『寄生獣』に主演し、2015年の直近の出演作だけでも『ストレイヤーズ・クロニクル』、『バクマン。』にも出演が決まっている染谷将太さん。
映画作品ももちろんのこと、ドラマやバラエティーの出演本数も増え、映画ファンだけでなく一般層にもアイドル的人気を誇る俳優の一人です。
また、役者だけではなく、2013年公開の『シミラー バット ディファレント』で監督もしているという活躍ぶり。
そんな彼ですが、演技や演出だけではなく、実は映画を観ることも大好き。古今東西の映画作品や関連書籍を見まくっているそうです。
共演者の東出昌大さんが役作りに悩んだ時、一部の映画製作者の間でバイブルとされているロベール・ブレッソンの『シネマトグラフ覚書』を渡したという話はファンの間では有名です。
2年前、(超末端の)映画製作スタッフだった筆者自身、染谷さんの、ありとあらゆる面からの映画好きの噂を界隈でよく耳にしました。
「脚本が面白ければ、予算規模に関係なく映画に出演してもらえると噂でした。さすがにここまで有名になった今では無理だと思いますが……」(自主映画スタッフ)という声も。
その噂の真偽は不明ですが、映画の専門学校である映画美学校が制作した『ただいま、ジャクリーン』にも出演していることから規模に関係なく映画を愛していることが伺えます。(『ただいま、ジャクリーン』もメジャー映画に負けない素敵な作品でした)
そんな映画愛にあふれ、誰にも真似できない演技力を持つ彼。日本では小規模劇場の上映の場合も多いものの、世界が誇る映画監督の作品にも数多く出演しています。
そこで今回はファンならば一度は観ておきたい、彼の新たな色気に溺れられる“大型劇場ではなかなか上映しない世界的名監督×染谷将太”作品を厳選!3つご紹介します。
『生きてるものはいないのか』
本作の監督は石井岳龍さん。日本大学芸術学部の卒業制作として撮影した革命的なアクション映画『狂い咲きサンダーロード』で一世を風靡しました。
伝説の作品『狂い咲きサンダーロード』は、若き日の泉谷しげるさんが美術と音楽を務めるなど、その内容と同様に制作現場の話を切り取っても、驚きの逸話に事欠かない作品です。
そんな初期の作品のように、エネルギーがスクリーンからはみ出るような作風とは異なるものの、伝説の監督が10年ぶりに長編を制作しました。
それが2012年公開の『生きてるものはいないのか』です。
この作品は郊外の大学キャンパス内を舞台に、日常を送る登場人物が次々と原因不明の死を遂げるという不条理なストーリー。特筆すべきは彼らの死に方。
予告編でも少し観られますが、不謹慎にも滑稽な死に方ばかりです。
その中で染谷将太さんが演じるのは、トラブルに巻き込まれるも、なぜか謎のウイルスに感染しないという一歩引いた存在。
闘争が行われる中でカメラに向かってラップをし続けた映画『TOKYO TRIBE』ほど顕著ではないですが、異常な世界で真ん中に立っていながら、周囲に侵されない彼の雰囲気に見入ってしまいます。
彼のたたずまいが破綻した世界を引き締め、他に存在しない映画を作り上げているのです。
作成者:シネマトゥディ
『千年の愉楽』
鬼才・若松孝二監督の遺作『千年の愉楽』。
若松監督は何十年にもわたり、若者達の鬱屈、やるせなくも強大なエネルギーを描いてきた監督です。
晩年は三島由紀夫が自決するまでを描いた映画『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』や、一組の夫婦に焦点を当て、むせるほどの戦争の悲惨さを描き、キャストの寺島しのぶさんがベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した『キャタピラー』などが有名です。
平和ボケした平成の世に、張り手をするように、ぴしりと問いかける作品を撮られてきました。
染谷さん自身も若松監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』のオーディションを14歳の時に受けて、「若すぎる」という理由で落とされてしまった経験があり、本作は悲願の出演だったそう。
本作では一族が揃いも揃って美しい顔をもち、女を必要以上に惹きつけ、若くして無残な死を遂げる“中本家の男”を演じています。
作成者:シネマトゥディ
『ドライブイン蒲生』
この作品はさびれたドライブイン、「ドライブイン蒲生」を営む家族の物語。染谷さんが演じるのは主人公のヤンキー姉弟の弟・トシ。
姉は黒川芽以さんが演じました。
このヤンキー姉弟は、永瀬正敏さん演じるヤクザ崩れの父のせいで、幼いころから“バカの家の子”と地域一帯から疎まれていました。
烙印を押された二人が家柄に翻弄されながらも“自分”を確立していく様は、貧乏でもお金持ちでも、周囲にカテゴライズされやすい家に生まれた者であれば、必ず共感できるはず。
本作監督は邦画カメラマンの大御所、たむらまさきさん。
監督は「演技ができる役者の芝居には、カットを割る必要がない」とほとんどのシーンを長回しで撮影しており、映画というより舞台を観ている感覚に陥ります。
そんな不思議な画作りにも注目して観ていただきたい作品です。
作成者:シネマトゥディ
今回紹介させていただいた作品の監督は、皆、世界的な評価をされている方ばかり。
しかしショッピングモールの中にあるような巨大映画館“シネコン”ではなかなか上映されない作品ばかりです。
染谷将太さんの魅力といえば「死んだ目」と表現される独特のまなざしや、聞く人の情感をかき立てる低い声があります。
そんな彼の一見暗さをまとったたたずまいが“声なき声で叫ぶ人たち”のメッセージや、人生を代弁するにふさわしい雰囲気を生んでいるのです。
一見わかりにくいアート寄りともとれる出演作を、「彼が何を伝えたいのか」と探りながら観ることで、彼の知られざる魅力にもっと触れられるかもしれません。
(文:小峰克彦)