古川雄輝主演舞台『イニシュマン島のビリー』が、2016年3月25日(金)から4月10日(日)まで、世田谷パブリックシアターにて上演される。
ほか出演者には、鈴木杏、柄本時生、山西惇、江波杏子ら実力派キャストが揃った。
原作はアイルランドの劇作家マーティン・マクドナーの人気ブラックコメディ『イニシュマン島のビリー』。
過去に「ハリー・ポッター」シリーズのダニエル・ラドクリフが主演を務め、ロンドン・ウエストエンド(2013年)、NY・ブロードウェイ(2014年)でも絶賛されたという人気作だ。今回は、森新太郎による新演出が加えられての上演となる。
古川雄輝が次に見せる「役者としての幅」
公開中の映画『ライチ☆光クラブ』では猟奇的な役・ゼラを演じ、これまでの“王子様キャラ”のイメージを一気に覆した古川雄輝。
過去にソーシャルトレンドニュースのインタビューでも「役者の幅を広げていきたい」と語った彼が、次に見せてくれるのが“舞台俳優”としての姿だ。
しかも本作で演じるビリーは、体に大きなハンディキャップを負い、心に傷を抱えた少年の役ということで、またこれまでとはガラリと違った印象を与えてくれるはず。
これは……気になる……!!
ということで、本番を前に、通し稽古を見学させていただいた。
『イニシュマン島のビリー』通し稽古レポ
初日まで二週間を切っていたこの日。
都内某所で行われていた通し稽古は、衣装や舞台セットは仮ではあるものの、本番さながらの緊張感に包まれていた。
原作がアイルランドのブラックコメディというだけあって、終始シニカルなジョークが飛び交う。こういったセリフづくりは、日本人的発想ではなかなかお目にかかれない。海外コメディを吹き替えで観ている感覚に近いかもしれない。
しかしまあ、とにかくブラック。コメディなのに、ブラック。
過激なシーンやセリフも多くあるのだが、基本的にはそれが全てコメディとして描かれているので、笑えないのに、笑える……という、日常ではなかなか味わえない不思議な感覚だ。これは、この作品ならではの楽しみの1つだと思う。
古川雄輝の「繊細」で「純朴な」演技に注目
個性的なキャラクター揃い……というか、個性的すぎるキャラクターしかいないので、全員の演技が強烈に印象に残っているのだが、今回は主演の古川さんについての感想を。
まず、観ているこっちも体が痛くなりそうだった。
ビリーは左手・左足が不自由なため、首を右側に傾け、重い荷物を引きずるように左半身を右足だけで動かす。
相当無理な体勢のため、2時間以上あのまま舞台に立っているだけでも消耗しそうだ。
それでも必死に歩いている姿は、見ているだけでもつらい。
また、ビリーを演じる古川さんの声も、こちらをたまらなく切なくさせる。
『ライチ☆光クラブ』での威圧的な声色とはまた違い、繊細で純朴な青年の声だった。
古川さんといえばもともと声が魅力的と評されることも多いが、ファンにとってもまた、「こんな一面もあるんだ」という新たな発見になると思う。
観劇前にチェックするとより楽しめる!
アイルランドの歴史
さて、最後に。
本作を観に行く予定がある・もしくは気になっているという人は、「アイルランドの歴史」を少しだけ予習しておくのがおすすめ。
もちろん知らなくても楽しめる内容ではあるけれど、歴史的背景を知っていた方が、セリフ1つ1つの意味を逃さないで観られると思う。
しかし「そんな時間ないよ!」という人には、簡単に、とってもザックリ、ここで説明を。
まず、アイルランドの場所はココ。
北大西洋、イギリスの隣にある島国だ。
本作の舞台となったイニシュマン島は、アラン諸島の真ん中に位置し、お隣のイニシュモア島が、劇中でハリウッドの撮影が行われるという島。
アイルランドの歴史を見ると、それはイギリスから長い間、侵略・支配され続けてきた。
・1840年代のジャガイモ飢饉以降、アメリカへ移住する人が急増。
・1900年代に入ると、アイルランドの民族意識が高まり、独立への動きが加速する。
・1919年~1921年の間、アイルランド独立戦争が勃発。
・アイルランド自由国が成立するも、イギリスの自治領に留まる。
しかも北部アルスター地方の6州は北アイルランドとしてイギリスに留まる。
(北アイルランドはスコットランド系の入植者が大多数を占めていたため)
※この「北アイルランド問題」は、劇中でもちょこちょこ絡んでくる。
・1922年~1923年の間、アイルランド内戦勃発。
※『イニシュマン島のビリー』は、だいたいここ以降の時代設定。
世界的には、ヒトラーがドイツ国首相となって、第二次世界大戦が勃発直前のきな臭い頃……。
・1938年、独立国家となる。
とまあ、長いこと悲しい運命を受け入れ、戦ってきた国。Googleで画像を検索してみると、のどかで、とても美しい国なのに……。
こんなに美しい国で繰り広げられた悲しい歴史が、『イニシュマン島のビリー』の背景にはあるのだ。
ブラックコメディって、笑えるけれど、笑えない。けど、笑える。
観終わった後には、楽しさや、切なさや、いろんな感情がぐちゃぐちゃになって、あまりスッキリとはしないだろう。
しかしこれもまた、ブラックコメディのおもしろいところ。
映画ほどリアリティはないのに、目の前で繰り広げられるというリアルな空間だからこそ成立する過激さ。ぜひ多くの人に味わってみていただき、そしてこのスッキリしないおもしろさを共有していただきたい。
(文:佐藤由紀奈)
古川雄輝さんに本作のインタビューをおこないました。そちらの記事は後日公開予定。お楽しみに!
『イニシュマン島のビリー』
作:マーティン・マクドナー
翻訳:目黒条 演出:森新太郎
出演:古川雄輝/鈴木杏/柄本時生/山西惇/峯村リエ/平田敦子/小林正寛/藤木孝/江波杏子
■世田谷パブリックシアター (東京都)
16/3/25(金)~16/4/10(日)
■梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ (大阪府)
16/4/23(土)~16/4/24(日)