違いない。彼らを通して一つでも好きな映画作品を増やして頂ければ幸いである。
(文:小峰克彦)